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「俺はいつからおまえのストーカーになった?」

「……いや、」

「俺がおまえを追いかけ回して、おまえは泣く泣く大阪に来たのかよ。」

「……そういう訳じゃ、」


怒ったような、拗ねたようなそんな顔であたしを見つめる副社長に、返す言葉が見つからない。

そんなあたしの代わりに椿さんが、
「つくしちゃん、この際はっきり言ってもいいのよ。
迷惑なら迷惑だって、はっきり言わないと司には伝わらないの。」
と、大きく頷く。

「いや、だから、そのぉ、……誤解というか、」

「誤解?」

「あたしが異動願いを出したのは、……」

どうやって説明すべきか…、悩むあたしの隣で副社長が先に口を開いた。

「おやじさんが具合悪いんだろ?」

「そうなの?つくしちゃんのお父様?」

「……。」

「だから、実家のある大阪に戻りたいって言ったよな?」

「……それは、……えっとぉ、」

「お父様、御病気なの?」

「んー、病気では、……」


咄嗟についた嘘がこんな形で自分を苦しめることになるとは。
あたしの嘘を信じていた副社長と、その嘘を心配して気遣ってくれる椿さんに、心の底から申し訳ない。

「実は……、父の具合が悪いって言うのは、嘘で……、」

「あ?嘘?」

「咄嗟に仕方なく…。
あー、でも、咄嗟でも仕方なくでも、嘘ついたあたしが完全に悪くてっ。
あの時は、副社長に仕事のことで疑われてると思ってたし、このまま側にいたら迷惑がかかるだろうなって。
副社長から逃げたっていうか、自分の気持ちが抑えられなくて、自分から逃げたって言う方が当たってるっていうかっ、」

話し始めると、一気に言葉が押し寄せてきて、自分でも支離滅裂な事を言っているのは分かっているけれど、止まらない。

そんなあたしに、
「牧野、ちょっと落ち着け。」
と、副社長があたしのオデコをコツコツとつついた。

「なんだか、話が複雑なようね。
時間はたっぷりあるわ、まずは整理させて。」

正面に座る椿さんが、なぜかにんまりと笑いながらそう言ったあと、
「つくしちゃん、司に疑われてるってどういうことかしら?」
と、長い長い取り調べが始まった。







2時間たっぷりと椿さんの取り調べを受けたあたしたち。
やっと開放されてお店から出たのは10時近く。

結局、二人とも椿さんから説教を受けた。
勝手にあたしの調査を依頼した副社長も、なんの相談もなしに異動願いを出したあたしも。

夜道を隣に歩く副社長はお店を出てから黙ったまま。
きっと、怒っているのだろう。
嘘をついて異動を決めたこと、その理由を結局あたしは椿さんの前でも言わなかった。


「副社長、」

「あ?」

「…ごめんなさい。」

「反省してんなら、許す。」

意外にすんなりそんな返事を聞けてホッとした直後、副社長があたしの方に体を向けて言った。

「牧野、おまえが俺から逃げた理由つーのは、ほんとはなんだよ。」

「えっ、……」

「おまえ、さっき言ってたよな。
自分の気持ちが抑えられなくて自分から逃げたって。
あれって、どーいう意味だ。」

「……。」


真剣にあたしを見つめる副社長。
自分の気持ちに素直になって言葉にしたい。
そう思う反面、なかなか言葉が出てこない。

そんなあたしを見ていた副社長がフッと小さく笑ったあと、急にあたしの手をとって歩き出した。
そして、しばらく黙ったまま歩いてた副社長が突然止まり、「なぁ」と小さくつぶやいた。

