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牧野から渡されたお礼のカフスピンを受け取ってついこの間まで有頂天になっていた俺は、
今最高に機嫌がわりぃ。

なぜなら、
オフィスに入り、西田から書類を渡された。
それは、先日、俺が西田に頼んで調べさせていた『牧野に関する調査書』

そのラスト1ページのプライベートに関する項目に、気に食わねぇ奴の名前があった。

五十嵐 雅人
マーケティング課の課長だ。

まだ30代に入ったばかりなのに昨年課長に抜擢され将来を有望視されている男。企画やプレゼン能力にかなり長けていて、一般社員ながら俺でもその名前を知っている。

だが、その反面、奴には気になる事がある。
それは総二郎からのタレコミで知ったのだが、
今道明寺が進めている土地の売買案件について、入札ライバルである業者の担当者と何度も一緒にいるところを見かけたらしい。

不正入札や談合といった疑いをかけられてもおかしくない軽率な行動。
もしそれが本当ならば処分もあり得る。

もうすでに監視はつけてあり、調査させている所だが、その男と牧野がここ最近立て続けに2回も食事に行っている。

1度目は他にも数名いたらしいが、2度目はふたりきりで。
五十嵐が牧野を気に入っているのか、それとももう付き合ってる仲なのか…。

朝から腹立つ資料を見せられて機嫌がわりぃ俺。
それをなんとか落ち着かせようと思ってるのに、こういう時に限ってこいつの嗅覚は鋭い。

「司、元気?」

「類っ、どーしたんだよ。」

「昼まで暇だから遊びに来た。」

「……てめぇ、殺すぞ。」


俺の睨みなんて一向に無視してソファに沈み込む類の野郎。
こいつはいつもボケーとしてるように見えて、案外重要な情報を一番に嗅ぎ付けてくる。

俺のオフィスにフラッと立ち寄るタイミングがあまりにも良すぎて、

「何しに来たんだよ。」
と、不機嫌丸出しで聞いてやる。

「司、機嫌悪いね。」

「うるせぇ。
類みてぇーに、朝から暇じゃねーんだよ。」

いつも暇そうにしてやがるこの花沢物産の副社長に嫌味を言っても、

「たまたま今日は午前中が空いただけ。」
と、耳までかかる栗色の髪を弄びながら言いやがる。

そんな類に俺は今日のスケジュールを確認しながら
「俺はこれから会議だ。
おまえと遊んでる時間はねえ。」
と言ってやると、

「オッケー、大丈夫。」
と、ニッコリ笑いながら、
「俺は牧野と少しおしゃべりしたら帰るから。」
と、どこぞの主婦の会話かよっ、とツッコミを入れたくなるような返事が帰ってきた。

