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道明寺邸で暮らすようになって一ヶ月が過ぎた。

今までとは別世界の生活に戸惑うことばかりで、未だに慣れることはない。
でも、タマさんはじめ、邸の方はみんないい人ばかりで、この生活に孤独感はない。

強いて言えば、この邸で生まれ育った道明寺の方が孤立していてタマさん以外誰にも心を開いていないように見える。

あたしも、初日に道明寺から言われた
『お互い干渉しないこと。』
それは、徹底的に守っている。

なぜなら、この人と深く関わるつもりはないから。

社長からは1年間道明寺と向き合って欲しいと言われたが、どうしても無理なら諦めるとも言われている。
そして、あたしの答えはすでに決まっている。

道明寺司という男を恋愛対象、もしくわその先の結婚相手としてみることはどうしても出来そうにない。
だから、時期をみて社長には正式にお断りさせていただこうと思っていた。






そんなある日、道明寺の意外な一面を見た。

この邸から近いうち出ていくとは分かっていても、どうしても耐えられなかったあたしの部屋のアンティーク時計。
それを変えて欲しいとお願いしたら、意外にもあっさり引き受けてくれた。

『あり得ねぇ』なんて言いながらも、スーツの上着を脱ぎ脚立に乗る姿は、今までのこいつのイメージとはかけ離れてて、悔しいくらい様になっていた。

元々、容姿は誰もが認めるほど完璧で、それは間近で見れば見るほど欠点が見つからない。
超陰険な性格さえ直せばいい男なのは間違いない。

だからか、こうして優しい一面をみると、『悪い奴じゃないのかも……』なんて思うけど、
あたしの部屋から出ていく間際に、
「おまえのその格好、色気のいの字もねーな。」
と、鼻で笑って行くあいつをみて、
やっぱりあの男だけは無理っ!と心の中で思いっきり叫んでやった。





それから、2週間後の日曜日。
兼ねてから用意を進めてきた弟の進の結婚式が小さな教会で行われた。

お互いの親族と、ごく近い親友のみの小さな式。
高校時代からの付き合いなので、互いの両親も打ち解けていて、終始和やかなムードで時間が過ぎていく。

そして、場所をレストランに変え食事会。
二人の幸せそうな顔をみると、結婚への憧れは募るけど、現実はかけ離れたもの。
進と彼女の顔を、道明寺とあたしの顔に置き換えて想像してみたりして、一人で首をブンブン振ってるあたしに、主役の進が近付いてきた。

「ねーちゃん、何してるの?」

「えっ?いや、何でもない。
進、おめでと。良かったね。」

「ありがと。ねーちゃんのお陰だよ。」

そう言ったあと、なぜか進があたしの腕を引き壁際まで連れて行く。

「ん?なに?」

「ねーちゃん、あのさ。」

「ん?」

「今日、教会にご祝儀届けてくれた人がいるんだけど、それが、道明寺さんの秘書の方らしくて。」

「えっ!道明寺の?」

思いがけない事実に驚くあたし。
だって、進の結婚式の話なんてしたこともなかったし、社長にも式はあげないからと嘘までついていたのに……。

「それでさ…………、」

「なによ?」

言いにくそうにしている進にせっつくと、

「実はそのご祝儀なんだけど、」


その先の言葉を聞いて、あたしは言葉を失った。
ご祝儀といえば高くても5万や、10万の世界で生きているあたしにとって道明寺が持ってきたご祝儀は桁違いの大金だったのだ。

「ねーちゃん、俺、受け取れないよ。」

「当たり前でしょ!」

「ねーちゃんから返してくれないかな。」

「…………分かった。あたしから返しておく。」


そう進に言ったあと、
「住む世界が違うっつーの!」と、
あたしは、めでたい席で悪態をついた。




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 2016_07_30






牧野にブラックカードを渡してから10日。
俺は毎日会社のデスクで首を捻る日々が続いている。

あれだけ、好きなものを買って構わない、干渉しないと伝えたのに、未だに一度もカードが使われていない。
今日もパソコンでカードの明細を調べてみると、相変わらず使用金額0の文字が虚しく並ぶ。

あいつの本性を暴いてやろうと企てた計画に全く引っ掛かってこない事への苛立ちと、ますます俺の想像圏外を走るあいつの不思議さに、久しぶりに仕事以外で頭を抱えた。




そして、カードを渡してから2週間がたったある日、いつも同様10時を過ぎて邸に戻り自分のベッドルームへ入ろうとしたその時、
「道明寺っ。」
と、背後から呼び止められた。

振り向くと、牧野が自分の部屋から顔を出している。

「ちょっといい?」

「なんだよ。」

そう答える俺に、素早く近づいてきて目の前に手を差し出した。
その手には俺が渡したカード。

「やっぱり使わないから返す。」

「あ?」

このカードが使われることを今か今かと待ちくたびれてる俺の気も知らず……。

「これが財布に入ってると財布が重いって言うか、緊張するって言うか……。
どう考えても必要ないし、あたしのカードでも限度額100万はあるから、いざというときはそれで十分だから。」

