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2年後


「お義母さん、靴下は多めに持ちました?」

「あー、そうね。また、雨にやられたら大変よね。」

道明寺邸のあたしの部屋で、大きなスーツケースを前に荷造りをしているあたしとお義母さん。

そこに、
「そろそろ寝ようぜ、つくし。」
と、ラフな服装で現れた司。

「ん、あと少しで終わるから。」

「そんなにでかい荷物で行くのかよ。」

「だって、色々入れたらこれくらいになっちゃったんだもん、しょーがないでしょ。」

「荷物持ちにスタッフ増やすか?」

「はぁ?やめてよ冗談。
だいたいね、司も一緒に行くって言い出すから、余計な荷物が増えたんでしょ!」

「あ?しょーがねーだろ。
一週間も…離れてられるかよ。」

あたしの隣に来て、せっかく綺麗に入れた荷物を乱暴にチェックしながら、照れたように言う司に、あたしも少しだけ顔が赤くなる。




あたしたちは2年前、お互いの両親へ挨拶を済ませたあと同棲生活を始めた。
本当はすぐにでも籍を入れたかったけれど、新しい職場に変えたばかりのあたしと、大きな仕事を控えていた司にとって、『結婚』に向けた準備に時間を割く余裕がなく、とりあえずマンションを借りて同棲を始めたのだ。

すれ違いばかりのあたしたち。
うまく行くだろうか……というあたしの不安に反して、司は本当に献身的だった。

夜勤続きで彼女らしい事がほとんどできないあたし。
食事だって、時間のあるときにまとめて作り、司に一人で食べさせることも常だったのに、この人はいつも優しくあたしを迎えてくれて支えてくれた。

