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いくら彼女のふりをしてくれと頼んだからといって、邸にまで連れていくほどこの女とは親しくない。

「親父の好きな店でいい。
その代わり仕事の途中で抜けてきたから、長居はしねーぞ。」
そう言って邸以外のところで食事をすることを選んだ。





着いた場所は親父のお気に入りのフレンチの店。
確か先日のミシュランで2つ星を獲得した唯一のフランス料理店。

ミシュランの効果か、店は早い時間にも関わらずほとんどの席が埋まっていたが、どの顔も見たことがあるセレブたち。
きっと、この店の中で場違いなのはこの女だけだろう。

席に着くなり親父だけに渡された店のメニューを見て、コース料理を頼む親父。
ワインも吟味しているところを見ると、長居出来ねぇと言った俺の言葉は忘れたのかっと怒りたくもなる。

注文を終えた親父は牧野に、
「ここのシェフは昔からの付き合いでね……」
と、俺も何度か聞いたことがある話を嬉しそうにしている。

その内、ワインを持ったオーナーが現れて親父と握手をした後、親父のグラスにワインを注ぎテイスティングを求め、親父が一口くちに入れた後大きく頷いた。
これで、ようやく食事の始まりだ。

横にいる牧野をチラッと見ると、たぶんこの場にすげー緊張してるんだろう、注がれたワインをじっと見つめたまま動かない。

「では、まずは乾杯。」
親父のその言葉に慌ててグラスを持つ牧野は、隣にあるウォーターグラスに手をぶつけあやうく倒しそうになっている。

「大丈夫か?」

「……うん。」

「落ち着け。」

テーブルの向こう側にいる親父には聞かれないようにそう小声で言うと、小さく頷いた牧野はワイングラスを持ち上げグラスを鳴らした。

「このワインは私のお気に入りなんだよ。
ここに来れば必ずこれを頼む。
だから、オーナーも欠かさずこれを用意しておいてくれるんだ。」

このワインは昔から親父のお気に入り。
シャトーまで見学に行くほど惚れ込んでいる。
ただ、一般庶民が手軽に味わえるほど安いものではない。
それをこの女に説明しても分かるわけないだろう。

そう思いながら俺も久しぶりにそのワインに口を付けると、隣の牧野がワインを一口飲んだ後言った。

「ムートンロスシルトですね。
初めて口にしました。
『ついに、われ第一級なりぬ、かつて第二級なりき。されど、ムートンは昔も今も変わらず。』
この言葉が印象的で。」

突然言い出したその言葉の意味が分からず、牧野の方を見ると、親父が

「おぉー、牧野さんはその言葉を知っていますか!」
と、親父が嬉しそうに笑う。

「はい。文献で読みました。
一度はこのシャトーのワインを飲んでみたいと思っていましたが、夢がかなって光栄です。」

「ほぉー、牧野さんは私と話が合う。
司、ほんとにいい娘さんだな。」

そう言いながらワイン話で盛り上がる二人。
ワインのことはある程度知ってる俺でさえ付いていけない内容だ。

料理が運ばれてからも会話が続く二人を見かねて、
「親父、そんなに話してたら牧野がゆっくり食えねぇだろ。」
俺がそう言うと、

「そういえば司、牧野さんのこと『牧野』と呼び捨てにしてるのか?」
と、不意打ちの質問。

「あ?ああ、まぁな。」

「牧野さんは?」

「え、あたしですか?
……あたしも、……道明寺って呼び捨てにしてます。
ね?道明寺。」

「あ?ああ。」


咄嗟に呼ばれた『道明寺』呼び。
普通のシチュエーションなら、
「ふざけんなっ。」と、怒鳴ってるところだが、
親父の手前そうはいかない。

それに、『ね?道明寺。』と言いながら困った顔で恐る恐る俺を見上げるこいつに、思わずクスッと笑っちまった。

そんな俺らを見て、
「仲がよくて、よろしい。」
と、満足げに親父が言った。






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 2016_01_31






早速、あきらから入手した番号に電話を掛けると、
「はい。」
と、女の声。

「牧野か?」

「……そうですけど、……どちら様ですか?」

「道明寺だ。」

女に電話をかけること自体したことがねぇ俺は、なんて切り出せばいいのか一瞬迷っていると、

「どういうことか説明してください。」
と、受話器からすげー不機嫌な声。

「親父は?」

「まだあたしの会社にいます。
5時で仕事が終わるのを待って食事に行こうって。
何度も断ったんですけど言うこと聞いてくれなくて。
かなりおかしな勘違いをされている様で、あたしも困ってるんですけどっ。」

女の口調からかなり怒ってるのがわかる。
親父のやつ、会社に押し掛けていまだに居座っているらしい。

「わりぃ。おまえの会社ってどこだ?」

「…………。」

「親父のこと迎えにいく。」

「丸の内の○○ビル8階です。」

そのビルなら道明寺HDの自社ビルから目と鼻の先。

「着いたら連絡下さい。」
そう言って切れた電話を胸ポケットに入れ、
「ちょっと出てくる。」
と西田に告げてオフィスを出た。


徒歩で5分のそのビルは大手証券会社の自社ビルで、ここら辺りでも1、2を争うでかさ。
その8階までエレベーターで向かい下りたところで女の携帯へ電話をすると、
「すぐ行きます。」
と、切れた。