「…………。」

「その代わりって言ったらなんなんだけど、
ちょっとお願いしたいことあって…………。」

そう言って珍しくモジモジとしおらしいこいつ。
そういうことか。
金以外で欲しいものがあるってことか。

やっと本性をさらけ出すか…………、
そう思って思わずニヤリと顔が緩んだ俺に、

「あのね、ちょっと手を貸して欲しいの。」
と、意味不明な言葉を放つこいつ。

「あ?」

「あっ、今じゃなくていいし、今度の休みの時でいいんだけど、」
慌ててそう付け足すが、ますます理解できねぇ。

「何が望みだ?」

「望みってほどのことじゃないんだけど、
ちょっと………、こっちに来てくれる?」

そう言って返事をする間もなく俺の腕をつかみ自分の部屋へと連れて行く。
過剰なスキンシップはするなとか、部屋には立ち入らねーとか、言ってやりてぇ文句は山ほどあるが、頭1つ分ちいせぇこいつにグイグイ引っ張られてあっという間に牧野の部屋へと押し込まれた。

そして、「あれなんだけど。」と、こいつが指差したのは壁にかかる時計。

「時計がなんだ?」

「カチカチ、うるさいでしょ。」

俺のとなりで時計を見上げ、腕を組ながらそう呟くこいつ。

「何が言いてぇんだよ。」

「だから、あの時計がね、カチカチと一秒一秒部屋に響いて、気になって寝れないの。
タマさんに聞いたら、凄く古い時計で昔どこかの王族の方に頂いた貴重なアンティークだってことは分かったんだけど、申し訳ないけどあたしこういう秒針の音って苦手で。
自分の家から持ってきた安い時計があるから、それに付け替えたくてやってみたけど、どうしても届かなくて。」

そう言って時計を見上げていた顔を俺に向ける。

「……それで?」

「だから、」

「俺にやれってことか?」

「正解っ!」

ふざけんな。
何が嬉しそうに正解っ!だ。

「それぐらい使用人に頼め。」
そう言って嬉しそうなこいつを尻目に部屋を出ようとする俺を、

「ちょーっ、待ってよ。
使用人の方もみんなトライしてくれたけど、無理だったのっ。
タマさんは業者の人に頼むって言ったけど、こんなことでわざわざ来てもらうのも申し訳ないし、
この邸で一番身長高い人って言ったらあんたでしょ。
脚立も借りてきてるから、お願いっ。」
そう言って逃げないようにまた俺の腕をつかむこいつ。

女からの『お願い』は、高い車か宝石かなんて考えしかねぇ俺に、こいつの『お願い』は相変わらず規格外。

「……マジかよ。」

「マジ。」

「俺のことをこき使うなんてマジあり得ねぇ。
高くつくぞ。」

金を使わせたくて企てた計画が、逆に金を貰うようなシチュエーションに変わるなんて。

スーツの上着を脱ぎ隣のこいつに手渡すと、
「今する?」
なんて、ちょっと驚いた顔で見つめてきやがる。

「ああ。仕事は先に伸ばさねぇ性格なんだよ。」
それだけ伝え、壁にかけてある脚立に手を伸ばす。

ただでさえ高い天井のつくりにしてあるこの部屋。
その壁に取り付けられたアンティーク時計は高価なものだけあって頑丈に留められている。

脚立の3段目にのぼりなんとか時計を取り外し、こいつが持ってきたと言うすげぇ軽い時計を取り付けてやった。

「ありがと。」

その壁に取り付けられた安そうな時計を見上げ、嬉しそうにそう呟く牧野。
俺にスーツの上着を返しながら、
「助かった。ほんと、ありがとう。」
というこいつをみて、
俺は不思議な感覚に襲われる。


俺の政略結婚をする相手は、
とんでもなく、俺の予想とは真逆の女かもしれねぇ。



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 2016_07_29






あの女の本性を暴く。
その目的のために、今日の俺はいつもより一時間早く起床し、ダイニングルームへ向かった。
俺の予想通り、そこには朝食を食べる牧野の姿。

俺が入っていくと、使用人たちがギョッとした顔で慌てて朝食の用意をはじめ、タマは、
「今日は随分と早いお目覚めですね。」
と、朝から嫌みたっぷりで出迎えた。

それを無視して俺は牧野の正面に座ると、俺のことをチラッと見た後、
「おはようございます。」
と言うこいつ。

「……おう。」
俺はそれに答えた後、
「……おまえに渡すもんがあるから、部屋に戻ったらリビングで待っててくれ。」
そう伝え、タマが運んできたコーヒーに口をつける。

「あたし、すぐに出勤しなくちゃならないんで、夜でもいいです?」

「夜は俺が遅くなる。」

「なら、明日で。」

「急ぎの用だ。」

「…………わかりました。」

お互い視線を合わせることなく交わされる会話。
こいつがこの邸に越してきた日に話して以来、2週間ぶりだろう。

朝食を終えた牧野は、バカ丁寧に使用人たちに挨拶をしてダイニングを出ていく。
それを見送ったタマが俺の側まで来て、
「もう少し婚約者らしい会話は出来ないものでしょうかね。」
と、今日2発目の嫌味。

