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久しぶりに平日に連休ができた。
部屋の掃除や買い物をゆっくりしようと思っていたところ、
「つくし、これから日帰りで温泉に行かない?」
と、滋さんから突然のお誘い。

「えっ、滋さん仕事は?」

「いいのいいの。あたしも少し休憩したいから。」

そんな訳で、今あたしは滋さんと桜子と3人で東京から約1時間離れた温泉へ来ていた。

ゆっくりと温泉地のランチを堪能したあと、いくつもの露天風呂が楽しめる温泉に浸かっている。

温かいお湯が身体に染み渡り、手足を伸ばして寛いでいると、
タオルを身体に巻いた桜子がお湯の中に入ろうと、あたしの目の前でそのタオルをスルリと取る。

綺麗な体……。
細いのに出るところはちゃんと出ていて、本当に羨ましい。
女のあたしでも見惚れちゃう。

思わずじっと見つめるあたしに、
「なに?つくし、のぼせた?」
と、隣にいる滋さんが言う。

「ううん。大丈夫。」

「そう?」

あたしを心配そうに見る滋さんもまた、ナイスボディーの持ち主だ。
胸なんて巨乳の域に達している。

3人の中で明らかにあたしだけが劣っているのは一目瞭然。
だから、愚痴りたくもなる。

「二人とも相変わらずスタイルいいよね…。」

「なによー、つくし拗ねちゃって。」

「なんで体重は変わらないのに、こんなに体型は変わるのかな。ほんと、羨ましい。」

そう言って、お湯で隠れた自分の体をそっと見つめると、

「そんなこと気にしないのっ。」
と、滋さんがあたしにピシャッとお湯をかける。

気にしないの…と言われても、気になる。
だって、それは……、と、頭の中に道明寺の顔がよぎった時に、桜子が小悪魔顔であたしに言った。

「先輩、道明寺さんとはエッチしてます?」

「っえ、ええええ、えっち?」

「そんな動揺しなくても」

「だって、急に、」

「SEXですよ、SEX。」

桜子のその言葉に、思わずあたりをキョロキョロと確認するあたし。

「どうなんです?してます?」

し、してない訳じゃない。
道明寺とつい1ヶ月前にそういう関係になってから、もう何度か肌を重ねてきた。
時間があれば求めてくれる道明寺。それが恥ずかしさよりも嬉しいと思えるくらいあたしも成長してきた。

「し、してはいるけど……。」

「道明寺さん、優しくしてくれます?」

「はぁ?え?」

小悪魔顔の桜子があたしの横にピッタリと張り付いてニヤッと笑う。

「なーんか、ちょっと興味あるなーと思って。」

「桜子、人の彼氏の情事に興味持たないの。」

「って言う滋さんも興味ありません?」

「んー、あたしもちょっとあるかなー。」

あたしを真ん中に挟んで滋さんと桜子がキャッキャと盛り上がる。

「つくし、司は優しい?」

「やめてよー滋さんまでっ」

「なんでよ、いいじゃない。
どう?今までの彼氏の中で何番目くらい?」

人に聞かれちゃまずい話だという自覚があるのか、声を潜めて聞く滋さん。

「先輩、ここだけの女子トークですから絶対に誰にも言いませんから。」

「…分かんないよ。」

「1分あげるから考えて。」

「1分って、……分かんないって。」

「なーんでですかー。もー、」

そんなにワクワク顔であたしの答えを期待されても困る。
だって、

「…比べられないもん。
あたし、道明寺が……初めてだし。」

俯いてそう言うあたしに、
一瞬変な間があった後、


「つくし、あんた最高。」
「先輩、…大好き。」
と、滋さんと桜子が抱きついてきた。







あたしだってこの歳になるまでそういうチャンスがない訳じゃなかった。
実際、ホテルにまで行ったこともある。

でも、……逃げ出した。
いつも、ギリギリでラインを踏み超す事が出来なかった。

道明寺との初めての夜と比べると雲泥の差。
あの時は、恥ずかしさはあっても迷いは1つもなかったのに。

だから、滋と桜子に聞かれても、他の人と比べる事なんてあたしには出来ない。


でも、……道明寺は違うだろうな。
他の人と、こんな貧弱なあたしの身体を比べて、どう思ってるのだろう。

そう思うとため息しか出ない。






温泉を出て、温泉街をプラプラ散策していると、もう辺りは薄暗くなってきてそろそろ日帰りの旅も終わる時間。

滋さんの車に乗り込もうと駐車場まで歩いていると、携帯がなった。

「もしもし。」

「俺だ。温泉楽しんだか?」

「うん。そろそろ帰るところ。」

電話をしているあたしの横で桜子が
『道明寺さん?』
と、小声で聞き、あたしはコクンと頷いた。

「おせーぞ。」

「え?」

「待ちくたびれた。」

「仕事は?」

「終わらせてきた。」

今日は日帰りで温泉に行くことは伝えてある。
平日だから道明寺も仕事だし、特にこのあと約束はしていなかったのに、

「道明寺、今どこ?」

「だから、待ちくたびれたって言ったろ。」

「え?待ってたの?」

そう聞き返すあたしに、道明寺が言った。

「まっすぐ見ろよ。」

「……ん?」

「滋の車の横。」

「……え?」

「早く来い。」



プツリと切れた電話を持ちながら、あたしは視線をまっすぐ向けると、
滋さんの車の横に、見慣れた道明寺の車があり、そこにもたれるように立つ道明寺の姿。


「あらまぁ、彼氏の登場だ。」
「相変わらず無駄にかっこいいですね道明寺さんは。」



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コメント、拍手コメントありがとうございます。
一つ一つ有り難く拝読しておりま〜す。

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 2019_08_31


雑記

Category: 未分類  



こんにちは、『司一筋』の管理人です。

ブログ再開後、たくさんの方にまた訪問して頂きとても嬉しいです!