そして数分後、あの日以来二度目に会う牧野とかいう女と親父が現れた。

「おう、司。」

「おう、じゃねーよっ。
何勝手なことしてんだよ。
とにかく、帰るぞ。」
そう言って親父にエレベーターを顎で指すと、

「ちょうど5時だから、食事にでも行こう。」
と、すげー嬉しそうな顔してやがる。

「ふざけんなっ。俺は忙しいんだよっ。」

「そうか。じゃあ二人で行きましょう。」
と、俺の言葉なんて関係ねぇと言わんばかりに牧野を誘う親父。

誘われた牧野は、
「いえ、あたしは……」
とか言いながら俺の方をチラッと見て、頭を小さく振っている。

「親父、こいつも突然で困ってる。
食事なら、今度きちんと席を設けるから待ってくれ。」

「俺は明後日にはNYに戻るんだぞ。」

「なら、次に来たときにでも予定を合わせる。
俺らも……そのぉ、まだ付き合ったばっかだし、急に親父と食事にってハードル高すぎるだろ。」

俺は牧野の顔をチラチラ確認しながら、出来るだけ小声で親父にそう言うと、

「ただ食事をするだけで、何が問題なんだ?
外でするのが嫌なら邸の方にいらっしゃい。」
親父が牧野の肩に手を置く。

「えっ?……邸……ですか?」

「ああ。こんな可愛らしい娘さんが司の彼女だと知ったら、楓も椿も驚くだろう。」
そう言ってまたも嬉しそうに笑いやがる親父に、

「あのぉー、だからあたしは息子さんとはお付き合いは……。
さっきも言いましたが、何か勘違いされているようなので。
私と彼は……」
と、困った顔をしながら俺との関係をもう一度否定しようと必死なこいつ。


俺は咄嗟にそんな牧野の腕を掴み、
「ちょっと来い。」
そう言って親父から死角になる廊下の隅へと連れて行った。

「な、な、なにっ?」
驚くこいつに、俺は早口で、

「この先迷惑はかけねぇから、この場だけ俺と付き合ってることにしてくれ。」
そう言うと、でかい目を更にでかくして俺のことを見つめ、
しばらく間があいた後、ようやく話を理解したようで、
「……はぁ?」
と、すっとぼけた声を出した。

「だから、今日だけ親父の話に合わせて俺の彼女だってことにしてくれ。」

「なんでよっ、なんでそんなことしなくちゃいけないのよっ。」

口を尖らせて俺を見上げるこいつに、

「まぁー、そのぉー、あれだ。
色々説明すると長いけどよ。
……そのぉ、もう先行き長くねぇ親父にプライベートなことで心配かけたくねぇっていうか……。」

「先行き長くない?
……もしかして病気なの?あんたのお父さん。」

「……ん?……まぁ、そんなとこか。」

自分でもとんでもねぇ嘘を付いてる自覚はあるが、話の成り行きでこうなっちまった。
まぁ、この場をしのげれば後はどうにでもなる。
そんな俺の邪な気持ちとは反対に、

「そんな……。」
と、苦しそうな顔で俯くこいつ。

そして、
「……うん、わかった。
……そういうことなら。
今日だけなんとか話合わせてみる。」
と俺を見上げて言った顔がすげー真剣で、罪悪感が一気に押し寄せた。





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 2016_01_30






親父からのゴーサインが出れば、本人の俺がなにを言っても差し止めることは出来るはずもなく、道明寺司としての初めてのスキャンダル記事が世間を賑わせた。

あれから何度も親父に連絡を取るが、
「ただ今、商談中ですので……」と、繋がらねぇ。
秘書も巻き込んで俺から逃げてるのは間違いねえ。

それでも、文句の1つでも言ってやらなきゃ俺の気持ちがおさまらないと、何度もしつこく携帯を鳴らしてやり、週刊紙に記事が載ってから三日後。
とんでもない所から連絡が来た。


「司っ。」

「おう、あきら。どーした?」

電話の相手はあきらだが、いつもと様子が違う。

「大変だっ!司の親父さんが、会社まで来てるらしいぞっ!」

「……会社?おまえのか?」
あきらの言っている意味が分からず聞き返す俺に、

「違う、俺のじゃなくて、牧野の会社だよっ!」
と、怒鳴るあきら。

「あ?牧野?」

「ああ。おまえの彼女として週刊紙に載っただろ。
顔は殆ど写ってなかったから記事のことは牧野に知らせてなかったけどよ、今、牧野から電話が来て、司の親父さんが牧野に会いに行ったらしい。」

「はぁ?マジかよっ!」

あきらの言葉に頭を抱える俺に、あきらは更に続ける。

「とにかく、親父さんは牧野のことをおまえの彼女だと勘違いしてるらしい。
人違いだと説明しても、『司から口止めされてるのか?』って言って聞き耳持たねぇらしいぞ。
どうする司?」

「どーするも……、とにかく、俺からその女は違うって説明する。」

「ああ、そうしてくれ。
……でもよ、司、
おまえ好きな女がいるって言ったんだよな、親父さんに。」

「ああ。」

「それで、牧野が人違いだって言ったら、またややこしいことことになりそうだな。
だって、あの週刊紙の写真見たか?
あれで付き合ってねーって信じられねーだろ。
ギャハハ……。」