「うるせぇ。」

「そんな態度だと、あっという間に彼女に逃げられますよ坊っちゃん。」

「ふん…………。」

タマの言葉を鼻で笑う俺に、

「タマは、坊っちゃんには悪くない相手だと思いますけどね。」
と、言い、
「早くしないと彼女、出勤ますよ。」
と、俺の手からコーヒーカップを奪い取った。







部屋へ戻るとリビングに出勤準備を整えた牧野が待っていた。

「あと5分しか時間ないから早く。」
と、俺の顔を見るなり急かす。

「あ?まだ出勤時間まで余裕あるだろ。」

「今日、朝一で外勤だから、その前に打合せしたいことあるし。」
と、腕時計を見ながら険しい顔。

そんなこいつに、俺はポケットから財布を取り出すと、その中からカードを1枚出し牧野へ差し出した。

「おまえの自由に使え。」

「……は?」

「支払いは俺の口座から引き落とされる。
限度額も無制限。
何を買っても干渉しねぇから、おまえの好きに使え。」

そう言って渡したカードを、しばらく見つめた後、こいつの口からは、
「いらない。」
と一言。

「あ?」

「必要ない。あたし、自分のカード持ってるし、普段は現金派だから滅多にカードは使わないから。」
と、言い捨て鞄を肩にかけ出勤モードに入る。

「待てって。
自由に使っていいんだぞ?
食事も買い物もこれだけあればどこでも使える。」

そう言って顔の前にカードを付き出してやっても、
「いらないって。」
と、そっけねぇ。

相変わらずこの女はわかんねぇ。
俺名義のブラックカードを拒否する女がこの世にいるのか。
金が有り余ってる女ならまだしも、給料ギリギリの生活をしてる女に断られたくねぇ。

「……ババァ、いや、お袋からおまえに渡せって言われてんだよ。」

「……社長から?」

「ああ。」

咄嗟に出た嘘に牧野が食いついた。

「婚約者としてパーティーや食事に誘われる機会も増える。
その時に現金の持ち合わせがねぇってことにはならねーだろ。
予備だ、予備として持ってれ。
さっきも言ったように、おまえが何に使おうが干渉しねーし、どれだけ使っても困らねぇぐらいの金はある。
だから、財布にいれとけ。」

そう言ってもう一度手渡すと、

「…………憎たらしい男。」

と、聞こえるか聞こえないかの呟きを残し、
牧野はカードを受け取り部屋を出ていった。



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 2016_07_28






あの女と同居生活がはじまり2週間。

初日に釘を指したように、お互いプライベートに干渉するどころか、ほとんど顔さえ合わせていない。

たが、実生活では干渉しないが、裏では違う。
あの女の正体をわずかでもいい、把握しておきたい。
俺は西田に頼み徹底的にあの女について調べることにした。
以前渡されたババァからの資料だけでは何も分からなかった。

結果、交遊関係、趣味、嗜好、ギャンブルの有無、過去の男関係まで調べたが、これといって弱味を握れるような情報もなければ、目立つ行動も得られなかった。

だが、ただひとつ、気になることがある。
金の流れだ。

一流企業である道明寺HDは他と比べてもかなり給与がいいはずで、派手な生活を全くしていないあいつにとって、十分すぎるほどの額だ。
それなのに、通帳の残高だけを見れば毎月ギリギリの生活をしている。

そんな生活が1年ほど前からはじまり、毎月10万近くを決まって給料日に引き落としている。
貯金はそれ以前にしていた100万弱の口座だけ。
その貯金も同時期から一円も増えていない。
普通にいけば余るはずの金を、あいつはどこに流してるのか。

男か…………。



その疑問が解けたのはそれからしばらくしてからだった。
西田がある情報を掴んできた。

あいつの弟が結婚するらしい。
就職して1年目のでき婚。
専門学校を出て飛行機の整備士になった弟は、学生時代から付き合ってた彼女と来月結婚式をあげる。

「それがあの女の金の流れとどう関係してる?」
西田に聞き返す俺に、

「牧野さんの友人から聞いた話によりますと……、」


西田の話はこうだ。
突然のでき婚で牧野の両親も結婚資金の蓄えがなかった。
身内だけの式を挙げるといっても100万はかかる。
そこで、金融機関からローンを組みなんとか式を挙げることにしたが、牧野はそれを知って自分が返済を肩代わりすると申し出たらしい。

牧野は高校から大学まで英徳に通わせてもらい、弟は結局専門学校に進んだ。
弟に言わせれば、自分の行きたかった道だと不満はなくても、牧野からすればいつも申し訳なく思っていたのだろう。
そして同時に、両親への親孝行にもなる。

月10万の決して楽ではない返済を1年間続け、自分の生活はギリギリで抑えてきた。
そして、来月に弟は式を挙げる。




西田の話を聞いて、後味がわりぃ。
ボロを暴こうとしてやった調査だったが、知らなくていいことまで知っちまった。

自分の政略結婚をする相手は、真逆の女だと昔から想像していた。
どこかの会社の令嬢で、生まれたときからなに不自由なく暮らしてきた。
金に困るような経験は一度もしてこなかったはずなのに、更に金を求め道明寺の名を欲する。

そんな女と結婚するんだろうと想像していたが、あいつは真逆の女だった。
婚約してから2週間、一度も金の話は出ていない。
その間にも、10万の返済を続けているあいつ。