『エンドライン』いかがでしょうか。
原作では、漁村に行ったつくしを司は割とすぐに追いかけますが、
もし、それが何らかの理由で追いかけなければ……と。

月日がたった二人は、もうとっくにエンドラインを超えていると思いこんでいますが、ちょっとした出来事で歯車はまた動き出しました。


司とつくしを書くにあたって、私なりにこだわっている部分もあります。
それは、原作にもドラマにも共通しているのですが、
つくしから想いを聞き出すときの司は、
必ず、まずは自分の気持ちを伝えます。

エンドライン20にもあるように、
「じゃあ、俺だけに言ってくれよ。
……俺はおまえが好きだ。……おまえは?」

というように、
「俺を好きか?」
と、聞くときは、まずは
「俺はおまえを好きだ。」
と、想いをぶつける司。

その男らしさと潔さに何年たってもキュンとします。
そんな司をここでも表現していけたらと思っています。


エンドライン、終盤に入ってきました。
どうぞこの先もお付き合いよろしくお願い致します!



ランキングに参加させて頂いています。
ありがたや、ありがたや〜。
 2019_08_29





牧野の手を引き店を出る。

通りは仕事を終えたサラリーマンやこれから飲みに行く若い奴らで溢れている。
その合間を縫うようにして歩くと、時々牧野との手が離れそうになり、俺は指を絡めて強く握りなおした。

横断歩道で止まり牧野に視線を移すと、俺の方を全然見ようとしねえこいつ。
突然連れ出してきたから、牧野は上着も手に持ったままだと今更気付き、俺はその上着を奪うと、
「寒いから着てろ。」
と言って牧野に着せた。

一瞬だけ手を離さなきゃなんねー事が惜しくて、着せたあとはすぐに手を繋ぎなおす。
そして、店を出てからずっと考えていた事を牧野に言った。

「ホテルに行くか?」

その言葉に思いっきり目を泳がせたこいつを見て、自分の失態に気付く。

「いやっ、そういう意味じゃねーんだよ。
ホ、ホテルっつーのはメープルの俺のプライベートルームに行くかって意味で、別にやらしい意味で言った訳じゃねーよっ。」

俺の必死の弁解に、ようやくいつもの睨みをきかせた顔の牧野が言う。

「分かってるし。」

「お、おう。」

「あたしはどこでもいい。
そこの喫茶店でもいいし。」

そう答えるこいつにはっきり言ってやる。

「俺はやだ。
おまえと二人きりになれるとこに行きてぇ。」





タクシーをメープルホテルのVIP専用入り口に付け、そこから最上階のプライベートルームへ上がる。

「なにこれ……。」

「すげぇだろ?」

「信じらんない………」

俺専用のエレベーターは、動き始めると庫内が暗くなり、宇宙空間が再現される仕組みになっている。
月、星、惑星、360℃が光り輝く。

それを驚いた顔で見つめる牧野に
「もっとすげぇもん見せてやる。」
そう言ってエレベーターを下りた。


メープルの最上階は道明寺ファミリーのプライベートルームになっている。
通常のエレベーターからは上がることが出来ない仕組み。
一応、ババァや姉ちゃんの部屋もあるが、日本のメープルはほぼ俺しか使っていない。