あきらが笑うのも無理はないほどあの写真は確かによく撮れていた。

「うるせーっ、おまえも側にいたから知ってるだろ。
俺とあの女は初対面だっつーの。」

怒鳴る俺に、笑いながら
「写真だけ見れば、いい雰囲気なんだよなおまえら。」
と、からかうあきら。

ったく。
どうしてこうタイミングがわりぃんだよ。
見合い話を吹っ切るために付いた嘘が、あの写真で逆に真実味を帯びてしまった。
親父はきっと信じきってるだろう。あの牧野とかいう女が俺の言う『好きな女』だと。


でも、いや、待てよ。
もしかしたら、しばらくはこのままこの嘘を突き通した方が俺的にはいいんじゃねーか?

親父からのうるせぇ見合いの催促もなくなるし、バカらしいホモ疑惑からもおさらばできる。
恋愛しろ……なんてアホくさいことを言っている親父からも時間稼ぎをしつつ、いざとなれば別れたと言えばいいだけど。


「じゃあな、司。」
電話を切ろうとするあきらを、

「ちょっと待て、あきらっ。」
と呼び止めた俺は、我ながらいいアイデアだと思いながら続けた。

「あきら、牧野っつー女の連絡先教えてくれ。
俺から詫びの電話入れとく。」





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 2016_01_29







親父からの電話を会心の一撃ではねのけた俺は、これでしばらくプライベートなことで口を出されることはないと思っていたのだが…………、

次の日、オフィスに出勤した俺のところに固い表情で西田が現れた。
こういうときの西田は要注意だ。
よくないニュースを持ってきたに違いない。

「専務、昨夜これが届きました。」

そう言って俺に封筒を手渡す西田。
無言でその中身を確認した俺は、思わず
「なんだこれ。」
と、呟いた。

封筒の中には数枚のA4用紙と写真。
それをじっと確認する間、西田は黙ったまま俺を見ている。

俺の顔がはっきりと写されたホテルでの写真と、
『道明寺財閥の御曹司。
ホテルで彼女とイチャつく夜。』
と、題された原稿。

もう一度、
「なんだこれ。」
と、呟いた俺に、

「専務、心当たりはございますか?」
と、尋ねる西田。

心当たりも何も、あると言えばあるし、ないと言えばない。
なぜかと言えば、この写真に写ってるのは、この間見合いで行ったホテルのカフェ。
そして、彼女として写っているのは、あの『牧野』とかいう女なのだ。

「……その女性はどなたでしょうか。」
意図的なのか、仕事の打ち合わせでもしているかのように事務的な口調で聞く西田。

「あきらの連れだ。」

「……美作さまの?」

「ああ。たまたまこのホテルであきらを見かけて声をかけたらこの女も一緒にて、少し話しただけだ。」

「ですが……、写真の様子では……」

西田が何を言いたいのかは分かる。
どういうタイミングでこんな写真が撮れたのかと、本人でさえ分からねぇほどよく撮れている。

たぶん俺のスーツのボタンを直している時だろう。
牧野とかいう女が視線を落として俺の腕のボタンを直すため近付き、それを俺も黙って見つめている。
まるで俺がこいつの耳元に何か囁いているようにも見えるその写真は、あきらの存在なんてこれっぽっちも写っていなく、明らかに作為がある切り取られ方。

でも、この場を見ていない奴がこの写真だけを見れば、確かに『彼女とイチャつく』男にしか見えねぇだろう。

「今日発売の週刊紙に記事が載るようです。」

「いつものように差し止めろ。」

今までも何度も根も葉もない噂話を載せられそうになったことはあったが、いつも圧力で押さえ付けてきた。
今回もそれで解決出来るだろうと西田に言ったその言葉を、

「それが…………、」
と、渋い顔で遮った。

「なんだよ。」

「実は……そのぉ……」

それでも口ごもる西田に嫌な予感がする。

「はっきり言えっ。」

「はい。実は会長がすでに出版社に連絡を取りまして、」

「差し止めたのか?」

「いえっ、……その逆で……、ゴーサインを出したそうです。」




親父のヤローっ!
なに考えてんだよっ。






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 2016_01_28







牧野という女が去った後、俺に容赦なく注がれるあきらの視線が痛い。

「ふははっ、司、見合いなのか?」

「…………。」

「嘘だろ、ブハハハっ。」

「うるせっ。来たくて来てんじゃねーよ!」

「それはそうだろな。」

同調しながらも笑いがおさまらねぇあきらに、渋々見合いの経緯を説明すると、

「まぁ、業界では噂だからな。
おまえがコレじゃねーかって。」
そう言いながら手のひらを裏返しにして口元に当てるあきら。

「うるせっ。
女には興味ねーけど、男にはもっと興味ねーよ!
はぁーー、めんどくせぇな。」

「司、そろそろ行った方がいいんじゃねーか?
見合い相手がお待ちかねだぞ。
あれって、○○建設の令嬢だろ。
見た目はそんなに悪くねーな。
司、この際、親父さんが言うように恋愛してみろよ。」

