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彼と彼女の一年間 26





明日に大きな会議を控えた今日、もう終業間近の夕方になってトラブルが発生した。
会議資料として配布する予定だった資料150部が別の会議の資料だと分かりコピーを担当した新人から泣きのヘルプがきたのだ。

元のデーターは課長が持っている。
その課長といえば、午後から外勤してそのまま直帰予定。
何度携帯をならしても捕まらない。

やっと7時を回った頃、課長と連絡が付いたが、得意先とお酒を飲んでいるようで席を外せないというので、あたしがわざわざ店まで行って課長からデータを預かってきた。

そこからは、隣の課の女の子達にも手伝ってもらって150部の資料の作り直し。
膨大な量のコピーとホチキス止めをすること三時間。

なんとかこの子たちを終電までに間に合わせて帰らせなくては……そう思いながら必死に時計とにらめっこをして作業していると、突然山下さんの
「ギャッ!」という声で体が跳ね上がった。

「どうしたの?山下さん。」

「ま、ま、牧野さん、」

「なに?」

挙動不審な態度の山下さんが指差す方を見てみると、あたしも思わず声をあげそうになった。

そこにいるのは、いつものスーツ姿の道明寺ではなく、邸で時々見かけるようなジーンズとシャツのラフな服装のあいつ。

「道明寺っ。」

「まだ終わんねーのかよ。」

「ど、どうしてここに?」

「……タマが心配してるから見にきた。」

そこまで会話をしたあと、回りの子達の視線に気付き振り向くと、驚いた顔であたしたち二人の事を見比べている。
それを見て、あたしは慌てて道明寺の腕を掴むとフロアから廊下に出て誰もいない壁際まで道明寺を連れて行った。

「もう少しで終わるからタマさんに心配しないでって伝えて。」

「あとどのくらいかかる?」

「んー、一時間もあれば終わると思う。」

「他には誰もいねーのか?」

「他に?」

「……その、……残業してるのは女だけかよ。」

「……そうだけど?」

道明寺が何を聞きたいのか分からないけど、なぜかその答えに満足そうに頷くこの男。
そして、

「何したらいいんだよ。」
と、更に意味の分からないことを聞いてくる。

「は?」

「だから、俺は何をする?」

「何をするって……なに?
帰ったら?」

「タマにおまえを乗せて帰ってこいって言われてる。
さっさと終わらせて帰るぞ。」

そう言ってあたしの返事も聞かずにフロアへと戻っていく道明寺を呆気に取られながら見ていたあたしは、
「道明寺っ!」
と、慌ててあいつの背中を追った。


フロアに戻ると驚く女の子達を横目に次々とテキパキ仕事をこなしていく道明寺。
残りの資料作成もあっという間に済み、明日の朝やる予定だった会議室のセッティングの力仕事まで手伝ってくれ、いつの間に来たのか秘書の西田さんも登場し飲み物の差し入れまで頂いた。

そして終電間近の彼女たちにひとりひとりタクシーの手配までしてくれて何から何まで至れり尽くせり。
山下さんたちもはじめは道明寺の存在に緊張し固まっていたけれど、帰る頃には「サインください」なんてバカなこと言って道明寺から睨まれていたっけ。

ようやく嵐のような残業も終わりみんながタクシーに乗り込むのを見届けたあと、会社の前で二人きりになった道明寺に、
「ありがとうございました。」
と、頭を下げる。

「帰るぞ。」

「うん。」




初めて道明寺の車の助手席に乗せてもらい、二人で夜の街を走っていると、今この状況がとてつもなく不思議に感じてくる。

5か月前までは全く関わることのない世界で生きていたあたしたち。
それが今ではこうして隣に座り同じ場所へと帰ろうとしているなんて。

運転する道明寺の顔をそっと見つめると、視線に気付いたのか道明寺もあたしを見る。
そして、

「疲れたなら、邸まで寝てろ。」
と柄にもなく優しく言ってくれるこの人。

道明寺を知れば知るほどあたしの今まで抱いていた印象が崩れていく。
口が悪くて意地悪なのは変わらないけれど、その裏には分かりづらい優しさが隠れていることにあたしは気付いている。


車に揺られて30分。
邸のエントランスであたしを下ろし、
「俺は車停めてくるから先に部屋に戻ってろ。」
と道明寺が去っていく。

それと同時に、
「おかえりなさい、お疲れさま。」
と、タマさんの声。

「タマさんっ、すみませんこんなに遅くなって。」

「いいんだよ。
疲れだろ、早く部屋でお休み。」

「はい。」

そう答えて部屋へ上がろうと階段を上ったとき、もうひとついい忘れてたことを思いだし振り返る。

「タマさん、
道明寺に迎えに行くよう言ってくれたんですね、ありがとうございます。
おかげで終電に間に合わせるため駅まで走らなくて助かりました。」

そう伝えると、一瞬ポカンとした顔をしたあと、

「まったく坊っちゃんは素直じゃないんだから。」
と、笑うタマさん。

「え?」

「つくしが遅くなるって坊っちゃんに伝えたら、機嫌悪くなってつくしの携帯教えろって。
そのうち、ちょっと目を離したら勝手に迎えに行ってたんだよ。
今度から遅くなるときは坊っちゃんに直接連絡してやってあげておくれ。」




ほら、また。
今日も道明寺の優しさは分かりづらい。



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 2016_08_28


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    2016-08-28 17:37  

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    2016-08-28 17:37  

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    2016-08-28 18:00  

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    2016-08-28 18:16  

 

日曜日の更新ありがとうございます
坊ちゃん優しいですね、つくしも坊ちゃんの優しさを素直に受け入れてて、いい感じ?
部屋に戻った後、坊ちゃんは、気持ちを伝えるのかな?
次の更新、楽しみに待ってます
JUJU  URL   2016-08-28 18:24  

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    2016-08-28 20:52  

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    2016-08-28 22:23  

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    2016-08-28 23:42  

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    2016-08-29 05:22  

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