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はじめて繋いだつくしのその小さな手の感触を、歩きながらどさくさ紛れに指先で愛撫する。

買い物の途中、会計をしたり、トイレに行ったりと、何度か離れたその手も、俺は迷うことなくすぐに繋ぎ直し、俺の手の中に閉じ込める。

我ながら、下心全開のその態度に苦笑するが、手を繋ぐだけで我慢してる男心を誉めてほしいとも思う。


子供用品や雑貨、本屋を回っているうちに、店を出たらあっという間に冬空は暗くなっていた。

「道明寺、時間大丈夫?」

腕時計を見ると7時近い。

「ああ。おまえは?」

「大丈夫だけど、……お腹すいた。」

「確かに。」

4時間近く休憩もなしに買い物を楽しんでいた結果、さすがに、腹が減ってきた。

「何食う?……っつーか俺、今日この服装だからたいしたとこ行けねぇぞ。」

ラフなジーンズとセーターでは、ホテルのレストランにも連れていってやれねぇ。
そんなことを後悔してる俺に、

「逆に、ジーンズで行けないお店とかあり得ないからっ。
そういうのは、何か特別なときだけでいいの。
今日みたいな日は、気軽に入れるとこで充分。」

そう言って、
「和食がいい?洋食がいい?」
なんて聞きやがるつくし。



結局、『おまえの好きなとこでいい』と答えた俺をデパートの最上階に連れていき、その中にある『とんかつ屋』を選んだこいつ。

向かい合って座るつくしに、
「とんかつが食いたかったのかよ。」
そう聞くと、

「うん。家では一人分のとんかつなんて作らないから久しぶりに食べたくなったの。
嫌いだった?」
と、首を傾ける。

「いや、嫌いじゃねーけど、食うのは3回目。」

「……はぁ?」

「だから、とんかつ食うのは今日で3回目。」
もう一度そう言ってやると、

「…………あんたは、何を食べてそんなにでかくなったのよ。」
と、呆れ顔でどこかで聞いた台詞を呟いた。





注文した定食が運ばれてきて、『いただきます。』をする直前、俺はつくしから貰ったキャップを脱いで椅子の上においた。

そして、人生3回目のとんかつを半分ほど食ったところで、正面に座るつくしがコトンと箸を置いて、じっと俺を見つめてくる。

「なんだよ、もういらねーのか?」

「ちがう。」

「あ?……もしかして、つわりか?」

「ちがう。」

そう言ったきり、不機嫌そうなつくし。
すると、突然こいつが椅子に置いてあった俺のキャップを掴み、

「ご飯の時に帽子かぶるのはお行儀悪いけど、あんたの場合は許す。」
そう言って、そのキャップを俺の頭にグイッと被せてきた。

意味がわからず、されるがまま固まる俺をよそに、こいつはまたとんかつを食い始めてる。

「なんだよ、意味が分かんねーんだけど。」

「分かんなくていい。早く食べて。」

「よくねぇ。分かるように説明しろ。」

そんな押し問答の末、
「あんた、目立ちすぎる。」
と、一言呟くこいつ。

今日の昼間もそう俺に言ってキャップを買ってきたつくし。
そんなことをいちいち気にしてたら、どこにも行けねーだろ。

「俺といたら目立つのがそんなに嫌か?
しょーがねーだろ、俺だって好きで目立ってんじゃねーよ。」
思わずそう愚痴り、今度は俺の方が箸を置く。


お互い数秒見つめあったあと、
「…………ごめん。」
つくしがそう呟いた。
そして、
「でも、……そういう意味じゃない。」
と小さい声で言った。

「あ?……なら、どういう意味だよ。」
聞き返す俺。

そんな俺に、こいつは俺を睨み逆ギレしながら言った。
「すれ違う女の人みんな、あんたのこと見てたの気付かなかった?
かっこいいとか言って、写真撮ろうとしてた人までいたんだから。
今だってほらっ、あんたが帽子脱いだ途端、あそこにいる女の子達がキャーキャー言ってるでしょ。
少しは自覚しなさいよっ。
あんたが目立つのは悪いことじゃないけど……、あたしは、……あんまり、……いい気分じゃ…………。」

最後の方はしどろもどろになって、言い終わらないうちに、またとんかつを食い始めるこいつ。

「つくし。」

「なによっ。」

「なぁ。」

「だから、なにっ!」

キレながらもくもくと食ってるこいつに、俺は緩む顔を抑えながら、

「それって、ヤキモチじゃねーの?」
と顔を覗き込んでやる。

「ちがうっ。」

「じゃあ、独占欲か?」

「ちがうっつーの!
早く食べないと置いて行くよっ。」




俺はこいつのこういうところが堪らなく好きで、
俺以外には、見せたり言ったりするなと、心から願う。

そして、こいつへの想いはもう心の中でしまっておけないほど、大きく膨らんでいる。
繋いだ手からも、見つめる目からも駄々漏れの想いを、おまえはきちんと分かってるか?
分かるように、……ぶつけてもいいか?

俺は正面のつくしを見つめ、そんなことを思いながら、他の女から視界が隠れるようにキャップを深くかぶり直した。





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 2015_10_31






「これからどうする?
……映画でも行くか?」

今日の目的である指輪を見終わった俺らは、それでもかなり時間が余っている。

映画でも行くか?………と、さらっと言ったつもりだが、内心はかなり緊張してる。
女とこんな風に出掛けたり、映画を観に行くなんて、俺にとってははじめてのこと。

そんな俺の緊張を知ってか知らずか、
「ううん。」
と断りやがるこいつ。

でも、そのあとの言葉が緊張してた俺の気持ちを一気にあったかいものへと変えた。

「少し早いけど、……子供の服とか、ベビーカーとか、そういうの見に行きたいんだけど。」

「…………。」

「道明寺?……あっ、ごめん、今日じゃなくてもいいのっ。
見たい映画あったなら、……」

何も言わねぇ俺に勘違いしたのか、慌てて言い直すつくし。

「ちげーよ。
行こうぜ。西田に聞いたら、ここよりも新宿の方がそういうのは揃うらしい。」

「西田さんって結婚してるの?
子供いるの?」

「いねーよ。結婚もしてねーし。」

「……じゃあ、なんでそんなこと詳しいのよ?」

「あっ?あいつは、俺が調べろっつーことは、数時間でレポートにまとめてくるマシーンだから。」

西田が聞いたら怒るかも知れねぇけど、間違ってはいない。
数週間前に、
『上質な子供用品が揃うのはどこにいけばいい?』
と聞いた俺に、数時間後、分厚い資料にまとめてきた西田。