「他人事だと思って適当なこと言うなっ。
とにかく、ちょっと話付けてくるからおまえはここで待ってろよ。」

俺はあきらにそう言い捨てると、離れた席に緊張した顔で座る女のところへと歩いていった。
この女には悪いが、あきらにここで会ったことは偶然でもなくきっと神様からの助けだろう。


「失礼。○○さんですか?」

「はい。」

「申し訳ないが急遽仕事の打ち合わせが入ったので、あなたとの約束をキャンセルしたい。」
そう言って俺はあきらの方をチラッと見ると、女は理解したようで、

「あっ、はい。わかりました。
それでは、後日改めて……」
と、立ち上がる。

そんな女に俺は内心深くため息を付きながら、それでも丁重に言ってやった。

「いや、もう会うつもりはねぇ。」

「……え?」

「性格の不一致ということで俺がフラれたって親父には伝えておく。
社長にもそう伝えてくれ。」

「そんなっ、待って、」

呆気に取られている女を置いてあきらのところへ戻ると、「場所変えるぞ。」そう言ってホテルを出た。








それから、数時間後。
予想通り俺の仕事の携帯に着信が入る。

「もしもし。」

「聞いたぞ。
見合い、すっぽかしたそうだな。」

電話の相手は親父。

「人聞きのわりぃこと言うな。
すっぽかしてなんていねーよ。」

「まともに会話もしないで帰ったそうじゃないか。」

「……親父、勘弁してくれよ。
俺は知らねぇ女とお茶するほど暇じゃねーんだよ。
何度見合いをセッティングされても、俺は同じことするからなっ。だから、もう、余計な世話するな。」

そう言い切って電話を切ろうとする俺に、親父も食い下がる。

「見合いが無理なら政略結婚という道でもいいんだぞ。」

「あ?ふざけんなっ。」

「ふざけてるのはどっちだ。
おまえは行く行くは道明寺財閥を背負う人間なんだぞ。
恋愛なんてくだらないって言うなら、今すぐ結婚しろ。
そして跡取りを作れば俺はおまえを後継者として認める。」


マジかよ…………。
親父の言葉を聞きながら、昨日あきらに言われたことを思い出す。

「司の親父さん、相当参ってるって噂だぞ。
おまえが片っ端から縁談を蹴ってるし、付き合ってる女の影もない。
そして、ホモ疑惑だろ?
日本支社を任せようと思ってる息子に悪い噂が流れてて、仕事に影響が出てるんじゃないかって俺の親父も心配してた。」

どんな笑い話だよっと思ったが、今の親父の深刻そうな口調を聞けばマジなのかと思わざる得ない。

「司、親父さんに恋愛しろって言われたんだろ?
なら、嘘でもいいから、好きな女がいるって言っちゃえよ。
おまえに女の影があれば親父さんも安心するだろーし、いざとなったらフラれたって言えばそれ以上追求しないだろ。
とにかく、ホモ疑惑だけはなんとかしろよ、ギャハハ……。」

昨日は笑い転げるあきらを蹴りあげて、その話を適当に聞き流していたが、もうこうなったらその作戦でいくしかねーかもな。



「司、」

電話の向こうでまだ何か言いたげに俺の名前を呼ぶ親父。
そんな親父に、俺は軽い気持ちで言った。


「親父、俺には好きな女がいる。
今はそいつしか考えらんねぇ。
だから、俺のことはそっとしておいてくれ。」


この嘘が、後々大変なことになるとは、
このときの俺は考えもしなかった。




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 2016_01_27






午後6時。
待ち合わせであるホテルのカフェ。
ロビーから直結した開放的なその場所に足を踏み入れたはいいが、肝心なことを忘れていた。

相手の顔が分かんねえ。

西田に渡された見合い相手の資料はすぐにゴミ箱に捨てた。
辛うじて知っているのは名前だけ。

カフェの中をぐるりと見渡して見ると、一人で座っている女が少なくとも5人はいる。
その中に俺の見合い相手がいるはずだが、その時、俺の視界に別の人物が入り込み思わず口角が上がる。

俺はその人物がいるテーブルへ向かうと、声をかけた。

「よっ、あきら。」

「おうっ、司!どうしたこんなところで。」

「いや、ちょっと野暮用でな。
……仕事か?」

あきらにそう尋ねながら、あきらの正面に座る女に視線を移す。

「いや、たまたまこの近くに来たから一服しに入っただけだ。
おまえは?」

あきらに逆に尋ねられて、言葉に詰まる俺は、
「少し座ってもいいか?」
そう言ってあきらたちの横に座った。

コーヒーをオーダーした後、腕時計を見ると6時を5分過ぎている。
確実に相手はこの近くにいるだろう。

「司、誰かと待ち合わせか?」

「……いや。」

「じゃあ、なんでここに来たんだよ。」

「うるせー。あきらこそ、女とこんな時間に何してんだよ。」

自分への矛先を反らすように質問を返してやると、「あー、そうか。」と呟きながら、
「司は牧野のこと見たことなかったか。」
と頷いている。

「司。
こっちは牧野つくし。俺らの大学の後輩。
おまえがNYに行ってる間に知り合って、今もF3とは仲がいい。
牧野、こいつは俺らの幼馴染みの道明寺司。
まぁ、説明は不用だろうけど、あの有名な道明寺財閥の息子だ。」