「あ?」

「だから、司は忙しいんでしょ?
俺は牧野に会いに来たから大丈夫。
司は仕事しておいでよ。」

「……てめぇ、マジで殺すぞ。」

「司、青筋すごいことになってるよ。」

そんな噛み合わねぇ会話をしている俺たちに追い打ちをかけるように、

コンコン、とドアがノックされ、

「失礼します。」
と牧野の声が聞こえた。



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 2017_12_25




今日は3日ぶりの仕事だ。
いつものように邸へ副社長をお迎えに行くと、相変わらず完璧でスマートな出で立ちに、鞄に忍ばせた小さな小箱が滑稽に思えてくる。

いつ渡そうか。
会社で渡すのも気が引けるから、邸にいるときに…。
そう思って来たけれど、実際はお見送りのタマさんや使用人の方もいて、変な誤解をされても困る。

小箱を取り出す事がないまま目の前に副社長が現れ、
「おはようございます。」
といつものように頭を下げた。

「おう。」
短い返事のあとそのまま車へと乗り込む副社長。

あたしもタマさんに小さく『行ってきます。』と挨拶し副社長の後を追う。


車の中ではいつも通り今日のスケジュール確認をした後、各社の新聞を手渡し副社長はそれに目を通す。

今日も新聞の束から1紙に目を通していた副社長が、目線はそのままであたしに言った。

「もう落ち着いたのか?」

「はい?」

「引っ越し。」

「あー、はい。おかげさまで。
色々お世話になり感謝してます。」

副社長からこの話題に触れらるとは思っていなかったから、あまりに事務的な返答になってしまい、
あぁ、間違ったなぁー、と思った矢先、

「プッ…おまえ、全然感謝してねーだろ。」
と、横目で睨まれる始末。

「し、してます、してます!
ほんとに、感謝してます。」

「嘘くせぇな。思いっきり社交辞令ってバレバレだ。」

「ち、違いますよっ!
ほんとに、
副社長には何から何までお世話になってしまって。
本当にありがとうございました。」

あたしは頭を下げながら、今度は事務的でも社交辞令でもなく素直に伝えた。
それに対して副社長は
「分かればいい。」
と、相変わらず憎まれ口をたたきながら大きく頷き新聞へ視線を戻した。


優しくない男。
優しさが一番似合わない男。

それなのに、ふとした仕草や言葉があたしを包んだり逃したりする。

そんな副社長の横顔をチラッと見たあと、あたしは鞄からあの小箱を取り出した。
そして、
「副社長、これ、今回のことでお世話になったお礼です。」
そう言ってゆっくりと差し出した。

「……俺に?」

「はい。」

「お前から?」

「はい。」

「……。」

無言であたしの手から箱を奪い取った副社長は、お店の人が頼んでもいないのにプレゼント仕様にしてくれた赤いリボンを乱暴にほどき、中を見た。

そして、もう一度、
「俺に?」
と、当たり前のことを聞き返す。

「はい。」




突然のプレゼントなんて、受け取らないかもしれない。鼻で笑われて終わりかもしれない。
そんな予想をしていたのに、
実際の副社長は、



「マジかよ、……すげぇ嬉しい。
マジでくれるんだよな?俺にだよな?」



そう言って、あり得ないぐらい喜んで、
わざとなのか、ってぐらいはしゃいでて、
勿体無いって思えるほど、
綺麗に笑った。



「そんなに、このカフスピン欲しかったんですか?」

「…あぁー、すげぇ、欲しかった。」




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 2017_12_20




新居であるマンションの部屋で、小さなソファに腰を下ろし振り返る。
はぁーーー、怒涛の3日間だったなぁ。


3日前、副社長のご厚意に甘えスイートルームで一晩過ごしたあたしは、会社につくなり西田さんに数枚の資料を渡された。
そこには、マンションの物件がずらり。

「あのぉー、…これは?」

「新しく入居するマンションの候補です。
どれも今日の夜から入れるよう手配してあるので、牧野さんのお好きなものを選んでください。」

そう言う西田さんの言葉がうまく飲み込めないあたしに気付いたのか、少しだけ口元を緩め、

「副社長からお達しがありましたので。
今のマンションではセキュリティに問題がある為、会社のことも考え引っ越しをしていただく事になりました。」

と、突然の引っ越し宣告。

「えっ、えーと、今日ですか?」

「今日です。」

「に、荷物の整理も、」

「業者に手配させますので、牧野さんは今日から3日間有給を使ってください。」

「は?……はい。」

空き巣騒動で3日間お休みしていてようやく職場復帰したというのに、早くも1日目で3日間の有給休暇を取ることになったあたし。

その日の内に引っ越し業者があたしの荷物を手早く新居へと移動し、次の日は契約手続きや住所変更などに追われ、3日目にようやく少しだけ新居に必要な物の買い出しに出ることが出来た。


