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「分かるように教えてやろうか?」

そう言ってあたしの顔を覗きこむ道明寺との距離があまりにも近いことに気付き、あたしはまともに目を見ることなんて出来ない。

「道明寺っ、離して」

「…………。」

「ねぇ、道明寺っ。」

体を両足で拘束されたままのあたしは、なんとかそこから抜け出そうともがいてみると、

「動くなって。
動いたら体が反応するだろ。」
なんて言われて、完全にフリーズしてしまった。

そんなあたしを見て、
「おまえ耳まで真っ赤。」
とからかいながら耳朶を触られ不覚にも体がビクッとしてしまう。

「やめてよ。」

「やだね。」

「スキンシップ禁止だって道明寺が言ったでしょ。」

「俺からは、あり。」

「はぁー?」

どこまでもこの人の言うことは俺様発言で、道明寺の胸を思いっきり叩いてやると、
その手も拘束され体ごとまた抱き寄せられた。

そしてあたしの頭に顔を近付けながら道明寺が言った。
「この間、どうして先に帰った?」

「……え?」

「あのまま俺が戻るまで部屋で寝てろって言っただろ。」

そう言われて、この間の夜のことを言われていると気付く。

「だって……、」

「だってじゃねーよ。
探したんだぞ、おまえに、その、謝りてぇと思ったし。」

謝りたい…………、
きっとそれは、あの夜のことを後悔して。

「別にっ、……あたしは、気にしてないから、忘れて。 」

それはあたしの本心でもあるし、精一杯の強がりでもある。
その言葉に、

「忘れられるかバカっ。」
と、言葉とは逆に優しい口調で道明寺が言う。

「おまえが、……初めてだって知らなかったから、加減してやれなくて悪かった。」

「だからっ、もういいって、その事は忘れて。」

改めて謝られると恥ずかしくてたまらない。

「…………。」

「あたしの方こそきちんと言わなかったから、あんたに嫌な思いさせちゃって。」

「……嫌な思い?」

「とにかくっ、この話は終わり!
あたしも忘れるし、あんたも重く考えないで。」

お互いのため、それが一番いいと思って口にした言葉に、
なぜか道明寺が、腕を緩めあたしの顔を怒った顔で見つめてくる。

「おまえ、ふざけてんのか?」

「え?」

「さっきから忘れるとか言ってるけどよ、そんなにあの夜の事は忘れたい出来事なのかよ。」

「はぁ?なに怒ってるの。」

「そんなに俺と寝たのは嫌な事だったのか?」

「…………。」

そうじゃない。
そうじゃないけど、あんたの方こそ…………。

「あんたの方こそ、あたしと寝たことに後悔してるでしょ。」

「あ?」

「だって、あたしが初めてだって言ったら、思いっきり頭抱えてため息ついたじゃないっ。」

「…………。」


あたしの言葉に黙りこんだ道明寺。
言ったあたしも、言うはずじゃなかった言葉を口にしてしまった後悔で目の奥が熱くなる。

すると突然、
拘束されていた体が離され、ぐいっと体を引き上げられたかと思ったら、あっという間に道明寺の力でベッドに座らされた。

そして道明寺もあたしの正面にあぐらをかいて座り、あたしを見て言った。

「やっぱあのとき、招待客なんて放っておいてでもおまえのこと捕まえておくべきだった。」

「…………。」

「俺がため息をついたのは、おまえが思ってるような意味じゃなく、自分のバカさ加減に対してだ。
おまえに触れたら自制がきかなくて……、」

道明寺が何を言いたいのか分からず、じっと見つめたままその先を待っていると、

「好きな女の初めてを貰って嬉しくねぇ男なんているのかよ。
もっと大事に、もっと優しくしてやりたかったって、そう思って出たため息だっつーの。
勘違いすんな。」

そう言ってあたしをじっと見つめてくる。

「あ、あ、あんたなに言ってんの。」

「なにって、おまえに愛の告白とこの間の反省。
そしてここからは提案。」

「は?」

「今日からスキンシップ禁止令の撤回と、プライベートへの口出しを許可する。」

「…はぁーーー?」

突然の道明寺からの提案。

「スキンシップに関してはおまえが先に破っただろ。」

「は?」

「俺の背中に抱きついてきたのはどこの誰だよ。」

「それはっ…………、」

「それに、やることやったんだし、今更スキンシップ禁止もねーだろ。」

「あ、や、わ、」

なんて返していいか分からないほどストレートすぎるこの男。

「プライベートは縛るつもりはねーけど、西岡だけはダメだ。」

「はぁ?」

「あいつ、おまえに気があるだろ。」

「…………。
あんた、何言ってんの?
西岡さんがあたしに気があるわけないでしょ。」

「おまえは鈍感だから分かんねーんだよ。」

「それぐらい、あたしでも分かるっつーの!
行く、絶対明日はみんなと食事に行くから!」

「てめぇ、」

「もう遅いから出ていってよ、ホラっ、早く!」


まだ何か言いたそうな顔の道明寺を、追い立てるように部屋から追い出し、扉の前で座り込むあたし。

その背中から、
「帰りは俺が迎えに行くから、電話しろ。」
と、道明寺の甘い声が響き、

あたしは熱くなった頬を両手で押さえうずくまった。




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 2016_08_31






「どこの店に誰と行くんだよっ。」

後ろから聞こえてきたのは、部屋に戻ったはずの道明寺の声。

「道明寺っ。」

「終電にも間に合わねぇほど飲む気か?」

「そうじゃないけど、っていうか、なんでそんなに怒ってるの?」

「うるせぇ、怒ってなんかねーよ。」

明らかに不機嫌であたしを睨み付けてくるこの男。

「週末だからって、おまえの課は飲みに行くほど暇なのか?」

「別にそうじゃなくて、たまたま会社の近くに新しく出来たお店があるから、みんなで行こうってことになっただけでしょ。」

「みんなって事は男もか?」

「まぁ、西岡さんがワイン飲みたいって、」

その先を言い終わらない内に、

「いい気なもんだなっ。副社長の俺が遅くまで働いてるっつーのに、部下のお前らは合コンかよっ。」

と、今日一番の暴言をはく。

「坊っちゃん!」
タマさんが慌てて間に入ってくれようとしたけど、

「あんたにあたしの行動を制限される筋合いはないっ!」
と、あたしも負けじと応戦してしまった。

そんな睨み合うあたしたちの間に無機質な機械音が鳴り響く。

「道明寺、電話鳴ってる。」

道明寺の胸ポケットから響く携帯の音。
それなのに、取ろうとしないこの男に、
「さっさと出なさいよっ。」
と、言い捨ててあたしは逃げるように部屋へと戻った。





自室に入るとそのままベッドへダイブして、ゴロンと寝転がる。

なによ、あいつ。

久しぶりに話したと思ったら喧嘩腰でいちゃもんばかり付けてきて。
腹立つ腹立つ腹立つ!

