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仕事が終わってマンションに戻ると、ドアの前に
黒い物体が。
恐る恐る近付くと、顔を見なくても分かるそのクルクル頭。

ふぅーーーー。

「…………道明寺。」

「…………。」

「ねー、道明寺っ。」

「………………おせーよ。」

顔をあげてそう呟く道明寺。
こんなところに座り込んで酔ってるのかと思ったけれど、顔を見てすぐに分かる。

「具合悪いの?」

「ああ。…………ぶっ倒れそう。」

「っ!なんで、こんなところにいるのよっ、
バカっ、熱は?風邪?病院には行ったの?」

怒鳴るあたしに、この人は頼りなく笑って

「全部診てくれよ、ドクター。」
そう言って手を伸ばしてきた。







ドクター。
曲がりなりにもそう呼ばれる身としては、このまま病人をほっておけない。
伸ばされた手を乱暴に引っ張り、
「とにかく、入って。」
そう言って玄関の鍵を開けた。


倒れ込むようにしてリビングのソファに横になる道明寺に、まずは体温計を持ってきて
「計ってみて。」
と手渡すが、
「やってくれ、ドクター。」
と苦しそうな声。

「もうっ、…………ネクタイ緩めるよ。」
ネクタイを少しだけ緩めて、ワイシャツのボタンを2つ外す。
シャツの隙間から手をいれて脇に体温計を挟むが、その時触れる肌がかなり熱い。

38.7度。
とにかく、 自分用に常備してる抗生物質をなんとか飲ませて小さな保冷剤で全身を冷やしていく。

道明寺の体にはこの小さなソファでは窮屈でかわいそうだけど 、今の状態では起き上がり移動するのも辛そうなので、このまま熱が下がるまで様子を見るしかない。

薬を飲んで30分もしないうちに、荒い息をしながらも眠りについた道明寺。
あたしはそれを確認して携帯を取り出す。

迷ったあげくかけたのは
「もしもし、花沢類?」

「牧野?どうしたの、珍しい。」

再会してラーメンを一緒に食べたときに、帰り際こっそり渡された番号。

「あのね、お願いがあるんだけど。」

「なに?」

「あたしのマンションまで来てもらえないかな。」

突然のお願いに絶句する花沢類に、これまでの事情を説明すると、

「プッ…………さすが司。
それにしても、司が熱を出すなんて相当こたえてるな。」
と渋い声の類。

「なにかあったの?」

「んー、まぁ、最初から厳しい条件だったんだけど、仕事で大きな商談がうまくいかなかったんだよ。かなり時間もかけてきた案件だったし、司にとっては絶対成功させたかったはずだからね。」

「そうなんだ。」

道明寺財閥の跡取りとして背負う責任の重さ。
6年前のあのときからずっと何も変わらない。
道明寺が抱える大きな重圧。
一生背負っていく下ろすことの出来ない重み。

「牧野、悪いけど俺今日は忙しいんだ。
だから、司のことは牧野に任せる。」

「えっ、」

「司がそんな風になるまで落ちてるのは牧野にも関係あるんだよ。」

「…………どういう意味?」

「あんなボロボロになるほど苦しんでまで、牧野のこと手放したんだから、絶対司の母さんには仕事で認めさせるって、この6年頑張ってきたからね。
牧野、司のこと頼む。
司のこと、ちゃんと見てやって。」