だから、あたしは迷うことなく決断できたのだと思う。
『仕事を少し休んで、妻として母として生きたい。』

仕事一筋で突き進んできた10年。
これからは司の支えになる10年にしたい。


そして、あたしたちは結婚した。
ようやく新居である道明寺邸にも慣れ、お義母さんともうまくやっている。

赤ちゃんはまだ授かっていないけれど、その前に、司の提案で新婚旅行に行こうと言う話になった。

そんなとき、お義母さんからある話を聞いた。
『アフリカの地に、2つ目の小学校が完成したの。来月に見に行ってくるわ。』

それを聞いて、あたしは即答していた。

「あたしも、行きます!」

「え?」

「あたしも、行きたいです。駄目ですか?」

「駄目だなんて、つくしさんに来て貰えたらこれ程心強い事はないわよ。」

お義母さんは喜んでくれたのに、
猛反対をする人が約1人。


「駄目に決まってるだろ。」

「えー、なんで?」

「なんでって、俺はどーすんだよ。」

「どうするって……なにが?」

「おまえ……、これからは俺を支えます!って言ってたのはどこのどいつだよ?
それに、俺達の新婚旅行は決めたのか?おまえの行きたい所に行こうぜ。」


行きたい所……。
そう言われて、思い出すのは、
やはりあのアフリカの地。

病院のスタッフ、子どもたち、いつも話し相手だったママたち。
いつか行けることなら、会いに行きたいとずっと思っていた。

「あたし、……やっぱり行きたい。」

「どこに行く?おまえの行きたいとこならどこでもいいぞ。」

「…アフリカ。」

「あ?」

「だから、…やっぱりあの地にもう一度行きたいの。」





なんだかんだ言って、この隣に座る男は、優しいのだ。
結局、あたしのわがままを聞いて、アフリカ行きを許した司。
しかも、自分も行くと言い出した。

「えっ、司も?」

驚くあたしに、

「またババァが病気にでもなったら困るだろ。」

なんて、言ってたけど、
天候や道路事情を知るうちに、あたしを心配して付いてきてくれるのだと言う事はよく分かっている。



「最後の3日はエジプトで別行動するからな。」

「分かってますとも。どうぞ、二人で新婚旅行、楽しんで。」

お義母さんに呆れ顔をされながらも、
「荷造りは、また明日にしようぜ。」
そう言って、司はあたしの手を握り強引に立たせた。


大きな手。
その手に包まれながら思う。

この人に出会えて、最高に幸せ……。





最後までお付き合いありがとうございます!
久々の連載で緊張しましたよ〜。
毎日、たくさんのポチッ、ありがとうございました

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 2019_09_17





休日の昼過ぎ、実家の前に車を停めた道明寺は、あたしの隣で1つ大きく深呼吸をした。

「大丈夫?」

「ああ。」

緊張してる道明寺はかなりレアだ。
あたしもさっきまで緊張していたけれど、もう実家が見えてくる頃には落ち着いてきた。
なるようになれ。もう、それしかない。

実家の玄関の扉を開け、
「ママ、ただいまー。」
と、大きく声をかけると、

「はーい。」
と、いつもより幾分控えめな声がしたあと、
パタパタとママが出迎えに来た。

そして、あたしと道明寺を見たママは、
「どうぞ、入って。」
と言っていつものように笑った。

予想していたのと……違う。
道明寺を見て、あまり驚かなかったママ。
気付いていない?まさか、この男を見て気付かない人なんていないだろう。

隣の道明寺も同じことを思ったのか、あたしと顔を見合わせて少し首を傾けたあと、あたしの頭をクシャっと撫でて、「行くぞ。」と言った。


リビングに入ると、ママとパパそして、進と進の奥さんが赤ちゃんを抱っこして待っていた。

道明寺が入っていくと、予想通りの反応を見せたのは進だった。

「えっ!えっ、道明寺さん?」

「おう、弟元気だったか?」

「あー、はいっ!でも、えーと、なんでここに道明寺さんが?えっ?まさか、姉ちゃんの彼氏って…。」

1人パニックの進を横目に、硬い表情でソファに座っているパパ。
そんなパパに、道明寺が床に膝を付き、
「ご無沙汰しております。」
と、頭を下げた。

一瞬、静まり返るリビング。
その静寂を破ったのは、ママだった。

「道明寺さん、いいから頭を上げて、ソファに座って。」

「…はい。」

「二人共、コーヒーでいいかしら?」

「あ、うん。あたしも手伝うよ。」

「いいから、あんたは座っていなさい。」
そう言ってママはキッチンへ入った。


ママがコーヒーをみんなに配ったところで、

あたしが、
「あのね、」
と切り出したとき、道明寺があたしの手をそっと触った。

そして、
「つくしさんと、お付き合いさせて頂いています。」
と、パパとママを見つめて言う。

「昔、牧野家を苦しめてあんな別れ方をした俺がこんな事を言うのは図々しいと百も承知です。ですが、……俺はやっぱりつくしさんが好きで、どうしても忘れられなくて…。
だから、もう一度、俺にチャンスをください。
今度こそ、全力で守り抜きます。」

そう言って、もう一度頭を下げた道明寺。
それを見て、視界が揺れるあたしにパパが言った。

「つくし、おまえは幸せか?」

「え?」

「道明寺さんといる事が、おまえにとって幸せなのか?」

あたしを見つめてそう言うパパに、あたしは迷わず言う。

「うん。幸せ。」

すると、パパが思いもよらない事を言い出した。

「いやー、ほんとにあの時、お金を受け取らなくてよかったよね、ママ。」

「ね、ホント!私も思ったのよそれ。」

いきなり二人で盛り上がるママとパパ。

「ど、どういうこと?」

あたしが戸惑いながらそう聞くと、

「昔、二人が別れてつくしが仙台に来たでしょ?その時、道明寺さんのお母さんからお金が振り込まれたのよ。それも、500万!手切れ金ってやつ?もー、びっくりしちゃったけど、有り難く頂く?なんてパパと話してたのよね〜。」

「えっ!?」

「いや、でもね、結局は返したわよ。つくしにも絶対受け取るなって言われたしね。
けど、ホントあの時受け取ってたら、今回この縁談も後ろめたくて喜べなかったわよね〜。」