ベッドに寝ながら手足をバタバタと動かしストレスを発散させていると、あたしの手に何かが当たった。
ふと見ると、昨日買ったあの雑誌。

あたしはその雑誌を開き、あの一番目に焼き付いた笑顔の道明寺のページを見つけると、
「あたしの前では怒ってばっかりなのに。」
と、思わず呟く。

そして、ベッド脇にあるテーブルからボールペンを取り出し、そのページの道明寺の写真の顔に落書きをし始めた。

頬には赤で渦巻きを入れて、目にはこれでもかと言うほどまつげを書き足し、おでこになんて『肉』の文字まで入れてやった。

それは見るも無惨なアホっぽい顔の出来上がり。

それを見て一人ケラケラ笑うあたしは相当性格が悪い。
でも、あいつほどじゃないと自分に言い聞かせ、更に鼻毛でも足してやろうかと思ったその時、部屋の扉がノックされ、

「おい、入るぞ。」
と道明寺の声と共に間髪入れず扉が開かれた。

「ちょ、ちょ、ちょっと、返事もしてないのに勝手に入らないでよ!」
慌ててベッドに起き上がると、

「さっきは話の途中だっただろーが。」
と近付いてくる道明寺。

あたしは咄嗟にヤバイっ!と落書き途中の雑誌を体の後ろに隠したが、その動作があまりに不自然だったのか、
「なんだよ、なに隠した?」
と、大ピンチ。

「べ、べ、別に?」

「思いっきり動揺してんだろ。」

「ちょっと、勝手に人のベッドに上がらないでよっ!」

この雑誌を見られたらもう一貫の終わり。
こんな事をして笑ってる陰険なやつだと誤解されたらたまったもんじゃない。

雑誌を体で隠しながら道明寺から逃れようとするあたしを、ベッドに上がり込みジリジリと距離を縮めてくる道明寺。

「道明寺、離れてっ。」

「隠したもん、見せろ。」

「何もかくしてないしっ。」

「背中にあるやつ、こっちに出せ。」

あたしも引かないけれど、道明寺も頑固に食らいついてくる。

こうなったら、逃げるしかない。

そう思ったあたしは、後ろ手で雑誌をクルクルと丸め込み、それを片手に握ると、思いきってベッドに立ち上がり道明寺がいる反対側から逃げることを試みた。

昔から足は早いあたし。
運動神経だって悪くない。
道明寺の横をすり抜けて、部屋から出ちゃえばこっちのもの。

そう思って勢いをつけて駆け出そうとした。

けれど、…………呆気なくあたしはこの人の無駄に長い手足に捕まり、ベッドに引き戻された。

そして、クルクルと巻かれた雑誌を取り上げられそうになり必死に抵抗するあたしと、それを奪おうと挑んでくる道明寺はベッドの上で絡み合うように寝転がる。

「そんなに見られて困るものかよ。」

「困るっ。絶対困るっ!」

「それなら、絶対見てやる。」

そんな言い合いをしながら、隣に寝転んだ道明寺の足の間に体を挟まれ身動きできないようにされ、力でこの大男に敵うはずもなく、最後には抵抗むなしく雑誌を奪われてしまった。

そして、そのまま体を拘束されたまま、
「これ、昨日発売された雑誌だよな。」
と、至近距離で道明寺の声が響く。

もう観念するしかない。
雑誌を見られたら怒られるに決まってる。

「最初に言っておく、……ごめん。」
あたしがそう呟くと、

無言で雑誌をパラパラとめくる道明寺。

体を拘束されたままで、あたしからは道明寺の顔が見えない。
二人で並んでベッドに横になり、あたしはこの人の足の間に体を拘束され、顔は道明寺の胸の辺りに押さえつけられたまま。

状況が違えば、こんな甘いシチュエーションはないはずなのに、今のあたしたちはバトル中。
パラパラと雑誌をめくる道明寺の動きが止まり、じっとそのページを見つめているのが気配で分かり、
居たたまれなくなったあたしは、もう一度、