ソファに深く座り天井を見あげる。
前のマンションより少しだけ広い新居。
家賃は同じだからお得だし、会社からも近い。

2日目の夜、引っ越しが無事に済んだことの報告に西田さんに電話をした際、
「こんないい物件、探して頂いてありがとうございます。」
と、お礼を言ったら、

「副社長のお陰です。」
と、返事が帰ってきた。

「副社長…ですか?」

「そのマンションの経営者が副社長のお知り合いでして、築年数もかなり経ちますので安く借りれる事ができました。」
と、予想外な応えが帰ってきた。

今回のことで副社長にはかなりお世話になった。
普段は横暴で陰険で嫌味な男なのに、
時折優しい所が顔を出す。

「優しさが一番似合わない男なんだよねぇ。」

思わず悪態が口から漏れたけれど、
今回は認めざる負えない。
副社長にきちんとお礼を伝えなきゃ。


そして、3日目の今日、新居の買い物帰りに、普段は足を踏み入れることのないブランド店へ寄り、迷いに迷った末、小さな感謝の印を買ってきた。

テーブルの上に置いてある小箱。
手のひらにおさまるその箱には、あたしの1ヶ月のお給料の3分の一もする贈り物。

男の人にプレゼントを買うなんて初めてで何を買えばいいのか分からなかった。
まして、なんでも手に入るあの男。
こんなもので喜ぶなんて決して思っていないけど、普段からシャツの腕元にカフスピンを付けているのを知っていたから、これぐらいしか思い浮かばなかった。

副社長のことだから、鼻で笑うかもしれない。
それでもいい。
お礼はしたからねっ!そう言って貸しはチャラにしたい。

そう思えば、この出費は安いものよっ。
そう自分に言い聞かせ、ベッドに潜り込んだ。




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 2017_12_19




最近の副社長は少し……おかしい。
面と向かってそう言うと、殺されかねないので胸の内にしまってあったが、

昨夜、牧野さんから電話があり、メープルのスイートルームにいると聞いて『やっぱりな……』と複雑な気持ちになった。

坊っちゃんの秘書になって5年。
副社長と呼ぶようになってもうすぐ1年。
常に、司様の変化には誰よりも敏感に気を配ってきた。

だから分かる。
司様の牧野さんに対するかすかな感情の揺れを。

牧野さんを第二秘書として自分の補佐役に置いたのは彼女が誰よりも適任だと思ったからだ。

仕事上、パーティーなどで女性同伴で出席しなければならない集まりに対して、司様は物凄く嫌な顔をする。
「近寄りたくもねぇ女と行くぐらいなら、欠席する。」
と、いつものわがままが顔を出し、度々手を焼いていたのだ。

だから第二秘書を選ぶ際、仕事上のいざこざを引き受けて貰えるよう絶対に女性にしようと思っていた。
そして、人選で最も配慮した部分は、
司様に好意を持たない女性を選ぶこと。

女性に付きまとわれるのを過剰に嫌がる司様。
秘書であれ少しでも好意がある素振りを見せれば嫌悪感を隠さないであろう。

その点、牧野さんは適任だ。
秘書課に配属された事も予想外だった上、司様の秘書に選ばれたと伝えたときの彼女の反応と言ったら、

今思い返しても笑ってしまう。

相当嫌そうな顔で頭を抱える彼女を見て、ここまで司様を毛嫌いする女性も珍しいと思ったものだ。

だから、彼女の事は心配していなかった。
サバサバとした性格で司様ともうまく接してこれていた。

だが、ここにきて想定外の反応を見せたのは、牧野さんではなく、まさかの司様だったのだ。

時折見せる牧野さんに対する柔らかい表情。
彼女が近付くことに警戒心を表さない態度。

そして、昨夜ご自分のプライベートルームに牧野さんを泊まらせたと知り、私の予想は決定的となった。

司様は、
牧野さんが好きなのだ。

まともに恋愛などしてきていない司様にとって、好きな女性ができるのはいい事なのだが、

相手が良くない。

自分の部下であり、秘書という仕事上のパートナーだ。
その女性に手を付けたと分かれば良からぬ噂が飛び交う。

司様のお立場も守りたいわたしだが、それ以上に牧野さんの事を守りたい。
まじめで真っ直ぐな彼女が、傷付かないように……。

秘書室のデスクに座る牧野さんをチラッと見つめながら、こめかみを強く押した。



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 2017_12_18




朝から調子が狂う。

意識しないようにしようと思っているのに、こいつから俺と同じ香水の香りがして一瞬戸惑った。
そして、俺だけが使えるアメニティをこいつも使ったのかと思うと自然と顔が火照ってくる。