それによると、新宿の数あるデパートには、高級ブランドのものから、今人気のある海外ブランドまで数多く揃うらしい。
相変わらず、このマシーンは使える。



「新宿まで行ってみるか?」

「うん。」







日曜日の夕方。
新宿はどこに行っても恐ろしいくらい混んでやがる。

そのおかげか、ベビー用品のコーナーにもかなりのカップルがいて、俺たちは店員につかまることもなくゆっくりと店内を見て回れた。

すげー小さな子供靴を手にとって笑い合う俺たちは、どこから見ても普通の夫婦にしか見えねぇだろう。

「上の階も見てもいい?」

「ああ。」

つくしのその言葉に、エレベーターへと乗り込んだ俺たちは、上の階のボタンを押して奥へと入る。
すると、俺たちの後から続々と人が乗り込んできて、あっという間にエレベーター内は満員状態。

押されたつくしを庇うように壁側へと避難させて、その前に俺が立つと、ちょうど俺の胸の辺りにつくしの顔。

その間も、隙間なく人が流れ込んできて、最終的にエレベーターの扉が閉まる頃には、俺とつくしの距離は……ほぼゼロに。

これだけ近い距離に寄ったのは、たぶんあの夜以来。
意識してるのは俺だけか?そう思いながら、少しだけ顔を下に向けて、つくしの顔を覗き込むと、至近距離で赤くなるこいつ。

そんなつくしがすげー可愛くて、俺は場所もわきまえず更に顔を近付けて、こいつの目をじっと見つめてやる。

すると、そんな俺に小さく、
「もうっ」と、睨みながら、体勢を横にずらそうとするつくし。
そうはさせねぇ。
逃がさねぇように、他のやつらが見えない腰の辺りを押さえつけ、動けねぇようにしてやると、更に怒った顔で睨んでくる。

そんなことを繰り返しているうちに、どちらともなく可笑しくなって、小さく吹き出す俺たち。
はたから見たらイチャイチャしてるだけのバカップルにしか見えねぇだろう俺ら。
そのイチャイチャをもっと堪能したいと思ったその時、次の階に着いたのか、エレベーターの扉が開いた。

数人がエレベーターから降りて、俺と牧野の間には適度な空間ができる。
それを残念に思いながらも、俺はせっかく近付いた距離をなかったことにしたくないと、
隣に立つこいつの小さな手を繋いだ。





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 2015_10_30






相変わらず関係が進展しないつくしと俺とは反対に、お腹の子供はすくすくと育っているようで、昨日の検診で妊娠6か月目に突入した。

夫婦とはいえ、別居中。
しかも、お互いハードな仕事をかかえ、
焦れったくなるほど、すれ違いの日々。

ようやく明後日の日曜日、昼に待ち合わせをして指輪を見に行く約束を取り付けた。
そんな些細なことで何日も前から浮かれてる自分に苦笑する。

どれだけ俺はあいつに惹かれてるんだ。
あんな形での始まりだった俺たちだけど、
今なら断言できる。

俺にとって、あの夜は
『運命』だったと…………。








約束の日曜日。
車で迎えに行くと言った俺に、
『他の用事もしたいから』とつくしが言い、銀座で待ち合わせることにした。

早めに着いたはずなのに、もうすでに俺より先につくしが待ち合わせ場所にいた。

「早いな。」

「うん。」
そう返事しながらもなぜか上の空のこいつ。

「どうした?」

「……いや、……なんかそういう服装、珍しいなと思って。」

今日はこの日のために仕事は完全オフにした。
だから、いつものスーツ姿じゃなく、ラフなジーンズとダウンのコートという服装の俺。

「今日は仕事の電話が来ても行かねぇつもりだから。」

「でも、明日の準備とか大丈夫?」

そう、明日から俺は1週間のNY出張が控えている。
準備は、今日この時間をつくしと過ごすために、昨日までに完璧に終わらせてきた。

ただ、明日の出発時間がかなり早い。
早朝4時にはジェットに乗る予定だ。

「ああ、大丈夫だ。
とりあえず、指輪見に行くか?」

「うん。」





店を貸し切りにしておいたジュエリーショップまでは歩いて数分。
俺らが入っていくとオーナー自ら出迎えて、いくつもの指輪を丁寧に見せてくれる。
一時間ほど迷ったあと、並べられた中でも控えめで、それでいて凝った作りの指輪をペアで作ることにした。

指輪の内側にはつくしには内緒で『日付』をいれて。




そのあと、ジュエリーショップを出た俺たちは、ゆっくりと街中を歩いていると、突然つくしが、
「ねぇ、ちょっとここで待ってて。」
と言って、俺をそこに残して一人で小走りにかけていく。