「ごめん。つい、面白くて……、」
とどうしようもない言い訳を言ってみたりして。

そんなあたしに、
「おまえはガキか。」
と道明寺が呟くのが聞こえた。

「俺のおでこに『肉』って描いて楽しいか?」

「……めんぼくない。」

「鼻毛まで書こうとしただろ。」

「それは、その、ちょっとした出来心で……。」

もうここまで来たら全力で謝るしかない。
小学生レベルのイタズラに返す言葉もない。
どんなキツイ言葉で怒られるのか…………そう覚悟したあたしの頭の上で、

「ったく、ヤキモキさせんなよ。」
と、予想もしない言葉が返ってきた。

「……え?」
道明寺が言ったその言葉の意味が分からず、拘束されたままの体勢で顔だけ上げようとしたあたしの頭を、道明寺は片手で押さえ付けまた胸の辺りに沈める。

そして、
「恥ずいから見んな。」
と、呟いたあと、

「おまえがさっき言ってた西岡ってあいつだろ?
リゾート施設でおまえのこと食事に誘った男。
明日もあいつと飲みに行くのか?」
と、聞いてくる。

「……ん、西岡さんもいるけど。」

「…………だから行かせたくねーんだよ。」

「え?」

意味が分からず聞き返すと、あたしの体を突然ギュッと抱きしめる道明寺。

「道明寺っ。」

「おまえが必死に隠すから、あいつからの手紙かと思ったんだよ。」

「…………。」

「この間もあいつに食事に誘われて、ホイホイ付いていきそうだっただろおまえ。
…………好きだと自覚した女が目の前で他の男とイチャついてたらムカつくだろ。」

「…………。」

「…………。」

「…………。」

「おいっ、聞いてんのかよ。」

聞いてる。
さっきから道明寺の言うことを一言一句きちんと聞いている。
けれど、その内容に頭がついていかないあたし。

「……聞いてる、聞いてるよちゃんと。
でも、……どういうことか理解できない。」

そう返すあたしに、クスッと道明寺が笑ったあと言った。

「分かるように教えてやろうか?」




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 2016_08_30






夜中まで残業をしたあの日から、職場での視線が痛い。

山下さんを筆頭に、あの日残業をしていた隣の課の女の子達まであたしをチラチラとあからさまに見てくる。

そして、何度も
「牧野さ~ん、飲みに行きましょ?」
と、意味ありげに誘う。

分かっている。
誰もがあたしと道明寺の関係を知りたがっていることは。
でも、話したくても話せない。
だって、あたしたちの関係はあたし自身が一番どう説明していいのか分からないから。

あの残業の日も、『先に部屋に戻ってろ』と言われ、あたしたちの部屋に入ったはいいけれど、リビングで待っていた方がいいのか、それともいつものように10時以降は自分の部屋から出ない方がいいのか……。

迷ったまま、着替えだけ済まそうと自室に入ったらその間に道明寺は戻ってきていたらしい。
あらためてリビングに行ってみると道明寺の部屋からかすかに物音が聞こえ誰かと電話で話している様子。

本当は今日のお礼をきちんと伝えたかったけれど、道明寺だって疲れているはず。
あたしはそのまま黙って部屋に戻った。

あれから3日。
相変わらずすれ違いのあたしたちはまともに顔さえ合わせていない。




「牧野さーん、明後日の金曜日、新しく出来たイタリアンのお店にご飯に行きませんか?」

イタリアン…………、行きたい!
でも、誘ってくる女子たちの目が恐い。
道明寺との関係を聞きたくて堪らないという顔。

「んーーー、」
返事を渋るあたしの横で、

「あの角に出来たお店?
俺も行ってみたいんだよね。」
と、西岡さんがあたしたちの会話に入ってきた。

「ワインの種類が豊富だって聞いたから、興味あったんだよ。
どう?みんなで金曜の夜に行ってみない?」

思いがけず西岡さんの参戦に女の子達は色めき立つ。
社内でも人気のある西岡さんと一緒に飲めるなんて同じ課でも滅多にない。
そんな美味しい誘いを、彼女たちが断るはずがない。

「行きます行きます!
ね?牧野さん、行きますよね?」

女の子達の拝むような視線に負けて、
「……分かった。金曜ね。」
とあたしは返事をした。



その日の夜、帰りに立ち寄った本屋であたしはある雑誌を手に取った。

芸能人のゴシップ記事を扱う週刊誌とは違い、地味で目立たない表紙の経済誌の中に『道明寺司』という単語を見つけ何気なくパラパラとめくると、先日オープニングパーティーを開いたあのリゾート施設の特集記事だった。

そこにはパーティーの様子も写し出され、道明寺と滋さんが並んで歩く姿や、招待客の前で挨拶をする道明寺の写真が掲載されていた。

その写真の一枚があたしの目を釘付けにする。
珍しく笑っている道明寺の写真。
ゴルフウェアに身を包み、相変わらず憎たらしいほど様になっている。
迂闊にも『格好いい』なんて思ってしまったあたしは、慌ててその雑誌を本棚に戻し別の雑誌を手に取ったけれど、
数分後にはやっぱり道明寺が載った雑誌を手にレジへと向かっていた。




次の日の夜、いつも通り邸での夕食を終え部屋に戻ったあたしは、寝る間近になって大事なことを忘れていた。

そうだ、明日はイタリアンレストランに行く約束の日。
タマさんに夕食は要らないと伝えておかなくちゃ。

そう思い、部屋を出てタマさんの姿を探していると、丁度帰宅した道明寺と廊下でバッタリ会った。

「……おかえりなさい。」
スーツ姿の道明寺にそう言うと、

「おう。」
と、返ってくる。

まともに顔を合わせるのは数日ぶりでなんとなく顔を直視出来ないでいると、
「牧野……、」
と、道明寺があたしに何かをいいかけた。

と、その時、
「坊っちゃんお帰りなさいませ。」
と、道明寺の後ろからタマさんの声。

咄嗟に助かったと思ってしまうあたし。

道明寺はタマさんに「おう。」とだけ答えるとチラッとあたしを見たあと。あたしの横をすり抜けて部屋へと廊下を歩いていく。

残されたあたしはタマさんに、
「今、タマさんの所にいくつもりだったんです。
明日、あたし職場の人と食事することになっているので夕食は要りません。」
と伝える。

「遅くなるのかい?」

「……たぶん。
美味しいワインを飲ませてくれるお店らしいので、少し飲んでくると思います。」

「帰りは邸の車を使わせて貰ったらどうだい?」

「いえ、みんなでタクシーの相乗りしてきますから大丈夫です。」

そう話したところで、突然後ろから、



「どこの店に誰と行くんだよっ。」


と超絶不機嫌な道明寺の声が聞こえてきた。



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 2016_08_29






明日に大きな会議を控えた今日、もう終業間近の夕方になってトラブルが発生した。
会議資料として配布する予定だった資料150部が別の会議の資料だと分かりコピーを担当した新人から泣きのヘルプがきたのだ。

元のデーターは課長が持っている。
その課長といえば、午後から外勤してそのまま直帰予定。
何度携帯をならしても捕まらない。

やっと7時を回った頃、課長と連絡が付いたが、得意先とお酒を飲んでいるようで席を外せないというので、あたしがわざわざ店まで行って課長からデータを預かってきた。

そこからは、隣の課の女の子達にも手伝ってもらって150部の資料の作り直し。
膨大な量のコピーとホチキス止めをすること三時間。

なんとかこの子たちを終電までに間に合わせて帰らせなくては……そう思いながら必死に時計とにらめっこをして作業していると、突然山下さんの
「ギャッ!」という声で体が跳ね上がった。