そう言って二人で笑う両親を見て、深くため息をつくあたし。
そんなあたしを見て進が言った。

「けど、マジで驚いた。道明寺さんと姉ちゃんがまたこういう関係になってたなんて。
親父も、まさか姉ちゃんが、彼氏に道明寺さんを連れてくるなんて驚かないのかよ。」

すると、
「手紙が届いたときは、心臓が止まりそうになったけどね。」
と、エヘヘとパパが笑う。

「手紙?」

「ああ。ママ、あの手紙持ってきてあげて。」

ママが戸棚から出してきた手紙を見て一発でそれが誰から送られてきたものか分かった。
黒の分厚い便箋に、赤い朱印で道明寺家の家紋が記されている。

「もしかして、それは…」

そう言って、道明寺の顔が一気に険しくなるのを見てパパが言った。

「道明寺さん。あなたもぜひ、この手紙読んだらいい。」

パパから手紙を受け取った道明寺は、無言で手紙を読んだあと、隣りに座るあたしにその手紙を渡し、コクンと頷いた。

道明寺から渡された手紙。
便箋5枚に綴られた直筆の文字。
それは、昔、感情のない魔女だと思っていた人の、謝罪の文から始まっていた。

10年前の過ち、そして、息子を見るたびに、あたしと引き離したことを長く後悔してきたこと。
それを神から懺悔しろ言われているかのような、アフリカでのあたしとの再会。
偶然ではあったけれど、自分にとっては奇跡だと書かれている。

二人が再び付き合いだし、牧野家に挨拶に行くと聞いたとき、もしも二人の交際を反対されるような事があるのなら、それはすべて自分のせいだ。
だから、出来る事なら会って謝罪したいのだが、その前にお手紙を送らせて頂く。

そんな内容の手紙の最後は、この一文で終わっていた。

『どうか、二人の幸せだけを考えて頂きたいと願っております。』




読み終えたあたしに、もう一度パパが聞いた。

「つくし、道明寺さんといる事が、おまえにとって1番の幸せか?」

「……はい。」




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次回がラストの予定です
 2019_09_12




「うちのパパとママに会ってみる?」

牧野の口から発せられた突然の言葉に、一瞬動きが止まった俺。

「嫌なら、いいけど。」

「……おいっ、嫌な訳ねーだろ。」

「じゃ、会う?」

「ああ。もちろん。」

そう強気で言ったはいいが、心の中はかなり動揺してる。
牧野の両親が、俺との交際を喜んでくれるなんて都合のいい事は考えていない。
むしろ、大反対されるのがオチだろう。

「なぁ、牧野。」

「ん?」

「もし、いや、たぶん……、」

「なに?」

「……、たぶんおまえの両親、反対するよな?」

恐る恐る聞く俺に、

「そうだね。」
と、即答しやがるこいつ。

「はぁーー、だよな。そーだよな。
またおまえかよって思われるだろーしよ、別れた前科がある分、何言っても信じてもらえねーだろ。」

そう愚痴りながら頭を抱える俺に、もう一度こいつが言った。

「じゃ、やめる?」

「な訳ねーだろ。
どんなに反対されても何度でも会いに行ってやるよ。」





牧野の実家に1週間後に行くことを決め、まずは久しぶりにババァに会いに行った。

牧野と改めて交際し始めたことは前に伝えてある。
いつも表情を崩さないババァが珍しくホッとしたような顔で笑ったのを思い出す。

突然オフィスに顔を出した俺に、
「なにかあったのかしら?」
と、警戒するババァ。

「牧野とのことで話がある。」
そう言うと、

「まさか、もう愛想つかされた訳じゃないわよね?」
と。

「ちげーよ。ったく。
一週間後、牧野のご両親に会ってくる。
交際を認めてもらって、そのぉー、近いうちに一緒になりたいって言ってくるつもりだ。」

「そう。」

「ほんとにいいんだよな?」

「え?」

「ほんとに俺達、一緒になっていいんだよな?
あの時みてぇに、俺とあいつを引き裂いて、牧野をまた泣かすような事は絶対ねーんだよな?」

あの頃よりは強くなった俺だけど、それでも、
この母親に反対されれば俺達の仲にヒビが入るのは避けられない。

だから、これだけは確実に確かめておきたかった。

「反対なんてしないわ。
こちらから頭を下げてでも牧野さんにそばにいて欲しい、そう思ってるくらいよ。」

「ほんとだな?」

「ええ。」

「じゃあ、これにサインしてくれ。」

そう言ってババァに見せたのは、俺からの『誓約書』だった。
俺達の仲を反対しない。
何があっても牧野とその家族に危害を加えない。
約束を守らなければ、道明寺HDを捨てるだけでなく報復させてもらう。

じっくりと考えて練り上げたその『誓約書』をみたババァは、
「まったく、あなたって人は……。
ここにサインすればいいのね?判でいいのかしら?それとも血判でもする?」
と言って、呆れた顔で俺を見た。