「牧野、おまえが否定しねーなら、あの言葉、俺は自分に都合よく解釈するぞ。」

「え?」

「俺はおまえが好きだ。
おまえも、……俺を好きだって、そういう気持ちを抑えらんねーから、迷惑かける前に俺から逃げたって、……そういうことでいいんだよな?」

「……。」

どう答えていいのか分からない。
そんなあたしに、優しく笑ったあと、

「何も否定しねぇのがおまえの答えだっつーことで。」

そう言って、あたしの手を自分のポケットの中にしまい、

「もう逃げんじゃねーよ。」
と、副社長が長い指を絡ませた。




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 2018_03_31





大阪に赴任して1ヶ月。
その間、副社長と会ったのは2回。
あの殺人的に忙しいスケジュールの中、会いに来るのはそう簡単な事ではないはずだ。

だけど、会いに来てくれるのが素直に嬉しいと言える相手でもない事も痛いほど分かっている。

相手はあの道明寺財閥の御曹司。
あたしとは釣り合うはずもない。
副社長だって、きっと一刻の気の迷いに違いない。





「つくしちゃんはどうして異動願いを出したの?」

「え?」

仕事が一段落した夕方、オフィスに紅茶をお持ちしたあたしに、突然椿さんが言った。

「深い意味はないんだけど、ちょっと気になっちゃってね。」

「両親が…大阪なので。」

「ああ、そうだったわね。
それだけ?」

「……。」

「もしかして、司が重荷になったのかしら。」

「え?」

椿さんの言葉の意図がわからず聞き返すあたしに、なぜだか困ったような顔で言う。

「司はつくしちゃんのことが本気みたい。
でも、恋の駆け引きなんて知らないし、手加減できるような男じゃないのよあのバカは。
だから、つくしちゃんは司から逃げてきたのかしらって心配になって。」

逃げてきた……。
確かに間違ってはいない。
だけど、あたしが逃げたのは自分の気持ちから。

「いえ。違います。
色々、事情があって…距離を置いたほうがいいと思ったから」

「やっぱり。
やっぱり、司のせいなのね。」

「そうじゃなくてっ、」

「はぁーーー。
そろそろあのバカ、来る頃だと思うわよ。」

「へ?」

思わずあたしの声が裏返ったのと同時に、
オフィスのドアが開き、

「牧野、仕事終わりだろ、飯いこーぜ。」

と、二週間ぶりの副社長が現れた。






和室の一室。
テーブルを挟んで向こう側に険しい顔の椿さんが座り、あたしの隣に座る副社長を睨んでいる。

『飯いこーぜ。』
と、突然現れた副社長を引きずるように、椿さんがあたしたちをこの和食処につれてきた。

目の前に並べられた料理には手を付けず、椿さんが「司、箸置いて。」
と、恐い声で言う。

「さっきからなんだよ姉ちゃん。」

「いいから、箸置きなさい。」

「説教なら後で聞くから、」

「司、もう大阪に来ちゃダメ。」

突然の椿さんの言葉に固まるあたしたち。

「大阪にって言うより、つくしちゃんに会いにきちゃもうダメ。」

「あ゛?」

「司、あんた、れっきとしたストーカーよ。
あんたから離れたくて異動してきたつくしちゃんのこと、追いかけ回してどーするのよっ。」

「あ?」
「椿さんっ!」

慌てるあたしの声なんて聞こえていない椿さんは、さらにどんどん進んでいく。

「つくしちゃんから聞いたわよ。
色々、事情があって東京にいることが出来なくなったつくしちゃんは、泣く泣く大阪に逃げてきたって。」

「なんだよそれ。」

「あんた、上司の権限を振り回してつくしちゃんに何もしてないわよね?
上司の命令だ、俺を好きになれ。
上司の命令だ、俺と付き合え。
上司の命令だ、…裸になれ。
なんて、言ってたらただじゃおかないわよっ!」



完全にあらぬ方向へ勘違いが進んでいる椿さん。
そして、その暴走っぷりがあたしの予想を超えていく。

この姉にしてこの弟あり、か。

 