そう言って切れた電話。


花沢類の言葉が耳に残ったまま、ソファで眠る道明寺に視線を移すと、額には玉の汗。
タオルを取りに行きそっと押さえるように汗を拭うと、まぶたがゆっくりと開いた。

「牧野。」

「ん?具合どう?」

「わかんねぇ。」

「汗かいてるから少しずつ熱下がってきてると思うよ。なんか飲む?」

「ん。」

「待ってて水持ってくる。」

冷蔵庫から冷えた水をコップにいれ持っていくと、
「起きれねぇ。」
とまた手を伸ばしてくる。

「はいはい。」
と手を貸してあげてなんとか起き上がらせると、

「飲ませて。」
とコップを自分で持とうとしないこのバカ。

「ふざけんな、甘えるな。」
そう言って軽く頭を叩いて強引にコップを渡すと、

「医者なのに患者にもう少し優しくしろよ。」
と渋々水に口をつける。

「まだかなりだりぃ。もう少し寝るわ。」
そう言ってまたソファに寝そうになる道明寺を慌てて引き起こして、

「上のスーツだけでも脱いだら?」
そう言うと、

「脱がして。」
の甘えん坊。

もうここまで来たら文句を言うのも時間の無駄。
はいはい、と呆れながらスーツの上着を脱がせ、首にタオルを巻き付けて、おとなしく寝なさいとソファに体を倒してあげる。

そして、もう1杯水を入れてこようかと立ち上がったとき、あたしの腕を道明寺が掴んだ。

「ん?なにか欲しいの?」

「……いや。
牧野、そばにいろ。」

「え?」

「いいから、ここにいてくれ。
どこにも行くな。」

あたしの手を握りそう呟くように言った道明寺。




それは、6年前にも聞いたことのある台詞。
別れることを選択したあたしに、道明寺は最後の最後まで『俺のそばにいろ。』そう言い続けてくれた。
でも、あたしはそれを、そんな道明寺の想いを受け止めきれなかった。

あのとき、道明寺を信じてあんたのそばを離れなかったらあたしたちどうなっていた?
今と違う未来が本当にあったの?



また眠りに入った道明寺を見つめながらそう思ったとき、道明寺のスーツの上着から携帯のバイブ音が聞こえてきた。
なんども鳴りやまないその音。



そっと携帯を取り出して見てみると、
そこには

『大河原滋』の文字。



それをみて堪えてたものが一気に溢れ出す。
やっぱりどうしても無理なのよ。
道明寺には道明寺の世界があって、あたしは絶対にそこには行けない。

あの頃も、今も、バカみたいに
『もしかしたら……』なんて思ったりしたけど、
やっぱり現実は『もしかしたら』なんてありえない。


バイブ音を聞きながら膝を抱えて泣くあたし。





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 2015_07_31






だるい。
すげー体がだるい。


2、3日前からなんとなく体がだるかったが、今日はそれがMAXだ。
メープルでハマドと飲んだあと、部屋に戻ってシャワーを浴び、そのまま髪も乾かさずクーラーのきく部屋で眠ったのが今頃になって体調不良となって出た。

「司様、大丈夫ですか?」

「……あ?」

「具合がよろしくないようですが。」

「大丈夫だ。」

自分では隠してるつもりでも、西田にはお見通しらしい。

でも、休んでいられる立場ではない。
先日のハマドとの商談が上手くいかなかったことをババァに相当きつく言われた。
ババァからの指摘はもっともで、何も言い返せない自分に腹が立つが、3年間交渉に立ち会ってきた身としては、譲れないラインというものがあり、その競り合いが上手くいかなかった上の商談決裂だ。

「今日の会食はキャンセルいたしましょうか?」

今日も遅くまでスケジュールが詰まってる俺に、西田が心配げに言ってくるが、

「いや、大丈夫だ。」
そう告げて書類に目を写した。








大手IT企業の社長との会食。
仕事の話が落ち着いて、料理が次々と運ばれてくる。
食う気にならない俺とは対照的に、どんどん箸を進めていく社長。

「今日はお昼を抜いてしまいまして、お腹が減っていたんですよ。」
そう照れ臭そうに話す。

「忙しいんですね。」

「いえ、実は私、お昼は娘がお弁当を作ってくれているんですが、昨夜ちょっと娘と喧嘩してしまいまして……、」

そんな話を聞いてるうちに、ふと昔のことを思い出す。
牧野と付き合ってたころ、よくあいつが作る弁当を食べた。
見たことも食ったこともねぇものばっかだったけど、あいつが作るものは全部旨かった。

俺の好みに合わせて甘くなる玉子焼き。
いつも多めに握ってくる梅とかつおのおにぎり。
誰かが作る弁当を食ったのは後にも先にもあいつのだけだ。

そんなことを考えてると、ボーッとする頭でも無性に牧野に会いたくて堪らなくなった。






「西田、寄るところがあるから先に帰れ。」

会食が済んだあと、車を呼ぼうとしている西田にそう告げると、

「しかし…………、」
と、険しい顔の西田。

「心配ねーよ。少し熱があるかもしれねぇけど、大丈夫だ。」
そう言って俺は店の前に停まるタクシーに乗り込んだ。










部屋の前に着き、ベルをならす。
反応なし。

チッ……仕事か?