「ますます分かんねぇ。」
そう呟いた俺は、ふと、あることを思い付いた。

本性が掴めねぇなら、こっちからおびき出してやるしかねぇな。



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 2016_07_27






どうしてこんなことになってしまったのだろう。


到底くつろげるはずもない大きな部屋のソファに座り呆然とするあたし。

突然のお見合い話はたったの一週間で同居にまで進展してしまった。
マンションの前はマスコミの取材陣でごった返し、実家も包囲されている。

あそこならと、優紀の家に逃げ込もうとしたが、そこもダメ。
行き場を失い途方にくれたあたしに道明寺の秘書だという西田さんが声をかけてきた。

『道明寺邸で奥さまがお待ちです。』

そうして連れてこられた場所がここ。
あたしと道明寺の為の新居だというこの部屋はリビングだけでも信じられない広さ。
そして、対面式のキッチンとミニバーのような空間も。

そのだだっ広い部屋でポツンとソファに座るあたし。

さっき社長が来て言った。
『婚約期間は1年。
私を助けると思って、司と付き合ってもらえないかしら。
途中、どうしてもあなたが無理だと思ったら、その時は潔く諦めるわ。』

それは、あたしが今まで知っている社長の顔ではなく、一人の母親としての顔だった。
社長の唯一の汚点であるあのバカ息子が、ここまで社長を苦しめている……そう思うと、『無理です』という喉まで出ていた言葉をどうしても吐き出すことが出来なかった。

それに、さっき電話したときのパパとママの反応!
『つくしっ、どうして黙ってたのよこんな重要なことっ!
道明寺さんとお付き合いしてたなんて~。
婚約したってことは、もちろん結婚するのよね?
そしたら、道明寺つくしになるのよね?
キャー、パパっ、大変よっ!
つくしがほんとのシンデレラになるのよ~。』

そんなハイテンションの両親に、本当のことが言えず電話を切った。
とにかく、この悪夢から早く目を覚ましたい。
ベッドに入り一晩寝れば、きっと悪夢は終わっているはず。

そんなことを思いながら、あたしはゆっくり立ち上がり、広いリビングの隣にある部屋の扉を開けてみた。

そこはベッドルームだった。
たぶんキングサイズのベッド。
間近では見たこともない大きなベッドに艶のある寝具。

思わず、「凄い……」と呟いたあたしの後ろで、

「おい。」
と、声がした。

驚いて振り向くと、いつのまにかそこにはスーツ姿の道明寺。
ネクタイを緩めながらあたしを睨んでいる。

「どけっ、邪魔だ。」

「あっ、……ごめん。」

言われるがまま扉から離れたあたしに、
「人の部屋、勝手に覗いてんじゃねーよ。
おまえのベッドルームはあっち。」
そう言ってリビングを挟んで反対側の扉を指差す。

そして、完全にネクタイを首から外すとあたしに向かって言った。

「俺はおまえのプライベートに興味はねーから、おまえも俺のプライベートに首を突っ込むな。
お互いの部屋には絶対入らねぇ。
リビングも俺が帰ってくる夜10時以降は使用禁止だ。」

「…………。」

「それと、過剰なスキンシップはやめてくれ。
パーティーの時に腕を組む以外、俺に触るな。」


そう言って、ベッドルームへ消えていく道明寺。
残されたあたしといえば、

何が起こったのか理解するまで30秒。
そして理解した後は、目の前の扉に一発蹴りをいれた後、

「それはこっちの台詞だっつーの!
スキンシップ?誰があんたとするかっ。
こっちから願い下げよっ!」

そう言い捨てて、自分のベッドルームへとズンズン歩き出した。




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 2016_07_26







それにしても、おかしな女だった。

レストランでの顔合わせ。
ざっと見た感じ、事前に資料にもあったように、どこから見ても普通のOL。
シンプルな服装と装飾品は時計だけ。
靴や鞄もブランドものではなかった。

そして、帰りの車でのあの発言。
思い出して、おもわず笑えてくる。
見合い?
バカかあいつは?

自分のおかれた立場がこれっぽっちも分かっちゃいない。
ババァとどんな話のやり取りがあったかなんて知らねぇけど、ババァがその気なら、この結婚は決まったようなもの。

それに、
俺はあの女が気に入った。

何が不満なのかは知らねぇけど、あいつもこの結婚を喜んでいないことは態度で分かる。
自分が俺の相手に選ばれたと喜び、ベタベタとまとわりつく勘違い女だったらこの先の結婚生活に支障が出るが、あの女ならその心配はなさそうだ。
お互い干渉せず、戸籍だけの関係でいられるだろう。




