彼と彼女の一年間 41





このイタリア郊外の古いホテルに滞在して5日目。
明日の朝、またイタリアの都市まで戻る予定で仕事も最後の大詰めに入った。

思った通り、このホテルは昔の趣を残しつつ設備も悪くない。
あと少し改装すれば問題なく使えそうだ。
それに何と言ってもロケーションが素晴らしい。

自然溢れる広大な敷地に、色とりどりに管理されたバラ園。
そして、昔使われていた牛舎を改装して造られた教会は、まるで違う世界へタイムスリップしたかのように美しい。

『あいつにも見せてやりたい。』

仕事が一段落したからなのか、俺の頭によぎるのは牧野のことばかり。
もう3週間近く会っていない。
そろそろ禁断症状が出始めている。

夜寝るときは電話であいつの声を聞いて満たされたまま眠りにつくが、朝が辛い。
目覚めたときに無意識に腕の中に牧野を探している。

あと一週間で日本に帰れると思っても、あいつのことを考えると恋しさで体が疼く。
今も一日の仕事を終えてバラ園を通り、宿泊しているホテルへ戻ろうとゆっくり歩いていると、肩を寄せあい並んで歩くカップルを見かけ、あいつの顔がちらついた。

日本で他の男にフラフラしてんじゃねーだろうな。
仕事からはまっすぐ邸に帰って来てるだろーな。

そんなことを思いながら部屋へと歩いている俺の目の前、30メートルほど先に、
白いワンピースを着た女が手を振って立っている。

やべぇ。
相当疲れてんのか、俺。
目の前の女が、牧野に見えて仕方がない。

立ち止まり、バラ園に視線を移したあと、もう一度目の前を見ると、
そこにはまだ幻かのようにあいつの姿。

幻でもいい。
少しのあいだ、牧野を見ていたい……。

そう思いながら、ワンピース姿のあいつをぼんやり眺めていると、振っていた手をおろし、不機嫌そうにズンズン俺の方に近づいてくる幻。
そして、

「久しぶりに会ったのに、なにその薄い反応。」
と、俺の胸を軽く押し返すこいつ。

「…………。」

「道明寺?具合でも悪いの?」
無反応の俺に、心配そうに顔を近づける。

「牧野?……夢か?」

「はぁ?なに寝ぼけたこと言ってんのよ。
……へへ、来ちゃった。」

「…………。」

照れたように笑うこいつ。
その仕草もちっせー体も、まっすぐに俺を見上げる漆黒の目も、幻じゃなくホンモノ。

「マジかよ……。」

「マジ。」

「どうやってきた?」

「イタリアには飛行機に決まってるでしょ。
ここには、昨日泊まったホテルの人に聞いて、バスできたの。
イタリア語なんて全然話せないから、あんたにもらった電子辞書が大活躍で、」