残された俺は意味もわからず、言われるがままその場で待っていると、5分後、つくしが紙袋をもって戻ってきた。

「どこ行ってた?」

「ちょっと、買い物。」
そう言って紙袋の中に手を入れて、中から男物のキャップを取り出した。

そして、俺の頭にそれを被せて、
「あんた、歩いてるだけで目立つから。」
と、呟いた。

「どんな帽子がいいか分からなかったけど、一応、コートと同じ色にしたから。
……マフラーのお礼に……。」
少し照れながらそう言うつくしに、

「サンキュ。」
俺はそう言ってキャップをかぶり直した。







*******************

道明寺と指輪を選び終わったあと、お店を出た瞬間から、行き交う人がジロジロとあたしたちを見ていく。

最初はなぜか分からなかったけど、その内、その視線の正体がわかった。

それは、すれ違う女の人がみんな道明寺に目を奪われているのだ。
当の本人はそんなこと慣れているのか、全く気にしてない様子。

でも、……あたしはなぜか胸がざわつく。
この人は、高校時代も周りにキャーキャー言われていたけれど、大人になった今でもそうなのだ。

ため息をつきながら、改めて隣の道明寺に視線を移すと、確かに長身で、スタイルがよくて、顔も女のあたしでさえ羨ましくなるほど綺麗。
そして、隠す気のないそのオーラ。

どこをとっても目立つのは当たり前。
だから、あたしは咄嗟に言ってた。
「ちょっと、ここで待ってて。」


近くのお店で買った黒のキャップ。
「あんた、歩いてるだけで目立つから。」
そう言って道明寺の頭に被せたけれど、本当の理由はそうじゃない。



他の人に、あんたを見られたくないから。
あたしだけのものだから。





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 2015_10_29







その日の夜、俺の携帯が鳴ったのはもうすぐ9時を回る頃だった。

「道明寺?」
電話の向こうでそう呼ぶこいつ。

「…………。」

「道明寺?」
相変わらず道明寺呼びのこいつに、

「おまえも道明寺だろ。」
そう突っ込みを入れると、少しの間のあと、

「つ……かさ。」
と小声で呼ぶこいつ。

「終わったか?」

「うん。」

「どこにいる?」

「それがね、お稽古は終わったんだけど……、」

そう言うつくしの後ろから、

「司ーーっ!迎えにこーい。」
と、バカ総二郎のでかい声が電話から響く。

「んだよっ、総二郎もいるのかよっ。」
そう聞く俺に、
申し訳なさそうにつくしが言った。

「西門さんだけじゃないの。
優紀と……なぜか美作さんまで。
あたしたちの入籍祝いをしてくれるって。」
そう言って総二郎行きつけの店の名前を出したつくし。

「わかった。15分で行くから待ってろ。」

「うん。」









つくしから聞いた店に行くと、奥のボックス席に総二郎とあきら、そして、つくしのダチの優紀の姿。

「司~、こっちこっち。」
とハイテンションのあきらに呼ばれて席まで行くと、もうすでにグラスの酒は半分以下。

迷わずつくしの隣に座り込んだ俺は、
「酒のペース早くねーか?」
とつくしに耳打ちする。

「っていうか、この人たち、もうこれで3杯目だから。あたしたちの入籍祝いとか言って、グイグイ飲みすぎでしょ。」
と、こいつらを睨みながら言うつくし。

祝ってもらえるはずの俺たちは、妊娠と、車の運転で、どちらも酒が飲めねぇ状態なのに、
自分達だけいい気分になってホロ酔い状態のやつら。

そんな酔っぱらいを眺めながら、コーヒーを飲む俺に、
「司、ここにいる優紀ちゃんがおまえにご立腹だぞぉー。」
と、総二郎が笑いながら言った。

「…………?」
俺はダチの優紀に視線を移すと、

かなり酔ってきたのかトロンとした目で俺を見ながら、
「疫病神。」
と一言呟いた。

それに、
「優紀っ!」
と焦るつくしと、
「ギャハハハーーっ!」
と、笑い転げる総二郎とあきら。

そんなこいつらを無視して優紀が続ける。
「道明寺さんはつくしの疫病神です。
昔も、つくしに嫌がらせして散々辛い思いさせたのに、10年経った今も…………。」

そう言うことか…………。
俺はつくしの疫病神。

「そうかもな…………。」
俺は素直に優紀にそう答えると、意外だったのか、
「自覚してるんですか。」
と、真剣に俺を見つめてくる。

「ああ。自覚してる。
俺はこいつの疫病神かもしれねぇ。
けどな、その疫病神を改心させる力がこいつにはあるらしくて、俺は昔も今も、どうしても、こいつに惹かれるみたいだ。
だから、これからは改心するから、おとなしく俺のそばにいろ。」

優紀に答えるつもりが、最後は隣のつくしの目を見て言う俺。
そんな俺らに、

「新婚だからって、人前でイチャイチャしなーいっ。」
と余計なことを言って邪魔をしたあきらが、
それでも、俺をフォローしてくれるかのように、

「牧野、司はな、興味のない女には、たとえ意地悪でも近付かねーよ。
だから、高校生の司が牧野に意地悪したことは、それなりに意味があるってこと、分かってやって?……バカだから、ほんとどうしようもないバカだから司は。」

「あきらっ、てめぇーー!」

「牧野、苦労するなぁー。」

「牧野じゃねーっ、もうこいつは道明寺だっ!」












なんでこうなる。
俺は久しぶりに、つくしと二人で過ごしたかっただけなのに…………。

つくしの家まで送る車の中、
助手席にはつくし、そして、後部座席には酔っぱらいが二人。

「ったく、なんでおまえら自分の家の車に乗らねぇんだよっ。」

「いーだろーが。
どうせ、通り道なんだし、そんな冷てぇこと言うなよ。」

そう言ってでかい図体をシートに預ける総二郎とあきら。
確かにこいつらの家は邸の近くだから、邸に帰る通り道といえばそうかもしれねーけど、その前につくしを家に送っていくんだよっ。

おまえらがいたら、ゆっくり部屋にも寄れねぇし、二人きりになることも出来ねぇだろーが。

そんな俺のイラつきも虚しく、5分後、車はつくしの家の前。
鏡越しに後ろの二人に視線を移すと、二人とも眠ってやがる。

ゆっくりと家の前で車を止めると、助手席のこいつがシートベルトをカチリと外した。

「ありがとう。……じゃあ。」
そう言って俺と視線を交わした後、ドアを開ける。

そんなこいつの腕を俺は咄嗟に掴み、
「つくしっ、………おやすみ。」
そう言うと、

小さく笑って
「おやすみ。」
と言って車を降りていった。










「……つくし、おやすみ。」

「おやすみ~。」

「っ!……てめぇーら、起きてたのかよっ!」

ギャハハハーー。

つくしの家から500メートル進んだところで、寝ていると思ってた後ろの二人の猿芝居が始まった。

「おやすみのチュウぐらいするかと思って期待してたのによー。」

「うるせぇー。」

「新婚なんだからそれぐらいしても見なかったふりしてあげたのになー。」

「それなら、はじめから俺の車に乗るなっ!
新婚なんだから、少しは気をつかえよっ。
久しぶりに二人で過ごせると思ったのによ。
ったく、なにがチュウだよ…………ずっとしてねぇ俺の身にもなれっつーのっ。」