レストランでの顔合わせから3日後、ババァからオフィスに呼び出された。
開口一番、
「どうやら相当嫌われてるようね。」
と苦笑混じりに言ってくる。

「あ?なんのことだよ。」

「牧野さんよ。
あれから毎日のようにこの話はなかったことにしてくれって言ってきてるわ。」

「ふん……図々しい女。」

泣いて喜ばれることはあっても、断られる筋合いはねぇ。

「彼女、かなり頑固なところがあるようで、このままでは平行線のまま。
順番が逆になるけど、次の手に打つわ。」

ババァはそう言って俺をじっと見つめた後、
「今日にもマスコミに情報を流します。」
と言った。

「マスコミに?」

「ええ。
正式なものではないけれど、わずかな情報でも食いつくはず。
そうすれば、牧野さんも今の生活は続けられなくなり、邸で過ごす方が楽なはずよ。」

なるほど。
嫌がるあいつを邸におびき寄せるっつーわけか。
それにしても、どうしてババァはここまで……

「あの女にどんな秘密がある?」

「どういう意味かしら。」

「俺が見た資料にはどこにもあいつと結婚するメリットは見つからなかった。
それどころか、イメージダウンにもなりかねない。
それなのに、どうして。」

他にどんな秘密を隠してる?
そう思いながらババァに問う俺に、
フッフッフッ……と笑った後嬉しそうに言った。

「目に見えるものがすべてじゃないわ。
目に見える財産もあれば、見えない財産もある。
あの子が持っているものは、あなたが持っていない唯一の財産かもしれない。」

そう意味不明なことを言った後、

「婚約期間は1年。
その間に、どうしても彼女の気持ちが変わらなければ私も諦めます。
すべてはあなたに懸かってるわよ。
楽しみにしてるわ。」

そう言って立ち尽くす俺を置いたままババァは部屋を出ていった。



その日の午後、昼からのワイドショーを狙ったかのように俺の婚約話が世間を賑わした。
相手は英徳高校のひとつ後輩で、道明寺HDの社員。
実家はごく一般的なサラリーマン家庭。
この条件に当てはまる人物を探し出せば、あの女にしか行き当たらないというババァの巧妙な情報操作。
そして、こういう話が大好きなマスコミ連中はこぞってあいつのシンデレラストーリー騒ぎ立てた。





レストランでの顔合わせから5日目の週末。
マスコミに実家もマンションも張られて行き場を失ったあいつが邸に越してきた。

そして俺たちの一年間が始まった。





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 2016_07_25






動揺を隠しきれないあたしに対して、目の前の親子は何事もなかったように食事を進めていく。

「牧野さん、お口に合わないかしら?」

次々と運ばれてくるコース料理を大方残したままお皿が片付けられていくあたしに社長がにっこりと笑いながら聞いた。

「い、いえ、すごく美味しいです。」

「そう?良かった。
ここのシェフは私の知り合いなのよ。
NYに本店があって、ここの味が恋しくなったらNYまで行かなくちゃならなかったけれど、昨年日本にもお店を出したからいつでも食べたいときに楽しめるようになったわ。」

「……はぁ。」

あたしが聞きたいのはそんな話じゃない。
社長はこのお見合いをどういうつもりでセッティングしたのだろう。
仮にあたしがこの話に乗ると言ったら、あたしを家族として受け入れるというのだろうか。

考えれば考えるほど、答えが見つからない。
当の道明寺司本人は一言も口を開かずあたしと目を合わせようともしない。
この態度こそが、このお見合いに対するこの男の答えなんだろうと、あたしは少しだけホッとした。


味も会話の内容もほとんど分からないまま約一時間の食事が終わり店を出ると、店の前に2台の車が待っていた。

その1台に社長が乗り込みながら、
「私は予定があるからここで失礼するわ。
司、牧野さんを自宅まで送ってあげて。
牧野さん、今後のことは司に話してあるから司から聞いてちょうだい。」
そう言って軽く片手をあげて車へと消えていった。

それを唖然と見送っていたあたしに、後ろから
「おいっ。」
と声がかかった。

「……え?」

「さっさと乗れよ。」

「…………。」

「モタモタしてると置いてくぞ。」

そう言って自分はすでに車に乗り込んでいるこの男。
置いていってもらえるとこちらとしても有り難い。
でも、あたしが乗り込むのを扉を開けて待ってくれている運転手さんがいる。

仕方なく渋々車に乗り込むと、道明寺はもうすでに何かの書類に目を通しながらあたしの存在は無視。
そっちがその態度なら、こっちだって好き好んで話したくもない。
車が動き出した後も窓の外に視線を泳がせ早くマンションに着かないかとその事ばかり考えていた。

車が動き出してから10分ほどたったとき、
「おまえペットは飼ってねーよな?」
と道明寺から突然の質問。

「え?……飼ってないけど。」

「じゃあ、特に内装の必要はねーな。
いつぐらいに越してくる?」

「…………は?」

全くといっていいほど会話の意図が理解できない。

「ババァの話だと、いや、お袋の話だと来週にはマスコミに婚約を発表する予定だ。
マスコミに知られれば今まで通り生活するのは無理だろな。
だから、発表の前に邸に越してきた方が俺的にも煩わしい問題が減るから、そうしてくれ。」