「牧野。」

「ん?」

「寝てたか?」

「ううん。」

「明日、俺が行くって伝えてあるのか?」

「…ううん。道明寺の名前は出してない。」

たぶんこいつも分かってる。
俺との付き合いを両親はよく思わないだろうと。

「牧野。心配すんな。
俺が頭下げておまえとのこと許してもらうから。」

「あんた、頭なんて下げれるの?」

「……。」

「したこと無いのに言ったでしょ。」

「クック……、相変わらず可愛くねーな。」

「フフ……。」

「したことねーけど、……明日はする。
本当に欲しいもんを貰いにいくんだから、頭下げるのは当然だろ。」



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 2019_09_10


小話 14

Category: 小話  



『ドクター!』のお話に出てくるハマドと数年ぶりに再会した設定ですよっ。



※※※※※※※※※※※※※※※


今日はつくしの誕生日。
食事を終え、二人でメープルのバーでゆったりお酒を楽しんでいると、

「司?」
と、アラブ系訛りの英語で話しかけられた。

「おう、ハマド!」

「久しぶりだね、元気かい?」

「ええ、ハマドは?」


久しぶりの再会。
数年前、ハマドの会社と大きな取引を成功させ、彼とはそれからの付き合いだ。
何度か仕事で会っていたが、その後ハマドはアジア圏での仕事を任されるようになり、今は家族と共に中国にいると聞いていた。

ハマドの傍らには女性の姿。
その女性に視線を移すと

「わたしの妻です。」
と、ハマドが優しく笑いかける。

俺はハマドの奥様と握手を交わしたあと、後ろを振り向き、
「私の妻も紹介します。」
と言って少し緊張気味のつくしを立たせた。



俺とつくしが結婚して2年。
まだまだ新婚気分も抜けず、こいつとの甘い生活で毎日が幸せな日々。

ハマドと久しぶりの再会と言う事もあり、お互いの妻を交えて一杯やることにした。

「司に偶然あえて嬉しいよ。」

「ええ。日本には仕事で?」

「そう。司は?今日は……」
俺とつくしを伺うように聞くハマド。

「今日は妻の誕生日なんです。」

「おー、そうだったのかい!
それじゃ、何かお祝いさせて貰わなくちゃいけないね。」
ハマドは奥様と嬉しそうに頷くが、

アラブ系訛りの英語に付いていけないつくしは、俺の顔を見てキョトンとしている。

「おまえの誕生日だって言ったらお祝いするって。」

「えっ、言わなくてもいいのに。」

困った顔のつくしに苦笑する。
今日だって、誕生日を二人で祝おうと誘った俺に、
「つい数日前にクリスマスで二人で出かけたばかりでしょ!お義母さんに怒られちゃう。」
と、俺を睨んでたこいつ。

ハマドが立ち上がり、バーカウンターで何やら言ったあと、俺達の前に小さなホールケーキが運ばれてきた。
そこにはハートのロウソクも立てられている。

「おめでとうございます。」
カタコトの日本語でハマドがつくしに言うと、

「ありがとうございます。」
とはにかむつくし。

「司、ハッピーバースデーの歌は送ったのかい?」

「いや、歌ってないよ。」

「日本では歌わないの?」

「まぁ、家族や友達には歌うけど…」

「じゃあ、司が愛を込めてここで一曲どう?」

正面に座るハマドがそう言っていたずらっ子のように笑い、隣りに座るつくしがキョトンとした顔で俺に聞く。

「なんて言ったの?」

「俺に1曲歌えって。」

「えっ?」

「バースデーソングを。」

つくしの顔色を伺うようにそう言うと、こいつは即答で言いやがる。

「絶対にやめて。」

「なんでだよ。」

「歌ったら殺すからね。」

こういうとこが堪らなく可愛いと思う俺は、何年たってもこいつにベタ惚れだ。
「分かってる。」という代わりにつくしの頭をポンポンと撫でてやると、それを見てハマドが言った。