思わず愚痴る俺。
そんな俺の言葉に、今までギャハハハうるさかったこいつらが、一気に静まり返る。

そして、
「おいっ、おまえらキスもしてねーのかよ。」
と、運転中の俺の首に腕を回して聞きやがる総二郎。

「あぶねっ!離せバカっ。」

「いいから答えろ司。」
そう言ってあきらまで運転席の俺を覗きこむ。

そんなこいつらに、俺はアクセルを踏むと同時に叫んでた。
「ああ、キスどころか、抱きしめることすらしてねーよっ!
それもな、あの夜から一度もだっ!」







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 2015_10_28






今さら、『あのときは悪かった』なんて、言えねぇよなー…………。


2日前、あいつらから聞かされた俺と牧野の最悪な過去。
類が言っていた通り、あの頃の俺は、はじめて出来た気になる女に意地悪をすることで興味を引こうとしてた青臭いガキでしかなかった。

でも、牧野にとってはどうだろう……。
執拗に苛められた過去は思い出したくもない記憶。
その相手が……『夫』 …………。


「……マジかよ。
完全にキライな人ナンバーワンだな。」

あきらに言われたその不名誉な呼び名が、思わず自分の口から出る。
そんな独り言を言う俺に、

「どうかなさいましたか、支社長。」
と、オフィスに書類を持ってきた西田が聞く。

「離婚の危機だ。」

「……え?」

365日無表情の西田が、顔をあげて俺をまじまじと見つめたあと、すげー目を見開いて、
「何をしたんですか、坊っちゃんっ。」
と、動揺したときに出る『坊っちゃん』呼び。
俺が何かした前提で話を進めるところはさすがだ。

「……冗談だ。
西田、いま少し電話する時間あるか?」
腕時計を見て、次の会議の時間を確認すると、

「……はい。10分ほどなら。」
と、ほっとしたような西田の返事。

それを聞いて、俺は携帯で牧野の番号を呼び出した。






「もしもし?」

「俺だ。」

「うん。どーしたの?」

夕方のこの時間に電話をするのは珍しいからか、いつもより固い声のこいつ。

「今日、何時に終わる?」

「6時頃には終わるけど……」

「じゃあ、仕事終わったら家に寄ってもいいか?」

その俺の言葉に、

「……あー……んー、」
と、歯切れの悪い返事。

「なんだよ、何か用でもあるのか?」

「いや、そうじゃないけど、
…………別に大事な用ではないから大丈夫っ。」

そう言って慌てて否定するところが妙に気になる。

「先約があるなら……無理しなくていいぞ。」

精一杯、無理してそう言う俺。

「いや、あのね、今日お茶のお稽古の日なの。」
と、申し訳なさそうにこいつが言った。

「茶の稽古……?もしかして、総二郎のところのか?」

「そう。ずっと休んでたけど、つわりも落ち着いたから、行こうと思って優紀と約束しちゃったの。」

そう話すこいつに、さっき一瞬だけ感じた不安が思わず口から出る。

「なんだよ、おまえが言いづらそうにするから、何か俺に言えねー事でもあるのかと思っただろーが。」

そんな俺に、
「だってっ!」
と、焦ったような声を出したあと、

「だって!
ただでさえ別居してるのに、せっかく電話くれて家に行ってもいいかって言われたのに、断るのもどうかと思ったから。」

そんなことを言うこいつが無性に可愛くて

「…………おまえさぁ、」
と、こっちまで顔がほてり出す。

「な、なにっ?」

「……いや、何でもねぇ。
……稽古が終わったら電話しろ。
迎えに行く。」

それだけ言うのがやっとの俺に、

「うん。終わったら連絡する。」
と言って切れた電話。



その電話を名残惜しそうに見つめていると、
「そろそろお時間です。」
と、西田の声がした。






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 2015_10_26







晴れて結婚した俺たちは、相変わらず今までと何も変わらない生活を送っている。
強いて言えば、電話で話す機会が増えたくらいか。

「昨日、校長だけには結婚の報告と、産休の相談してきた。
道明寺って名前だしただけで、倒れそうなほど驚いてたよ。」

「産休は予定通り取れそうか?」

「うん。大丈夫。」


そんな会話をした昨日、俺も久々にF3をメープルのバーに呼び出した。

あきらと総二郎とは、俺のオフィスでやりあって以来2か月ぶり。

約束の時間通り4人が久々に顔を会わせ、軽くグラスを鳴らしたあと、俺が切り出した。

「先週、牧野と籍をいれた。」

「……噂は本当だったのかよ。」

あきらと総二郎が渋い顔で俺を見る。

「マスコミには時期を見て正式に発表するつもりだ。
おまえらには……認めてもらえねぇかもしれないけど、……俺はあいつを……愛してる。
だから、この結婚は俺にとって最高の選択だ。」

やつらを前に胸を張ってそう言い切る俺。
そんな俺に、長い沈黙のあと総二郎が言った。

「司の話によっては、おまえとは縁を切るつもりで今日ここに来た。
おまえが、責任を取るつもりでとか、男の義務としてとか、そんな理由で牧野との結婚を選んだとしたら、俺はおまえを許さなかっただろーな。
けど、口が裂けても言わないだろう『愛してる』なんて言葉を、司が使うなんて……おまえ相当牧野に惚れてんのかぁー?ギャハハハーーっ……。」

バーに似つかわしくねぇでかい声で笑いやがる総二郎。

「うるせーっ!人が真面目に話してるっつーのに、おまえは相変わらず……。」

「まぁ、よかったんじゃねーの?
こんな出会いでもしなければ、司は一生結婚なんて出来ねぇだろ。」

その言葉に深く頷くこいつらが気に食わねぇ。

でも、やっと2か月ぶりにF4らしい雰囲気に戻ることが出来た。


「で?何が司をそこまで夢中にさせるわけ?」

「あ?」

「だから、女に全く興味がなかったおまえに、『愛してる』なんて言わせるまで夢中にさせる何があるんだよ、あの牧野に。」

「…………。」

そう言われると、俺自身、あいつのどこにそんなに惹かれていくのか分からない。
そんな俺に、今まで黙って聞いていた類が

「司は頭じゃなくて本能で動くタイプだから。」
と、呟いた。

「……本能?
そうかもな。頭できちんと考えれば、牧野は選ばねぇだろ。
だって、容姿も家柄も、どれをとってもすべてが平均並みの女だぜ?」
と、牧野が聞いたらすげー怒りそうな発言をするあきらと、それにケラケラ笑ってやがる総二郎。