婚約……マスコミ……引っ越し…………。
この男は何を言っているのだろうか……。

「引っ越し……?……誰が?」

思わずそう口にしたあたしに、今日はじめてこの男は目を合わせた。

「……おまえとダラダラ話してる時間はねーんだよ。
引っ越しは今週末ってことでいいな。
俺は仕事でいねぇから、帰ってくるまでに自分の部屋に荷物片付けておけ。」

「………………。
え?……ちょっと待って、引っ越しって、なんで?あたしが?」

「…………。」

ようやく少しだけ話が読めてきたあたしは、もう一度道明寺にそう聞くと、もうこの人は書類に視線を落としあたしの話なんて聞いていない。

「ねぇ、ちょっと、…………道明寺っ!」

完全に無視するこいつに思わず怒鳴るあたし。
すると、最後の呼び捨てが効いたのか再びあたしの方を見た。

「どういうことかちゃんと説明してよっ。
あたしはあんたとお見合いをすることに同意はしたけど、婚約とか引っ越しとかそんなの全然聞いてないっ。」

そうまくし立てるように言ったあたしに、なぜかこの男はクックックッ……と笑い出した。

「おまえ、頭おかしいんじゃねーの?
見合い?バカかっ。」

「は?」

「そう思ってるのはおまえだけだ。
もうすでに俺とおまえは婚約したも同然。
あとは発表待ち。」

「どーしてそうなるのよっ。
今日はじめて顔を合わせてまだ一時間しかたってないのに。」

「1時間だろーが、1分だろーが関係ねーよ。
ババァがおまえを俺の結婚相手に選らんだっつーことは、もう逃げられねぇってこと。」

淡々とそう話すその内容は現実味を全く帯びていないのに、その世界へとズルズルと引き連れられていく恐怖心だけが残る。

「あんたはそれでいいの?
こんな時代遅れな結婚なんて。」

昔、死んだ祖父から聞いたことがある。
祖母とは19の時に見合いをし、次に会ったのは結婚式当日だったと。

「時代遅れ?
クックック……おまえこそなんにも分かってねーな。」

「え?」

「俺らの世界じゃこれが当たり前だ。
結婚はビジネスでしかねーからな。
お互い余計な詮索はしねーで、利益だけを考えよーぜ。」


利益…………、
この男がいう利益とはなんだろう。
あたしにとってこいつと結婚する利益、そして、こいつがあたしと結婚する利益。

どう考えても……見つからない。

そうこうしているうちに、車はあたしのマンションの前に。
運転手さんが素早く扉を開いてくれて、まだまだ話したいことがあるのに、降りなきゃいけない雰囲気。

でも、この男とはこれ以上会話にならないと判断したあたしは、車をおりた。
すると、そんなあたしに道明寺が言った。

「週末、業者に荷物運ばせるから、用意しとけ。」




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 2016_07_24







いつかはこの日が来るだろうと覚悟はしていた。
だから、ババァから電話で
『あなたに会わせたい女性がいる。』
といわれた時、とうとうこの時が来たかと妙に冷静な俺がいた。

生まれたときから道明寺財閥の跡取りとして育てられ、人生に選択の自由なんて与えられていなかった。
その事に反発して荒れた時期もあったが、今はこの運命に感謝してる。

親父とお袋から受け継いだDNAは健在で、仕事においては自他共に認めるセンス。
道明寺HDの副社長に就任して以来、かなりの大きな仕事もこなしてきた。

そして、自分の身を道明寺に捧げると決意してからはこの日が来るのを覚悟していた。
それは、政略結婚。

その事に俺自身なんの不満もない。
会社のためになるなら、ベストな方法だ。

元々、女に対して興味はない。
物心付いたときからいずれ俺は政略結婚すると分かっていたから、特定の女を作ることもしなかった。

……といえば聞こえはいいが、
実際は、27歳になる今まで本気で惚れた女などいなかった。
体だけ重ねても、顔も名前さえも覚えていない。

そんな俺のことを総二郎とあきらはいつもからかうが、そんなのどうだっていい。
どうせ俺に待ち構えてるのは、政略結婚なんだから。




ババァから電話で『会わせたい女性がいる』と言われた後、メールで相手の詳細が送られてきた。
そういうところも事務的で笑える。

そして、会議の資料でも開くような気持ちでそのメールを開き読み進めていくうちに、自然と眉間にシワがよる。

ん?
なんだ?
「これが俺の相手か?」
思わず口にしちまうほど、俺の想像とはほど遠い女のプロフィール。

職業はまさかの道明寺HDの社員。
実家がどこかの企業かと思ったが、聞いたこともねぇ中小企業のサラリーマンだ。

自宅も両親は都内の築15年の中古住宅で、本人は会社から駅6つの賃貸マンション。
どこにも不動産の情報がないということは地主でもないらしい。

読めば読むほど謎が深まる。
この女と結婚して、どんなメリットが?

でも、資料の最後にババァから、
『牧野さんには結婚の了承を得たので、○○日の7時に○○レストランに来るように。
くれぐれも失礼のないように。』
と、ババァの本気が伺える一文。

俺はその一文を読んで、はじめて相手が牧野という名だと知った。






*******************

あたしのメールボックスに2通目のメールが届いたのは、社長室に呼ばれてから3日後のことだった。

またしても、送信者は『社長室』
恐る恐る開いてみると、明日の7時に○○レストランで顔合わせをしたいと書いてある。

もちろん、それはこの間お願いされたお見合いの事だろうと分かり、はぁーーー、と思わず深いため息が漏れてしまった。

結局、お見合いの相手が誰かは聞けなかった。
でも、家に帰ってから冷静に考えてみると、社長の紹介で会う相手を無下に断ることが出来るだろうか。

断ること前提なのは申し訳ないけれど、自分の性格は自分が一番知っている。
恋愛体質じゃないあたしが、お見合いというシチュエーションから始まる関係を発展させる自信は全くない。

それでも、ここまで来たら行かないわけにはいかない。


次の日、メールにあったレストランへ時間よりも
大幅に早く到着した。
はじめて来る場所を確認しておきたかったし、はじめてするお見合いに体がじっとしていられなかった。