はぁーーー、だりぃ。
立ってるのがやっと。
ここまで体調がわりぃのも久しぶりだ。

しばらくドアの前でウロウロ歩いていたが、それも限界。
ズルズルと扉を背に、床に座り込む。

「いつ帰って……くんだよ。」





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 2015_07_30





こんにちは。
司一筋の管理人です。
新連鎖ドクター!、あっという間に10話まできました。

少し司を苛めすぎですが(笑)、ここから挽回してご褒美もあげていきたいと思っていますので、お付き合い下さーい。

酔って弱音をはく司。
情けねぇ……と弱気な司。
らしくないですが、こんな素の姿もいいのでは……と思い書きましたが、意外にも新鮮でいいとたくさんのコメントを頂き嬉しいです。

つくしのことになると、臆病で情けない、そんな一人の恋する男子な司くん。
普段とのギャップが、書いてる私自身も愛しくてたまりません。

そんな恋する司くんが周囲の人たちを動かしていく、そんなストーリー展開にしていきたいなぁと思っています。


いつもいつも、毎日のようにコメント、拍手コメントを下さいます常連さん。
はじめましてで、コメントを残して下さいます皆さん。
以前のお話を読み返して感想を下さいます皆さん。

とても感謝しております。
皆さんからのコメントを読むことが最大の楽しみです。
そして、ストーリーのヒントにもさせて頂いています。

これからも、応援頂けますと幸いです。


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 2015_07_30






誤解されたくない相手。
牧野が言った言葉が何度も頭をかすめる。

あいつには、もうそういう相手がいる。
俺が何かをすればするほど、あいつの幸せを壊す可能性がある。
このまま黙って引き下がるべきだ。

そう頭では分かっているのに、
今度こそ、今度こそ…………と、
俺の全身が訴えている。


「坊っちゃん。」

「……タマ。」

牧野の部屋に行った日以来、物思いにふけることが多くなった俺に、心配げに声をかけてくるタマ。

「今日は遅くなるんですよね?」

「ああ。」

今日は金曜日。
ハマドとの約束の日だ。

「成功を祈っています。」

「おう。」











メープルの小会議室。
ハマド側の関係者と道明寺側の関係者が向かい合う中で、両者の主張を最後の最後まで競り合わせたが、結果的に業務提携の判はハマド側から貰えなかった。
事実上の交渉決裂。

三時間近く話したが、最後は
「また機会があれば手を組ませて頂きたい。」
そんな社交辞令と握手でこの3年の苦労が水の泡になった。

会議室に残されたまま動かない俺に、西田が
「そろそろ行きましょうか。」
と、声をかけてくる。

「……ああ。
…………西田、先に戻ってくれ。」


「……わかりました、では。」


このまま帰る気にはなれなかった。
オフィスに戻ればババァへの報告が待っている。
邸に戻れば、タマからどうだったかと聞かれるだろう。

俺はこのままメープルの部屋に泊まることにして、バーで1杯寝付けの酒を飲むことにした。


飲み初めて30分。
1杯のつもりが、もうすでに3杯目。
寝不足と疲れで、たいぶ酔ってきていた。

その時、背後から
「ご一緒してもいいですか?」
とアラブ系なまりの英語で声をかけられ、振り向くと、さっきまで会議室で向かい合ってたハマドの姿。

「だいぶ飲まれたようですね。」

「ええ、まぁ。
今日はメープルにお泊まりでしたか?」

「はい。日本に来たら必ずこちらのホテルにお世話になっています。」

「それは、光栄です。」

お互いビジネスの世界ではプロ。
プライベートな時間に仕事の話はタブーだ。

「ご家族も日本に来られてると聞きましたが?」

「ええ、一緒です。
昨日までは京都に、今日は東京を観光して来たようです。
日本がすっかり気に入ったようで。
あなたは、ご結婚は?」

「…………いえ、まだ。」

「ご予定は?」

「…………数日前、振られたばかりです。」


かなり酔ってきたんだろう。
普段なら言わねぇことも口がすべる。


「あなたを振るような女性がいることに驚きですね。」
そう言って笑うハマド。

「6年前も振られて、今回も同じ女にまた振られました。
情けねぇな…………。
けど、どうしても俺はあいつがいいんです。
あいつしか……考えらんねぇ。
…………仕事も女も手に入れられなくて、
マジで…………情けねぇ。」