その二人を見ながら、類は更に得意気に言った。
「そんな平均並みの牧野でも、司のレーダーには必ず引っ掛かる。」

「……あ?」

類の言ってる意味が分からず聞き返す俺に、
「司、覚えてない?
高校のとき、司が唯一、興味をもった女。」

「……NYに行く前か?」

「そう。司の上靴にゴミ箱を倒して汚した子。
その子のこと、そのあと執拗にいじめたでしょ。
あれ、牧野だよ。」

「っ!……マジかよ。」

「マジだねぇー司くん。」
「やっぱり忘れてたのかよ。」

驚く俺を、哀れむような目で見やがるお祭りコンビ。

「あのときぐらいじゃない?司が女のことを目で追ってたことなんて。
自分では気付いてないと思うけど、あれは確実に好きな子を苛める青臭い男の図だったよねー。」


確かに今思えば、そんなことがあったかもしれない。
俺のことを見れば、キャーキャー騒いでる女たちとは反対に、俺のことを全力で避ける女。

その態度が気に食わなくて、なんとなく視線がその女へと行く。
でも、決して目が合うことはなく、痺れを切らした俺は、自分から近付いた。

そんなとき、運悪く、いや、運良く、その女が俺の足にゴミ箱をぶちまけた。
それを機に、俺は『仕返し』という正当な理由をつけて、そいつに近付くことにした。

でも、それもほんの一瞬の出来事で、NY行きが決まった俺は、そのあとほとんど学校に顔を出すこともなく、その女の名前さえ知らないまま終わった…………はずだったのに、
まさか、それが牧野だったとは。

「あいつは、そのこと覚えて……」

「当然でしょ。」

俺が言い終わらないうちに、そう返す類と、
その両隣で『当たり前だろ』と顔で訴えるあきらと総二郎。


「あいつ、俺のこと……、」
恨んでんじゃ…………そう聞こうとした俺に、


「凄くキライな人、ナンバーワン。」
「マイナスのイメージしかない。」
「すでに最悪の出会いをしてたおまえら。」

と、口々に言い、慰める気ゼロのこいつら。


「はぁーーーー。
マジかよっ……、今さらごめん、っつーのもおかしいだろーし、だからって、知らねぇふりで通すのも……」

そう言って頭を抱える俺を横目に



「まぁ、せいぜい、これ以上嫌われねぇように、頑張れよ、新婚さんっ。」

と、すげー楽しそうに乾杯しやがる3人。


「俺の不幸で乾杯すんじゃねぇーっ!」






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 2015_10_26






牧野に書かせた婚姻届を持って、今度は二人で邸のババァのところに行った。

『今日中に出したい。』
そう言ってサインをしろと言う俺を無視して

「牧野さん、本当に司でいいの?」
なんて聞きやがる。

そんなババァの言葉に、
「はい。」
と、笑いながら迷わず答えてくれるこいつが、……愛しい。







結局、11月の最後の日曜日、俺たちは結婚した。
何かの記念日でもなければ、覚えやすい語呂合わせの日にちでもない。
でも、俺にとってはじめて出来た『大切な日』

役所に婚姻届を出して正式に夫婦になった俺たち。
牧野を部屋まで送る車の中、

「なんか、凄い一日だったなぁ、」
と牧野が呟く。

「ああ。」

「やっぱり道明寺もそう思う?
だって、予定ではうちの親に挨拶に行くだけだったのに、結局は婚姻届まで出しちゃったもんねー。」

俺は最初からそうするつもりだった……とは言わない方がいいかもな。
とにかく、俺的には今日の流れは想像していた通りうまく行った。


車が牧野の部屋の前に着く。
時計をチラッと見ると、もうすぐ9時になる。

「…………それじゃあ……」

「……おう。」

夫婦になったとはいえ、お互い帰る場所は別々。
なんとなく、気間づい挨拶をして、牧野が車から降りていく。

振り向いて小さく手を振ったあと部屋に入っていく牧野を俺は黙って見つめていた。







**********************



部屋のドアがパタンと閉まり、あたしはそのままドアに背中をもたれかけた。

『寄ってく?』
そう聞けばよかったかな。

でも、朝から散々動き回って疲れてると思うし、
明日も仕事だから。

そんな風に自分に言い聞かせるけど、心ではそうじゃないと分かってる。
もう少し……一緒にいたかったのかも。

やっぱり勇気を出して言えばよかった。
『少し寄ってく?』


はぁーーーー。
そんなことを考えながら、靴を脱ぎリビングに行く。
パチンとリビングの明かりを付け、着ていたコートを脱ぎ、ソファにパサッとそのコートを置いたとき、テーブルの上に見慣れないペンがあるのが目に入った。