そのプライベートルームの扉を開くと、足元を照らすだけのライトがあるだけで、部屋は真っ暗。
そこに足を踏み入れた牧野は、
「えぇー、凄い……。」
と、呟いた。

暗い部屋一面に、東京の夜景が広がっている。
それだけで充分部屋が明るくなるほど眩い光たち。

「綺麗……。」

「気に入ったか?」

「うん、凄いね。」

窓に近付いて夜景を見つめる牧野の目がキラキラと輝いている。
そんなこいつの頬に思わず手を伸ばした俺に、牧野はビクッと身体を震わせた。

「牧野。」

「ん?」

「おまえがさっきダチに言ってた事、ほんとか?」

「……。」

「他の奴には言えて、俺には言えねーのかよ。」

「違うっ、そーじゃないけど、」

「じゃあ、俺だけに言ってくれよ。
……俺はおまえが好きだ。…おまえは?」

「……うん、……あたしも道明寺が好き。」

こいつからやっとその言葉が聞けて、全身が痺れていく感覚に襲われる。

「牧野。」

「ん?」

「…いいよな?」

「え?」

俺を見つめる牧野を引き寄せて、その唇にキスをする。

ゆっくりと優しく何度か重ね合わせたあと、
一度離して牧野の目を見て言ってやる。

「俺も同じだから。
おまえとまた離れる事になったら堪えらんねぇ。だから、もう、俺から離れるな。」

無言で小さく頷く牧野に、今度はありったけの想いをぶつけるように唇を重ねていく。

「…んっ、……くちゅ………ん……」

牧野から漏れる甘い声。
柔らかい唇の感触と、夜景で光る潤んだ目。
やべぇ、抑えがきかねぇ。

「…ん、…道明寺…」

「……くちゅ……ん?」

「待って……、ねー、……待って道明寺」

キスだけじゃ足りなくて、側にあるソファに牧野の身体を押し倒し首筋に顔をうずめ、右手は服の上から膨らみを捉えていく。

1つボタンを外せばたぶん胸の膨らみが見えるだろうそのブラウスに手を伸ばした時、
「道明寺、」
と、愛しい女が呼ぶ。

「どうした?」

「……。」

「牧野?」

「…シャワーに入ってからじゃダメ?」

消え入りそうな声でそんな事を言われたら、落ちない男はいねぇだろ。






牧野のお願いを聞き入れて、プライベートルームにあるシャワーをお互い使い、部屋にあるバスローブ姿になった俺達。

「ぷっ……ブカブカじゃん」

「だって、あんたが大きすぎなんでしょ」

俺のバスローブを着た牧野は、手も膝も隠れるほどブカブカ。
それが無茶苦茶可愛くて、
牧野の身体を横抱きに抱き上げると、そのままベッドルームへ直行。

「もう、待ったなしだからな。」

「…分かってる。」

そんな言葉を合図に俺達の初めての夜が始まった。




誰もが、産まれたての赤ちゃんや、ふわふわとした子犬が無条件に可愛いと思うのと同じように、
俺にとって牧野のすべてが愛しくて可愛い。

想像以上に女らしい身体、抑える声、恥ずかしがる仕草、どれをとっても極上で、
どれだけ惚れてるんだよと自嘲する。


やっぱこいつは、俺にとって最初で最後の女なんだろうなと感じながら、夜が更けていった。



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 2019_08_29





「で?牧野とはどうよ。」

「……。」

「ほんとおまえら……、結ばれるのに何年かかるんだよ。このまま行ったら死ぬ頃にやっとカップルか?」

「うるせー、あきらそいつどーにかしろよ。」

総二郎の言いたい事も分かる。
俺だって攻めて無いわけじゃねーんだよ。
けど、……

「牧野が『うん』って言わねーのか?」
あきらが心配そうに俺に聞く。

「まぁ、…それもあるけどよ…」

「けど?」

「……怖ぇんだよ。
ようやく俺の電話にも出るようになったし、誘えば二人で出掛けれるようになったのに、
あいつにこれ以上の『答え』を求めたら、また俺から離れていきそうで…怖ぇ。」

素直に気持ちを吐き出すと、あきらが痛そうな顔をする。

牧野とは最近頻繁に会っている。
会えば愛しくて、会えない時間は更に想いが増す。

この時間が永遠に続けばいい。
だから、その先を求める事が怖い。
情けねえのは分かってる。けど、俺はあいつにだけは臆病だ。

そんな俺に総二郎が真面目に言いやがる。

「司に怖いとか言わせる女は牧野だけだな。マジで最強すぎるだろ、あいつ。
でも、おまえらしくねーじゃん。
牧野と、その先の関係になりてぇんじゃねーのか?」


なりてぇに決まってるだろ。
好きだと言ってこの腕の中にあいつを抱きたい。
それができる関係に進みたい。


「しょーがねーな。俺らが一肌脱ぐか?」
「おー、あきらいい事言うね〜。」
そう言って、お祭りコンビがハイタッチしだして、慌てて、
「おまえらは出てくるなっ」
と、言っても遅い。

「牧野、ここに呼べよ。」
あきらのその言葉に、すかさず、

「今日は他に予定があって会えねぇって断られたたから無理だ。」
と、答えると、

「俺に任せろよ〜。」
と、すげぇ得意気に携帯を取り出す総二郎。

「今日の牧野のデートの相手、教えてやろうか?」

「あ?デート?」

「今からそこに乗り込もうぜ。」

そう言って電話をどこかに掛ける総二郎。

「もしもし、どーも、西門です。
……優紀ちゃん、今どこ?
うん、……俺達も合流してもいい?……オッケー、あっ、俺達が行くこと牧野には内緒にして。あいつ、逃げるかもしんねーから。じゃあ、今から向かうね、今日は俺がご馳走するから、好きなものたくさん注文しておきな〜。」