そこまで言ってテーブルに頭を伏せる俺を、
ハマドが黙って見つめていた。






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 2015_07_29






ハマドとの業務提携に向けて連日遅くまでオフィスに残ってる俺の携帯に、10時を過ぎてからタマからの着信がある。

携帯に直接電話してくるのは滅多にないことで、具合でも悪いのかと一瞬ヒヤッとしたが、

「坊っちゃん、まだオフィスにいるのでしたら、帰りにタマを迎えにきて頂けませんか。」
と、意味不明なことを言いやがる。

「あ?どこにいるんだよ。」

「つくしの部屋にお邪魔してまして。」

咄嗟のことにすぐに理解が出来ない俺に、

「つくしにも会えるし、マンションも知ることができるチャンスですよ。
どうします?タマを迎えにきますか?」

「…………。」

「とにかく、住所を言うのでメモしてくださいな。」

小声で住所を伝えるタマと、それをメモする俺。

「坊っちゃん、お待ちしてます!」

「……おう。」












タマから教えられた住所に着くと、そこは病院からほど近い小綺麗なマンション。
部屋の前につき、ひとつ大きく深呼吸をして、ベルをならす。


「はーい。」
牧野の声がして、そのまま扉が開く。


「っ!ど、……道明寺!」

「よっ。タマに言われて迎えにたきた。」

「邸の方が来てくれるって言ってたけど、
まさか、……道明寺だったの。」

タマが退院して一週間、牧野の顔を見るのもそれ以来。

「タマは?」

「眠っちゃったの。」

「入るぞ。」

「えっ、ちょっと……、」

慌てる牧野を横目に部屋に上がり込む。
リビングの床の座布団の上で横になっているタマの姿。

「疲れたみたいだから、早く休ませてあげて。」
そう言ってタマの荷物を俺に手渡す牧野。

俺はそれを受け取り、自分の携帯を取り出すと運転手を呼びだし、部屋まで来るよう伝える。
すぐに駆け付けた運転手に、
「タマを邸まで頼む。
俺は自分で帰るから先に行ってろ。」
そう告げて、タマを預けた。

「ちょっと、道明寺っ。」

「なんだよ、でけー声出すな。」

「ちょっと、なんで勝手にソファに座るのよ。
あんたもさっさと帰りなさいよ。」

「少し休ませろ。」

「休むな。人の家でくつろぐなっ。」

「いーだろ。」

「よくないっ!」

昔を思わせるこの言い合いに、どうしようもなく嬉しさが込み上げてくる。

「なに笑ってんのよ。
全くタマさんだったら、余計なことしてくれるんだから。
ちょっと!寝転がらないでよ、バカっ。」

「ここに泊まってくかな、俺。」

「ふざけるなっ。警察呼ぶよ!」

「はぁーー、疲れたな。」

牧野の言葉を無視してちいせーソファに長い足を伸ばす。
それを見て、牧野がすげー困った顔で俺を見る。

「…………道明寺、ほんと困るから、帰って。
誤解されるようなこと、しないで。」


誤解…………。
されて困るのは、あいつにか。


「…………牧野、あいつとマジで付き合ってんのか?」
ソファから起き上がり牧野の目を見て聞く。

「…………うん。」

「いつから?」


その時、俺の携帯が部屋に鳴り響く。
タイミングの悪さに舌打ちしながら画面を見ると、『大河原滋』の文字。

そんな俺を見下ろして牧野が言った。



「道明寺、お互い誤解されたくない相手がいるでしょ。
もう、帰って。」




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 2015_07_29






「付き合ってるよ。あたしたち。」

牧野のその言葉に、
「ありゃりゃ。」
と小声で呟く類と、牧野を凝視して固まる児島。

「児島、さっさと食べて戻らなきゃ。」

「あっ、……ああ。」

黙々とラーメンを食べる二人をじっと見つめたままの俺に、
「司、ラーメンは伸びるらしいよ。」
と呑気なことを言いやがる類。





そのあと、オフィスに戻った俺は、全く仕事に集中なんて出来るはずもなく、西田から渡された資料も机の上に放置したまましばらく物思いにふけっていた。
どれくらいそうしていたか、デスクの電話がなる。