手持ちの一番上等なワンピースに身を包み、それに合う鞄は安いながらも会社の側にあるデパートで新調した。
せめて、社長の顔だけは潰せない。
粗相のないようにしなくては。



そして、待ち合わせの10分前。
レストランの扉を開け、道明寺の名を告げると、店の一番奥へと案内され、キャンドルが灯る丸テーブルへと案内された。

席は3つ。
ナイフやフォークがずらりと並ぶテーブルを見て必死にマナーの確認をするあたし。
そんなことに必死になっていたあたしの耳に、

「お待たせしたわね。」
と、社長の声が響いた。

「っ!いえ、あたしも今来たところで。」
そう言って慌てて立ち上がったあたしは、社長の隣にいる人物を見て、息が止まった。

…………道明寺 司?

何年ぶりだろうこの人を見るのは。
会社の副社長だというのに、実際に見る機会などなく、この人をなまで見るのは高校の卒業以来。

そして、あたしのこの人への印象は……最悪なものでしかない。
高校の時は、赤札という馬鹿馬鹿しい遊びを立ち上げ、弱いものを常に苛めていた。
幸いあたしはその餌食にはならなかったけれど、餌食になった学生が何人も学園から去るのをあたしは見てきた。

尊敬する社長の唯一の汚点といえば、この息子だろう。

そんな奴がどうしてここに?
いや、…………まさか…………、


必死にその疑問を打ち消そうとしているあたしに、社長は悪魔の宣告をした。



「牧野さん、あなたの婚約者になる道明寺司よ。」



その言葉に、あたしは一番端にあるフォークを床に落としていた。



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 2016_07_23






『牧野さん、結婚する気はあるかしら?』


社長室に呼ばれ、張り裂けるほど緊張していたあたしに、楓社長は思いもよらないことを聞いた。


「…………え?」

「あなたもそろそろ結婚適齢期よね。
お相手はいらっしゃる?」

「いえ…………いえいえ、……いませんけど。」

「そう?じゃあ、いい人を紹介するから結婚してみない?」

「へ?……いや、あたしはまだ、そのぉ、」

「何か問題あるかしら。」


何か問題あるかしら……って、問題大有りだっつーの!
まだ、恋愛さえもまともにしたことないっていうのに、突然『お茶でもどう?』なんてノリで『結婚してみない?』なんて冗談にも程があるっ。



「あのぉ、でも、まだ仕事を覚えたばかりですし、結婚は…………」

「大丈夫よ。仕事の方はこのまま続けて貰いますし、その方が私も助かるわ。」

「いえ、でも、…………来年弟の結婚を控えているので金銭的に、」

弟の結婚話を持ち出して暗に結婚は考えていないと伝えたところで、

「心配しないで。あなたは身一つで来てもらって構わないから。」

と、バッサリあたしの抵抗は切り捨てられる。

どうしたものか。
こんな話をされるなんて夢にも思ってなかった。
どうやって、この『見合い話』を断ればいいのだろう。

ん?お見合い……?
そういえば、さっきから社長の言葉に『見合い』という言葉は一言も出てきていない。
それどころか、すべてのハードルをなぎ倒して『結婚』と…………。


「あのぉ、社長。
その『お見合い』相手という方はどちらの方でしょうか?」

あえて、『お見合い』という言葉で質問したあたしに、社長は数秒あたしを見つめたあと、

「フフっ……フフ……アハハハハ……」
と、はじめて聞く甲高い声で豪快に笑った。

「あのー、……あたしなんかおかしなこと言いましたか?」

「アハハ……いや、いいのよ。
牧野さんって意外と古風なタイプなのね。」

「へ?」

「今時お見合いだなんて若い人でもやるのね。」

「…………。」

完全に話が噛み合わない。
見合いを進めるためにあたしをここに呼んだのは社長の方でしょっと突っ込みたくもなる。
でも、尊敬する人を前に、そんなことを言えるはずもなく、出来るだけ丁重に丁重に。

「社長、申し訳ありませんが、私はお見合いするつもりはありません。
仕事もようやく慣れてきたころですし、今は恋愛よりも仕事を、」

そう言って深く頭を下げたあたしに、
「牧野さん。」
と、社長の凛とした声が部屋に響いた。

「牧野さん、私はあなたがいいの。」

「……え?」

「あなたが英徳高校に入学してからずっとみてきました。
初めは一般入試で入ってきた成績優秀な子がいると理事長から聞いて興味を持ったのだけど、あなたの頑張りは私の想像を越えていたわ。
決して裕福なご家庭ではないのに、安くない英徳の授業料も自分で働いて大学までの7年間、苦労してやり遂げたのも見ていました。
そして、自らこの道明寺HDを選んでくれた。
私はあなたしかいないと思うの。」

「社長……」

まさか、社長が高校の時からあたしを見ていてくれたとは思ってもみなかった。
尊敬して追いかけて近づきたい、そう思っていたあたしの想いは一方通行ではなく、社長もあたしのことを見ていてくれた。
そして、『あなたしかいない』と言ってくれた。



