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NYにいるときは、パーティーの招待状も封を開けずデスクに積み重なっていたことが多々あったが、日本に帰ってきてからはそうはいかない。

日本支社の副社長という肩書き上、ババァの目も光っているし、財界のジジィ連中ともうまく付き合うのがビジネス上、速道だと分かっている。

毎月少なくても2、3回はパーティーに顔を出すが、今日はどちらかというと年齢層が若い。
俺と同じく二世がごろごろとたむろっていて、長くいても得る収穫は少ないだろう。

早めに切り上げて帰るのが得策だと思った矢先、
「あらあら、司くんに会えるなんて今日はついてるわ。」
と、 久しぶりに見る顔に出会った。

「お久しぶりです。神崎社長。」

「久しぶりね。元気だった?」

「はい、おかげさまで。」

そう言って頭を下げた俺の肩に手をおき、
「大きくなったわね。」
と、優しく笑うこのご婦人はババァの旧友である不動産会社の社長。

俺がガキの頃から邸にも遊びに来ていたし、学生時代の荒れてた時期も「青春ね。」なんて笑って小言のひとつも言わなかった貴重な存在だ。

「日本に帰ってきたのは楓さんから聞いてたわ。」

「はい。おかげさまで。」

「近い内、一緒に仕事が出来ることを楽しみにしてるわ。」

「こちらこそ、その時はお手柔らかに。」

昔と変わらない優しい笑みに、自然と表情が和らぐ。
そんな俺たちのやり取りをパーティーに来ている若いやつらがヒソヒソと話ながら見つめているのは気付いていたが、もうこれ以上ここにいても意味がないと、

「帰るぞ。」
と後ろに控えていた西田に声をかける。

「はい。すぐに車を用意させます。」







ホテルの入り口に車が到着する間、クロークに預けてあったコートを受け取り、エレベーターを使わずにエントランスへ続く螺旋階段をゆっくり歩いていると、物陰から 「道明寺」という単語が聞こえ足が止まった。

どうやら、俺と同じようにパーティーを切り上げて帰るところなのか、若い奴らが3人 声を潜めて談笑しているが、その内容が見た目同様下品きわまりなく、思わず聞いてる俺も顔をしかめた。

「天下の道明寺司も神崎社長の前では腰が低かったな。」

「相手が男の時は容赦ない態度なのに、女が相手だとああも態度が変わるものか。」

「ひょっとして、あの二人もそういう仲なのかもしれないぞ。
この間の○○商事の息子のこと聞いてないか?」


○○商事の息子のことは俺も小耳に挟んでいた。
取引先の20も離れた年上の女社長と不倫の末、あるパーティーで別れ話で揉め修羅場を繰り広げたらしい。
それをあきらの口から聞いて、
「おまえも大概にしておけよ。」
と、釘を指したばかりだ。


3人は酒が入っているせいか、噂話が止まらない。

「浮いた話のひとつもない道明寺司が、実は熟女好きでしたーなんて笑えるよな。」

「独り身の女社長なんてたくさんいるから、食い放題だろ。」

「あの容姿ならどんな女もひっかかるだろうし、一回寝たら仕事の取引も成立ってことか?
さすがアメリカ仕込みだな。」


昔の俺ならここまで言われて黙っていなかっただろう。
後ろから蹴りあげて骨の1本や2本、間違いなく折ってやった。

けど、俺も成長したんだよ。
ビジネスの世界、結局は仕事が出来てなんぼ。
この仕返しは、必ず仕事でたっぷりと返してやるからな、と、物陰に隠れている奴等の顔をしっかりと確認した俺は階段をゆっくり下り始めたとき、俺から死角になってた場所に立つあいつと目があった。


「牧野?」

「……副社長、……車が用意出来ました。」

「おう、今行く。」

そう答えて足早に階段を下りる俺の後ろにいつものように牧野も付く。

そして、階段を完全に下りきったとき俺は言った。

「なんでおまえ泣いてんだよ。」

「……泣いてません。」

「泣いてるだろバカ。」

「…………。」

「鼻、真っ赤だぞ。」

「……花粉症で、」

「もう花粉なんて飛んでねーよ。
ったく、……おまえの感情バロメーターは俺の前では発動しねーんじゃねーのかよ。」

「……はい?」


いつも、俺の前では無表情のこいつが、
他のやつらの前で見せる笑顔じゃなく、
泣いている。

それが、無償になぜだかくすぐったくて、
こいつの口から理由が聞きたかった。

「帰るぞ。」

「はい。」




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 2017_05_19





牧野つくし。

こいつが俺の秘書になって半年、常に行動を共にするようになってから俺には解せないことがある。


「つくし、昨日も坊っちゃんに付き添って遅くまで会社にいたのかい?」

「はい。」

「顔に寝不足って書いてあるよ。」

道明寺邸の使用人頭であるタマと親しげに話す牧野は、タマだけでなく運転手や庭師ともいつの間にか仲良くなりやがって、邸ではちょっとした人気者だ。
毎朝、俺を迎えに邸までくるこいつを待ち構えるかのように誰かしらが話しかけている。