「司、もしかして彼女があの時の?」

あの時の……、そう聞かれて何年か前の事を思い出す。

あれは、ハマドとの交渉が決裂した日の夜、このバーで悪酔いしていた俺はビジネスモードからプライベートモードに切り替わったハマドを相手に愚痴を漏らした。

『何年たっても同じ女を愛していて、どうしても俺はあいつしか考えらんねぇ』と。

その事をハマドは言ってるんだろう。

「はい。」
そう答えてつくしを見ると、ハマドの奥様と慣れない英語で楽しそうに話している。

「想いが通じたってことだね。」

「ええ、ようやく…俺のものに。」

そう答えたあとハマドに促され軽くグラスを合わせる。

「僕はね、あの夜、ここで司に会っていなければ道明寺HDとの仕事は引き受けるつもりはなかったんだよ。
正直言うと、僕は君のことを信用していなかった。生まれも育ちも根っからのサラブレットの司は、仕事のセンスも良いから苦労知らずだっただろ?
それが良くも悪くも仕事に出ていた。全力さが見えなかったんだよ。」

「まぉ、確かに、そうだったかもしれません。」

「けれど、あの日、どうしても彼女が欲しい、どうしても彼女じゃなきゃ駄目なんだって酔いつぶれてる司を見て、人間味を感じたなぁ。
一気に司に興味が湧いたよ。この男にも本気になるものがあるんだってね。」

そんなハマドの言葉に俺は迷わず返す。

「俺の人生で、本気になったのはつくしに対してだけですから。」

本気……という言い方が合っているのかは分からない。
仕事に対しても俺なりに真剣に取り組んできた。
俺には仕事しかねえと思ってたから。

けど、そんな俺をつくしはいつもいい意味でぶち壊してくれた。

「俺はつくしを10代で本気で好きになり、20代で本気でもう一度ぶつかりにいった。
そして、これ先も俺はつくしだけを本気で愛します。」

そう言う俺に、
「つくしは世界一幸せ者だね。」
と言ってハマドは笑った。



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リクエスト頂きましたのでハマドさん書いてみました。ほっこりして頂けると嬉しいです
 2019_09_07





新しい職場で本格的に医師復帰をしたあたしは、覚悟はしていたけれど、毎日激務が続いている。

家に帰れるのは一週間の半分もない。
夜勤が終われば、そのまま日勤に突入し、今何時なのか時間の感覚さえ麻痺していく。

そんな訳で、恋愛に時間を割く余裕もなく、とうとう道明寺と2週間会わずにきてしまった。

電話では時々話しているけれど、それも仕事の合間の数分。まともな会話はしていない。
いつもあたしから切る電話にあいつはどう思っているんだろう。
愛想を尽かされるのも時間の問題かもしれない。

先輩たちから聞いていた『医師と恋愛の両立』の難しさを、ようやく身を持って体験することになるなんて、嬉しいやら悲しいやら。

今日もまた、夜勤の勤務を終えたのは、時間を大幅に超えた午前10時。
緊急の患者さんも落ち着き、4日ぶりにマンションへ帰れることになった。

病院を出て携帯を開くと、道明寺から
「おつかれ。またかけ直す。」
と、着信履歴とメールが残っている。

「お疲れ様。昨夜は夜勤だったの。今やっと解放されたところ。これからマンションで、少し休みます。」
そう返信して電話をカバンにしまった途端、ブルルル…と振動する携帯。


「もしもし?」

「もしもし、俺だ。」

「おはよう。仕事中?」

「ああ。おまえは少し休めそうなのか?」

「うん。明日は休みだからとりあえずこれから少し寝ようかなと思ってる。」

「そっか。………牧野……いや、……また連絡する。」

なんとなく歯切れの悪い道明寺。
いつものこの人らしくない態度に、少しだけ胸がザワっとしたあと、あたしは思いきって言った。

「道明寺、今日会える?」

「あ?」

「今日の夜、会えるかなーと思って……。」
ドキドキしながら誘ったあたしに、

「ああ。俺も会いたかった。」
と、一瞬で不安な気持ちを掻き消してくれる道明寺。






マンションに帰る途中、ママから着信があった。

「常備食のおかず作ったからマンションに届けるわ。いつならつくしいるの?」

ママのおかずがちょうど恋しくなっていた時のこの電話に、
「今から帰るとこ!30分で帰るから部屋に入って待ってて。」
そう言ってあたしはマンションへ急いだ。


マンションの扉を開けると、玄関にママの靴が揃えてある。

「おかえりー。」

「ただいま〜。」

リビングにはママお手製のおかずがお皿に盛られている。

「今すぐ食べるかなと思って、1食分だけ温めたわよ。」

「ありがとー。」

勤務中はろくなご飯を食べていないので、手作りの煮物の香りだけでお腹がグーッと痛いくらいに鳴る。

ママがお茶を入れてくれる間、黙黙と食べるあたしに、
「のど詰まるわよー。」
なんて言いながら笑うママは、
「はい、お茶どうぞ。」
と言ってあたしにお茶を出したあと、言った。

