日々、想定外。6

Category: 日々、想定外  



NYにいるときは、パーティーの招待状も封を開けずデスクに積み重なっていたことが多々あったが、日本に帰ってきてからはそうはいかない。

日本支社の副社長という肩書き上、ババァの目も光っているし、財界のジジィ連中ともうまく付き合うのがビジネス上、速道だと分かっている。

毎月少なくても2、3回はパーティーに顔を出すが、今日はどちらかというと年齢層が若い。
俺と同じく二世がごろごろとたむろっていて、長くいても得る収穫は少ないだろう。

早めに切り上げて帰るのが得策だと思った矢先、
「あらあら、司くんに会えるなんて今日はついてるわ。」
と、 久しぶりに見る顔に出会った。

「お久しぶりです。神崎社長。」

「久しぶりね。元気だった?」

「はい、おかげさまで。」

そう言って頭を下げた俺の肩に手をおき、
「大きくなったわね。」
と、優しく笑うこのご婦人はババァの旧友である不動産会社の社長。

俺がガキの頃から邸にも遊びに来ていたし、学生時代の荒れてた時期も「青春ね。」なんて笑って小言のひとつも言わなかった貴重な存在だ。

「日本に帰ってきたのは楓さんから聞いてたわ。」

「はい。おかげさまで。」

「近い内、一緒に仕事が出来ることを楽しみにしてるわ。」

「こちらこそ、その時はお手柔らかに。」

昔と変わらない優しい笑みに、自然と表情が和らぐ。
そんな俺たちのやり取りをパーティーに来ている若いやつらがヒソヒソと話ながら見つめているのは気付いていたが、もうこれ以上ここにいても意味がないと、

「帰るぞ。」
と後ろに控えていた西田に声をかける。

「はい。すぐに車を用意させます。」







ホテルの入り口に車が到着する間、クロークに預けてあったコートを受け取り、エレベーターを使わずにエントランスへ続く螺旋階段をゆっくり歩いていると、物陰から 「道明寺」という単語が聞こえ足が止まった。

どうやら、俺と同じようにパーティーを切り上げて帰るところなのか、若い奴らが3人 声を潜めて談笑しているが、その内容が見た目同様下品きわまりなく、思わず聞いてる俺も顔をしかめた。

「天下の道明寺司も神崎社長の前では腰が低かったな。」

「相手が男の時は容赦ない態度なのに、女が相手だとああも態度が変わるものか。」

「ひょっとして、あの二人もそういう仲なのかもしれないぞ。
この間の○○商事の息子のこと聞いてないか?」


○○商事の息子のことは俺も小耳に挟んでいた。
取引先の20も離れた年上の女社長と不倫の末、あるパーティーで別れ話で揉め修羅場を繰り広げたらしい。
それをあきらの口から聞いて、
「おまえも大概にしておけよ。」
と、釘を指したばかりだ。


3人は酒が入っているせいか、噂話が止まらない。

「浮いた話のひとつもない道明寺司が、実は熟女好きでしたーなんて笑えるよな。」

「独り身の女社長なんてたくさんいるから、食い放題だろ。」

「あの容姿ならどんな女もひっかかるだろうし、一回寝たら仕事の取引も成立ってことか?
さすがアメリカ仕込みだな。」


昔の俺ならここまで言われて黙っていなかっただろう。
後ろから蹴りあげて骨の1本や2本、間違いなく折ってやった。

けど、俺も成長したんだよ。
ビジネスの世界、結局は仕事が出来てなんぼ。
この仕返しは、必ず仕事でたっぷりと返してやるからな、と、物陰に隠れている奴等の顔をしっかりと確認した俺は階段をゆっくり下り始めたとき、俺から死角になってた場所に立つあいつと目があった。


「牧野?」

「……副社長、……車が用意出来ました。」

「おう、今行く。」

そう答えて足早に階段を下りる俺の後ろにいつものように牧野も付く。

そして、階段を完全に下りきったとき俺は言った。

「なんでおまえ泣いてんだよ。」

「……泣いてません。」

「泣いてるだろバカ。」

「…………。」

「鼻、真っ赤だぞ。」

「……花粉症で、」

「もう花粉なんて飛んでねーよ。
ったく、……おまえの感情バロメーターは俺の前では発動しねーんじゃねーのかよ。」

「……はい?」


いつも、俺の前では無表情のこいつが、
他のやつらの前で見せる笑顔じゃなく、
泣いている。

それが、無償になぜだかくすぐったくて、
こいつの口から理由が聞きたかった。

「帰るぞ。」

「はい。」




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    2017-05-21 08:52  

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