「どうも。牧野つくしです。」

あきらに紹介されて頭を下げたその牧野とかいう女は、どこにでもいそうな平凡な女。
特に興味も惹かれねぇけど、どこかこいつの反応が面白くねぇ。
俺の存在にここまで興味を示さねぇ女は初めてだ。

普通の女なら、俺の名前を聞いただけで色めき立ち、ぴーちくぱーちく、うるせぇほど話しかけようとしてくるのに、牧野とかいうこの女は自己紹介だけしてあとは、視線さえ合わせねぇ。

「美作さん、あたしそろそろ行くね。」

「ああ。悪かったな時間取らせて。」

「こちらこそ、お役にたてなくて。」

「いや、いいんだ。
気が変わったらいつでも連絡くれ。」

俺の分かんねぇ会話を一通りしたあと立ち上がったこの女は、最後に初めて俺に視線を合わせて言った。

「たぶん……ですけど、お見合いの相手の方、あちらでお待ちですよ。」

「…………あ?」

突然言われたその言葉に絶句する俺に、

「あのぉ、さっきから気になってたんですけど、スーツのボタンが取れ掛かってます。」
そう言って俺の右腕のボタンを指差す女。

言われた通り見てみると、確かに今にも落ちてしまいそうなボタンがグラグラと揺れていた。
さっきホテルの入り口で旅行客のスーツケースとぶつかったのを思い出す。

「お見合いの前に付け替えた方が…………。」

「なんでおまえ、俺が見合いだって分かったんだよ。」

「それは、……まぁ、色々と。
それより、早く行った方が……。
彼女、さっきからチラチラこっち見てますよ。
ボタン、ちょっと見せてもらえます?
あー、辛うじて糸で繋がってるから落ちないとは思いますけど、ブラブラしてるから裏側に糸引っ張って結んでおいてもいいです?
ほらっ、こうしたら応急措置ですけど、なんとか様にはなるでしょ。」

そう言いながらテキパキと俺のスーツのボタンを直したこいつは、
「じゃあ、あたしはこれで。」
そう言ってあっという間に俺の前から去っていった。


「なんだよ、あいつ。」

女の後ろ姿を見つめながらそう呟く俺に、

「牧野つくし。
今の俺が喉から手が出るほど欲しい女。」

と、あきらが笑った。






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 2016_01_26







はっきり言って、今日の俺は猛烈に機嫌がわりぃ。
その原因は2週間前のNYでの出来事。


道明寺HDに入社して7年目。
今年で30歳になる俺は、今の『専務』というポストから『日本支社長』というポストへ昇格するという噂が周囲に流れていた。

そんな時、NYにいる親父から大事な話があると連絡が入った。
ついに来たか。
ババァの側で仕事を覚え、一人前として成長した俺に、ついに親父がゴーサインを出す。
そう確信しながら向かった親父のオフィスで俺は親父の言葉に耳を疑った。

「司、おまえの仕事内容には十分に満足している。
が、おまえに支社長を務める器はない。」

「……どういう意味だよ。」

「おまえは有能な男なのは間違いないけれど、上に立つ男ではない。
冷徹で完璧主義。
容赦のない圧力と、強引な戦略のビジネスワーク。
信じるものは自分だけ。
そんな男に信頼する部下が付いてくると思うか?」

「部下なんて必要ねぇ。
俺の指示通り動く駒がいればそれでいい。」

そうはっきりと言い切った俺に、目の前の親父は深くため息を付きながら言った。

「おまえには仕事を教える前にやるべき事があったな。」

「あ?」

「司、このままだと、たとえおまえが支社長になっても安心して道明寺HDを任せることは出来ない。
今のおまえには支社長のポストはまだ早い。」

「どういう意味だよっ。」

親父を前にして低い怒鳴り声に変わる俺に、親父は口調を変えず冷静に言った。

「道明寺のトップになりたければ、人との接し方を学べ。
今までのような、企業のトップを自分のオフィスに呼びつけるようなやり方はやめて、おまえから先方に出向け。
そして、出来るだけ財界人が集まるパーティーにも顔をだし人とのパイプを作り、おまえの世界を広げるんだ。
あとは、…………恋愛をしろ。」