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 2018_03_29





『二人は両想いなの?
それとも司の絶賛片想い中?』

俺と牧野を交互に見ながら楽しそうにそう聞く姉ちゃん。
隣に座る牧野はその言葉に困ったように下を向いた。

「後者だ。」

「あら、ますます面白い展開ね。」

「面白くねーよ。」

「それで?
司の恋が成就する見込みはあるのかしらつくしちゃん。」

「えっ、」

俺が聞きてぇ事を、なんの心の準備もないまま勝手に聞く姉ちゃん。

「それは、……」

「牧野、答えなくていい。」

「へ?」

思わず俺の顔を見上げる牧野が、凶悪に可愛いと思っちまう病的な俺。
そんな俺を見透かすように姉ちゃんが笑いながら、

「フフフ…、まぁ、振るならバッサリ容赦なくやっちゃってねつくしちゃん。
じゃあ、お邪魔虫の私は退散するわ〜。
司、つくしちゃんのこと、あとはよろしくね。」

そう言って、あっという間に俺たちの前から去っていった。

「牧野、帰るぞ。」

「は、はいっ。」







実家暮らしを始めた牧野。
家まで送ると言っても、「近いからタクシーに乗る」となかなか譲らない。

「おまえさ、少しは俺の気にもなれよ。」

「え?」

「おまえに会いに大阪まで来たっつーのに、全然二人きりになれてねぇし。」

「………、今日は寒いですねぇ…」

こいつはこういう直球に弱いらしい。

「俺の話はスルーかよ。」

「べ、別にそういう訳じゃ、」

「じゃあ、今度はきちんと聞けよ。」

「……なんですか?」

「手、繋ごうぜ。」

「へっ!?」

牧野のでけえ声に通りすがりの周りの奴らが振り返る。

「うるせぇな。」

「すみません。…でもっ、副社長が変なこと言うから。」

「変なことじゃねーだろ別に。」

「だって、」

まだ何か言いたそうに俺を見上げたこいつに、堪らず強引に手を繋ぐ俺。

「行くぞ。」

「……。」

こいつには直球の言葉と行動が効くらしい。
俺の手の中にある小せえ手。
ぎゅっと握ってやると、すぐに逃げようとする。

「逃げんな、バカ。」

「痛いですって。」

「おまえが逃げなければ緩めてやる。」

「副社長っ、」

「だから、おまえが逃げるからだろ。」


俺のコートのポケットの中には、指を絡めた俺たちの手。



「あたし、あそこの角からタクシーに乗りますからっ。」

「じゃあ、一生この道グルグルしてよーぜ。」



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 2018_03_28





椿さんに連れて来られたのは、門構えからしていかにも高級そうなお寿司屋さん。

「今日は私がご馳走するから、好きなものいくらでも食べてね〜。」
と、メニューを渡されて、恐る恐る開けたそれにはどこにも値段なんて書いていない。

本当のセレブとはこういうものなのか。
ますます居心地が悪くなったあたしに副社長が言った。

「牧野、遠慮しねーで頼もうぜ。
ここは俺でも滅多に連れてきてもらえねぇ店だからこんな機会ねーぞ。」

「えっ、副社長でも?」

「ああ。姉ちゃんのコネがねーと入れねぇ。」

「へぇー。なんか意外……。」

「なんだよその嬉しそうな顔。」

「いえ、別に。
副社長でも入れないお店があるんですね〜。」

「バカにしてるだろおまえ。」

「してませんけど?」

「完全にしてるな。」

スラスラと流れるように出てくる会話。
こんな会話を毎日していたあたしたちは、これが当たり前の事になっていたけれど、
初めて目にする椿さんとってはかなりの衝撃だったようで、

「司とつくしちゃんって、仲いいのね〜。」
と、まじまじとあたしたちを見つめながら言う。

「えっ、そんなっ、仲いいとかありません!」
思わず必死に否定したあたしの横で、
黙ったままあたしを睨む副社長。

その視線に耐えられなくなり、慌ててさっきのメニューを開き、
「あたし、ウニが大好物なんですっ。
それと、ホタテ!あとは、エビも食べたいなー。」
と、話題を変えるのに必死。



食事は本当にどれも美味しくて、
「おいしぃ〜」「きれい〜」「わぁ〜」の連発。

そんなあたしを見て、
「つくしちゃんには食べさせ甲斐があるわね。」と、椿さんは笑いっぱなし。

「おまえ、そんなに食って大丈夫かよ。」

「だって、残したら勿体無いでしょ。」

「勿体無いとか言う前に、自分の食う量を考えろ。」

「全部食べれますっ。」

「それ以上食ったら死ぬぞ。ったく、好きなもんから食って、あとは持ち帰りにしろ。」

確かに、さすがのあたしでも、これだけ豪華なお料理にお腹がキツイ。
副社長に従ってしぶしぶ箸を置いた時、椿さんが両肘をテーブルにつき、そこに綺麗な顔を乗せながら言った。


「司が私に会いにわざわざホテルまで来るなんておかしいと思ったけど、どうやら目的は私じゃなかったようね。
司もそんな緩んだ顔出来るんだ〜。
いいもの見せてもらっちゃったわ。
ところで、二人は両想いなのかしら?それとも、司の絶賛片想い中?」



