彼と彼女の一年間 9





牧野にブラックカードを渡してから10日。
俺は毎日会社のデスクで首を捻る日々が続いている。

あれだけ、好きなものを買って構わない、干渉しないと伝えたのに、未だに一度もカードが使われていない。
今日もパソコンでカードの明細を調べてみると、相変わらず使用金額0の文字が虚しく並ぶ。

あいつの本性を暴いてやろうと企てた計画に全く引っ掛かってこない事への苛立ちと、ますます俺の想像圏外を走るあいつの不思議さに、久しぶりに仕事以外で頭を抱えた。




そして、カードを渡してから2週間がたったある日、いつも同様10時を過ぎて邸に戻り自分のベッドルームへ入ろうとしたその時、
「道明寺っ。」
と、背後から呼び止められた。

振り向くと、牧野が自分の部屋から顔を出している。

「ちょっといい?」

「なんだよ。」

そう答える俺に、素早く近づいてきて目の前に手を差し出した。
その手には俺が渡したカード。

「やっぱり使わないから返す。」

「あ?」

このカードが使われることを今か今かと待ちくたびれてる俺の気も知らず……。

「これが財布に入ってると財布が重いって言うか、緊張するって言うか……。
どう考えても必要ないし、あたしのカードでも限度額100万はあるから、いざというときはそれで十分だから。」

「…………。」

「その代わりって言ったらなんなんだけど、
ちょっとお願いしたいことあって…………。」

そう言って珍しくモジモジとしおらしいこいつ。
そういうことか。
金以外で欲しいものがあるってことか。

やっと本性をさらけ出すか…………、
そう思って思わずニヤリと顔が緩んだ俺に、

「あのね、ちょっと手を貸して欲しいの。」
と、意味不明な言葉を放つこいつ。

「あ?」

「あっ、今じゃなくていいし、今度の休みの時でいいんだけど、」
慌ててそう付け足すが、ますます理解できねぇ。

「何が望みだ?」

「望みってほどのことじゃないんだけど、
ちょっと………、こっちに来てくれる?」

そう言って返事をする間もなく俺の腕をつかみ自分の部屋へと連れて行く。
過剰なスキンシップはするなとか、部屋には立ち入らねーとか、言ってやりてぇ文句は山ほどあるが、頭1つ分ちいせぇこいつにグイグイ引っ張られてあっという間に牧野の部屋へと押し込まれた。

そして、「あれなんだけど。」と、こいつが指差したのは壁にかかる時計。

「時計がなんだ?」

「カチカチ、うるさいでしょ。」

俺のとなりで時計を見上げ、腕を組ながらそう呟くこいつ。

「何が言いてぇんだよ。」

「だから、あの時計がね、カチカチと一秒一秒部屋に響いて、気になって寝れないの。
タマさんに聞いたら、凄く古い時計で昔どこかの王族の方に頂いた貴重なアンティークだってことは分かったんだけど、申し訳ないけどあたしこういう秒針の音って苦手で。
自分の家から持ってきた安い時計があるから、それに付け替えたくてやってみたけど、どうしても届かなくて。」

そう言って時計を見上げていた顔を俺に向ける。

「……それで?」

「だから、」

「俺にやれってことか?」

「正解っ!」

ふざけんな。
何が嬉しそうに正解っ!だ。

「それぐらい使用人に頼め。」
そう言って嬉しそうなこいつを尻目に部屋を出ようとする俺を、

「ちょーっ、待ってよ。
使用人の方もみんなトライしてくれたけど、無理だったのっ。
タマさんは業者の人に頼むって言ったけど、こんなことでわざわざ来てもらうのも申し訳ないし、
この邸で一番身長高い人って言ったらあんたでしょ。
脚立も借りてきてるから、お願いっ。」
そう言って逃げないようにまた俺の腕をつかむこいつ。

女からの『お願い』は、高い車か宝石かなんて考えしかねぇ俺に、こいつの『お願い』は相変わらず規格外。

「……マジかよ。」

「マジ。」

「俺のことをこき使うなんてマジあり得ねぇ。
高くつくぞ。」

金を使わせたくて企てた計画が、逆に金を貰うようなシチュエーションに変わるなんて。

スーツの上着を脱ぎ隣のこいつに手渡すと、
「今する?」
なんて、ちょっと驚いた顔で見つめてきやがる。

「ああ。仕事は先に伸ばさねぇ性格なんだよ。」
それだけ伝え、壁にかけてある脚立に手を伸ばす。

ただでさえ高い天井のつくりにしてあるこの部屋。
その壁に取り付けられたアンティーク時計は高価なものだけあって頑丈に留められている。

脚立の3段目にのぼりなんとか時計を取り外し、こいつが持ってきたと言うすげぇ軽い時計を取り付けてやった。

「ありがと。」

その壁に取り付けられた安そうな時計を見上げ、嬉しそうにそう呟く牧野。
俺にスーツの上着を返しながら、
「助かった。ほんと、ありがとう。」
というこいつをみて、
俺は不思議な感覚に襲われる。


俺の政略結婚をする相手は、
とんでもなく、俺の予想とは真逆の女かもしれねぇ。



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 2016_07_29


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