昨夜は早々にホテルから引き上げてきた。
牧野と一緒にいる時間が俺にとって特別だと自覚するには十分な時間だった。  
それと同時に、俺の脳内で警告アラームが鳴る。

こいつは俺の部下だ。
一時の気の迷いで近付く相手としては相応しくない。





オフィスに着くといつものように西田が顔を出す。

「西田、」

「はい。」

「牧野の事だけどよ、」

西田の顔が少しだけ動揺したように見えたが、そのまま続ける。

「今日中に新しい部屋探してやってくれ。
広さや立地はおまえに任せるけどセキュリティに関してだけは厳重なところを頼む。」

「分かりました。」

「それと、……あいつに知られねぇように頼みがある。」

「はい、何でしょう。」

「……牧野に関して、報告書をあげてほしい。」

感情をなるべく滲ませないようにそう言った俺に、眉間にシワを寄せて西田が見つめる。

「理由を伺ってもよろしいでしょうか。」

「まぁ、あれだ。
専属秘書なのにあいつのこと何も知らねぇーし、側近の奴の身辺ぐらい調べておいた方がいいだろう。」

脳内の警告アラームが鳴り響いているのはわかってる。
これ以上深入りしねぇ方がいいのも分かってる。
それなのに、先へ進もうとする自分を止められない。

「早急に取り掛かります。」

と、相変わらず顔色変えずに応える西田に、
「頼む。」
と一言告げ、深く息を吐いた。



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 2017_12_15





時計の針が10時を回った頃、あたしはこの広すぎるスイートルームで大きなため息をついた。

「はぁーー、疲れた。」

思わず出た言葉は小さな声だったけど、感情はぎっしりと詰まってる。

だって、今の今まで、副社長と二人きりだったのだ。疲れない訳がない。

今までだって何度も仕事で二人きりになる事はあったけど、プライベートでこんなに長く接するのは初めてで、正直かなり緊張した。

ガチガチに固まった肩をグリグリと回しながら、家から持ってきた部屋着に着替え、大きなソファに身を沈めるとやっと全身から力が抜ける。

『明日は下に車を用意させておくからいつも通り邸に迎えに来い。』
そう言い残して帰っていった副社長。

帰り際、頭を下げるあたしに、
『類は呼ぶんじゃねーぞ。』
と怒ったように言ったあと、
『じゃあな。』と、笑った。


「今日は……たくさん笑ったよねあの人。」
そう思わずあたしは独り言を呟く。

この部屋に入ってから一時間半ほどの間、副社長は時々……笑っていた。
『バカじゃねーの。』とか、
『部下のくせに、』とか、
口は悪いけど、顔は笑っていて、
その綺麗さにドキドキさせられて心臓が痛かった。

副社長って、あんな風に笑うんだ。
あの笑った顔だけ見たら女の人は落ちちゃうだろうな。

そんなことを考えていると、急激に睡魔に襲われる。
人生、最初で最後のスイートルーム。もっと堪能したかったなぁーなんて思いながらあたしはその夜ソファで眠った。








翌日、いつも通り邸に副社長を迎えに行き車に乗り込むと、一瞬副社長があたしを見て、そのあと明らかに視線をそらし窓の外を眺めている。

「なんですか?」

「あ?」

「何か言いたそうでしたけど、」

「別に。」

昨日はソファで寝ちゃったけど、朝は早起きしたし、シャワーも浴びてきたし、髪だってきれいに整えてきた。
それなのに、あたしをちらっと見て明らかに怪訝な顔をしたこの人。