「あっ?」

親父の最後の言葉に思わず声が裏返る。

「椿から聞いたぞ。
司、おまえ彼女の一人もいないようだな。」

「うるせっ。」

「今までおまえの浮いた話も俺の耳に届いていない。
普通ならそろそろ結婚を考えてもいい歳だろ?
相手はいないのか?」

「親父に関係ねーだろ。」

「男にとって恋愛は重要だ。
いい女に巡り会えば、いい仕事にも繋がる。
…そうか、………分かった。俺が司の相手を選んでやる。
おまえ、真剣に見合いでもしろ。」






それが、2週間前の出来事。
そして、早速親父から先日西田に連絡が来たらしく、俺は今日、生まれて初めての見合いに行くことになった。

「専務、本日のお約束覚えていらっしゃいますよね?」

「…………。」

「専務、大事なお約束ですので。」

「…………。」

「専務、」

「あ゛ーーっ、うるせーなっ!
覚えてるっつーの!」

「それは良かったです。」

俺の答えに、相変わらず鉄火面の西田が手帳を取り出しながら話を続ける。

「お相手ですが、先日もお伝えしました通り京都を中心に不動産業を手掛けている○○建設のお嬢様です。
資料に目を通して頂けましたか?」

「知らねぇ。どこかにやった。」

「では、もう一部用意してありますのでお持ちします。」

さすが、俺の扱いには手慣れた様子の西田。

「お約束のお時間は、午後6時。
○○ホテルのカフェでお待ちしているそうです。
会長から、くれぐれも粗相のないようにと。」


親父が進めてくる相手だから、それなりに旧知の仲なのか、ビジネス上利益がある相手の娘に違いない。
くだらねぇ見合いだとは分かっていても、断れない自分の立場の弱さに苛立つ。

「あ゛ーーっ、めんどくせぇなっ。
会えばいいんだろっ、会えばっ!
今回だけだからなっ。親父にそう伝えておけっ!」

西田に八つ当たりするしかない俺に、
「6時10分前に車を手配しておきます。」
と、どこまでも冷静なこいつだった。







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 2016_01_25


nephew 21

Category: nephew  




姉ちゃんからの『新居』話しを聞き、牧野の方を向くと「実はね……」と戸惑いながらも話し始めた。

「実はね、お姉さんも退院して宗太くんも嬉しそうだし、私もいつまでもここにお世話になってる訳にもいかないから、そろそろマンションに戻りますって皆さんに挨拶したら…………、」

話を聞けば、それに待ったをかけたのは宗太だったらしい。

「そろそろマンションに戻ります。」
牧野のその言葉に、

「つくしはどうしてここに住んでないの?
司にぃと結婚するんでしょ?」
と、当然のように聞いてきたそうだ。

「まぁ、いずれは結婚するとは思ってたけど、なかなか話が纏まらないから私もお母様も手を焼いていたのよ。
そのうち、つくしちゃんが痺れを切らして司を捨てちゃうんじゃないかってハラハラしてたんだから。
そんな大人たちの心配なんかよそに、宗太がいいタイミングでつくしちゃんに言ってくれたからほんと良かったわ。」

そう言って牧野にウインクして見せる姉ちゃん。

「俺も出張から帰ってきたらプロポーズしようと思ってたんだよ。」

「どうやら上手くいったようね。」

牧野の指に光る指輪を見て姉ちゃんは分かったようで、
「これで、やっとつくしちゃんが正式に私の妹になるのねーっ。」
と、牧野を抱きしめている。

そんな二人に、
「ババァが、この部屋を?」
と、聞くと、

「そうよっ。お母様もクールに装っているけど、あなたたちの結婚を首を長くして待ってたはず。
いつでもつくしちゃんがお嫁に来てもいいように、こんな部屋まで作っちゃって。」
と、笑う姉ちゃん。

確か一ヶ月前、牧野が怪我をして往診に来た医者に見てもらっている時に、なにやらエントランスが騒々しかったことがあった。
その時にババァに「何かあるのか?」と聞いたら、若干言葉を濁しながらも「ちょっと改装をね……」と言ってたのを思い出す。

俺たちのために着々と準備を進めていたというわけか。

「姉ちゃん、ババァは?」

「書斎にいるはずよ。」

「牧野、結婚の報告に行こうぜ。」

「うん。」











3か月後



「だーからっ、部屋に入るときはノックしてから入れっ、宗太っ!」

「したよ。僕、ノックしたよ。」


牧野との甘い新婚生活はそれなりに満喫しているけれど、唯一俺たちの邪魔をするやつはこいつだ。

「司にぃ、今つくしにチューしようとしてたでしょ?」

「うるせっー。」

「ママとグランマが言ってたよ。
司にぃはデレデレしすぎだって。」

その宗太の言葉につくしが吹き出してやがる。

「クソガキっ。
宗太、もう用意は出来たのか?」

「うん。あともう少しでジェットに乗るよ。」

「そうか。」

「司にぃ、…………
また冬休みに遊びに来てもいい?」

「ああ、……待ってる。」


結局、半年近くここで一緒に暮らした姉ちゃん親子が、今日でここを出ていく。
ジェットで半日あれば会える距離だとはいえ、さすがにこいつらがいなくなると思うと、邸が寂しくなるだろう。

「妹の面倒、きちんと見るんだぞ。」

「うん。わかってる。」

「ありがとな、宗太。」

「……なにがだよ。気持ち悪いなぁ。」

「うるせっ、クソガキっ!」


最後の最後まで俺と宗太の言い争いは続いているが、これでも俺はこのちいせー甥っ子に感謝している。

俺と牧野のデートをこいつに邪魔され、3人で動物園に行ったことをきっかけに、牧野がこの邸で暮らすようになった。
そのおかげで、今まで以上に牧野なしでは生きていけねぇ俺が出来上がっちまい、『結婚』まで猛スピードで駆け抜けた。