電話を切ったあと、俺に
「いくぞ。」
と、顎で指図しやがる。

「牧野、ダチといるのか?」

「そう。優紀ちゃんから聞いてたんだよ、今日牧野と久しぶりに会うって。
行くか?行かねーのか?」

「……。」

「牧野に会いたくねーのかよ。」

「会いてぇに決まってるだろっ。行くぞっ!」







牧野のダチから聞いた店に到着すると、店の前で見知った顔が立っている。

「類、なんでおまえまでいるんだよ。」

「だって、おもしろそーじゃん。」

「面白がるなっ。」

「俺も牧野に会いたいし。」

「てめぇ。」

そんな俺と類に、
「仲良くやれよ、行くぞ。」
と、総二郎が肩を抱き店に入っていった。


落ち着いた雰囲気の居酒屋。
俺達4人が入っていくと、店員が一瞬固まったあと、
「個室にどうぞ。」
と頼んでもいねーのに、勝手に連れて行かれる。

4〜5人が入るのに丁度いい大きさの和室の個室に誘導され、とりあえず腰を下ろした所で、
「優紀ちゃんに連絡するか。」
と、総二郎が携帯を取り出した。

その時だった。
どこからか、
「道明寺さんとは会ってるの?」
と、俺の名前が聞こえてきた。

その声に固まった俺達4人。
そして、

「んー、時々ね。」
と、間違えるはずもない牧野の声が、ふすまを隔てた隣の部屋からかすかに聞こえてくる。

あきらが無言で『隣にいるぞ』と目配せしたあと、総二郎が口に手を当てて『静かにしてろ』と俺に言う。

俺らの部屋の隣からダチと牧野の会話が微かに漏れてくる。

「道明寺さんと付き合うことにしたんだ。」

「…付き合ってはいないけど、」

「そうなの?でも二人で出掛けたりしてるんでしょ?」

「んー、」

「それって、付き合ってるんじゃないのー。
つくしさぁ、もう大人なんだからいいんじゃない?」

「え?」

「あの頃は高校生だったから何も出来なかったけど、今は二人とも大人なんだし、道明寺さんのお母さんも賛成してるなら何も障害はないでしょ。」

「それは、そうだけど……、でも、」

牧野の声は消えそうなほど小さくて、
それが俺の知りたい『答え』なのか。


「つくし、道明寺さんのことどう思ってる?」

「え?」

「好き?それとももう終わった人なの?」

「……。」

この沈黙が痛い。
思わず俯く俺の肩にあきらがそっと手を置いた時、牧野が言った。

「あたし、……耐えられないから……」

「つくし?」

「あんな辛い思いして道明寺と別れたのに、
また、もし、同じことになったら、あたし今度こそ耐えられそうにない。」

そう言って、ほんの少しだけ涙声のあいつの声に、俺は俯いていた顔をあげる。

「道明寺を忘れたくて日本を離れたのに、やっぱり一度会っただけで、胸が苦しくて。
刷り込まれてるのは完全にあたしの方。」

「刷り込まれてる?」

「そう。何度離れても、道明寺を見たらどうしても好きに」


そこまでが限界だった。
勢い良く立ち上がり、あきらの静止もきかずに、隣の部屋のふすまをガタッと開ける俺。

「キャっ、えっ、道明寺!?」
突然現れた俺達にすげぇ驚く二人に、

「いやぁー、たまたま隣の部屋で呑んでたところでよ〜」
と、総二郎が苦しいフォローを入れている。

でも、今の俺にはそんなのどうでもいい。

「わりぃ、牧野貰って行っていいか?」
ダチにそう聞くのと同時に、座っている牧野の手を掴むと、

「あっ、どうぞどうぞ」
と、まだ状況が掴めていないダチが答える。

「行くぞ。」

「へ?」

牧野を連れて部屋を出る俺に、
「司ー、お礼は今度でいいぞー。」
と、あきらの声が響いた。



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 2019_08_28





仙台のホテルで、牧野と一緒に過ごした日から2週間。
完全にあいつは俺を避けてやがる。

「俺たち、きちんとやり直してみようぜ。」
俺のその言葉に、

「……考えとく。」
とだけ答えた牧野。

前回は断られたから、今回の『考えとく。』と言うのはかなりの進歩だろう。

けど、
帰りの新幹線で強引に聞き出した携帯番号に、何度かけてもあいつは出ねえ。

それならば…と留守電に
『電話に出ねぇなら、職場に行くぞ。』
と、残した途端、あいつからの着信があった。

「もしもし。」

「道明寺、なんか用?」

開口一番、キレてんじゃねーよ。

「用があるから電話してんだぞ。」

「なに?」

「今日、デートしようぜ。」

「…はぁー。」

ため息付いてんじゃねーよ。

「あんたの用ってそれ?」

「ああ。」

「………」

「7時には仕事終わらせるから、どこに迎えに行けばいい?」

「………○○駅の前にいるから。」

会社近くの駅を指定した牧野。
その返事に思いっきり顔が緩む俺。

「分かった。じゃあ、後でな。」

「ん。」

こんな会話一つでバカ見てぇに胸が鳴る。
こういう気持ちは10年ぶりで、今も昔も相手はあいつ。

それが、『愛』なのかはまだ分かんねぇけど、
俺の胸が痛いほど鳴るのは、あいつだけらしい。







待ち合わせの7時に駅前に行くと、ワンピース姿の牧野が立っている。
その姿にいちいち心臓がうるせぇ。

俺に気づいた牧野が車に近付いてくるのを見て、俺は運転席から降りた。

「わりぃ、待ったか?」

「…ううん。」

そのまま助手席の方へまわり、ドアを開けて牧野を車に乗せると、もう一度運転席に戻り車を走らせる。

そんな俺をじっと見つめる牧野の視線に気付き、
「どうした?」
と、聞くと、

「……別に。」
と、慌てて俺から視線をそらすこいつ。

「プッ……なんだよ」

「なんでもない。」

「見惚れたか?」

からかって言ったつもりのその言葉なのに、
「…かっこいいじゃん。」
と、真顔で言われてまたもや心臓が壊れそうになる。

「おまえっ、急にそういう事言うなっつーの。」

「えっ?はぁ?いや、そーじゃなくてっ、ご、ご、誤解だしっ。」

「誤解?」

「かっこいいって言うのは、だから、そのぉ、動作がスマートだなぁって意味!
車にエスコートする動作が様になってたから思わず言っただけで、深い意味はないしっ。」

ムキになってそう弁明するこいつの顔が少し赤くて、めちゃくちゃツボる。

「別に理由なんて関係ねーし。」

「はぁ?」

「どんな理由だとしても、おまえがかっこいいって思ってくれるなら、俺は嬉しいんだよ。」

たぶん、こんな言葉、もう一度言えと言われたら、恥ずかしさで死ねる。
けど、言わねーとこいつには伝わらねぇし、言ったあとで自分も気付く。
『こいつ以外には口が避けても言わねーだろうな。』