朝から喧嘩売ってんのか?
そう思いながら、
「今日のスケジュールです。」
と、タブレットを乱暴に副社長に手渡すと、

「なんだよ、機嫌わりぃーのかよ。」
と、やっとあたしの方を見てそう言う。

「いえ、別に。」

「機嫌わりぃーじゃん。」

「いつも通りですっ。」

「プッ、おまえ機嫌わりぃーと鼻の穴広がるからすぐわかるんだよ。」

「はぁ?」

思わず右手で鼻を隠しながら叫ぶあたしに、
「朝から、からかい甲斐がある奴だなおまえは。」
と昨夜何度も見たあの笑顔。

それにまたドキッと胸がなった自分に腹が立ち、

「副社長が失礼な事するからです。」
と、上司に八つ当たりする馬鹿なあたし。

「あ?なんだよ、失礼なことって。」

「さっき、明らかにあたしのこと見て笑いましたよね。」

「笑ってねーよ。」

「そうですか。……ならいいですけど。」

そう言って、おとなしく引き下がったあたしに、

「おまえ、朝シャワー入ってきたのか?」
と、副社長が聞いてきた。

「入ってきましたけど、やっぱりなんかついてます?髪も洗ってきたし、きちんと整えて来たつもりなんですけど。」

シャワーに入ってきたかと聞かれれば焦る。
そんなにあたしの何かがおかしいのか。
慌てて鞄から鏡を取り出そうとしたとき、副社長がボソっと言った。

「いや……。俺と同じ香水の匂いがするからよ。」

「……え?」

副社長はまた窓の外に視線をうつしたままこっちを見ない。

「香水…、あたしつけてませんけど。」

副社長の横顔に向けて小さく反論すると、

「シャンプー、特注で作らせてる。
おまえ髪長いから、すげぇーいい匂いする。」

と、なぜだか怒ったように副社長が言った。





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 2017_12_14





「準備してこい。」

副社長にそう言われ、焦る頭の中、大急ぎで3日分ほどの荷物を鞄に詰めた。

部屋を出るとマンションの前には黒塗りの車が待機してあり、副社長に押されるように乗り込む。

会社の近くのホテル……、
どこがいいだろう。

そんなことを考えているあたしを横目に車はどんどん加速しもうすぐ社の近く。

「副社長、この辺で…」

隣に座る副社長にそう告げると、

「おまえ、飯は?」
と、的はずれな言葉。

「食べました。」

「何食った?」

「うどんですけど。」

「…なら、果物ぐらい食えるか……。」

難しい顔をしてそう呟く副社長。
この人は、時々こういう顔をする。
仕事でうまくいかなかった時、先行きが読めないとき、こういう顔をして書類をじっと見つめているのを何度も見ている。

何かあったのだろうか。
あたしがしばらく職場を離れている間に難しい案件でも…?

