彼と彼女の一年間 12




朝から慌ただしく会議を2つ終え、やっと沈みこんだオフィスのソファ。
疲れた目を休めようとつぶった瞼に、1週間前の光景が浮かんだ。

祝儀袋を俺に突き付けながら、
『受け取る理由がない。』
と言い切ったあいつ。

婚約を発表して2ヶ月あまり。
あいつと同じ空間で生活することにもっと違和感と嫌悪感が生まれるかと思ったが、初日に俺が発した、
『お互い干渉するな。』
という台詞が効いたのか、干渉どころか視界にも入らないほど俺たちの生活リズムが重ならない。

もっと言えば、俺のことを避けて生活してるとしか思えねぇ。
唯一、朝は食事や出勤の時間が重なることもあるが、軽い挨拶だけですぐにその場を離れていくあいつ。

俺のプライベートに踏み込まず、全く干渉してこない牧野は俺の結婚相手としては理想的だ。
だが、…………、
「気に食わねぇ。」
目をつぶりながら思わず俺はそう呟いていた。

道明寺家との結婚を喜ぶような素振りも一切ねぇし、金を渡しても迷惑顔しやがる。
俺との会話は常に攻撃的で他の女たちのような猫なで声なんて聞いたこともねー。

そうなると逆に、おまえみたいな女は何をしたら喜ぶんだ?
何をしたら笑うんだよ、と気になってしょうがねぇ毎日。

金にホイホイ目が眩む女たちしか周りにいなかった俺にとって、あいつは異次元の女だ。
総二郎やあきらに聞いたってうまい回答が返ってくるとも思えない。




そんなことを考えているとオフィスの扉がコンコンと鳴り西田がコーヒーを持って入ってきた。

ソファに沈みこむ俺を見て、
「お疲れですか。」
と声をかける。

「ああ。……まぁな。」

「午後のアポまで少し時間がありますので、ゆっくり休んでください。」
そう言ってコーヒーをテーブルにおき立ち去ろうとする西田に、咄嗟に俺は声をかけていた。

「西田っ、」

「はい。」

「……ちょっと、そこ座れ。」

「はい。」

俺が指した向かいのソファに言われた通り座る西田。

「あのよ、…………そのぉ、……、まぁ、参考までに聞きてーんだけどよ、」

「何でしょうか。」

「いや、その、たいしたことじゃねーんだけど、
…………平凡な家庭で生まれた女っつーのは、何をしたら喜ぶんだ?」

出来るだけ事務的に、出来るだけクールに聞いたつもりの俺の質問に、

「…………、」
長い沈黙のあと、

「牧野さんのことでしょうか。」
と、出さなくてもいい固有名詞を出しやがる西田。

「べ、別にそーじゃねーよ!
あくまで、一般論だ一般論!」

「そうですか。
でも、副社長……、」

「なんだよ。」

「女性に一般論は通用しません。」

相変わらずの無表情で俺を見てそう断言する西田。

「どういう意味だよ。」

「女性を喜ばせたいと思うなら、その女性のことをよく知らなければ出来ません。
裕福な女性だからといって、さらに高価なものをプレゼントしても価値のありがたみが分からない女性もいますし、逆に裕福ではない女性に一輪の花を差し上げただけで、嬉しいと喜んでくれる女性もいます。
女性を喜ばせたいなら、その人がどんなときに笑い、どんなときに楽しんでいるか、それを側でよく観察することからはじめてはいかがでしょうか。
…………幸い、副社長はその方がすぐ側にいらっしゃるので、あまり難しい問題ではないかと、」

西田の話を真剣に聞いていた俺は、最後に付け足された言葉に、思わず、

「だからっ、あいつのことじゃねーよっ!」
と、思いきり叫んでいた。






それから数日後、西田がある招待状を持ってオフィスに現れた。

昔から付き合いのあるホテル業界の社長の息子が今年で成人を迎え、ホテルを貸しきってお披露目パーティーをやる。
その招待状を俺に渡しながら、
「スケジュールは空けてあります。」
と、西田が言う。

「分かった。
軽く顔出してくる。」
そう言ってデスクにその招待状をしまおうとした時、

「牧野さんはご一緒されますか?」
と、思いがけないことを西田が聞いた。

「…………。」

「婚約の噂は皆さん知っていると思いますので、この機会に牧野さんを皆さんに紹介されてはいかがでしょう。」

「…………。」

確かに俺が婚約したことは業界では知られている。
パーティーに顔を出せば、その話題になるのは間違いねぇ。

「……そうだな。」

西田の提案にそう答えると、

「それと、牧野さんのことを知るいい機会になると思いますので。」

と、またしても、いらねぇ言葉を付け加える西田。

「うるせぇー!
この間の話は、忘れろっ!」

思わず俺はそう叫んでいた。




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 2016_08_02


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