和食が食える店を予約しておいて正解だった。

目の前の女は、どの料理も「美味しぃー」と目を細めて喜んで食っている。

「相変わらず美味そうに食うよなおまえ。」

「そう?でも、ほんと美味しい。
日本を離れて一番悲しかったのは、日本食が食べられなかったこと。」

「海外派遣はおまえの希望だったのか?」

「んー、そうだけど、尊敬する先輩に付いて行きたくて。」

「それって…そいつとデキてたからじゃねーよな。」

急に不機嫌になる俺に、無言のまま睨みつけるこいつの顔は、「バカじゃないの?」と言っている。

「男だろそいつ。そいつに付いていきたいって言ったら、そういう理由じゃねーのかよ。」

「どーしてそーなるのかなあんたは。」

「……じゃ、……他にいたのか?」

「はぁ?」

「だから、…他に付き合ってる奴いたのか?
この10年、おまえの側にどんな奴がいた?」

緊張なんてほとんどした事が無い俺なのに、今この言葉を発するのに、声が微かに震えやがる。

そんな俺を、牧野が困った顔で見たあと、
「道明寺、」
と、呟いた。

この先はたぶんイエローカードだ。
この顔の時のこいつは、ろくな事を言わねぇ。

「道明寺、あたしたち、」

「確かめる事もだめかよ。」

「え?」

「俺は、おまえといると痛ぇくらい心臓が鳴る。それは、『刷り込み』だっておまえは言うかもしんねーけど、だとしても、苦しくて堪んねぇ。
だから、きちんと確かめさせてくれ。
それが『愛』なのか、『思い込み』なのか、きちんとおまえと向き合って確かめてぇ。」

口に出してみて思う。
昔も今も変わんねぇ。
いつだってこいつ相手だと誤魔化しがきかねぇ。

隠してたって口を開けば溢れ出してくる。
どうしたって磁石のように惹かれていくこの想い。


そんな俺の言葉に、牧野は一つ大きく息を吐いたあと言った。

「今度は、中華に連れて行って。」

「…お、おう。
いつ行く?明日でいいか?」

「はぁ?来週でいいでしょ。」

「あ?じゃあ、明日はどうする?」

「えっ?だから、次会うのは来週でいいって。」

「ふざけんなっ!」

「道明寺、声うっさい。」




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 2019_08_27





朝目覚めると、見慣れぬ天井と部屋の圧迫感に、一瞬まだ夢を見ているのかと思っちまった。

そして数秒後、現実に戻った俺は
「マジかよ…」
と、ベッドの上で深くため息が漏れる。

ゆっくり視線を横に移すと、ベッドの側にあるリクライニングソファに眠る牧野の姿。
小せえ身体がそのソファにピッタリ収まってる。

昨夜、この部屋に入ってこいつとじっくり話そうと思った所に、牧野の母親から電話が入った。
牧野が電話している10分ほど、軽く目を閉じて待っていようと思ったはずが、まさか朝までぐっすり眠っちまった。

ここ数日、激務だったから疲れていた自覚はある。
週末に仙台に来るため仕事を急ピッチで片付けてきた。
そうして取った休みだって言うのに、爆睡するってどんだけだよっと頭を抱えたくもなる。