そう考えていたとき、車体が大きく傾いた。
地下に入った?
体がそう感じたのと同時に社内が暗くなる。

そして、すぐに
「到着しました。」
と、運転手さんの声。

「降りるぞ。」

「…えっ?」

どこに?
そんなあたしの言葉を打ち消すかのように運転手さんによって車の扉が開けられた。

促されるまま降りるしかないあたし。
でも、降りたところで暗くてここがどこなのか分からない。

そんなあたしの背中を押すようにしてエレベーターに乗せた副社長は慣れた手つきで最上階のボタンを押した。

「副社長、あのぉーここはどこでしょう?」

完全に借りてきた猫状態のあたしに、

「プッ…」
と、小さく笑ったあと、

「メープル。」
と一言副社長が答えた。

「メープル、……えーと、メープル。」

「メープルホテルだ。」

「メープルホテルですよね。
……えっ!メープルホテルって、えっ!」

思いもよらない回答にあたしはパニックになった。

「どうして、メープルに?
えっ、仕事ですか?いや、会食?
違いますよね、どうして…あのぉー、」

そんなジタバタしているあたしなんてお構いなしに最上階に着いた副社長はスタスタと行ってしまう。

早く来い、とでもいいたげに手をヒラヒラさせてあたしを呼び、カードキーで今開いたばかりの部屋に強引に押し込んだ。







※※※※※※※※※※※※※※

「準備してこい。」
そう牧野に言ってマンションの部屋の前で待っている間、俺は考えた。

俺がこいつに抱いている感情は何なのか。
甘く痺れるような感覚がこいつといると度々訪れる。その正体は……。

それを知る絶好の機会かもしれねぇ。




メープルの部屋に押し込んだ牧野は、その場で呆然と立ち尽くしていた。

「入れよ。」

「えっ、でも、ここは……。」

「しばらくおまえはこの部屋で暮らせ。
犯人が捕まるまであの部屋に戻るのは禁止だ。」
そう俺が言うと、

「…ありえないっつーの。」
と小さく呟く可愛くねぇ女。

「副社長、困ります。
あたしのお給料じゃこんな高価なお部屋代払えませんし、そもそもこんな広い部屋勿体無い。」

「ここは俺のプライベートルームだ。金の心配なんてするな。」

喜ぶかと思って言ってやったそんな言葉も、こいつにかかれば、
「なおさら怖いんですけど。
この見返りに残業代をただにさせられるとか?」
と、相変わらず扉の前でぐちゃぐちゃうるせぇ。

「とにかく、黙って今日はここでおとなしくしてろ。
明日のことはまた明日考える。
食事も用意させたから好きなだけ食え。」

今までうるさかったこいつも、ワゴンにズラリと並べられたルームサービスに引き寄せられたのか、やっと部屋の中まで入ってきた。

「あたし、ルームサービスって初めてなんですけどっ。
その前に、部屋の中探検してきてもいいですか?こんな高価な部屋、たぶん一生入ることないと思うから。」

「好きにしろ。」
はしゃぐ牧野を見ながら思わず顔が緩む。

たっぷり15分はかけて全部屋眺めた牧野は、
「副社長、やっぱりあたし他のホテルを取ります。」
と、マジな顔で言いやがる。


「ここにいろ。」

「いえ、ここは副社長のプライベートルームですし、いくら緊急事態とはいえあたしがここに泊まるのは…。」

「上司の俺がそうしろって言ってるのにか?」

この言葉は専属秘書にとっては痛いだろう。

「……。
一応、あたしの直属の上司は西田さんなので、西田さんに確認してもいいですか?」

そうきたか。
俺の返事も聞かず携帯を取り出し西田にコールする。

すぐに電話に出た西田に、事の経緯を説明する牧野は、「分かりました。」と、見えてもいねーのに頭を下げながら電話を切った。

「西田は?」

「副社長の指示に従うようにと。」

その言葉に内心ガッツポーズの俺。
西田のヤロー、いいとこあんじゃん。

泊まる泊まらないの話し合いはこれで決着だ。
牧野も納得したのか、「一日だけお世話になります。」と律儀に頭を下げ、その後は用意されたルームサービスをまじで嬉しそうに食ってやがる。

そんな光景に心が満たされるってどういうことだよ俺。
強情で可愛げもなくて突っかかってきてばかりいるこいつが、仕事中には見せない緩んだ表情で、

「副社長も食べます?」
と、メロンを差し出す。
そんなことにいちいち反応するな俺。

そして、この日の極めつけはこの言葉。
「副社長はここに泊まって行くんですか?」

「……あ?」

いいのかよ?と聞こうとした俺に、

「他にもプライベートルームありましたよね?」
と、呑気な顔で言いやがる。

おまえは曲がりなりにも女で、俺はれっきとした男だ。
ホテルの一室にいる男女なら危機感っつーのを持ってもいいだろうに、このバカ女は……。
このまま俺がこの部屋で泊まるって言ったらこいつはどんな反応するのか、
それを確かめたくなったのは、もう少しこいつと一緒にいたいと思ったからだろう。