子供と遊ぶ牧野の姿に惚れ直し、牧野が待っている家庭の温もりに癒されて、家族というものへ憧れを持ち…………、

この数ヵ月で俺を成長させてくれたのは、
この目の前のガキだということは間違いない。



「おい、宗太。
おまえの部屋、そのままにしておくから、いつでも遊びに来い。」


俺がそう言ってやると、
「ラジャーっ!」
と、俺たちのキューピッドであるnephewが笑った。







Nephew Fin





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Nephew これで終了です。
お付き合いありがとうございました。
はじめから終わりまで、付き合っている二人を書くのは意外にも初めてです。
ほのぼのとしたストーリーを……と思い書いてみました。

原作のストーリーでは山あり谷ありですが、その後の二人は静さんの結婚式のシーンにもあるように、ゆっくりとした恋愛をしていたのかなぁーなんて妄想してみました。

楽しんでいただけたら幸いです。

次回作品は月曜から始めたいと思っています。
なかなか毎日の更新が難しいこともありますが、これからもお付き合いよろしくお願いいたします!


司一筋。



 2016_01_22


nephew 20

Category: nephew  





「俺の生涯、愛する女はおまえだけだ。
牧野、俺と結婚してくれ。」


この言葉に嘘はない。
文字通り、俺の生涯で愛した女はこいつだけで、それは今までもこれから先も変わらない。


「この指輪は、俺が初めて自分で働いて金を貰った時に、おまえのために作ったものだ。
いつかおまえにプロポーズするときはこれを渡そうと思ってた。
まさか、5年近くかかるとは思ってなかったけどな。
牧野、手出せ。」

俺のその言葉にゆっくりと手を差し出す牧野。
その薬指に俺は指輪をはめてやる。
そして、もう一度確認するように聞いた。

「牧野、俺と結婚してくれ。」

「……うん。お願いします。」


高校で運命のように出会った俺たちは、幾度も荒波に揉まれ何度も手を離しかけたが、それでも俺にはこいつが最高の女で、いつかこいつと結ばれたいと必死に願ってここまできた。
それが、お互いの最高のタイミングで『結婚』に辿り着けたのは奇跡だろう。


「牧野、」

「ん?」

薬指に光る指輪を嬉しそうに眺める牧野に、
「必ず幸せにする。」
そう言ってやると、答えのかわりに牧野からのチュッと軽いキスという超絶レアなお返し。

俺がそれで満足する訳がなく、主導権はあっさり俺が握り、膝の上に座っていた牧野をソファへと押し倒すと、出張明けの欲求をぶつけるかのように濃厚なキスを繰り返した。

俺的にはこのままベッドへ……と、そういう流れに持っていきてぇ所だけど、相変わらずこの女はそういう流れに乗るはずもなく、深くなる俺のキスに徐々にバタつき始める。

「道明寺っ、」

「なんだよ。」

「ちょっ、……んっ……まだ、話終わってない。」

「あとにしろ。」

牧野の抵抗なんて俺には慣れっこで、それをかわすくらいなんの問題もねぇと思ったその時、俺の背後で声がした。

「お邪魔だったかしら?」

振り向くと、そこには姉ちゃんの姿。

「おっつ、ビビったっ!」
焦る俺に、

「司、あんたはほんと成長してないわね。
高校生の時も嫌がるつくしちゃんを力ずくでベッドに押し倒して泣かせてたでしょ。」

確かに、牧野といい雰囲気になってベッドに押し倒したはいいが、恐くなったこいつが半べそになった所に姉ちゃんが乱入したという苦い記憶が思い出される。

「いい歳した今でも、あんたはつくしちゃんに無理矢理そういうことしてるのかしら?」

さすがに蹴りは入らねぇけど、俺を見る目が恐い姉ちゃん。

「ちげーよ。これは、……合意のもとだ。」

「ほんとかしら?つくしちゃん。」

「えっ、えーと、まぁ、そのぉー……はい。」

「そう。それなら、仕方ないわね。」

どう仕方ないのか、どう納得したのか、よく分かんねぇけど、俺のことを睨むのをやめた姉ちゃんは、逆にご機嫌な口調で言った。

「まぁ、あなたたちの新居だから自由にして頂戴っ。」

その言葉に固まる俺と、なぜか赤い顔の牧野。

「……新居?」

「あら?つくしちゃんから聞いてない?」

「なにがだよ、何も聞いてねぇぞ。」

そう答える俺に、姉ちゃんはさも楽しそうに言った。



「いつでもつくしちゃんがお嫁に来てもいいように、お母様がこの部屋を用意したのよ。
2ヶ月かけて改装した会心の出来よ~。」






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いつもコメント、コメント拍手ありがとうございます。
昨日は「北海道は大雪です」と書いたところ、皆さんから「私は~に住んでます。」といったコメントを多数頂きました。
いつもお名前しか知らない皆さんですが、住んでいる地域を知っただけでなんだか身近に感じれて嬉しかったです。

私は北海道の道東地域にいますので、昨日は大雪でしたがそれほど悪天候にもならず今日は穏やかな一日でした。
ご心配頂きありがとうございま~す。


 2016_01_20


nephew 19

Category: nephew  





「道明寺、あたし、あんたに大事な話があるの。」



こういうときの牧野は要注意だ。
マジな顔で俺の顔色を伺うような態度で来るときは、あまり良くない話の時。
過去にも何度か経験がある。

合コンに人数合わせで行かなくちゃいけなくなったと言い出した時。
大学のサークルのメンバーで2泊の卒業旅行に行くと言い出したとき。
親友だと言い張る類への誕生日プレゼントに、遊園地へ二人で行くと言い出したとき。