「どうしたの?山下さん。」

「ま、ま、牧野さん、」

「なに?」

挙動不審な態度の山下さんが指差す方を見てみると、あたしも思わず声をあげそうになった。

そこにいるのは、いつものスーツ姿の道明寺ではなく、邸で時々見かけるようなジーンズとシャツのラフな服装のあいつ。

「道明寺っ。」

「まだ終わんねーのかよ。」

「ど、どうしてここに?」

「……タマが心配してるから見にきた。」

そこまで会話をしたあと、回りの子達の視線に気付き振り向くと、驚いた顔であたしたち二人の事を見比べている。
それを見て、あたしは慌てて道明寺の腕を掴むとフロアから廊下に出て誰もいない壁際まで道明寺を連れて行った。

「もう少しで終わるからタマさんに心配しないでって伝えて。」

「あとどのくらいかかる?」

「んー、一時間もあれば終わると思う。」

「他には誰もいねーのか?」

「他に?」

「……その、……残業してるのは女だけかよ。」

「……そうだけど?」

道明寺が何を聞きたいのか分からないけど、なぜかその答えに満足そうに頷くこの男。
そして、

「何したらいいんだよ。」
と、更に意味の分からないことを聞いてくる。

「は?」

「だから、俺は何をする?」

「何をするって……なに?
帰ったら?」

「タマにおまえを乗せて帰ってこいって言われてる。
さっさと終わらせて帰るぞ。」

そう言ってあたしの返事も聞かずにフロアへと戻っていく道明寺を呆気に取られながら見ていたあたしは、
「道明寺っ!」
と、慌ててあいつの背中を追った。


フロアに戻ると驚く女の子達を横目に次々とテキパキ仕事をこなしていく道明寺。
残りの資料作成もあっという間に済み、明日の朝やる予定だった会議室のセッティングの力仕事まで手伝ってくれ、いつの間に来たのか秘書の西田さんも登場し飲み物の差し入れまで頂いた。

そして終電間近の彼女たちにひとりひとりタクシーの手配までしてくれて何から何まで至れり尽くせり。
山下さんたちもはじめは道明寺の存在に緊張し固まっていたけれど、帰る頃には「サインください」なんてバカなこと言って道明寺から睨まれていたっけ。

ようやく嵐のような残業も終わりみんながタクシーに乗り込むのを見届けたあと、会社の前で二人きりになった道明寺に、
「ありがとうございました。」
と、頭を下げる。

「帰るぞ。」

「うん。」




初めて道明寺の車の助手席に乗せてもらい、二人で夜の街を走っていると、今この状況がとてつもなく不思議に感じてくる。

5か月前までは全く関わることのない世界で生きていたあたしたち。
それが今ではこうして隣に座り同じ場所へと帰ろうとしているなんて。

運転する道明寺の顔をそっと見つめると、視線に気付いたのか道明寺もあたしを見る。
そして、

「疲れたなら、邸まで寝てろ。」
と柄にもなく優しく言ってくれるこの人。

道明寺を知れば知るほどあたしの今まで抱いていた印象が崩れていく。
口が悪くて意地悪なのは変わらないけれど、その裏には分かりづらい優しさが隠れていることにあたしは気付いている。


車に揺られて30分。
邸のエントランスであたしを下ろし、
「俺は車停めてくるから先に部屋に戻ってろ。」
と道明寺が去っていく。

それと同時に、
「おかえりなさい、お疲れさま。」
と、タマさんの声。

「タマさんっ、すみませんこんなに遅くなって。」

「いいんだよ。
疲れだろ、早く部屋でお休み。」

「はい。」

そう答えて部屋へ上がろうと階段を上ったとき、もうひとついい忘れてたことを思いだし振り返る。

「タマさん、
道明寺に迎えに行くよう言ってくれたんですね、ありがとうございます。
おかげで終電に間に合わせるため駅まで走らなくて助かりました。」

そう伝えると、一瞬ポカンとした顔をしたあと、

「まったく坊っちゃんは素直じゃないんだから。」
と、笑うタマさん。

「え?」

「つくしが遅くなるって坊っちゃんに伝えたら、機嫌悪くなってつくしの携帯教えろって。
そのうち、ちょっと目を離したら勝手に迎えに行ってたんだよ。
今度から遅くなるときは坊っちゃんに直接連絡してやってあげておくれ。」




ほら、また。
今日も道明寺の優しさは分かりづらい。



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 2016_08_28






土日のパーティーを終え、邸に帰ったのは月曜の早朝だった。
招待客への接待中も何度か邸に電話を掛けたが、結局一度も牧野と話が出来ぬまま。
なんとか出勤前のあいつを捕まえたいと、リゾート地から車を飛ばし朝早く帰ってくることした。

リビングに入り、牧野の部屋の前に着くと中から物音がしたのでまだ出勤はしていないようだ。
俺は迷わず部屋をノックする。

すると、数秒たって無言で扉が開き、スーツ姿の牧野がそこにいた。

「おう。……もう行くのか?」

「うん。」

あの夜以来、初めて顔を合わせる。
何から話せばいいか迷っていると、

「あたし、そろそろ行かなきゃ。」
と腕時計を見ながらそう言って、俺の横をすり抜けるように部屋から出ていこうとするこいつを、
「待て。」
と、腕をつかんで引き留めた。

「今日、遅くなんねぇで帰ってくるから、少し話がある。」

「……うん。」

「夕食は邸で食うから、おまえも待ってろ。」

「分かった。」

たった数秒の会話。
それでも、拒否られず目をみて話してくれたこいつに安堵した。





はずだったのに………………、


今の時刻は午後9時を回ったところ。

二時間も前に邸に戻った俺とは逆に、一向にあいつが帰ってくる気配がねえ。

あいつと二人になったら、好意を持ってること、おまえと距離を縮めたいこと、そして自分勝手に事を進めたことを謝りたいと日中は何度もシュミレーションまでした。

それなのに…………。

タマに聞けば、いつもはどんなに遅くても8時には仕事を終わらせ帰ってくるという。
運転手付きの邸の車を断り電車通勤を続けるあいつは、終電に間に合うよう夜遊びもほとんどしない。