ベッドの上に起き上がり、実際頭を抱え込む俺に、
「起きてたの?」
と、牧野の声が響いた。

「お、おう。」

「今、何時だろー。」

「もうすぐ6時だ。」

「ん。」
そう小さく返事をしてまた目をつぶる牧野。

「牧野。」

「…んー?」

「こっちで寝るか?」

「んー、大丈夫。まだ早いから道明寺も寝たら?」

「ああ。おまえベッド使うか?」

「こういうの慣れてるからあたしは大丈夫。」

「でも、狭いだろ。」

「道明寺には狭くて無理。
だから、あんたはベッド使って。」

目を閉じ、半分眠りに入りながらそう言う牧野。
この状況で警戒心の欠片もねえ。

そんなこいつを見ていると、分からせてやりたくもなる。
俺は男なんだぞ…と。

俺はベッドから立ち上がり、ソファで寝ている牧野の側まで近付くと、一気にその小せえ身体を抱き上げた。

「わっ!えっ、なにっ!」
俺の腕の中で、驚いて目を開ける牧野。

そんなこいつを今度はベッドにゆっくり下ろしてやり、俺もその横に寝ころがる。

「ど、道明寺っ。」

「なんだよ。」

「なにっ、何すんの。」

「こっちの方が広くて寝やすいだろ?」

「はぁ?」

こいつを困らせてやろうと、ちょっとしたイタズラ心でやったはずなのに、
至近距離でこいつに睨まれると、
俺の方がその視線に耐えられねぇ。

この狭い密室で、ベッドに二人並ぶ態勢で、まっすぐ俺を見つめる牧野。
感じたこともねーほど、心臓が鳴る。

「牧野。」

「……。」

「寝たふりすんな。」

そう言う俺に、こいつはコロンと背を向ける。
相変わらず可愛くねぇ態度だけど、相変わらず俺はこいつのそういう所が猛烈に可愛く思えるバカだから。

「おい。聞けよ。」

「……。」

「無視するなら、襲うぞ。」

小さくビクッとしてんじゃねーよ。

「5.4.3.2……」
カウントダウンをしてやると、ようやくこっちに向き直り、

「なによっ」
と、怒鳴るこいつ。

「クックッ…朝から元気だなおまえは。」

「うっさい。あんたが朝から大きな声出させる事するからでしょっ」

そう言って怒る牧野の髪が、乱れて頬にかかっている。
そんなこいつに俺は無意識に手が伸びる。

頬にかかる髪をゆっくりと持ち上げ耳の後ろへ流してやると、さっきまで怒ってたこいつの顔が少しだけ赤くなったように思える。

やっと自覚したか?
男と二人きりでいるって事を。

「牧野。」

「…ん。」

「もう一度言うから、今度は『うん』って言えよ。」

「え?……。」

「俺たち、きちんとやり直してみようぜ。」



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 2019_08_25





「ちょっと!なんで道明寺まで入ってくんのよっ。」

「うるせー、またあの客に怒られるぞ。」

あたしがホテルの部屋にカードキーをかざしたのと同時に、道明寺まで部屋に入ってきたのだ。

そしてズンズンと中まで勝手に入り込んで、ベッドに座りだす。

「ほんと、信じらんない…。」
そう呟くあたしに、

「狭い部屋だな。」
と、言ったあと今度はゴロンとベッドに横になった。

「道明寺っ!」

「なんだよ、うるせーな。」

「なんだよじゃないでしょ!
勝手に寝ない!」

「別に眠る訳じゃねーからいいだろ。
これでも心身共に疲れてんだよ。」

「じゃあ、さっさと帰りなさいよ。」

「はぁー、急激に睡魔が襲ってくるな。」

「バカっ、靴脱がないでよっ!」

ゴロンと横になりながら靴を脱ぎだす道明寺。
この男はあたしをからかっているのか、本気なのか。

その時、あたしの鞄の中から携帯の音が聞こえてきた。

「電話なってるぞ。」

いい逃げ道を見つけた道明寺は、早くでろよと何だか楽しそう。

鞄から携帯を取り出し画面を見ると、そこには『ママ』の文字。

「ヤバイ……。」

「誰だよ。」

「……母親。」

「まずいことでもあんのか?」

大アリだ。当の本人がそれを一番分かっていない。

「道明寺、静かにしててよ。
ぜーったい声出さないでね!」

「分かってるから、早くでろ。」

相変わらずベッドにゴロンと横になったままの道明寺を、あたしは睨みつけながら部屋の入口まで移動すると、
「もしもし」
とママからの電話に出た。



明日は東京に帰る予定。
仙台のマンションも引き払い、完全に明日から10年ぶりに東京人になる。

実家は進夫婦と2世帯住宅なので、そこに厄介になるつもりはない。
新しい職場の病院から近いマンションも契約済だ。

でも、久々に仙台に来て、パパやママ、進たちにもお土産をたくさん買い込んだので、明日はそのまま実家に泊まる予定にしている。

東京に着く時間や、夜ご飯は何が食べたい?なんて取り留めない会話をママとしたあと、電話を切って部屋の中まで戻ると、
そこには相変わらずベッドに横になる道明寺の姿。

でも、さっきと違うのは、
目を閉じ、穏やかな顔で、規則正しく寝息をたてて眠っている。

「ほんと、信じらんない…」

さっきも言ったこの言葉は、今回はこの人に聞こえないように心の中で呟く。

部屋にベッドはこのひとつだけ。
気持ち良さそうに眠るこの男を叩き起こすのは、いくらあたしでも気が引ける。

シャワーを浴びてベッドで寛ぐはずだった仙台最後の夜は、

顔だけササッと洗い、小さなリクライニングソファで眠る夜になりそうだ。



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 2019_08_23






「あんたの顔なんて二度と見たくないっ」

道明寺にそう言い放ち、足早に喫茶コーナーを出てエレベーターへと向かう。

怒り?悲しみ?
いや、どちらでもない。
強いて言えば、『無』の感情だ。

エレベーターが閉まる直前、ガタッと派手な音と共に大きな身体が滑り込んできた。

『無』のあたしとは対象的に明らかに怒ってる顔のこの男。

静かに扉が閉まるのと同時に、
「何階だ?」
と聞いてくる。

「12階」
ぶっきらぼうにそう答えると長い指で12のボタンを押した。

ゆっくり動く箱の中、あたしたちは無言で数字が上がっていくのを見ているだけ。
1分もしないうちに12のボタンが点滅し扉が開くと、そのままあたしはエレベーターを降りる。