全部、俺がNOと言った覚えのある話の時にするこの牧野の表情。
それを知ってるだけに、今そんな顔をされると、これからプロポーズをしようと思ってる男にとってはかなりダメージがでかい。


「なんだよ、話って。」

「うん、あのね、……ここじゃなくてちょっと場所移動してもいい?」

そう言い辛そうに言って、俺の腕を引く牧野。
そんなこいつに俺は黙って付いていく。

俺らの部屋がある邸の東から長い廊下を歩き、ダイニングや応接室を抜けて、邸の西部屋まで来たとき、牧野が1つの扉の前で立ち止まった。

そこは今まで客間として使われていた一室。
プライベート部屋は邸の東側を使っていた俺も、この客間の雰囲気や光の入り具合が気に入っていて、気分転換に度々使うことのあるこの部屋。
そこに、牧野が何の用事があるのか。

「この部屋がどうかしたのか?」
扉の前で聞く俺に、

「ん。……入って。」
と、背中を押す牧野。

訳がわからないまま言われた通り扉を開けると、そこには俺が想像していた客間の面影はどこにもなく、今までの倍近くあるスペースに落ち着いた住居空間が広がっていた。
そしてそこには、片付けたはずの牧野の荷物も置いてある。


「どういうことだ……」

「道明寺、あのね、この部屋の説明は後にして、あたし道明寺に話したいことがあるの。」

そう言ってヤバイときにする表情で俺をソファに座らせて牧野もその隣に座った。
そして、小さく深呼吸をしたあとに話し始めた。

「あのね、あたしね、この邸で過ごさせてもらうようになって色々考えたんだけど…………、あたしたちもいい歳になったし、そのぉー、お互いに仕事も順調に来ていると思うの。」

「……ああ。」

予想していた内容と違うもので、頷くしか出来ねぇ俺に、牧野は下を向きながら続ける。

「それにね、こうして暮らしてみて分かったんだけど、案外あたしお母さんとも気が合うみたい。」

「……ああ、俺もそう思う。」

「それとね、宗太くんと生まれたばかりの美琴ちゃんと一緒にいるうちに、あたしにも母性本能が芽生えてきたっていうか……、まだあたしたちも20代とはいえ欲しいときにすぐに授かるとは限らないし、それに、」

「…………牧野、」

「あたしたち、ここ数年そんな話はしてこなかったけど、でも、あたしはあんたとはそういうつもりで付き合ってきたし、」

はじめは良くねぇ話を想像してただけに、牧野が言う話が頭に入ってこなかったけど、ここまできて、この話の状況が掴めてきた俺は、逆に焦る。

「牧野っ、ちょっと待て。」

「道明寺もあたしも相変わらず仕事は忙しいけど、この2ヶ月この邸で一緒に暮らしてみて、思ったより二人の時間も取れたよね?だから、この先もこんな風に、」

「いや、待て牧野。それ以上言うな、」

「やだ、もう待たないっ!
だって、待ってても道明寺から言ってくれるとは限らないでしょ!
だからっ、あたしから言う。
道明寺っ、あたしと結……ンーーーッ」


牧野にその先を言わせねぇように、俺は咄嗟にこいつの口を手で塞ぐ。

「んーーーッ!っぬぐぅ…………どっ……」

「分かったから、落ち着け。
手、離してやるから何も言うなよ。
黙ってろよ。」

コクコク。

「絶対だな?
一言も話すんじゃねーぞ。分かったか?」

「ん。」
苦しそうにコクコク頷くこいつの口から手を離してやると、

「殺す気?あんたっ。」
と、ぜぇーぜぇー言ってる牧野を俺は両脇を持ち抱えあげると、向かい合うように俺の太ももに座らせてやる。

「ちょっ、なっ、なに?!」

「おまえさ、勝手にフライングすんじゃねーよ。」

「はぁ?」

「もしかして、おまえ俺にプロポーズしようと思ったのか?」

「…………だって、このタイミングを逃したら、またあたしたち大事な時期を逃しちゃうでしょ。」

下を向きながら恥ずかしそうに言うこいつが凶悪に可愛くて、俺は堪らずにキスをする。
そして、少しだけ唇を離して言ってやる。

「……牧野、俺は大事なタイミングも逃したりしねぇし、大事な言葉もおまえに言わせるつもりはねーよ。」

そう伝えると、NYからの長いフライトの間もずっとそこにしのばせていた大事なものを胸のポケットから取り出すと、牧野の目を見て言った。


「俺の生涯、愛する女はおまえだけだ。
牧野、俺と結婚してくれ。」





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大雪のため仕事が休みになりました~。
なので、幸せいっぱいのプロポーズを……と朝から考えてたらこんな二人になりました。

雪で首都圏も大変なようですが、北海道は積雪1メートル越えです。
みなさん、お体ご自愛くださいね。



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司一筋

Author:司一筋
花より男子の二次小説サイトです。
CPはつかつくオンリーです。
司をこよなく愛する管理人の妄想サイト。

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