彼と彼女の一年間 32





頷く牧野を引き寄せ、重ねた唇。
さっきまでのモヤモヤとした気持ちが、甘さで塗り替えられていく。
このまま時が止まれば……そんな俺の気持ちを嘲笑うように、横を通りすぎていく車から派手にクラクションを鳴らされ、甘い時間は中断された。
照れたように俺から視線をそらす牧野の頭を軽く撫で、「帰るぞ。」と車を走らせ邸へと急いだ。


エントランスで待ち受けたタマたちの前を、何食わぬ顔で通りすぎた俺は、部屋へ入ると、
「15分後にここに集合な。」
と牧野に伝える。

「え?」

「足りねーか?時間。」

「……そうじゃないけど。」

「おまえを迎えに行く予定だったから俺は一滴も酒を飲んでねえ。
週末なんだから少しくらい飲みてぇから、付き合え。」

ズルい誘いだと思うけど、このままお互いの部屋に帰るのは惜しいし、あの日のように強引に事を進めるのもしたくない。

「……分かった。15分ね。」

「ああ。」






15分後、リビングに行くとまだ牧野の姿はなく、ミニキッチンから二人分のグラスとワインを取り出しソファの前のテーブルに用意する。
冷蔵庫を開けると簡単に食えそうなチーズやピクルスがあるのを見つけ、それも用意しようかと取り出したとき、

「ごめんっ、遅くなっちゃった。」
と、部屋から牧野が出てきた。

「もう始めてた?」

「いや、チーズでも食うか?」

「うん。……あたしが用意するよ。」

冷蔵庫から取り出したチーズたちを皿にうつして綺麗に並べていく牧野は、シャワーも浴びたようで束ねた髪がまだ濡れている。

「髪、濡れてんだろ。」
俺がそう言うと、

「ん、完全に乾かす時間なかったから。
……よしっ、準備OK。」
と、皿を持ち上げソファへ歩いていく。


並んで座り、ワイングラスを手に乾杯。
邸の自室でワインを開けるなんて初めてかもしれねぇ。
今までそんな雰囲気にもなれなかったし、そんな時間もなかった。

それなのに、こいつと出会って俺の生活がどんどん変化していく。
重役出勤で10時頃出ていた会社も、朝少しでも牧野とニアミスが出来るよう早起きするようになったし、帰りもなるべく早く帰るようになった。
そして、女からの電話を待って、夜に車で迎えに行くなんて、俺からしたら奇跡に近い。

それをこいつは分かってんのか。

「おまえ、パジャマにも名前付きかよ。」

「あっ、これ?
これね、中学の時の学校指定Tシャツなの。」

そう言って胸についた名前の刺繍を見ながら話すこいつは、黒のTシャツに下は膝上の短いスカート。
誘ってんのか?そう思いたくもなる足の露出だが、中学の指定Tシャツを着ているところをみると、全くそんな考えもねーだろうなと笑えてくる。

「ここに越してくるとき、部屋を片付けてたら出てきたの。
ほとんど着てないから新品同様で、懐かしいし捨てるのは勿体無いし、今はあたしのパジャマ。」

そう言って笑うこいつ。

「どこの中学だよ。」

「○○中学。」

牧野が口にしたのは都内の学校。
受験校でもなく裕福な奴が行くところでもない。

「英徳に来た理由は?」

「それは、…………」

そこから、牧野の母親が英徳にどうしても入れたかった理由や、バイトをしながら大変な日々だったこと。
友達と呼べるような奴は誰も出来なかったし、学校にも馴染めなかったこと。

そんな英徳時代の話を聞いていると、
「一番最悪だったのは、道明寺っていうボンボンのどら息子が学校を仕切ってたことかな。」
と、突然俺に火の粉が降りかかる。

「あ?なんだよそれ。」

「あんたがいつもいつも学校の中で偉そうにしてたからみんなビクビクしてたでしょ。」

「偉そうになんてしてねーよ。」

「普段から偉そうだから気付いてないだけ。
あたしなんか、出来るだけあんたの顔を見ないように生活してたから。」

確かに学生の頃の俺は好き放題やってた自覚はある。
気に入らない奴等は学校から追い出したし、邸でも使用人たちに当たり散らしていた。

でも、好きな女に昔のことだからといって、
『顔も見たくなかった。』といわれれば、それはそれでかなり痛い。

「だからおまえはここに来てからも俺を避けてたのかよ?」

「避けてたっていうか、………違う世界の人だと思ってたし。」

違う世界の人…………。
俺も半年前はおまえのことを同じように思っていた。

「……今もか?」

「え?」

「おまえは今も俺は違う世界のやつだと思ってるか?」

「…………。」

「俺の顔を見たくねえって思うか?」

そう聞く俺に、

「だからっ、さっきも言ったでしょ!
あんたといるのは、嫌じゃないって。」

と、軽くキレて抗議するこいつ。

嫌いじゃない……なんて遠回しな言い方にさえ甘く痺れるような感覚が全身を満たす。

強引に事を進めた一回目のこともあるから、二回目は焦らず慎重に……と思っていても、好きな女が手の届く場所にいて、さっきまで唇を重ねていたこの状況で、抑えろと自分に言い聞かせても欲求は深くなる一方。

濡れた髪やトロンとしてきた目、さっきから視線の端に何度も入る白い太股。
慌てて視線を反らし、軽く息を吐くと、

「疲れた?そろそろ遅いから休んだら?」
と、牧野が言ってくる。

たぶんこいつは俺の苦労なんて何も分かっちゃいねーんだろーな。
そう思うと、少しだけ意地悪をしてみたくもなる。

隣に座るこいつの片頬を無言でつねってやると、
「な、なに?」
と、怪訝そうに俺を見る牧野。

それでも無言で更にもう片方の頬をつねると、
「だから、なに?」
と、軽く唇を付きだし抗議する。

そんなこいつに言ってやる。

「このまま寝れたら苦労しねぇ。」

「え?」

「だからって、このまま一緒に酒を飲むのも限界だ。」

そう言うと、両頬をつねられたまま牧野の顔が険しくなる。
そんなこいつをそのまま引き寄せて、軽くチュッとキスをすると、険しい顔が困った顔に変わっていく。

それがおかしくて、何度も軽いキスを繰り返す俺に、「ほっぺ、離して。」と牧野のお願いが聞こえ、俺は手を頬から牧野の頭の後ろに移動させ、強く俺の方に引き寄せた。

「……ん…………ぅん……」

軽くじゃれ合うようなキスが、深く濃いキスに変わっていく。
どんなに柔らかい唇を愛撫しても、このままでは満たされない想いがつよくなり、ソファの上に牧野を押し倒す。

今度こそ、こいつが嫌がったり恐がったりする素振りがあれば見逃さない……そう思いながら優しく触れる俺の手や唇に、ちゃんと応えてくれる牧野。

そんなこいつの耳元で俺は言った。

「牧野、」

「……ん?」

「俺の部屋でいいか?」




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 2016_09_04


Comments

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    2016-09-04 11:24  

 

更新、ありがとうございます
良い雰囲気ですね
坊ちゃんの好きって気持ち、受け入れた後だし、つくしちゃんも坊ちゃんのこと好きだし、これはもう、頷くだけ?
JUJU  URL   2016-09-04 13:21  

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    2016-09-05 00:36  

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