ここまでの経緯を真剣に話すこいつが堪らなく愛しくて、話の途中なのに我慢できず俺の方に引き寄せ抱きしめた。

「マジかよ……。」

「マジだって。」

「すげぇ、会いたかった。」

「……うん。」

「今もおまえのこと考えてた。」

「……うん。」

俺の胸にあるこいつの頭がコクンと揺れる度にこれは夢じゃなく現実だと実感する。

「道明寺。」

「ん?」

「あたし、一人で頑張ってここまで来たから、
ご褒美ちょうだい。」

「ご褒美?」

いつも、俺からのプレゼントに、
「勿体無い。」が口癖のこいつからご褒美が欲しいなんて、意外な言葉に抱きしめていた腕をほどき牧野を見つめると、

「道明寺もスーツだし、このままでいいか。」
と、訳の分からないことを呟いたあと、俺の手をとりズンズンと歩き始めた。




牧野に手を引かれ連れてこられたのは、
教会の前。
さっきまで暗かったはずのそこは、中からの灯りが漏れいっそう幻想的。

俺を見つめたあと、へへへともう一度笑ったこいつは、その教会の扉を開いた。





「…………西田、なんのコントだよ。」

思わず俺がそう言うのも無理はない。
正面の壇上には神父の衣装を着込んだ西田の姿。

「副社長、コントではありません。」

大真面目に答えるところも相変わらず。

「道明寺。
あたし、夢だったの。」

「夢?」

「こういう素敵な教会で、好きな人と二人手を繋いでバージンロードを歩くこと。」

「…………。」

「あんたは、豪華なホテルで盛大に式をあげたかったかも知れないけど、あたしはこれで十分。
ドレスも指輪もなくていい。
ただ、二人で……それがあたしの望む式。」

こいつは飾り気のない白いワンピースに、俺は仕事用のスーツ。
日本でオーダーしてた指輪もここにはない。

ただ、二人で……、
その牧野の言葉が俺の胸に染み渡る。

「牧野、ここじゃドレスも指輪もねーだろ。」

「そうだけど、」

「おまえの両親にも見せれねーし。」

「うん、……でもっ、」


でも、俺はこいつにも、牧野の両親にも誓った。
『こいつが一緒なら俺はどこへでも行く。』



「牧野、ほんとにいいのか?」

「うん。」

「後悔しねーか?」

「しない。」

まっすぐに俺をみつめてそう言うこいつ。
そんな牧野の手を取り、西田が待つバージンロードを見たあと俺は言った。

「おまえを一生幸せにする。
俺と結婚してくれ。」

「はいっ。」











「誓いのキスを。」

一通りの儀式を終えて、西田がそう言った。

西田が見つめるなか、牧野を引き寄せて軽く唇を
重ねる。
そして俺はどうしても気になっていたことを呟く。



「俺ら主役がこの服装なのに、なんでおまえだけ完璧に神父の衣装なんだよっ。」

「それは、牧野さんからぜひ神父役をやって欲しいと相談されましたので、至急用意しておきました。」

平然とそう話す西田に、俺は深くため息を付きながら言った。

「そんな時間があるなら、俺と牧野の衣装を用意しておけっ!」




彼と彼女の1年間
Fin



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 2016_09_26


Comments

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    2016-09-26 10:19  

 

お身体大丈夫ですか?
更新ありがとうございます。
二人だけの結婚式、夢がかなったつくしちゃん、良かったね
坊ちゃんも、つくしさえ居れば、どこにだって行けるんだから、幸せだよね
自分だけ、衣装完璧な西田さん笑える!
JUJU  URL   2016-09-26 12:00  

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    2016-09-26 12:27  

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    2016-09-26 13:25  

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    2016-09-26 13:46  

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    2016-09-26 14:51  

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    2016-09-26 15:00  

素敵なラストですね! 

ずっとずーっと読ませて頂いています。いつも「拍手」だけでしたが、今日はコメントをさせていただきます。
私、つかつくの結婚式のシーンが大好物ですが、今回の2人だけというシンプルな結婚式、素敵ですね!
西田の神父さま姿を思い浮かべてニヤニヤしながら読みました。ありがとうございました。
もうすぐ出産なのでしょうか?どうか無理をせず、ぜひ頑張って下さいね!
小説は読み返すことが出来るし、また育児休暇中も応援しています(*´-`*)
ラー子  URL   2016-09-26 15:01  

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    2016-09-26 15:49  

 

素敵なラスト、ありがとうございます♡
2人っきりの結婚式、なんてロマンチック!
西田さんが神父、想像つかない笑
もうすぐ出産ですか?
無事に元気な赤ちゃん産んでくださいね。
また最初から読み返してきます。
きいこ  URL   2016-09-26 19:09  

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    2016-09-26 20:53  

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    2016-09-26 22:34  

 

こんばんは

司とつくしのふたりの結婚式 愛と 幸せがたくさん有りますように。西田さん神父 見たかったな。想像して 笑っちゃいました。
とても楽しかったです。
まだ暑い日があるみたいです。体調に気をつけてくださいね。ありがとうございました。
さだはる  URL   2016-09-26 23:03  

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    2016-09-27 07:58  

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    2016-09-27 21:25  

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    2016-09-30 10:06  

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    2016-10-07 07:44  

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    2016-11-04 00:23  

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    2016-12-24 08:19  

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    2017-02-27 12:36  

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