ならば、今日帰ってこない理由はひとつしかねぇ。
俺との話し合いを拒否してるってことだろう。


それからしばらくして時計の針が10時を回った頃、タマにあいつから連絡が入った。
『残業してるので帰りは遅くなる。』と。

タマからそれを伝え聞いた俺は無性に機嫌がわりぃ。
俺との約束のことには全く触れなかったらしい。

「タマっ、牧野の携帯番号教えろ。」

「はい?」

「こんな時間までどんな仕事してるのか副社長として把握する必要があるからなっ。」

苦しい言い訳をしながらタマから牧野の番号を聞き出すと、

「全く、久しぶりに早く帰って来たと思ったら不機嫌で困ったものですね坊っちゃんは。
それにしても、一緒に暮らして五ヶ月だっていうのに、携帯の番号さえ教えてもらってないんですか……。」

と、呆れ顔で俺を見るタマ。

「うるせぇ。必要ねーから聞いてなかっただけだ!」

「はいはい、そうですか。」






タマとの言い合いも早々に切り上げて自室へ戻ると、すぐに携帯を取りだし番号を押す。

しばらく呼び出し音が鳴ったあと、
「もしもし?」
と、警戒した牧野の声。

「俺だ。」

「…………道明寺?」

「ああ。おまえ今どこにいる。」

そう聞くと、
「ちょっと待って。」
と小声で行ったあと、場所を移動してるらしい。

その様子に更に不機嫌になる俺。

「もしもし、道明寺?
どうしたの?」

「どうしたじゃねーよ。
おまえ、俺との約束、忘れたのかよ。」

「約束?」

「早く帰って来るから話があるって、朝伝えただろ。」

「…………あーあ。そうだったね。」

何時間も待ちくたびれた俺の苦労なんて知らず呑気に答えるこいつ。

「ちょっと仕事でトラブっちゃって遅くなりそうなの。話は今度にして。
あっ、山下さ~ん、これもコピーお願いできる?」

「おまえ今、職場か?」

「そう。」

「ほんとかよ。」
まだ疑う俺に、

「残業してるって言ったでしょ。
忙しいからもう切るねっ。」
と、勝手に切りやがる。


切れた電話を手に、せっかく仕事を早めに切り上げて帰ってきたというのに、あいつが会社に残ってるなら、意味ねーじゃんとゴロンとベッドに横になる。


それから一時間、読みかけの本や携帯で時間潰しをしてみるが、牧野が帰ってくる気配はない。
時計を見ると11時を過ぎている。
女にさせる残業にしては遅すぎる。

しかも、俺の頭の片隅には、パーティーであいつが笑顔を見せていた同僚の男の顔がチラつき、イライラが抑えられなくなった俺は、車のキーを片手に部屋を出ていた。




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 2016_08_27






あたしだってこの歳で全く恋愛をしてこなかった訳ではない。
それなりに告白だってされたし、付き合ったりもした。

けれど、最後の最後で足がすくむというか、考えなくてもいいことをグルグルと考えて、結局今まで深い仲になった相手はいない。

重いのは分かってる。
この歳で『まだ……』だったなんて、今の時代にしてみれば希少価値だろう。

道明寺のあの態度からして、相当重荷になったのは確かだ。
でも、後悔はしていない。

道明寺にとってはどうであろうと、あたしにとっては幸せな『初めて』だったから。
心の準備もなく突然の出来事だったけど、かえってそれが良かったのかもしれない。
いつものようにグルグルと余計なことを考える隙も与えられぬまま、道明寺に翻弄された。

「俺が戻るまで、ここで待ってろ。」
と言われたけれど、あたしはそこまで図々しくはない。

あいつはあたしの顔を見るだけでも気間づいだろう。
どんな心境であたしを抱いたかは分からないけれど、今は無かったことにしたいと思っているに違いない。


道明寺が部屋を出ていったあと、あたしもすぐに着替えて部屋を出た。
もうとっくに本社組のスタッフは帰っている。
こんな夜中の2時に動いているバスもなく、仕方なくリゾート施設の前からタクシーをひろった。