それは、婚姻届を書いたときに道明寺が渡してくれたボールペン。

「忘れていったんだぁ。」
そう小さく呟いたあたしは、

次の瞬間、脱いだコートのポケットから携帯を取り出して、はやる気持ちで道明寺の携帯へとボタンを押した。


もうどの辺まで行っちゃっただろう。
確か別れたのは5分前だよね。
もうかなり行っちゃっただろうか。


2コール目で
「もしもし。」
と道明寺の声。

「道明寺っ、」

「どうした?」

「あのね、今どのあたりにいる?
もうあたしの家からだいぶ離れた?」

「…………、」
何も言わない道明寺。

「あっ、ごめん、運転中だよね。
あとでかけ直す。」
と、慌てて切ろうとしたあたしに、

「いやっ、まだいる。」
と、道明寺が言った。


「…………え?」

「おまえの家の前にまだいる。」

「えっ、なんで……。」

あたしは、その道明寺の言葉に、携帯を耳に当てたまま玄関に走りだし、ドアを開けた。

そこには、さっき別れたはずの道明寺の車が、そのままにある。

「なんで?」

「…………。」

「道明寺……」

その先の言葉が続かない。
だから、靴を履いて道明寺がいる車まで行こうとしたあたしに、電話の向こうの道明寺が、

「来るな。」
と、一言言った。

「え?」

「来るな。
おまえ、上着着てねーだろ。
俺が行くから、おまえはそこにいろ。」
そう言って切れた電話と同時に、道明寺が車から降りるのが目に入る。

小走りであたしのところまで来る道明寺。
そして、玄関の外にいるあたしの肩を押して、玄関の中に入らせた。

リビングからの明かりが少しだけ届く薄暗い玄関。

「道明寺、どうして……」

「おまえこそ、どうして」

「あっ、あたしはボールペンが。」
そう言ってテーブルにあったボールペンを道明寺に見せると、

「忘れてたか。」
と、それを受け取って胸ポケットにしまう。

そんな道明寺に、もう一度だけ、
「道明寺は……」
と言いかけると、

「なぁ、俺たち結婚したんだぞ。
だから、おまえも道明寺だよな。」
と、少し怒ったように言ってくる。

「……まぁ、……そうだね、」

「じゃあ、お互い呼び名は変えなきゃな。
…………つくし。」

はじめて呼ばれるその響きに、暗闇でも分かるほど赤くなってる自覚はある。
そんなあたしの顔を覗き込み、『おまえは?』と聞いてるような道明寺の顔。


「つ……かさ?」
思わず疑問系になるあたしに苦笑しながら、それでも、すごく嬉しそうに笑う道明寺を見て、あたしはチクチクと胸が苦しくなった。

それは……その正体は、自分が一番自覚してる。

あたしは、この人が……好き。
一緒に過ごす時間が比例するかのように、あたしは道明寺に惹かれていく。


目の前にいる道明寺を見つめるあたし。
そんなあたしの気持ちを見抜いたかのように、
もう一度、
「つくし……」
そう優しく囁いて、




たぶん、抱きしめようと……してくれた……はず。



その瞬間、道明寺の胸ポケットにある携帯が鳴り響いた。
その音にビクッとなるあたしたち。

それで、魔法が溶けたみたいに、慌てて距離を取る二人。

「もしもし、……おう……わかった。
……邸に戻ったら確認して、メールで送る。」

道明寺が話す仕事の電話を聞きながら、
恥ずかしさMAXのあたし。

電話を終えた道明寺も、なんとなくさっきまでの甘い雰囲気が恥ずかしいようで、それを打ち消すかのように、あたしの髪をグシャグシャとかき混ぜた。

「寒い服装で外に出るなよ。
俺がやったマフラー必ずしてろ。
それと、……今度の休みに指輪見に行こうぜ。
……つくしの、気に入ったものをお揃いで作るから。」


そう言って、最後は髪を整えるかのように優しく撫でて、部屋を出ていく道明寺を、
今度は車が見えなくなるまで見送った。

結局、道明寺がどうして帰らずにここにいたかは聞けなかったけど、
あたしと同じ気持ちだったらいいなぁと、
バカみたいに「夫」に恋するあたし。





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 2015_10_25






結局、牧野の実家を出たのは昼をだいぶ回った1時過ぎ。

献上品をすべて下ろした車はもうすぐ牧野の部屋に着く。

「なぁ、このあと少し時間あるか?」

「ん?……あるけど。」

「少しこれからのこと話そうぜ。」

俺はそう言って牧野の家の前に車を止めた。








向かい合って牧野が入れてくれたコーヒーを飲みながら一息ついた俺は、ゴロンと床に寝転んだ。

「はぁーーーーー。」

「道明寺、疲れたでしょ。」

「……かもな。」

低い天井を見上げてそう言うと、

「あんな窮屈なところに何時間もいたら、そりゃ疲れるよね。」
と笑う牧野。

そんなこいつに、俺は天井を見たまま言う。
「そーじゃねぇよバカ。
これでもすげー緊張してたんだよ。
おまえの両親に反対されたらって。
はぁーーーーー。
マジで……よかった。」
言葉に出すと、自然と全身から力が抜けていく。

「なぁ、牧野………………、」

「ん?」

俺はガバッと起き上がると、胸ポケットに入れていた婚姻届を牧野の前に差し出した。

「子供のためにも早い方がいいだろ。」

ほんとは子供のためなんかじゃない。
俺が一番望んでいるから……。

婚姻届を開いた牧野は、俺のサインと牧野の親父のサインを見て、
「いつの間に……」と小さく呟いた。

「牧野、きちんと籍を入れて、そのぉー、
一緒に…暮らそうぜ。
邸の部屋をおまえの好きなように変えてもいいし、それが嫌なら別のところに家を買ってもいい。それに、……」

「ちょ、ちょっと待って道明寺っ!」

「あ?」

「あのね、あたし、ちょっと考えてたんだけど、……」

そこまで言って言い渋る牧野。

「なんだよ。」

「あのね、あたしも籍を入れるのは早い方がいいと思ってるんだけど、そのぉー、……3月まではここに暮らそうかと……。」

「……あぁ?」

予想もしてなかったその発言に思わず不機嫌な声が出る。

「だ、だって!
3月までは途中で仕事やめられないし、それに、ここからなら歩いて3分で学校に行けるでしょ?
どこかに引っ越すより断然お腹の子のためには安全でしょ?」

「俺はどーすんだよ。」

「だから、とりあえず、籍は入れてもお互い今までと変わらない生活をするってことで。
もちろん、3月には仕事も産休取る予定だし、その頃にはお腹も大きくなってると思うから、新居に移るつもり。」

「なんだよそれ。
それじゃ、今と何も変わらねぇじゃん。」

出来ることなら明日にでも一緒に暮らしたいと思ってた俺との温度差に、ガッカリするより怒りが込み上げてくる。
そんな俺の気持ちを察したのか、牧野が俺の目をまっすぐに見つめて言った。

「道明寺、ごめん。
全部あたしのわがままだって分かってる。
でもね、あたしなりに色々考えてみたの。
あたしね、今まで必要性もなかったし、時間もなかったから、運転免許も持ってない。
だから、もし道明寺の家に引っ越したら電車でここまで通わなきゃならないでしょ、」

「それは俺が送ってやるし、運転手もいる。」

「うん、でもそれじゃあ、迷惑がかかるし。
それに、バスケの顧問も受け持ったからにはきちんとやりたいの。
休みの日の練習には付き合ってあげたいし、試合には応援にもいってあげたい。
だから、……3月までは待ってもらえないかな。
それまでに全部整理して、産休に入れるようにするから。」


