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病院と聞いていたからそれなりのものを期待した私が悪かった。

木造の平屋で今にも朽ち落ちてしまいそうな建物に薄っすらと明かりが付いている。

外に置かれたベンチには数人の患者らしき人。
もちろん丈夫な戸や設備もないので、そこら中にハエがたかっている。

私達の車の音を聞きつけて、中から黒人のスタッフが現れた。
事情を説明すると小刻みに頷いたあと、中へ入るよう手招きした。


中では子供の鳴き叫ぶ声が響いている。
そっと診察室を覗くと、白衣に身を包む医師が。
私の予想に反して、その後ろ姿は女性だった。

泣き叫ぶ子供の手当が終わると、優しく頬を撫でる医師。
そして、スタッフに何かを言ったあと、私達の気配に気付き、振り返った。






「…………牧野さん?」

何年ぶりだろうか、その名前を呼んだのは。
呼ばれた彼女は大きな目を見開いたあと、
すぐに何事もなかったかのようにスタッフと話し始めた。

そして、スタッフから事情を聞いたあと、
「こちらへどうぞ。」
と、日本語で静かに言った。







彼女を見るのは10年ぶりだろうか。
もう昔のことで覚えていない。
いや、思い出さないようにしてきたのだ。
それが、こんな所で再会するなんて夢にも思わなかった。

一通り診察をしたあと、熱を下げる薬をひと粒私の手のひらにおく。

「明日には隣国に入れるので、そちらの病院で診てもらってください。
ここよりは遥かに大きい病院なので。」

「…ありがとう。」

昔より少し痩せただろうか。
化粧っけのない肌は焼けて健康的に見え、さらに彼女を幼くする。



私を含めてスタッフ4人、今日はここの病院を借りて泊まることなったが、
ただでさえ医療用のベッドは不足している。
男性スタッフは外にあるベンチを使いなんとか寝床を確保したがそれでもベッドは足りない。

その時、同行していたスタッフが牧野さんに何かを耳打ちしているのが目に入った。
彼女の表情はほとんど変わらないけれど、最後に一言だけ小さくOKと頷いた。






病院から歩いて100メートルほどの所に、小さなプレハブ小屋があった。

「どうぞ。」
そう言って彼女が私を中へ招き入れる。

そこは彼女の居住用小屋。
小さなベッドとパソコンが置かれた机、排水管がむき出しの水道。
余計なものは一切なく、私物らしきものもほとんど見当たらない。

あの病院で私を寝せる訳にはいかないと思ったのか、スタッフが牧野さんに、私だけ居住地に案内してほしいとお願いしたのだ。



「何もありませんが、朝まで寝るには静かでいいですよ。」
と、彼女がベッドを指して言う。

「本当にありがとう。
迷惑をかけて申し訳ないわ。」

「……ここには、お仕事ですか?」

「ええ、まぁ、そんなとこかしら。
…牧野さんはいつからここに?」

「3年前から。」

そう完結に答えたあと、
「もう休んでください。」
と、部屋の小さな電気を消し、机にあったキャンドルに灯りをつけた。


「あなたはどこで?」
この部屋にベッドは一つしかない。

「折りたたみの簡易ベットがあるので病院で休みます。
少しうるさくしますがそこで顔だけ洗わせてください。」

そう言った彼女は部屋の隅にある水道管の方へ行った。





私は、部屋のベットに有り難く横たわりながら、熱でぼぉーとしながらも、薄っすらと目を開けて彼女を見つめる。

洗面台でもなくシャワー室でもない、ただの蛇口からの水で顔をさっと洗ったあと、今度は肩につくか付かないかくらいの髪を濡らしていく。

もちろんこの部屋にシャワー室なんてものはない。
たぶん、髪や身体を洗うのも、この冷たい水道だけなのだろう。







牧野さんが医者になったというのは知っていた。
その後、東北の方で働いているというのも聞いた。

そんな彼女がまさかアフリカの奥地、こんな厳しい環境に身を置いているとは想像もしなかった。

自ら望んで来たのだろうか。
それとも、来なければならなかった理由があるのか。


10年前のあのとき、
彼女を東京から去るように仕向けた私。

そのあと、牧野さんが医者になったと聞いて、
幸せになったのだとホッとした。
けれど、そうじゃなかったのかもしれない。


冷たい水で髪を洗い、濡れたままの髪を大雑把に結び、小さな簡易ベットを運び出す彼女の背中を見ながら、柄にもなく胸が苦しく締め付けられた。




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Author:司一筋
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