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 2018_03_25





牧野が大阪へ異動してから3日目の金曜日。
週末を利用してあいつに会いに行こうと大急ぎで仕事を片付け、夕方に大阪へ入った。

姉ちゃんの秘書になった事は初日に西田経由で知った。
怪我した桂木には悪いが、グッジョブ!
これでかなりあいつに会いに行きやすくなった。


定時を少し回った頃、メープルに到着した俺は、姉ちゃんのオフィスであるQueenルームへまっすぐ向かった。

軽くノックをして部屋を開けると、中央のソファに座る姉ちゃんが、

「司、どーしたのこんな時間に。」
と、目を丸くして言う。

「たまたまこっちで仕事があったからよ。
……姉ちゃん、一人か?」

「一人かって、そうだけど、どうかした?
なになに〜?もしかして、この椿お姉さんに何か相談事でもあるのかしら〜?。」

「ちげーよ。そうじゃねぇけど、」

そんな会話をしていると、
部屋に小さなノック音がして、
俺の愛しの女が現れた。

「っ、……副社長。」

「おう。元気か?」

「はい。」

数日離れていただけなのに、会えただけで胸がなる。

「司、つくしちゃんはほんとに優秀よ。
桂木なんて、朝お願いした仕事も昼には忘れてるなんて事ザラにあったけど、つくしちゃんは一つお願いしたら3つ先のことまで手配してくれてるんだから、さすが西田さんの秘蔵っ子。」