俺が仕事を放り出せないのと同じように、こいつにも大事なものがある。
だから、俺が折れるしかない。



「…………しゃーねーな。
……わかった。その代わり、
籍はすぐにいれる。
産休に入ったら、一緒に暮らす。
約束だからな。」

「うん。
ありがとう。」

ほっとした顔で笑う牧野。
そんなこいつに、俺はまたゴロンと寝転んで思わず愚痴った。

「ったく、結婚して早々、別居かよ。」

そういう俺に、何を勘違いしたのか、

「ごめん。
別居が世間にバレたら困るよね。
道明寺の会社のイメージにも響くかも……。」
と、検討外れのことを言うこいつ。

そんなくだらねぇことを俺が気にするとでも思ってるのか。
俺が愚痴る理由はそうじゃない。

再びガバッと起き上がった俺は、
今度はこの鈍感女にも分かるように言ってやる。

「あのなぁ、世間体とかイメージとか、俺はどうでもいいんだよ。
今すぐ籍をいれるのも、一緒に暮らしたいと思ってるのも、…………全部、俺のおまえに対する素直な気持ちだ。
だから、今すぐ、ここで、早く書け。」

婚姻届をグイッと牧野の前に広げてやる。

「約束通り、今日中に出しに行くぞ。」






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 2015_10_24






頑固で意地っ張りな牧野。
そんなこいつだから、両親も堅物かと想像していたが、良い意味で裏切られた。

目の前にいる『パパ』と『ママ』は、さっき会ったばかりの俺に、屈託なく接してくれる。

「道明寺さん、こたつの中では遠慮しないで靴下脱いで下さい。」

「は?」

「その方があったかいですから。」

「ちょっと!パパっ。
道明寺に変なこと教えないでよっ。」

「こたつあるあるを教えて何が悪いっ。
昔からこたつには裸足で入って、ミカンを食べながらテレビを見る。
そして、眠たくなったらこたつの中に体を入れて、頭だけだして寝る。
これが常識だろ。ね?ママ。」

「そうよね~。」

こたつの常識を力説してくれる牧野の両親。

「なんか、ほんとごめん。
時間、大丈夫?
これ以上いてもいらない知恵を吹き込まれるだけだけど。」

そう言って俺の顔を覗き込んでくる牧野とは、すげー距離が近い。
長方形のこたつテーブルの一辺に並ぶようにして座った俺たち。
そう大きくないテーブルだから、並んで座ると腕と腕がぶつかるほど近い距離。

「お昼御飯食べていって。
ママね、おでん作ってあるの。ね、道明寺さん。おでん食べて行ってくださいっ。」

長居をするつもりはなかったが、この家庭的な雰囲気の実家も悪くない。

「はい、ごちそうになります。」
そう返事をした俺に、

「無理しないで道明寺っ。」
と牧野が不安そうに小声で言ってくる。

「無理なんてしてねーよ。」

「でも、……」

「おでん、食わせろ。初めてなんだよ。」
そういう俺に、

「何を食べてあんたはそんなに大きくなったのよ…………。」
と、呆れて言った。





ママがおでんを用意してくれて、パパのおでんあるあるを聞きながら、家庭的な食卓を囲んだ俺。

手厚いおもてなしに、なかなか肝心な話を切り出すことが出来ないでいたが、そろそろ…………と、隣の牧野を見るとなぜか辛そうな顔。

「どうした?」

「ん?……ちょっと食べ過ぎたみたい。
ムカムカしてきちゃった。」

つわりが完全に終わったわけではない牧野。
食べる前や食べた後に吐き気があると医師に言ってたのを思いだし、

「少し寝てろ。」
俺がそう言うと、牧野のママも

「そうよ、少し休みなさい。」
と、手近にあった座布団を二つにたたみ、即席まくらを用意する。

体をこたつの中に入れて、頭だけ出す。
パパの言う、こたつあるあるの再現。



おとなしく横になった牧野は
しばらくすると、小さな寝息をたてて眠りに入った。
その顔はさっきまでの険しさはなく、穏やかなもの。

それを見て、俺は側に置いた自分の鞄から一枚の紙を取り出して、両親の前に広げた。


「お父さんお母さん、
遅くなりましたが……、
つくしさんと結婚させてください。」

そこには、俺のサインが既に記入された婚姻届。

「順番が逆になってしまいすみません。
ですが、このお腹の子が、俺とつくしさんを結びつけてくれたと思ってます。
……大事にします。大切にします。
ですから、……つくしさんを僕に下さい。」
二人を見つめて頭を下げる俺に、一言だけ

「よろしくお願いします。」

と、言ってくれた両親。
その短い一言が牧野の人生を預けてくれた重さだとずっしりと響いた。




婚姻届の保証人にはパパのサインを貰い、もうひとつはババァに書かせるつもりだ。
そして、肝心のこいつのサインはいつ書かせようか……そう思いながら、眠っている牧野の頭にそっと触れる。

4ヶ月前のあの日以来、俺がこいつに触れたのは、数回しかない。
それも、咄嗟に手を掴んだとか、別れ際に挨拶程度に頭をくしゃっと触るとか、ババァに会いに行く時に緊張する牧野を心配して頬に手が伸びたとか…………、
どれも一瞬で、こいつの温もりを感じるほど近付けていない。


なぁ、牧野。
今のおまえは、どこまでなら許してくれる?
どこまでなら、俺はおまえに近付ける?




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 2015_10_23






次の日、時間通りあたしの部屋に迎えに来た道明寺を慌てて部屋の中に入れる。

「なんだよっ。」

「だって、あんた朝からテレビで騒がれてるでしょ!」

今もあたしの部屋のテレビでは、朝から何度となく流れたニュースがやっている。
『道明寺財閥御曹子である道明寺司氏、一般女性とお付き合いか。』

幸いあたしの顔は出ていないけれど、撮られた場所が産婦人科クリニックの前ということもあり、妊娠説まで浮上して、かなりビッグニュースとして取り上げられていた。

「あんた、こんなところにいて大丈夫?」

「ああ。
それに、本当のことだから隠す必要もねーだろ。」
と、呆れるほど余裕の道明寺。

そして、
「行くぞ。」
なぜか嬉しそうにそう言ってあたしの手をとった。









実家までは車で30分。
行くことは伝えてあるけれど、相手が道明寺だということも、お腹に子供がいることも、
まだ伝えていない。

助手席から後ろを振り向き後部座席を見ると、
昨日はなかったはずの荷物が、たくさん置かれている。

「これ、なに?」

「献上品。」

「は?」

「おまえを貰いに行くんだぞ。
これぐらいは用意しておかねーと。
マジで少なかったかな……あとで届けさせるか。」
そんなことをブツブツ言ってる道明寺に、

「たぶん、あんたの顔を見ただけで喜ぶような両親だから何も必要ないと思う。」
と小さくあたしは呟いた。










小さいながらも一軒家を借りている実家。
到着して早々、持てる分だけの『献上品』を持って「ただいま~」と玄関を開けると、中からママがいつもよりよそ行きの服装で出てきた。