それと同時に降りようとするこのバカに、
「ついてくる気?」
と、精一杯の嫌味を言ってやった。

「おまえに話がある。」

「あたしはない。」

「このまま終わりに出来ねーだろ。」

エレベーターの扉を堺にして睨み合うあたしたち。

「分かった。
あんたの言いたいことは何?」

「ババァとどんな取引したんだよ。」

「取引?」

「ああ。」

今の道明寺は本気で怒ってる時の顔をしている。
この人はどれだけ人を信じることが出来ない寂しい男なんだろう。


「道明寺。」

「……。」

「あたし、あんたが言う貧乏だけど、お金で簡単に動くような女じゃないよ。」

「あ?」

「どんな勘違いしてるか知らないけど、あたしはあんたのお母さんにお金で釣られた覚えはない。」

それだけ言って、あたしはくるりと向き直り部屋へと歩き始めた。

「おいっ、」

「……。」

「待てよ。」

あともう少しで部屋に辿り着くというところで、あたしの腕は道明寺に引かれ、廊下の壁に背中を押さえつけられた。

「ババァから金を受け取ってねーのか?」

「なんでお金を受け取る必要があるのよ。」

「けどっ、……あの時、……俺達が別れたあの時、
ババァから金が振り込まれたはずだ。」

お金?
……あぁー。
確かに昔、そんな事があったかもしれない。

「お金って、もしかして、500万?」

「やっぱおまえっ、」

「返したに決まってるでしょ。」

「あ?返した?」

「当たり前でしょ!
うちのママはあんたのお母さんに、頭から塩を浴びさせたくらいの人なの。
そんな人がお金を受け取るはずないでしょ。
しかも、引っ越し代に500万ってどんな金銭感覚してんのよ!」

あたしが東京を離れてすぐにパパの口座に500万が振り込まれていた。
送り主は『道明寺楓』
もちろん受け取る理由もないお金を貰うはずがない。

「今の話、ほんとか?」

「サイテー。」

「おいっ、」

「サイアク。」

「牧野っ」

この頭クルクル男は、中身もクルクルパーだったのだ。
軽蔑するように睨みつけてやると、ようやく自分の過ちを認めるかのように、

「頼むから俺の話、聞けよ。」
と、普段では見れないような困った顔をする。

「もう話は終わったでしょ。じゃあね。」

「おいっ」

「付いて来ないでよバカ」

「てめぇ」

ホテルの廊下でそんなやり取りをしているあたしたちの横で、部屋の扉が開き、
「あのぉ、静かにして貰えます?」
と、不機嫌そうなギャルが顔を出した。

「あっ、すみません!」
あたしは慌てて頭を下げると自分の部屋まで一気にダッシュで駆け出した。

すると、あたしの横になぜかクルクルパーも付いてきた。



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 2019_08_21





仙台の総合病院。
研修医の時から日本を離れるまでずっとお世話になったこの病院に久々に帰ってきた。

先輩や同期の仲間もたくさんいる病院。
『またここに戻っておいで』と有り難い言葉をかけてもらったけれど、あたしはここを離れるつもりで最後の挨拶回りに仙台へ来た。

10年前、パパが新しい仕事に就くため仙台に引っ越したあと、両親の後を追うようにしてあたしもここへ来た。
そして、医大に通いそのまま就職。

けれど、その両親も今は東京へ戻っている。
進が2年前に結婚して2世帯住宅を建てたのだ。

家族もいない仙台にまた戻ろうか迷っていたあたしに、医師の先輩から『うちの病院に来ない?』と声をかけて頂いて、来月からあたしも東京にうつることを決めた。

もしかしたら仙台で暮らす事はもうないかもしれない。
思い出の土地やお世話になった人にゆっくり挨拶をしておきたいと思い、一週間の予定でホテルを予約し帰ってきていた。

初日は病院への挨拶。
2日目からはマンションの大家さんやよく通った喫茶店のマスターに会いに行った。

そして5日目の今日、両親や友達への仙台土産を買うためあちこち出歩いたあと、夕方ヘトヘトになりながらホテルへ入ると、
「牧野さん」
と、突然うしろから名前を呼ばれた。

驚いて振り向くと、そこには道明寺のお母さんである道明寺楓が立っている。

「…こ、こんばんは。あのぉ、どうしてここに」

「仕事で仙台に来ていたの。
昨日もここであなたを見かけたのでもしかしたらと思って聞いたら、ここに泊まっているって言うから待ってたのよ。」

あー、そうか。
今更ながら気付いたが、ここは道明寺財閥の配下にあるホテルグループなのかもしれない。
それならば道明寺財閥の社長の一声であたしの個人情報なんてあっという間に漏洩だろう。

「牧野さん、このあとお時間あるかしら?」

「えっ?あたしですか?」

「良ければ軽く食事でもいかが?」

そう言いながら楓社長はホテルロビーにある喫茶コーナーへ視線を移す。

「…はい。」

圧倒的な眼力に押されてこう呟くしかなかった。





こうして二人で食事をするのは2回目。
1回目はアフリカのあたしの部屋に泊まったときに、翌朝簡単な朝食を二人でとった時。

まだ微熱がある身体は辛そうで、温かいスープをほんの少しだけ飲ませた。
そして、隣国の国境まで30分ほどある道のりをあたしも付いて行った。

医師のカードを首から下げてちらつかせれば、普通よりもスムーズに国境を超えることができる。
あたしはこの人になんの恩もないけれど、この異国の地でこうして会ったのもなにかの縁かもしれない。