長年姉ちゃんに仕えてる桂木が聞いたら泣いて悲しむだろう。
ベタ褒めされた牧野も困った顔で、

「いえ、そんなこと全然ないです。」
と、顔の前で手をブンブン振っている。

「姉ちゃん、もう仕事終わったのか?」

「ん?そうね。今日は終わりにしようかしら。」

「じゃあ、」

牧野を借りるぞ……そう言おうとした俺に、

「久しぶりに食事でもどう?」
と、姉ちゃんがにんまり笑う。

「いや、俺は、」

「何よ。椿お姉さんの誘いを断るつもり?」

「そうじゃねーけど、」

「じゃあ、決まり。」

相変わらず強引で、相変わらず俺の意見なんて聞かねぇ。

そんな俺と姉ちゃんの会話を呆気にとられて見ていた牧野に

「もちろんつくしちゃんも一緒よ。」
と、姉ちゃんがウインクしてみせた。

「えっ?あたしもですか?
いえ、いいですいいです。お二人水入らずで」

「ダメよ。だってまだつくしちゃんの歓迎会してないじゃない。
ね?行きましょ。」

そう言って支度をするためか奥の部屋へと消えていく姉ちゃん。


残された俺たちは、なんとなく顔を見合わせて牧野が目をそらす。

「おまえも行くぞ。」

「でも、……」

「俺は最初からおまえと食事するために来たんだ。
だから3人で食事するか2人でするかはおまえに選ばせてやる。」




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 2018_03_24





『俺の好きは一択だ!牧野つくし一択だ。』

先日、副社長が怒鳴るように言った言葉。
男女の間で発した言葉であれば、俗に言う『告白』というものでいいのだろうか。

でも、副社長があたしを?
何かの間違いではないだろうか……と、数日だった今でも信じ難いのだが、

あの日、マンションまで送ってくれた副社長が別れ際に、

『俺がおまえに好きだって言っても、
おまえはゴメンナサイの一言で終わらせるかもしんねぇから、今は言わねぇ。
そのかわり、容赦なく態度で示すから覚悟しておけよ。』

と、もしもこれが告白ならば、こんな俺様なものはないと思うほどの台詞を言って、あたしの頭を撫でた副社長。

覚悟しておけよ……そう言われたものの、
あたしは今日から新転地の大阪。

配属先の大阪支社、広報部門総務課。
今までの仕事とは違って事務職がメインのこの課だが、本来あたしにはその方があっている。

今日から心機一転頑張ろう!と気合十分のあたしだったけれど、職場について早々、なぜだか周りが騒がしい。

何かあったのだろうか?
そう思ったとき、
「牧野さん!」
と、秘書部の部長が慌ててあたしを呼んだ。

「はいっ。」

「牧野さん、急遽悪いんだけど配属先が変更になったから、メープルホテル大阪に向かって!」

「えっ?ホテルですか?」

「そう。行けばわかるから!
ある方の秘書に抜擢されたから、頑張って!
ほらっ、急いで急いでっ!」


初日から部長に急き立てられるように向かったホテル。
さすが、メープル。
他とは何もかも格が違う。

あたしが到着すると、待っていた係の方に案内されて向かったのは敷地内一階の奥まった場所にある一室。

そこの扉にはQueenと書かれた札が掛けられていた。
促されるように扉をノックすると、
「どうぞ〜、」
と、若い女性の声。

「失礼します。」
そう言って部屋に入ったあたしを迎えたのは、

「牧野つくしさんね。
ごめんなさいね、急に来てもらうことになって。
専属の秘書の桂木が、昨日家の階段から落ちて腰を痛めてしばらく休むことになったの。
誰か他の秘書の方に来てもらおうと思ってた所に、司の元秘書が大阪に異動になったって聞いたものだから、それはチャンス!と思って。
桂木が復帰するしばらくの間、私の秘書としてお願いできるかしら、つくしちゃん。」

そう言ってきれいに笑うこの女性。
たしか、メディアで何度か見た事がある。
……まさか、道明寺椿さん?
そう、副社長のお姉さんだ。


こんな偶然があるだろうか。
副社長が裏で何か仕組んだのか?

でも、お姉さんを使ってまであたしにちょっかいを出してくるほど暇ではないだろうし、あたしもそこまで自惚れるつもりはない。

せっかく、副社長から離れるために大阪へ来たというのに、またも接点が出来てしまった。

思わず眉間にシワが寄るあたしに、

「つくしちゃん、大丈夫?」
と、心配げに顔を覗き込む椿さんは、容姿からオーラが溢れ出ている。
こういう所が、さすが姉弟なのね……。

とにかくっ!
目の前の与えられた仕事を頑張ろう。
雑念を振り払い、元の仕事人間に戻るのだつくし!

そう自分に言い聞かせて、
「よろしくお願いします。」
と、あたしは椿さんに頭を下げた。



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 2018_03_23





夕方から知り合いの社長との夕食会に顔を出し、社に戻ったのが9時を回っていた。
オフィスでスーツの上着を脱ぎ、時計をはずす。

いつものようにデスクの一番下の引き出しを開けるとそこには時計の箱が2つ。
今はずしたばかりの時計をそれにしまい、もう一つの箱からいつも身に着けている時計を取り出したとき、
さっき感じた違和感がまた押し寄せてきた。

食事会に行く前にここを開けて時計を付け替えたとき、なぜだか感じた違和感。
それは、微妙にいつもと時計の箱の位置が違っている。
強いて言うならば、妙に整いすぎている。

そして、俺はふとあの日のことを思い出した。
パーティーに行く直前、牧野に時計を取りに行かせたことを。


そして、次の瞬間、俺は床に膝をついてデスクの中を覗き込んでいた。
下から2段目の引き出しの底の裏側に貼り付けたファイル。
普通に開ければどこからも見えない場所に、
ファイルは今もそこにあった。

だが、なぜか確信があった。
牧野はこれを見たに違いない。

だが、これを見た事とあいつの涙の訳が繋がらない。
やはり俺の勘違いか?