「ねー、つくし。あんた彼氏いるの?」

あまりに突然の質問に、
「グッ……ゴホっ……ゴホっ……」
と、ほんとにのどを詰まらせる。

「な、なに、急に!」

「だってー、あれ、男の人のワイシャツでしょ?」

ニヤッとした顔でママが指差すのは、洗面所にかかる道明寺のワイシャツ。
2週間前、道明寺がここに泊まった時に着替えて行って、そのあと洗濯してアイロンをかけておいたままだった。

「職場の先生?」

「えっ?」

「あのワイシャツ、かなり高価なものよねぇ。
彼氏ってお医者さん?」

「ち、違うっから。」

「別に隠さなくたっていいじゃない。
ママは安心したのよ。
いい歳の娘が、彼氏もいないまま仕事ばっかりしてて、パパもママも心配してたの。
まぁ、つくしが選ぶ人なら心配ないと思うから、今度機会があったら会わせてちょうだい。」


あたしが選ぶ人なら心配ない……。
ママのその言葉に胸がぎゅっと痛くなる。


もし、彼氏だと言って道明寺を連れて行ったら、
ママとパパはどんな反応をするだろう。
きっと、

彼氏だと紹介して1番心配させる人物が
まさに『道明寺』だと思うと、
ママの顔がまともに見れなかった。






その夜、道明寺と2週間ぶりに会った。
隠れ屋的な和食のお店で、向かい合って食事をとる。

絶対に口には出さないけれど、
相変わらずこの男は『かっこいい』

顔がとか、体型がとか、そういう事じゃなく、
「道明寺司」全体が『美』なのだと改めて認めざる終えないオーラ。

ずるいでしょ、美も権力もお金も、全部持ってるなんて神様は不公平だよ……、
そんな愚痴が思わず口からも漏れていたようで、

「おまえ、何さっきから俺に向かってブツブツ言ってんだよ。」
と、頭をワシャワシャにされるあたし。

「もう、せっかく美容室行ってきたのにっ」

「やっぱ?なんかいつもとちげーなと思った。」

久しぶりに道明寺と会うので、一応、仕事も空いたし、美容室に行ってみた。

「美容室って、ほんと至れり尽くせりで至福の時間だよね〜。」

「そうか?」

「他人に頭を洗って貰えるなんて、なんて幸せなんだろうって思わない?」

「まぁ、小せえ頃はいつもそうだったから、別に思わねぇ。」

「あんたと比べると全部の話がおかしくなる。
あたしね、3年間アフリカで生活してたけど、その間髪をお湯で洗ったのは一度もなかったかもしれない。水で石鹸も付けずにバシャバシャ洗うの。それが当たり前だったから、もう日本での生活すべてが有り難くてしょーがないよ。」

そう話すあたしに、少し間を開けたあと道明寺が言った。

「牧野、おまえさ、このままずっとこのペースで仕事してくのか?」

「え?」

「休みもほとんどねーし、身体も心配だからよ。」

本当に心配そうな目でそう聞く道明寺。

「あたしは仕事続けていくつもり。」

迷わずそう呟いたあたしに、道明寺は持っていた箸を置いて言った。

「おまえさ、……俺達の将来のこと考えてるか?」

「…え?」

「俺とおまえのこの先のことだよ。」

「それは、……」

「どう思ってる?」

急にそう聞かれても、答えに困る。
考えていないわけじゃない。
けど、まだまだ未熟なままで仕事を投げ出すつもりもない。

「道明寺は、あたしの仕事に不満?」

「あ?」

「あたしがこうして忙しく働いてる事に、やっぱりよく思わない?」

「牧野、」

「帰りも遅いし、休みも取れないし、全然会うことも出来てないけど、けど、あたし仕事好きだし、このまま投げ出したり出来ない。
あんたとの将来ももちろん大事だよ。会えばホッとするし、仕事の疲れも飛ぶし、ずっと出来れば一緒にいたいって思ってる。だからっ、」