「俺もここに泊まるって言ったらどーする?」

「…それは、副社長のお部屋ですし、ベッドルームもたくさんあるので私はいいですけど……、」

「けど?」

その先も何か言いたそうなこいつに聞き返すと、

「一応、結婚前の男女なので、」

「なので?」

「何もなかったという証人になってもらう為に、」

なんか嫌な予感がすると思った俺に、

「花沢類でも呼びます?」
と、予感的中の鈍感バカ女。

「てめぇ、殺すぞ。」

「えっー、」

「類も男だろーが。」

「花沢類とは温泉に行ったり、京都にお花見に行ったり何度かお泊りしてるので大丈夫ですっ。」

と、自信満々に答えるこいつに頭が痛てぇ。




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 2017_12_13





「邸に行くぞ。」
本気でそう言った俺に、

「…はい?」
と、気の抜けたような返事の牧野。

「犯人も捕まってねーのに呑気にこの部屋で暮らす気かよおまえは。」

「…まぁ、犯人はつかまってませんけど鍵も付け替えたし、警察の方も夜は巡回してくれるそうなので、」

「こんな鍵、開けようと思ったら3分もかかんねーで開けれるぞ。それに、警察なんて24時間警備してくれる訳じゃねーだろ。
次は、朝起きたら犯人がおまえのベッドの横に立って笑ってるなんてこともあり得るかもしれねーな。」

心配してそう言ってやった俺に、
「副社長ってほんと性格悪いですよね。」
と、小さく呟くこいつ。

「うるせぇー。
とにかく、ここにはしばらく近付くな。
わざわざ来てやったんだからおとなしく邸について来い。」

「いやです。」

「あ゛?」

「お気遣いは感謝します。けど、無理です。」

「てめぇ、上司に歯向かうのかよ。」

「これはプライベートな問題ですからっ。」

「プライベートって……、
おまえが狙われた理由は別にあるかもしれねーだろ。」

思わず成り行きでそう口走った俺に、
「へ?」
と、でけぇ目をさらにでかくして牧野が俺を見上げた。



まじでやめろ。
まっすぐに俺を見つめるその目に、いちいち反応する俺の心臓。
抱きしめたいとか、キスをしたいとか、そんな甘い恋愛感情なら分かり易いのに、
中学生のガキみてぇに、意地悪して怒らせて、こいつの反応を楽しんでいる今の俺。

自分でもこの感情がなんなのか、分からないねぇ厄介だ。

でも、これだけは言える。
俺がここに来た理由は一つ。
こいつとの距離をもう一歩縮めたい。

「犯人がただ単におまえの部屋を狙ったのか、それとも道明寺財閥の秘書の部屋だから狙ったのか確かめる必要がある。
だから、今日はとにかく俺に付いて来い。」

自分でもズルい口実だとは思うが、犯人の犯行動機として全くない訳ではない。

道明寺というワードを出した途端、牧野の顔も引き締まり、
「……分かりました。」
と、小さく頷いたあと、

「でも、……」
と、今度は困ったような顔で俺を見上げた。

「邸に行くのはちょっと……。
会社から近いホテルを取るので犯人が捕まるまでそこで警察からの連絡を待ちます。」

邸に来るのは断られたが、
かえって都合がいいかもしれねぇ。

「了解。
ホテルまで送ってやるから準備してこい。」

あくまで業務連絡かのような言葉を返し、牧野が部屋の中に入って行ったのを見届けたあと、携帯を取り出しメープルの最高責任者の番号を押すと、

「30分後に部屋に入る。
適当に食事と飲み物、用意しておいてくれ。」

そう告げて深く息を吐いた。




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お待たせしました。
司、暴走しないように慎重に行動させます!
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プロフィール

司一筋

Author:司一筋
花より男子の二次小説サイトです。
CPはつかつくオンリーです。
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