「牧野さん、結婚のこと考えてみてくれないかしら。」

デスクに座ったままだった社長が立ち上がり、あたしと目線を同じにしてもう一度問う。

誰よりも尊敬して、誰よりも憧れてきた人に、
こうしてお願いされて、無下に断ることができる人はいるのだろうか。

あたしには……出来ない。


「……分かりました。よろしくお願いします。」




この言葉があたしの人生を大きく変えることになるとはこの時は思ってもみなかった。
形だけの『お見合い』をセッティングしてもらうことに了承して、お願いしますと頭を下げたつもりだったのに、この2週間後には、あたしはある人の婚約者として世間を賑わしていた。




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 2016_07_22



《新連載》






あたしには尊敬して止まない人物がいる。

そして、今日、
あたしはその人からはじめて声をかけられた。

「牧野さん、結婚する気はないかしら?」








あたし、牧野つくし、26歳。
ママの強い薦めで英徳高校に入学してから、あたしの人生はまさに誰もが羨む勝ち組になった。

居場所のない高校生活をなんとか我慢して乗りきり、エスカレーター式に進んだ英徳大学も、ただひたすら勉学に励み、単位をひとつも落とすことなく首席に近い成績で卒業した。

そして、大学四年の就職活動の時、あたしはその人に出会ったのだ。
その人の名は、道明寺 楓。
あの有名な道明寺財閥の社長。

将来を見据えて介護事業への就職を考えていたあたしは、就職活動の際、介護器具の開発やシニア向け住宅の建設など現在の介護事業の実態を学ぶためセミナーに参加した。

そこで、はじめてあたしはその人の名と顔を知ったのだ。

道明寺といえば世界有数の大財閥。
有名なホテル事業をはじめ、世界各国の名高いビルやマンションを保有する不動産事業がメインだと思っていたあたしは、介護の分野で道明寺の名が出てくるとは考えていなかった。

でも実際はかなりのシェアを持っていて、しかもその事業内容どれもが、うーん、と思わず唸ってしまうほど的を得たクオリティ。

あたしはその日から、道明寺財閥への興味が沸々と沸き起こり、調べれば調べるほど道明寺楓という社長の魅力にはまっていった。

そして、それから半年後、あたしは人生最大の賭けに出た。
道明寺HDの就職試験を受けることにしたのだ。
半年前までは候補にもあげていなかった会社。
それなのに、あたしは今、ここを第一希望としている。

はじめて入る道明寺HDの会社。
筆記試験を合格し、面接試験を受けるため扉を開けたその先に、あたしの尊敬する人、道明寺楓社長が座っていた。

まさか、試験会場に社長が直々に現れるとは思っていなかったあたしは、かなり動揺したけど、この人に会えるのはこれが一生に一度かもしれないと思い直し、道明寺財閥への思いを熱く語った記憶がある。

その甲斐あってか、なんと半月後には、あたしの手元に道明寺HDからの合格採用通知が届いた。
それを見て、パパもママも泣くほど喜び、進なんて友達に自慢しまくる始末。
親友の優紀も祝福してくれて、あたしは晴れて大企業へ就職を決めた勝ち組の道を歩み始めた。

そしてそれから4年。
新人というにはもう若くなく、かといって仕事を任せられるほど頼りになるわけでもないあたしに、大きな仕事が舞い込んできた。
開発事業部に所属するあたしの部署に大規模介護施設のリノベーション事業の仕事が降ってきた。

場所は都内の一等地。
公務員官舎であったその場所を道明寺HDが落札し、そこをシニア向け住宅にするというもので、マスコミにも大きく取り上げられ、失敗は許されない事業。
その仕事に少しでも携われるということで、あたしも緊張の中にもやりがいのある充実した日々を過ごした。

そして、何よりあたしのモチベーションをあげたのは、この事業の合同会議には必ず社長自らが出席して指示を出すということで、この半年間、間近で社長の姿を何度も拝むことができた。

仕事の適格さ、厳しさ、スピーディーさ、
どれをとっても憧れる。
この人に憧れてこの会社に入って良かった。
そう思わせるには十分な人。

そして、この事業が無事に一段落したある日、
あたしのところに一通の社内メールが届いた。
送信者は「社長室」

ん?…………
はじめて届くそのメールに首を傾けながら開いてみると、そこには簡単な文章で、
『3時に社長室に来るように。他言無用』
の文字。



あたし何かやらかした?
社長室に呼び出されるほど失態をおかした?
他言無用ってとこが更に恐い…………。




頭のなかはもうなにがなんだかぐっちゃぐちゃ。
でも時間は止まってくれるはずもなく、とうとうリミットの3時。
メールを開いてからこの社長室の扉の前まで来る間の短時間で、クビを覚悟し腹をくくった。




そして社長室の重い扉を開け、尊敬する社長の前に立ったあたしに告げられた言葉は、


『牧野さん、結婚する気はあるかしら?』






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新連載スタートです。

無事に退院しました。
毎日の更新は無理かもしれませんが、お付き合い下さい。
たくさんのお気遣いメールありがとうございました!
なんとかつわりも少し落ち着いて、家でゆっくり過ごしています。
相変わらず司一筋ですので、これからもよろしくお願いいたします。

前回までのお話が途中なんですが、少し時間があいてしまったので、新連載にうつります。
『俺の彼女』は、時間があるときに加筆したいとも思っています。
もうしばらくお待ちください。
 2016_07_21




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Author:司一筋
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