思ってるありのままをぶつけてみると、気持ちが溢れ出して涙腺が緩む。
そんなあたしに、道明寺は、
「勘違いすんな。」
と言って優しく笑った。

「おまえさ、勘違いすんじゃねーよ。
俺は一度だっておまえに仕事をやめてほしいなんて思ったことはねーし、仮に俺のせいでやめる事になるぐらいなら、おまえを手放すしかないとさえ思ってる。
俺が言いてぇーのは、
俺も仕事が大事だ。だから、何週間も出張で会えねぇ時もあるし、大きな仕事が入ったら休みもなくなる。
だから、出来るだけ側にいてぇんだよ。」

「……ん?」

「だからっ、
結婚がまだ無理なら、同棲でもいい。
お互い仕事は今のままのペースでいいから、
俺達もっと近くにいようぜ。」



あたしは大きな勘違いをしていたかもしれない。
ママやパパを1番心配させる相手が『道明寺』だと思っていたけれど、それは違う。

あたしを誰よりも考えてくれて、
そして誰よりも必要としてくれるこの人。
それは間違いなく『安心』する相手なのだ。



「ねぇ、道明寺。」

「ん?」

「うちのパパとママに会ってみる?」




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 2019_09_05





温泉地まで迎えに来た道明寺は、滋さんや桜子から
「べた惚れじゃん。」
「過保護にも程がある。」
なんて、散々からかわれていたけれど、

「うるせぇ、楽しんだならさっさと俺に返せ。」
と言ってあたしを自分の車に乗せた。


東京までの1時間、途中で食事をとり、あたしの部屋まで送ってもらう。

「よ、寄っていく?」
まだ言い慣れない台詞に、
クスッと道明寺が笑ったあと、

「ああ。」
といつものように答えた。


部屋に入りお茶の用意をしている間、リビングで寛ぐ道明寺。
この部屋にこの人がいると言うだけで違和感半端ないけれど、幸せ感はそれ以上。

いつになくテレビをじっと見つめる道明寺に視線を移すと、そのテレビ画面には水着姿の若い女性がインタビューを受けているところ。

白い肌にブルーの水着がとても似合っていて、その水着から今にもこぼれ落ちそうな胸。
やっぱり男の人って無意識にそういう女性を見ちゃうよね……と、落ち込みそうになる頭をブンブンと振った。