道明寺邸まで45分。
痛い出費と共に、あたしの気持ちをリセットするには丁度いい時間だった。
お互い今日のことは忘れよう。


邸につくとタマさんが出迎えてくれた。
「こんな時間にどうしたんだい?」
そう言いながら疲れたあたしの体を気遣ってくれる優しさに涙が出そうになったけれど、

「働きすぎてクタクタなので、爆睡します!」
と、精一杯おどけて見せた。



*******************


酒癖わりぃ客をなんとか部屋へ返し、ようやく牧野が待つ部屋へ戻ると、そこはもぬけの殻だった。

「待ってろ。」
と言ったはずなのにいない。

慌てて部屋を出てロビーや中庭を探していると、
「まだ部屋に戻ってなかったの?」
と、滋の声。

「明日も早くからゴルフでしょ?
もう寝たら?」
そう言って俺に近付いてくるなり、
「それとも今から彼女とデート?」
と、意味深な顔で聞いてくる。

「あ?」

「あの噂は本当だったみたいね。
本社の社員と婚約したっていう噂、最近は全く聞かないから嘘だと思ってたけど、あんな司見たら信じないわけにはいかないわ。」

滋の言っている意味がわからず
「何のことだよ」
と、聞き返すと、
「フフフ………あたし見ちゃったもんね~…」
と、薄気味わりぃ笑い。

「さっき彼女とメープルの小路で言い争ってたでしょ。」

「見てたのかよ。」

「ううん。」

「あ?」

「滋ちゃんが見たのはその先。
言い争う声が聞こえて近付いてみたら、あらやだっ、道明寺司の濃厚ラブシーン。」

「……てめぇ」

「司もあんなことするんだ~。
見てるこっちが恥ずかしくなるくらいやらし~いキスしちゃって。」

「うるせぇっ!」

「まぁ、仕事中は少し控えてもらえると助かるわ。
それと、近々あたしにも彼女紹介してよ~。」


からかうだけからかいやがって、滋は西館のエレベーターへと消えていった。

それにしても、あいつはどこに行ったんだよ。
焦る気持ちで俺は邸のある部屋番号へ携帯を鳴らした。


「もしもし、タマか?」

「坊っちゃん。どうされました?」

「こんな時間に起こしてわりぃ。
あのよ、…………」

どう話せばいいか迷う俺に、
「つくしですか?」
と、タマが聞いた。

「っ!……あいつそこにいるのか?」

「ええ。少し前に邸に戻ってきましたよ。
つくしと何かあったんですか坊っちゃん。」

「…………。」

「あんまりつくしを苛めないでやってくださいな。
疲れた顔で帰ってきて、寝るから明日は起こさないでくれって部屋に入って行きましたよ。」

この時間にタクシーを飛ばしても邸までかなりかかる。
あの疲れたはずの体で帰ったかと思うと胸が痛い。

「分かった。
明日はゆっくり休ませてやってくれ。」

俺はタマにそう伝えると電話を切った。

早く帰って牧野に会いたいが、あと数時間後には招待客を連れてゴルフに回らなければならない。
そのあとも夫人たちをもてなすワインパーティーが待っている。

せめてあいつが起き出す頃、電話でもしようかと思ったが、今更ながら牧野の携帯番号さえしらない自分に腹が立った。



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 2016_08_26






遠い昔の『初体験』も、若い頃に経験した一夜だけの関係も、そのどれもが俺の記憶にはほとんど残っていない。
相手がどんな女で、どこで知り合いそうなったのか、そんなことは重要ではなく、ただ欲求に従っただけの無意味な時間。

そんな経験しか味わったことのない俺にとって、牧野と体を合わせたこの時間は心の底から満たされるものがあった。

優しくしたいと思う反面、もっと乱れさせたいと男としてのエゴからか、無理をさせた自覚はある。
短時間に立て続けに2度も求め、全身に唇を這わせ、体位も何度も変えた。

そして、ようやく満たされたあと一時間ほど眠っただろうか、かすかに鳴り響く携帯の音で目が覚めた俺は、隣で眠っている牧野を起こさないよう気を付けながら、脱ぎ捨てたスーツから携帯を取り出した。

着信3件。どれもが西田から。
チッ…………。
パーティーを途中で抜け出してこんなことになっちまったから、西田は相当ヤキモキしてるだろう。

仕方ねぇ、少しだけ顔を出してくるか。

そう思い、ベッドに眠る牧野の側まで近づくと、むき出しになったままの肩に小さくチュッと唇を寄せる。
そして、肩までブランケットをかけてやろうと思ったそのとき、シーツにわずかに残るその小さな赤いシミに気がついた。

ん?…………血か?

どこか怪我でもしていて、そこから付いたのか?
そう思ったが、ふと、さっき感じた違和感が頭を駆け巡る。

牧野の秘部に指を差し入れた時の異様な狭さや、挿入したときに見せた辛そうな顔。
前髪が張り付くほど額に滲んだ汗。

まさか…………、
いや、それはねーだろ。

そう頭で否定してみても、さっきまでの牧野の態度すべてがそうだと物語っているように感じてやまない。

マジかよ…………、
そう思いながらもう一度眠る牧野の背中に手を置くと、それと同時に俺のもう片方の手の中にある携帯が鳴り出した。

画面には西田の文字。
牧野を起こさねぇように慌てて取ると、西田が何か言う前に
「すぐに行く。」
と、だけ言ってやる。

「今どちらに?」

「部屋だ。」

「○○様が副社長と飲みなおしたいとお探しになっています。」

「……分かった。すぐ行く。」

明日も朝からゴルフなんだからさっさと寝ろと言ってやりてーところだが、そこはぐっと我慢して脱ぎ捨てた下着に手を伸ばすと、

「……道明寺?」
と、小さく俺を呼ぶ声がした。

「わりぃ、起こしたか?」

「……ん、寝ちゃったんだあたし。」

そう言ってブランケットを胸まで引っ張りあげた牧野はベッドに横になったまま俺の方を向く。

うす暗い部屋でははっきり分かんねぇけど、青白く見えるこいつの顔は疲れたように見えて、俺は迷ったが、こいつにさっき抱いた疑問をぶつけることにした。

「牧野、おまえ…………」

「…………なに?」

「もしかして、……初めてだったか?」

俺の問いが何を意味してるのか理解するまでに数秒かかったようだが、そのあと視線をそらして

「……うん。」
と、小さく答えるこいつ。

その答えを聞いて、俺はベッドに座ったまま思わず頭を抱えた。

「マジかよ…………はぁー……」
咄嗟に漏れる本音。

「ごめんっ、言うタイミングがなくてっ。」

「…………。」

「ごめん……。」

「バカっ、おまえが謝ることじゃねーよ。」


どこまで俺はバカなんだよっ。
初めから、感じた違和感をきちんと確認してやれば、こんな風に抱いたりしなかった。

初めてなら、初めてらしく、もっとやりようがあっただろ。
痛かったかもしれねぇ。
もっとゆっくり挿れてやればよかった。
慣れてねぇのに、何度も無理な体勢で揺らしちまった。

さっきまで満たされていた気持ちが一気に後悔へと突き落とされる。
戻れるものなら数時間前に戻って、もう一度優しく抱いてやりたい。

そう思うと、ますます自己嫌悪に陥る俺。
そんな俺のどん底な気持ちなんてお構いなしに、また手の中の携帯が鳴り出した。

「んだよっ!」
思わず怒鳴って電話に出ると、

「そろそろ戻ってきなさいよ。」
と、滋の声。

「分かってる。」

「あたし一人じゃ限界なんだから、遊んでないでさっさと来て。」

「すぐ行く。」

そう言って電話を切ると、ベッドに起き上がった体勢で牧野が言った。

「仕事でしょ?急いで行って。」

「…………ああ。
おまえは俺が戻るまでここで寝てろ。」


今はそれだけ言うのがやっとだった。
どうやって、こいつに謝って体を気遣ってやればいいか言葉が出てこない。
心底大事にしたいと思った女なのに、欲求のまま抱いた自分は今までと何も変わっていなかった。



「すぐ戻る。」
もう一度、牧野にそう告げて精一杯優しく頬を撫でた。



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 2016_08_25






エレベーターが上にあがるのを体に感じた頃、ようやくあたしは
『道明寺とキスをした』
という重大なことが飲み込めてきた。

スキンシップ禁止令が出されてる相手とあんなキスをして、今は手を握られたままエレベーターに乗っている。
この状況を考えれば考えるほど、頭は混乱して隣にいる道明寺の顔さえ見ることが出来ない。