俺は今脱いだばかりのスーツを着ると、秘書室へと急いだ。



「牧野いるか?」

秘書室に軽くノックをしたあと、返事も聞かず開けた俺に、

「副社長。
牧野さんでしたら、今日は先にあがりました。」
と、西田が言う。

「もう帰ったのか?」

時計を見ると9時半。いつもなら、邸まで俺に付き添うのが牧野の仕事だ。

「引っ越しの準備があるので、私の判断で帰らせました。
何かございましたか?」

引っ越し……。
もう、あと数日で大阪に行くあいつ。
ようやく、大切だと自覚した女なのに、距離を縮められないまま離れることになる。

「西田。今日はおまえもテキトーにあがってくれ。」

俺はそう言い残し、駆け足でエレベーターへ向かった。






牧野のマンションの前に着くと、少しだけ迷ったが、そのまま部屋へと向かった。
こんな時間に……とは思ったが、電話では逃げられそうでそれは避けたい。

部屋のチャイムを鳴らすと、しばらく間があったあと、
「はい?」
と、小さく牧野の声。

「俺だ。」

「副社長?」

「おまえに確認したいことがある。
開けてくれ。」

「……確認ですか?」

「ああ。」

「…少し待ってて下さい。」

そう言った数分後、部屋の扉が開き牧野が俺を見上げた。

仕事時のスーツではなく、リラックスした部屋着のこいつに、視線をどこに合わせていいか分からない。

「どうしました?」
と、俺を見上げるこいつに、

「少し、外に出られるか?」
と、聞くのがバカ見てぇに精一杯だった。



マンションの下で待っていると、さっきの格好にコートを着て出てきた牧野。
俺が無言で歩き出すとその後を付いてくる。
しばらくして小さな公園に入ると、そこのベンチに並んで座った。

「牧野。」

「はい。」

「おまえ、俺のデスクに入ってたファイル、見たか?」

「……。」

ビンゴ。
無言なのが肯定の証拠。

「どう思った?」

「…どう思ったって……」
そう言って俯くこいつ。

「まぁ、勝手に調べたのは俺が悪りぃけどよ、しょうがなかったっつーか、あの頃はまだ俺の思い違いかもしれねぇと思ってたし、」

「ショックでした。」

「……だろーな。
確かにやり方は間違ってたけどよ、情報は先に仕入れておきたいっつーか、そういう性格なんだよ俺は。だから、」

「いつ頃からですか?」

「あ?」

「いつからあたしのこと、」

「それはまぁ、……だいぶ前からかもしれねぇ。」

さすがの俺もこんなことを口にするのは恥ずい。
思わず下を向く俺に、牧野がなぜか声を詰まらせながら言った。

「慣れないながらも一生懸命秘書という仕事を頑張ってきたつもりです。
でも、副社長や西田さんに疑われていた事はショックでした。
もう、調査は終わっていると思いますが、私からきちんと言わせてください。
五十嵐課長とは数回食事に行っただけでそれ以上のことは何もありません。」