好きあってる二人が1つ屋根の下にいれば、こうなるのは自然の流れで、いつものように道明寺のキスがあたしに降り注いでくる。

あたしの体から力が抜けた頃、道明寺はあたしを抱き上げて隣の寝室へと運んだ。

ベッドに下ろされて、すぐにまた道明寺と唇が重なり、今度は大きな手があたしの服の裾から背中へと這う。

器用にブラジャーのホックをはずし、開放されたその隙間から、胸の膨らみを優しく揉まれると、
恥ずかしさが一気に押し寄せる。

何度経験してもこの気持ちは消えないのかも……なんて考えていると、

道明寺が一度姿勢を戻し、自分のシャツを脱ぎ始めた。

綺麗な体。
無駄な贅肉なんてどこにもない。
艶々したその肌に思わず見惚れてしまう。

すると、今度は道明寺があたしの手を引き、上体を起こした体から服を脱がせようとする。

その時、思わず両手で胸を隠すような仕草をしてしまった。
それでも、道明寺の手が優しく服をまくしあげていくが、それに小さくイヤイヤと首をふると、その手が止まり、

「牧野?」
と、道明寺があたしを呼んだ。

「どうした?……嫌か?」

「……ううん。……でも、」

「…でも?」

「ふ、服、…脱がなくてもいい?」

「俺は見てぇ。」

「けどっ、」

それでも食い下がるあたしに、

「理由にもよる。」
と、道明寺があたしの顔を覗き込み言う。

「……寒いから。」

「すぐ熱くなる。」

確かに、いつも終わったあとは僅かに汗ばんでいるあたしが言っても説得力がない。
そんな事を考えていると、道明寺が言った。

「牧野。」

「ん?」

「嫌か?」

「え?」

「おまえがそういう気分じゃねーなら、無理にしたくねぇ。
……ごめんな。
おまえといるとどうしても触りたいっつーか……。
マジで、わりぃ。これからは気をつける。」

あたしの頭をポンポンと優しく叩き、そのまま引き寄せて抱きしめてくれる道明寺。
あたしは、この人にこんな事を言わせたい訳じゃない。

「違うっ、ちがうよ。
道明寺は悪くない。
あたしが……」

どう言葉にしていいか分からない。
つい数時間前に見た滋さんや桜子の身体が頭をよぎり、臆病になっているのは完全にあたしのわがまま。

悩んでも解決しないのは分かっているのに、道明寺はどう思ってるんだろう、なんて考えたら勇気が出ない。

「牧野、俺はおまえといるだけで充分だから。」

「……。」

「嫌なことはきちんと言えよ。」

「……。」

いつも言葉で伝えてくれる道明寺に、いつも言葉を飲み込んできたあたし。
でも、もう……。

「道明寺。」

「ん?」

「あたし、……恥ずかしいの。」

そう言うと、抱きしめていた腕を緩め、あたしを正面から見つめる道明寺。

「あたし、……滋さんや桜子みたいに全然女らしい身体じゃないし、道明寺は……それでもいいのかなぁ、とか考えたら、自信なくて……。
もちろんっ、今更そんな事言ったってしょーがないのは分かってるし、この先あたしがナイスボディーに変身する確率なんて0%だと思うけど、
……けど、そんなあたしでいいのかなぁ、
……せめて、今までの人と比べないで欲しいなー、
……って。」

最後の方はもう自分に言い聞かせるようにそう言ったあたしに、

「おまえは俺を他の奴と比べてるのかよ。」
と、少し怒ったように道明寺が言った。

「え?……ううん。」

「じゃあ、俺だけそんな事してるって?」

「そーじゃなくて、」

「俺がおまえを抱きながら他の女の事考えてたって思ってるのか?」

「そういう訳じゃないけどっ、けど……」

「けど?」

「……、わかんないよ。
あたしは……あんたが初めてだからわかんない。
こういう時、前の人と比べたりするのか、一瞬でも思い出したりするのか、そういうの経験ないから全然わかんないっ。
でも、あたしはあんたみたいに完璧じゃないから、自信がなくて、」

溜め込んでいたものを一気に吐き出すように言葉が溢れ出したあたし。
それを、止めたのは道明寺からの激しいキスだった。


「んっ、…どうみょ……じ」

ベッドに押し倒されて、いつもより激しいキスに頭がクラクラとしてくる。

ようやく離された時は、潤んだ目で道明寺を見つめる事しかできない状態。

「ん……酷い……」

「ひでぇのはどっちだよ。」

そうあたしに言う道明寺の目も少しだけ潤んでいるように見えるのは気のせいか。

「もっと自信持てよ。
俺はおまえがいいって言ってんだぞ。
おまえしか、目に入ってねぇっていつになったら分かんだよ。」

そういったあと、あたしの隣にゴロンと転がった道明寺は、天井を見つめたあと大きく息を吐き、腕で自分の顔を隠した。

「マジで…焦った。」

「え?」

「おまえが、……嫌なのかと思った。
ガッツキすぎて嫌われたのかって、マジで焦るだろバカ。」

「だって!」

「だってじゃねーよ。
余計なこと考えてんじゃねーよ。」

そう言って隣に寝ているあたしの方へ体を向ける道明寺。

「さっきだって、テレビの水着の女性に釘付けだったくせに。」

「あ?」

「じっと見てたでしょ。」

「……あー、あれか?
あのプール、道明寺が手がけてるレジャー施設。
水着の女なんて見てねぇーよ、俺が見てたのは客の入り具合だろ。」

予想もしないその言葉に何も言い返せないあたし。

「それに、
この際だからはっきり言うぞ。」

「……ん?」

「俺は好きでもない女と寝る趣味はねーよ。
俺はおまえと別れてからもずっとおまえが好きだった。
っつー事は、どういう意味かわかるよな?」


そう言ったあと道明寺は、あたしの上に再び覆いかぶさり深くて長いキスをする。

『どういう意味かわかるよな?』
さっきのその言葉を必死に理解しようとするあたしは、
キスの気持ちよさに溺れながら、その言葉を自分の都合のいいように解釈する。


もしかして、道明寺も…?



「牧野、脱がせていい?」

「…うん。」



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