そして、それは会社でも変わらない。
もうふた回りも歳の離れた重役連中からも可愛がられ、俺の前では表情ひとつ変えねぇ西田とも和やかにうまくやっている。

それはそれで秘書としては上出来なんだろーけど、
…………気に食わねぇ。

なにが?って聞かれると、うまく言えねぇけど、
ほらな?これなんだよ。

「副社長、来週のパーティーですが予定通り出席でよろしいでしょうか?」

「…………。」

「……副社長?」

返事をしねー俺の方を、まっすぐ見つめる牧野の顔には笑みのひとつもねえ。

「副社長?」

「おまえさ、あの部長の川上みてぇな奴が好みなのか?」

「はい?」

「あんな禿げたじじい、どこがいいんだよ。」

デスクに座る俺と、その正面に立つこいつ。
たっぷり間が空いたあと険しい顔で牧野が言う。

「朝からなんの冗談ですか?」

ほらな?またこれだ。
冗談だと思うなら少しくらい笑ってみろよ。
俺を見つめる目も表情もガチガチに冷てぇ。

俺の前で愛想を振りまかねぇ女はこいつくらいだ。
いや、ババァもそうだし、タマもそうか。

そんなことを考えてると、

「副社長、気分でも悪いんですか?
ニヤニヤしてきもちわるいですけど。」

と、相変わらず可愛くねぇこいつ。

朝から秘書相手に遊んでてもしょうがないと、気を取り直してデスクの上にある書類に目を通したとき、

「あのー、」
と、歯切れ悪く牧野が言った。

「あ?」
顔をあげた俺に、

「朝から気になってたんですけど、副社長の髪に何か付いてますけど。」
と、俺の頭を指してこいつが言う。

「髪に?」

「はい。たぶん糸くずかと……」

牧野の指摘に俺は髪をさっとかき分けると、

「あっ、」
と、牧野が短く叫ぶ。

「なんだよっ。」

「いえ、あっ、……今ので余計に髪の中に入り込んじゃいました。」

その言葉にもう一度髪をかきあげるが、目の前の牧野の顔は渋いまま。

「おまえ朝から気付いてたなら早く言えよ。」

「そのうち取れるかなーと思ってたので。」

「取れてねーじゃん。」

「思いの外、副社長のカールが激しいようで。」

「おまえ、ぶっ飛ばすぞ。」

こんなやり取りも最近は日常茶飯事だ。

「取れたか?」

「……いえ。あー、もう少し右です。」

見えない敵相手に、セットしてきたヘアースタイルも台無しだ。

仕方なく、壁にかけてある大きな鏡の前に移ろうと立ち上がりかけたそのとき、

「失礼します。」
と小さく言ったあと、牧野が座る俺のそばまで近付き、触れるか触れないかのタッチで俺の髪に手を伸ばした。

「あ、やっぱり糸くずですね。」

「…………。」

「取れましたよ。でも、髪、セットし直した方がいいですね。」

「…………。」

「副社長?」

無言の俺の顔を見ながら不思議そうに俺を呼ぶ牧野。
そんなこいつの呼び掛けを聞きながら、俺は別のことを考えていた。

こいつが秘書になって半年、毎朝、狭い車内で隣に座り、密室のエレベーターでオフィスまであがり、夜遅くまで行動を共にする。
気を遣うどころか、俺の悪態にも怯まずその上をいくこいつとは長い時間一緒にいても疲れることはない。

そんなこいつの存在が邪魔じゃねーのは、俺が牧野を女として見てねーからだと思ってたが、

もしかしたら、それは違うのかもしれねぇ。

俺の髪に触れたかすかな感触。
それは、牧野がムキになって俺を見上げてくる時や、うまそうに差し入れのケーキを食ってるとき、自然と俺まで笑っちまうなぜか俺を満たす甘い感情。

そして、今俺は一瞬で理解した。



俺は自分のテリトリーに牧野を入れることを無意識に許していて、……それが嫌じゃないということを。



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5話、更新遅くなりました~。
お待たせしました。




 2017_05_15




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司一筋

Author:司一筋
花より男子の二次小説サイトです。
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