必死に話す牧野の言葉の意味が分かんねぇ。

「おまえ、何言ってる?」

「…え?」

「疑うって何のことだよ。」

「……はい?」

「はい?じゃねーよ。こっちが聞きてーよ。
疑うとか、調査とか、おまえはあのファイルをなんだと思ったんだよ。」

「えっ、だから、……あたしが五十嵐課長の共犯だと、」

「………ちげーよっ!バカかおまえはっ!」

公園に響き渡るほどの声で俺は怒鳴っていた。

「んなこと、疑ってねーよ。
もしかして、おまえっ、それで泣いてたのか?」

「……。」

あのファイルと牧野の涙の意味がようやくつながった。

「俺も西田もおまえのことを疑ったことは一度もねー。」

「じゃあ、あれは……。」




おまえの存在が気になって調べさせたあのファイル。
好きな女の情報を少しでも知りたかったから…なんて、言いたくねぇけど、言わないとこいつには伝わらない。


「おまえが気になって西田に調べさせた。」

「気になって?」

「ああ。……好きになったみたい…だからよ。」

人生初の告白。
これであってるか?
照れくさくてまともに顔をあわせらんねぇ俺に、隣のバカ女が言った。

「好きって…何をですか?
まさかっ、…五十嵐」

「あ゛?てめぇ、バカかっ!
どこまで鈍感なんだよっ。
俺の好きは一択だ!牧野つくし一択だ、バカっ!」



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 2018_03_20





マンションの前で副社長に抱きしめられたあの日、
あたしは決意した。

副社長から離れよう。


あたしは秘書として侵してはいけない域に入ってしまったようだ。
あんなに嫌いだった道明寺司が、今では抱きしめられた感覚が忘れられない程の存在になってしまった。

その気持ちを自覚した以上、もう側にはいられない。
変な噂が立ち副社長に迷惑がかかるような事があれば、会社の信用に関わる問題だ。

だから、あたしは異動願いを出した。
副社長がいる東京支社でなければどこでもいい。
いや、むしろ遠ければ遠いほど、忘れられる。

そうして、年度末が迫った3月。
あたしの異動先が決まった。
それは、大阪支社。

パパとママがいる大阪。
久しぶりに実家暮らしでもしようか。






「牧野、ちょっとこい。」

昼の休憩が開けてすぐ、副社長が秘書室に突然やってきて、厳しい顔でそう言った。

「はい。」

副社長の耳に異動の事が入ったのだろう。
そろそろだとは思っていた。

副社長のオフィスへ入ると、デスクに座ったまま怖い顔であたしを見つめる。

「異動願いを出したっつーのはほんとか?」

「はい。」

「聞いてねーぞっ!」

オフィスに響く副社長の声。

「申し訳ありません。」

「今すぐ撤回させる。」

「えっ?」

あたしの驚きなんて構わずデスクの上の受話器を持ち上げる副社長に、

「やめてくださいっ!」
と、思わずあたしは叫んでいた。

「もう、決まったんです。
家族のいる大阪に戻るんです。」

「家族?」

「はい。
……実は
父の具合が良くなくて、母一人では負担が大きすぎて……。
だから、大阪に行けることになって安心したっていうか、ホッとしてるんです。」

思わず口から出た嘘。
でも、こうでもしないとせっかく覚悟を決めて異動願いを出したのに水の泡になってしまう。

「……なんでだよ……。」

「……。」

「なんで、相談しねーんだよ。」

そう言って副社長は、座っている椅子をクルッと回転させあたしから目をそらした。

「すみません。
ですが、西田さんには報告していました。」

「それが、ますます気に入らねぇー。」

「……。」

「俺には一言もねーのかよ。
……ったく、…そんな程度かよ俺は。」




副社長の隣にいれるのはあと残すところ数日。
きちんと心の整理をしてここを立ち去ろう……。



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 2018_03_20




副社長が日本に戻りもうすぐ一年。
今まで一人でこなしてきた秘書という仕事に、牧野さんが加わりようやく仕事にも慣れてきた。

そんなある日、
「西田さん。
あの、……少しお時間頂けませんか?」
と、牧野さんが言った。

もしかしたら、このとき私はすでにこうなる事を覚悟したのかもしれない。
だから、出来るだけ暗くならないよう話し合いの場も大衆居酒屋を選んだ。


店のカウンターに座る私達。
ビールとはじめの一皿が運ばれたのをきっかけに牧野さんが言った。

「実は、……人事部に異動願いを出しました。」

「っ!」

「すみません。事後報告になってしまい…。」

「……そうですか。」

牧野さんに聞こえないよう大きく息を吐く私の隣で俯いたままの牧野さん。
しばらくそうしていたが、そんな私達のところに店員さんが料理を運びに来て少しだけ空気が変わった。

「牧野さん。」

「はい。」

「理由を聞かせてもらってもいいですか?」

「……。」

「無理ならいいですよ。」

「いえっ、
事務的なこともそうですし、英会話も秘書としての振る舞いも勉強不足で…このままでは迷惑になると思い。」

「でも、それは働きながらマスターしていけばいいことですし、」

そこまで言ったわたしの言葉を遮るように、牧野さんが言う。

「もともと誰かのお世話をするなんて苦手だし、出来れば自分のことに集中したいっタイプなんですあたし!
それにっ、負けず嫌いですぐにカッとなる性格だから、副社長とは合わないっていうか、火に油を注ぐ犬猿の仲で。
そんなあたしがこのまま秘書を続けるのは無謀っだし、西田さんにも迷惑がかかると思って!」