医師としてできる事は精一杯やろう。
そう思ってやった事が、今こんなことになってしまうなんて……。


「仙台にはどうして?」

「お世話になった方への挨拶回りです。」

「次の勤務先は決めたのかしら?」

「はい、一応。東京で働きます。」

あたしのその言葉に少し嬉しそうに笑うこの人。
昔はしかめっ面しか見たことがなかったけれど、こんな風にして笑う所を見ると、椿さんの美しさは母親譲りなんだと思わせるには充分なほど綺麗。

「あなたにはきちんとお礼がしたいの。」

「……お礼ですか?」

「ええ。突然の訪問にも関わらず、一つしかないベッドを譲ってくれて、温かいスープも作ってくれて、隣国まで送ってくれた。
本当に感謝してもしきれない。」

「いえ、医師として当たり前のことをしただけです。」

「そうね、そうかもしれないけど、
あの土地であなたの顔を見て、心細かった気持ちが一気に解れていくのを感じたわ。
本当にありがとう。」

そう言って頭を下げられ、あたしもつられるように慌てて頭を下げた。

「お礼をしたいと思っても、どうしたら良いか分からなくて。」

「そんな、お礼なんて」

「洋服なんてどうかしら。
職場も新しくなることだし、改まった場所に着ていけるような」

「いえっ、結構です!」

「じゃあ、鞄は……靴はどう?
好きなものを言って頂戴。あなたが欲しいと思うものなんでもいいの。」

「いえ、本当にいりませんっ」

「そんな事言わないで、私の気が済まないの。
いくらでも構わないから、好きなものを言って」


そんなやり取りに必死だったあたしたちの横に、ゆっくりと大きな影が近付いてきた。
そして、低い声で言った。

「やっぱ、そういう事かよ。
昔も今も変わんねーな。
裏でコソコソ金の取引しやがって。」

「道明寺っ!」

「おまえにとって俺は所詮、金にしか見えてねーのかよ。」

「司っ、あなたっ」

「うるせー、ババァも黙れよっ。
こいつがいくら貧乏だからって、金で釣ってんじゃねーよ!」

「司っ!」


そういう事か。
この人は何か勘違いをしているのだろう。
けれど、していい勘違いと、そうでないものがある。

このバカ男はそれを分かってない。
あたしをどれだけ舐めているのだろうか。


「あたし、帰ります。」

「待てよっ!」

「うっさいバカ!
あんたの顔なんて二度と見たくない!」




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 2019_08_19





牧野が会社に来るのも最後になる今日、
午前中は取引先との顔合わせで外出していた。

昼にはオフィスに戻るはずだったのに、
「昼食を一緒に」と誘われて無下に断れる相手ではなかった。

仕方なく飯に付き合うことになり、西田に
「牧野を待たせておいてくれ」と頼んだが、
1時少し前に急いで戻ったオフィスには牧野の姿はなかった。


「申し訳ありません。副社長がお戻りになるまでお待ち頂くよう伝えたのですが、急ぎの用事があるからと、少し前に帰られました。」

その西田の言葉を聞きながら、デスクの上に置かれた1枚のガーゼを見つめて、
「…マジかよ……これで終わりかよ……」
と、柄にもなく情けねえ声がオフィスに響いた。





その夜、さんざん迷った挙げ句、滋から入手した番号で牧野に電話する。
3コール目で

「もしもし?」
と、警戒するような声。

「牧野、俺だ。」

「…道明寺?」

「おう。」

こいつと電話で話すなんていつぶりだろうか。
耳元で聞こえる、俺だけに話すその声に、
思わず目をつぶりもっと集中したいとバカみたいに思う。

「今日は悪かったな。」

「ううん、仕事でしょ。」

「あともう少し待てばオフィスに戻ったんだぞ。」

「あ、そうなの?ごめん、急いでたから。」

「おう。」

このまま電話を切れば、俺達に会う理由はもうなくなる。
終わりにする理由はたくさん出てくるのに、会う口実だけが思い浮かばない。

「牧野、」

「ん?」

「……俺、」

その先を迷う俺に、

「道明寺っごめん!あたしこれからバスに乗るところなの、だから後でかけ直すっ!」
と、牧野が早口で言う。

「あ?バス?おまえ今どこにいるんだよ。」

「え?仙台っ、今日こっちに戻ってきたの」

「仙台って、……あの東北の仙台だよな?」

「…それ以外に仙台ってある?」
呆れたようにそう答える牧野。

「帰るなんて聞いてねーぞっ。」

「バスに乗るからっ、切るね!」
と、勝手に切りやがるこいつに

「おいっ」
と、またもババァに叱られる程の声で俺は叫んでいた。


マジでありえねぇ。
さっきまで弱気で、電話する事にも躊躇して、会う口実にも悩んでたのに、
そんなのが全部アホらしく思えてくる。

何に怯えてる?
何を戸惑ってる?
またあいつを失うかもしれないから二の足を踏んでいるのか?

そんなこと、いまさらどうだっていい。
あいつとは初めから赤い糸なんて結ばれていないのかもしれない。

けど、

このムズムズとした気持ちは、誤魔化しようがない。
あいつが気になる。
会って顔が見たい。
近くで話したい。
今日も明日も明後日も。


ここまできたら、
逃げるなら追いかけるしかねーだろ。
たとえ泣きを見ることになっても、
思いのまま突き進むしかねぇ。

「西田っ!」

「はい、お呼びでしょうか?」

「週末の仕事、キャンセルしてくれ。」




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 2019_08_17




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