彼と彼女の一年間 16





パーティー会場で牧野を先に帰し、俺はホテルのバーへと場所を移した。

ここからは我慢との戦いだ。
つい数週間前、仕事のことでこの目の前のオヤジの胸ぐらを思わず掴んじまった。
幸いなんとかとどまって殴ることはしなかったが、西田に止められなきゃ抑えらんねぇほどはらわたが煮えくり返った。

昔から無理難題を押し付けてくるこの会長だが、その性格でビジネスの方も手広くやっている。
こんな会社とは早く手を切りてーけど、ババァの代でかなり世話になったと聞いて無下にも出来ねぇ。

ババァも俺がキレた気持ちは分かるだろうが、それでも年長者に手を出した俺がわりぃ。
おとなしく頭を下げ、今日和解の一杯を交わすことになった。

こういう奴と飲むのは心底疲れる。
孫ぐらいの歳の俺に、人生論をくどくどと話し聞かせることが唯一の楽しみらしい。

たっぷり三時間は付き合わされ、邸に戻ったのは12時を過ぎていた。
飲みたくもねぇ酒のせいで久しぶりに酔いが回った。
タマの出迎えを受けたあと、自室のリビングを開けると小さな明かりだけが灯されいつものように静まり返っていた。

何、期待してんだよ……。
あいつが待ってるとでも思ったか?

酔った頭でそう自分に問いかけ自嘲する。
今日、ホテルの入り口で俺を見上げたときのあいつの顔。
仕事で遅くなると伝えたが、なんとか7時までに終わらせて間に合わせた。
その褒美のようにあいつは俺を見てホッとしたように笑った。

牧野の笑った顔を見たのは初めてかもしれねぇ。
その顔にバカ見てぇに胸がなって、もっとその顔が見たくて、旨そうに料理を食うあいつの皿に何度も料理を取ってやった。

西田の言ってたことは間違いじゃねーかも。
あいつを喜ばせたり笑わせたり、それはそんなに難しいことじゃねーかもしれないが、でも、あいつの側にいねぇと出来ないこと。
それを今日、俺は実感した。


冴えない頭をどうにかしたくてリビングの冷蔵庫を開け水を取り出すと、その場で一気に飲み干す。
そして、もう一本取り出そうとして冷蔵庫を再び開けようとしたその時、
俺の背中に何かが触れた。

「……道明寺。」

牧野の声。
そして、俺の背中に触れるこいつの手。

その手が離れるのが惜しくて振り向くことが出来ない俺に、
もう一度、
「道明寺?」
とこいつが呼んだ。

「起きてたのか?」

「うん。」

背中越しに話す俺たち。
と、その時、予想しないことが起きた。

さっきまであった手の温もりが離れたあと、すぐにまた背中全体が温かさで包まれる。
そして、俺の腹の前に交差されるこいつの細い手。

抱きしめられてると気付いたのは数秒たってからだった。

「……牧野?」

「道明寺、」

「ん?」

「…………大丈夫だった?」


こいつからの『大丈夫?』は今日こられで2回目。
パーティー会場で、用が出来たから先に帰ってろと伝えたときにも、不安そうに俺を見て「大丈夫?」 と聞いたこいつ。

何が大丈夫なのかは分かんねぇけど、きっと俺を心配してこの時間まで待ってたんだろう。

「何がだよ。」
1回目の時と同じ言葉でそう返すと、

少し迷った後、
「……喧嘩してない?」
と、小さく呟く。

そういうことか。
誰か知らねぇけど、俺と会長のいざこざをどこかで耳にしたらしい。

「してねーよ。」

「ほんと?」

「ああ。」

俺がそう答えると、ふいに背中の温かさが遠のきそうになり、思わず回されたこいつの腕を腹の前でおさえた。

「心配すんな。……もう寝ろ。」

ほんとはもう少しこのままでいたかったのかもしれねぇ。
振り向いて、そこにあるちいさぇ体を抱きしめたかったのかもしれねぇ。


……でも、それをしたら後に引けなくなる自分が怖くて、きつく目をつぶって我慢していると、


「おやすみ。」

そう牧野が言って、背中の温もりが離れていった。



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 2016_08_06


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    2016-08-06 19:06  

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    2016-08-06 21:16  

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    2016-08-06 22:32  

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    2016-08-06 23:37  

続きが楽しみです 

こんにちは。お体の調子はどうですか?
司の変化が嬉しくて毎日楽しみにしています‼️
続きが気になる〜(笑)
ami  URL   2016-08-07 00:30  

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    2016-08-07 10:54  

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