道明寺を見るなり、ママが
「遠いところようこそ。
どうぞ上がってください。」
と、ろくに顔も見ず招き入れる。
二人で茶の間に入っていくと、そこにはガチガチのパパの姿。


「どうもはじめまして。」
道明寺の挨拶にも、

「さぁさぁ、寒かったでしょ。
こたつに入ってください。」
と、挙動不審のパパ。

言われるがまま並んでこたつに入ったあたしたちの前で、お茶の用意をバタバタし出すママと、
「ミカンでも出そうか。」と立ち上がるパパ。

そんな二人を見かねてあたしは言った。

「パパもママも落ち着いてよ!
とにかく、挨拶も出来ないからこっちに座って。
ごめんね、道明寺。
パパもママもあたしが彼氏を連れて来るって言ったらガチガチに緊張しちゃって。」
と道明寺に謝り、改めて姿勢を正して道明寺のことを紹介しようとしたその時、

あたしの後ろにあるテレビから、あのニュースが流れてきた。
『道明寺司氏、一般女性と入籍間近。』
さっきまでは『お付き合い』だった関係も、もう『入籍』にまで噂は大きくなっている。

そんなニュースを聞いていたママが、ポツリと
「一般女性なのね……、どこで知り合ったのかしらこんないい男と……。」
と呟いて、

「ね?」
とおもむろにあたしと道明寺を見た。

そして、道明寺の顔を改めてゆっくり見た後、その視線がテレビへと移動する。
数えること3回。
同じ動きをした後、

「え?……えっ?!
パパ…………ママね目が変になっちゃったみたい。つくしの彼がテレビの道明寺司に見えるんだけど。」
と、ゴシゴシ自分の目をこすり出すママ。
それに反応して道明寺とテレビを見つめるパパ。

そんな二人に、
「だーからっ、」
とあたしが話を切り出そうとした時、それを遮るように道明寺が口を開いた。

「はじめまして。お父さんお母さん。
つくしさんとお付き合いさせて頂いています道明寺司です。
ご挨拶が遅くなりました。」

目の前の人が本物の道明寺司だと分かり、更に慌てるパパとママ。

「いえ、こちらこそ、こんなちんちくりんの娘と付き合って頂いて恐縮です。」

「ちょっと!誰がちんちくりんよっ!」

「これ、お口に合うかかどうか分かりませんが、良かったら召し上がってください。」

「これはこれは、お気遣い頂きまして……。」

あたしの抗議の声なんか聞いちゃいない。
『献上品』を渡し終えた道明寺に、
「ミカン食べて下さい。」
なんて言いながら、あっという間に、秒速で道明寺と距離を縮めたママとパパ。


想像はしてた。
なんとなく、こうなるだろうと。
玉の輿にのるために、あたしを英徳に入れるぐらいの両親だから、道明寺との付き合いを反対するはずがない。
そこまでは予想がつく。

でも、あたしたちは更にその先を行っているではないか。
『妊娠』…………。
これを聞いて、さすがのパパも黙ってはいないだろう。
道明寺のことを一発殴るぐらいのことはするかもしれない。


和やかな雰囲気で会話が続いてる3人を見ながら、話すなら早い方がいい。
そう思ったあたしは、
「あのね、パパ、ママ。
実は…………」

そう言いかけたとき、またもテレビからリポーターの声が響いた。
「道明寺司氏とそのお相手の女性は、なんと昨日二人揃って産婦人科クリニックで目撃されています。
仲むつましいご様子で待合室にいる姿から、女性がすでに妊娠しているのでは……と憶測が広がっています。」

そのリポーターの声が、静まり返る茶の間に響く。
こんな形で伝えることになるとは……、
そんなあたしの気持ちを察したのか、隣の道明寺がそっとあたしの背中をひと撫でしてから、

「実は……」
と、切り出したとき、

突然パパが「ワァっ。」と言って、こたつに顔を突っ伏すようにして固まった。
それに続くかのように、今度はママが、
「そんな……」と呟きながら両手で顔を覆い隠すようにして泣きはじめる。


こんな二人を見るのははじめてのことで、どうしていいか分からないあたし。
ただ、ただ、
「ごめん。……ごめんね、ママ、パパ。」
と、謝るだけ。

そんなあたしに、ママが顔を隠しながら、
「妊娠は本当なの?本当に道明寺さんの子供なの?」
と、当の道明寺さえも疑わなかった言葉を容赦なく投げつけてくる。

「……うん。4ヶ月に入るところ。
道明寺とあたしの子供。」

「本当ね?」

「本当。」

そうあたしが答えたのと同時に、顔をあげたママは、ビックリするぐらい満面の笑みで、
「パパぁー!聞いた?道明寺さんとの間に子供が出来たんですってーーー!」

「ああ、聞いたぞぉー!
でかしたっ、つくしーーー!」

こたつに突っ伏して嘆いていたはずのパパも、これ以上ないっていうほど嬉しそうな顔で、ママと「ばんざーい!」なんて叫んでいる。






「すげーなおまえの両親。」

「……ごめん。」

「昨日、俺の姉ちゃんのこと見て、『はじめて出会う人種だ』って言ったよな?
あの気持ち、今なら分かる。」

「うん、……そうだね。
お互い苦労しそうだね。」

「まぁ、いいんじゃね?
こんな苦労ならいくらでも。」



どこからどう見ても、この人に似合わないこたつに入りながら、そう言って優しくあたしを見てくれる道明寺。

一緒にいればいるほど、このまっすぐで優しい目に溶かされていく。

結婚しようと言ってくれたことも、お母様に3発も黙って殴られてくれたことも、車に大量の「献上品」を用意してくれたことも、
全部、道明寺の罪滅ぼしなんだと分かっていても、

本気でこの目に惹かれていく自分が止められない。


もっと近づきたい。
もっとあんたのことを知りたい。
そう思うのは、あたしだけ?





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プロフィール

司一筋

Author:司一筋
花より男子の二次小説サイトです。
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司をこよなく愛する管理人の妄想サイト。

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