そっと繋がれた手を離そうと、自分の方へ引き寄せてみると、それを感じたのか道明寺があたしを見つめて手に力をいれた。

目があった瞬間、あたしの胸が鳴る。

さっきまでの怒った顔ではなく、今はキスをした時に見た熱っぽい余裕のなさそうな顔であたしを見下ろす道明寺。
そんな目で見られると堪らなくてすぐに視線をそらすと、エレベーターが止まり扉が開いた。

無言であたしの手を引き、ひとつの階に一部屋しかないVIPルームの扉にカードキーをかざし、暗い部屋へあたしを入れた。




そこからはもう、……あまり覚えていない。

部屋に入るなり、さっきの続きのように唇を奪われ、あたしの、
「道明寺……」
なんて声もすべて飲み込まれ、気付いたら大きなベッドに組み敷かれていた。

そして、道明寺があたしを真上から見下ろし、
「これ以上、煽んなって……」
そう呟いたように聞こえたけれど、それを確かめることはさせてもらえなかった。

あたしの『初めて』がこんな形で来るなんて想像すらしてなかったけど、変に身構えることなく、変に緊張することなく、道明寺にすべてを委ねて時間が過ぎていった。




********************


パーティーが終盤になった頃、相変わらず視線の先にとらえていた牧野にピンチが訪れたことがわかった。

確か、あの客はフランス語しか話せねぇ奴だったな。

客に話しかけられ、戸惑っている牧野を見て助けに行ってやろうと体が動いたその時、牧野の後ろからやって来た別の男が牧野のピンチを救った。

その男を見た瞬間、あいつの顔がパッと華やき、嬉しそうに笑うのを見て、俺は苦々しい気持ちと同時に自分の別の気持ちに気づかさずにはいられなかった。

俺はあいつが好きだ。



そこからは暴走する自分を止められなかった。
客やスタッフがいない場所を探しメープルの小路へと入ると、モヤモヤとした気持ちを牧野にぶつけた。

「男の前でヘラヘラするな。
あいつが好きなのか?」

どこからどう見ても嫉妬にしか聞こえねぇ台詞を俺が吐くなんて。
そんな俺に、あいつが予想もしねぇことを言った。

「あんただって、滋さんとくっついてるじゃない。
滋さんが好きなの?」

自分が質問しておいて、こいつから同じ質問を返されると無性に腹が立つ。
んなわけねーだろっ。

俺が好きなのはおまえだ。

全身でこいつに分からせてやりてぇ。
余計な詮索をさせねーほど、こいつに教えてやりてぇ。

そう思ったら、咄嗟に体が動いていた。
メープルの木に体を押し付けるようにしてぶつけた唇。
勢い余って少し乱暴になったのを詫びるように牧野の手をとって絡めた指。

キスの合間の小さく漏れる吐息や、握った手にギュッと力が入る感触、一瞬唇を離した時に見た潤んだ目。
そのどれもが、俺の胸に響いて、
「こいつが欲しい」
と、全身が訴える。

その欲求に従うように俺の部屋がある西館のエレベーターへ牧野を乗せると、無言で部屋の階の番号を押した。


部屋に入ると、電気も付けずに牧野へ再び襲いかかる俺。
どんだけ余裕がねーんだと苦笑するが、さっきエレベーターの中で手を離そうとしたこいつを見て、逃がしたくねぇと思ったのも事実。

女にこんな感情を抱くなんて……。

エレベーターの中で目があったときのあいつの気間づそうな顔や、首や耳へキスをしたときに漏らした「道明寺……」という焦るような声。
そして、ベッドに寝かせ真上から見下ろしたときに見た、熱っぽい潤んだ目と俺の唾液で濡れた唇。

思わず、
「これ以上、煽んな……」
と、本音が漏れちまった。




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 2016_08_24







道明寺の声に振り向くと、そこには明らかに不機嫌顔のこの男。

「なっ、なに?」
思わずそう聞き返すあたしに、

「おまえはまだ仕事が残ってるだろ。」
そう言って、
「そう言うことで、飲みには行かねーから。」
と、西岡さんに勝手に断りの返事をする。

仕事が残ってる?
あたしに?
道明寺が何を言っているのか分からずフリーズしてるあたしなんて無視して、今度はあたしの手を引くとズンズンと歩き出す。

中庭を抜けて、もう暗くなったレストランの前を通り、メープルが立ち並ぶ小路を歩く間もあたしの腕を掴んだまま何も言わずに早歩きで進む道明寺。

ようやく、超VIP専用の宿泊部屋がある西館が見えてきた頃、
「ちょっと、……ねぇっ!どこにいくの?」
と、切れた息でなんとかそう聞くと、道明寺が立ち止まりあたしの方を向いて言った。

「おまえな、フラフラ男の誘いにのってんじゃねーよ。」

「……へ?」

道明寺が言っている意味も、なぜそんなに不機嫌なのかも理解できないあたし。

「こんな時間に誘われて、はい行きます、なんて軽々しく言うなバカっ。」

「はぁ?バカ?
なんであんたにそんなこと言われなきゃなんないのよっ!」

「おまえが大バカだからだろーが。
あいつと付き合ってるのか?
好きなのか?
あいつの前でヘラヘラ笑いやがって。」

そう言って頭をクシャクシャとかき混ぜながら、呆れたように大きくため息をつく道明寺。
そんな道明寺を見て、そこまであんたに言われる筋合いはないと、あたしも言わなくてもいい言葉が口をつく。

「あんただって人のこと言えないでしょ!」

「あ?」

「あんただって、滋さんの前ではデレデレしちゃって、あたしにはスキンシップ禁止とか言っておきながら、滋さんとはいつも一緒にくっついてるじゃない。
付き合ってるの?
滋さんが好きなの?」