「牧野さん。」

「はいっ!」

「…フフ…落ち着いてください。」

必死に話す彼女に私はそう言ってビールのグラスを持った。

「呑みましょう。」

「……はい。」

「今日は美味しいお酒にしましょう。」

「はい。」

誰よりも仕事に熱心な牧野さんを私は知っている。
だから、途中で投げ出すことを彼女自身どれだけ辛い選択なのかも表情を見れば伝わってくる。




一時間ほどして店から出た私達。
大きな通りまで歩き、
「あたし、ここからこっちなので。」
そう言って地下を指す牧野さん。

「そうですか。
気を付けて。」

「西田さん、今日はありがとうございました。」

丁寧すぎるほどのお辞儀をしたあと、階段を下りていく彼女。
そんな牧野さんを見ていると、なぜだか寂しさがこみ上げてくる。


そして、咄嗟に私は叫んでいた。

「牧野さんっ!」

「…はいっ」

階段を下り切っていた彼女は私の声に驚き振り向いた。
そして、私は牧野さんに近付くと、自分でも予想しないことを言っていた。


「あなたは、秘書にむいていなくなんてありません!
私があなたを選んだのに間違いはありません。
ただ、……一つ想定外なことが、」

「……想定外…ですか?」

「はい。
あなたではなく、副社長に。」

「……。」

「だから、自分を責めないで下さい。
あなたは、そのままで大丈夫ですから。」


牧野さんの目が潤んでいく。
多くを語らなくても、私達には分かり合えた。
そんな気がする瞬間だった。


泣かないでください牧野さん。
悲しいのはあなただけではありません。

同士と呼ぶには若すぎるあなただが、心から信頼し仕事を任せてきた仲間。
そんなあなたを失うことは私にとっても辛いのです。


あなたが異動すると知ったら副社長はどうなるでしょう。

暴れ狂うか?
そうなったら、

秘書としてではなく一人の女性として責任取って頂けますか?



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 2018_03_19





「牧野?……おい、牧野?」

「……はいっ。」

「どうした?さっきからぼぉーっとして。」

「…いえ。」


パーティーは無事に終わった。
普段通り秘書として振る舞えたと思う。

でも、帰りの車の中、思い出したくもないさっきの光景がよみがえってきた。
オフィスで見たあのファイル。

あれが物語っていることは、ただ一つ。
副社長はあたしを疑って調査をしていた。

秘書として信頼されていない…そう感じたのはつい最近だったが、まさか敵だと思われていたなんて。

手が震えた。
目の前が真っ暗になった。
そして、心が凍った。

やましいことは一つもない。
五十嵐課長との仲も疑われるようなことは何もない。
だから堂々としていればいいだけなのに……。

「具合悪いのか?」

「いいえ。」

邸までの数十分。
副社長の隣にいることが辛い。

「少し、目閉じてろ。」

副社長があたしにそういった後

「林、牧野のマンションに行ってくれ。」
と、運転手に告げた。

「副社長?」
戸惑うあたしに、

「今日はこのまま帰れ。」
と、優しく言う副社長。

仕事中は我慢できたのに、一度緊張が溶けてしまうと、思考が逆戻りしてバカみたく涙腺が緩む。
もういい歳した社会人なのに、仕事のことで泣くなんてありえない。

そう思って必死に我慢すればするほど、悲しくなるバカなあたし。
そんなあたしに気付いているのか、

「ったく、分かったから目閉じてろ。」
と、優しく副社長が笑った。




あたしのマンションの前に着くと、
「ありがとうございました。」
と、副社長と林さんに告げて車を降りた。

足早に部屋へ向う。
熱いお風呂に入って、早めに寝よう。
そして、明日から気持ちを入れ替えてもう一度頑張ろう。

そう思いながら、部屋の鍵を差し入れたとき、
「牧野。」
と、後ろから声がした。

「…副社長?」

そこには帰ったはずの副社長の姿。

「どうして?」

「……。」

あたしの問いかけには答えず、無言で正面に立つ副社長は、まっすぐあたしを見つめて言った。

「なんで泣くんだよ。」

「え?」

「ずっと泣きそうな顔してる、おまえ。」

そう言う副社長もなぜだか悲しそうに見える。

「別になんでもありません。」

「俺には言えないことか?」

「……。」

「牧野。」

「いえません。」

そう言ったあたしの目から堪えていた涙が流れてしまう。
見せたくない、見られたくない。

そう思って咄嗟に下を向いたあたしの視界が突然大きく揺れた。
そして、それが副社長に抱きしめられたからだと気付いたとき、

あたしの頭上から
「言いたくねぇのはおまえの勝手だけどよ、」
と、小さく呟くような声がして、

そのあと、あたしの髪に副社長の吐息がかかるように、
「心配になるのも俺の勝手だ。
だから、少しだけこのままでいさせろ。」
と、心臓が震えるほど甘い声で副社長が言った。




副社長の腕に包まれながら、あたしはようやくこの悲しさの意味が分かったのだ。
秘書として信頼されていなかったから…、
五十嵐課長の共謀だと疑われたから…、

ずっとそうだとおもっていたけれど、
そうじゃない。


あたしはこの人に信じて欲しかったんだ。
秘書としてではなく……牧野つくしとして。




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