たった今、言われた同じような言葉を道明寺に言い返す。
すると、怒った顔であたしの目を睨んだあと、あたしの肩をグイッと強い力で掴んだ。

その時、咄嗟に頭をよぎったのは、
……殴られるかも。

高校時代、目障りな人を次々と退学へと追いやったこいつ。
実際に暴力を振るったところは見たことがないけれど、気に食わない相手なら何でもするはず。

殴られるかも……と思ったあたしは、目をギュッとつむり身構えていると、そのまま肩を強く掴まれたまま後ろにあるメープルの木に背中を押さえつけられた。

そして小さく一言、
「俺の前だといつも怒ってんのに、他の男の前でヘラヘラしてんじゃねーよ。」
そう言ったあと、

あたしをメープルの木と道明寺の体の間に包み込み、突然激しく唇を重ねてきた。

何が起こったのか理解できないあたしは、目を見開いたまま猛烈に抗議するけど、あたしの腕は道明寺にとられ木に押さえつけられ、あたしの体は、器用にあたしの足の間に割り込んできてる道明寺の片足に拘束されて逃げ場を失っている。

重ねられた唇は、人生初めてのキスのあたしにとってどうしたらいいのか分からないほど長く激しくて、思わず握られた手にギュッと力が入ると、それを感じたのかようやく道明寺の唇が離された。

そして、そのまま至近距離の体勢で道明寺があたしの顎に手をおき、もう一度顔を上げさせられた瞬間、今度はさっきとは違う優しいキスが降りてきた。

何度も角度を変えて、まるであたしの唇の感触を楽しんでいるように軽く合わされるキス。
そして、押さえられていた手と、拘束されていた体は道明寺の腕の中に包まれ、まるで恋人通どおしの甘いキスのよう。

どれぐらいそうしていたか。
数秒なのか、数十分なのか、
初心者のあたしはそんな事を考えるほど余裕もなくて。
道明寺の唇が離された頃には、自分でもわかるほど体がほてり目が潤んでいた。

そんなあたしを見て少しだけクスッと笑ったあと、
「部屋にいくぞ。」
そう言って道明寺はフワフワとした体のあたしを西館のエレベーターへ押し込んだ。




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 2016_08_23






パーティー当日。


裏方に配置されたあたしは、ロビーからパーティー会場であるガーデンレストランへお客様への誘導を任された。
本社からの応援組とはいえ、リゾート施設の従業員と同じ制服に袖を通しているからには粗相は許されない。

緊張間が漂うなか、午後7時のオープニングパーティーが始まった。
華やかで優雅な招待客たち。それを眺めていると、まるで映画の世界のように別世界へと迷い込んだように感じる。
その中でも一際目立っているのが、

道明寺と大河原滋さん。

今日の主役とも言える二人は、パーティーのドレスコードとなっているパープルに合わせ、ドレスとスーツの胸元のハンカチーフを同色でお揃いにしている。
道明寺の腕に絡ませた華奢な滋さんの腕。
慣れたようにドレスとヒールを履きこなし、寄り添うように招待客へ挨拶をしている二人は、おとぎ話の王子と王女に見えて胸が痛い。

つい数日前、道明寺への気持ちを自覚したあたしには辛い光景で、逃げるようにロビーへ引き返し、仕事に没頭することにした。

そらから数時間後、招待客はレストランでの立食パーティーを終えたあと場所を移し、ブルーにライトアップされたプールとバーカウンターが配置された中庭へと移動した。

ここからは、遅くまでお酒で楽しむ人やプールで涼む人、部屋に戻ってゆっくり寛ぐ人など様々で、本社からの応援組であるあたしたちもやっと一息できる時間。
あと二時間もすれば予定の拘束時間も過ぎ、あたしたちは仕事を終え帰ることが出来る。

そんなとき、あたしは一人の招待客から声をかけられた。
見た目は30代半ばのイケメン。
ブルーアイズがあまりにも綺麗で、思わずその目に見とれてしまうほど。
でも、次の瞬間、「まずい……」と思った。

彼の口から出たのは英語ではなくフランス語だったのだ。
英語はなんとか話せるあたしでも、フランス語はそうはいかない。
挨拶程度なら交わせるが、男性の問いかけに耳も頭も付いていかない。

とりあえず、「sorry」とだけ伝えフランス語が出来るスタッフをキョロキョロと探すが、さっきまでいたはずの頼りになるスタッフが席をはずしてしまっている。

どうしよう…………。
でも、このままではお客様に失礼になる。
なんとかジェスチャーで男性を近くのソファへと案内し誰か応援を呼んでこようと思ったとき、
「牧野さん、どうかした?」
と、あたしの後ろで聞き覚えのある声がした。

「西岡さんっ!」
驚ろくあたしの目の前にいたのは、出張に行っているはずのうちの課のエース、西岡さん。

「どうしてここに?」
と、聞きたいところだけど、その前に、
「フランス語のお客様なんですけど、西岡さんお願いできますか?」
と、言うと、
「OK、任せて。」
と、心強い言葉が返ってきて、心底ホッとした。

さすが西岡さんは頼りになるだけあり、英語もフランス語もペラペラ。なんなくお客様の対応を終えあたしの隣に戻ってきた彼に、
「ほんと助かりました。」
と、頭を下げると、大丈夫だよとにっこり笑ってくれる人柄にも癒される。

「どうしてここに?」

「出張が早く終わったから寄ってみたんだ。
来てよかったよ。牧野さんの手助けできて。」

「ほんと、助かりました。
ありがとうございます。」

そう言ってもう一度頭を下げたあたしに、
「良かったらこのあと飲みにいかない?
飛行機降りてまだ何も食べてないんだ。
あと30分でここ終わるから、食事に付き合ってくれないかな。」
と、思いがけない西岡さんからのお誘い。

確かに時計をみればもう10時半を過ぎている。
本社組は11時までの手伝いだからあともう少しで上がれる時間だ。
それに、7時からのパーティーにあわせてあたしたちも夕食は6時前の早い時間に済ませていたので、そろそろお腹の虫がなり始める頃。

明日はお休みだし、今日はこのあと少し飲んでも構わないか。
そう思ったあたしは、返事を待つ西岡さんに、
「そうですね、あたしもそろそろお腹がすいてきた頃なので、ご一緒しま…………」

最後の「す」という言葉を発する前に、突然あたしの後ろで、
「勝手に帰る話、してんじゃねーよ。」
と、不機嫌な声が響いた。




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 2016_08_22




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プロフィール

司一筋

Author:司一筋
花より男子の二次小説サイトです。
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