「はい。」

「司様、大河原さまからお電話が入っていますが、……もしかして、電話会議の時間をお忘れではないでしょうか。」

その西田の言葉に慌てて時計を見ると、滋との電話会議の時間を大幅に過ぎている。


「わりぃ、すぐにかけ直す。」
それだけ言って、俺は必要な資料を慌てて用意した。



大河原財閥。
石油関連に強いパイプを持った大河原家は、道明寺の唯一弱い分野を得意としてる日本でも数少ない会社。
そこの一人娘の滋は道明寺にとってこれ以上ない結婚相手にふさわしい女だった。

しかも、俺とは牧野を通じて気心知れた仲だ。
両家の縁談話は当事者の想いとは関係なく、水面下でどんどん進められていった。

正直言って、牧野を失った俺にとって女なんて誰でも同じだった。
どうせ、好きな女とは一緒になれない。
恋愛も結婚も人生さえも会社の駒でしかない。

そう諦めて、滋と付き合うことにしたが、
彼氏、彼女らしいことをすればするほど、牧野を思い出す。
どうしても、滋に触れること、抱くことが出来なかった。

自分でも笑えてくる。
牧野相手なら、時間と隙があれば容赦なく襲いかかってたほどの野獣っぷりだったのに、そんな気さえ起きない。

そんな俺に、滋の方から嫌気がさしたらしい。
婚約して3年目、突然婚約解消が申し出された。
俺としては願ってもない話。
けど、ババァにとってはかなり痛手だ。

なんとか考え直してほしいと大河原を説得してたようだが、
「滋のわがままで婚約を解消させてもらいたい。
その代わり、大河原と深い繋がりがあるアラブの石油会社を紹介する。」
と、滋のおかげで会社も俺も救われた。

幸いマスコミには、大々的に婚約のニュースが噂になっただけで、そのあと正式にコメントを出していたわけじゃなかった為、俺らの婚約も、解消もただの噂でしかなく、今となっては嘘だったのでは……とさえ言われている。




「滋、わりぃ。」

「司、どうかした?時間に遅れるなんて珍しいじゃん。」

「いや、ちょっと考え事してた。」

「そう、それより、ハマドから連絡あった?」

「ああ。メールが来てた。
金曜の夜にメープルで会う予定になってる。
そこで天国か地獄が通告されるんだろ、きっと。」

3年という長い月日をかけて、道明寺とアラブ石油会社ハマドとの業務提携に向けた話し合いが今週まとまる。
業務提携が成功するか、無かったことになるか、
今のところフィフティーフィフティー。
この仕事にかけてきた俺にとって大きな山場を迎える。


「とにかく、当たって砕けろ!ね、司。」
電話の向こうで滋がそう言った。


この間も確かそんな台詞を聞いた。
『当たって砕けろ。』
そうか、タマに言われたんだ。

牧野に再会した俺に、そう言って葉っぱをかけた。

「滋、あのよ、」

「ん?なに?」

「…………。」



牧野に会った。
もう大丈夫だと思ってたのに、全然ダメだった。
消したと思ってたあいつへの想いは、まだ全然消えてなかった。
今でも好きで堪らない。


滋にはいつかきちんと話さなきゃなんねぇこと。
けど、今はまだやめておく。






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 2015_07_28






タマの退院の日。

「デートしようぜ。」
俺の誘いをバッサリ切り捨てて、立ち去った牧野とはあれ以来会えていない。

「司様、そろそろお時間です。」

「おう。」

タマの退院時間に合わせて、病院へ行くつもりの俺は、仕事を一旦切り上げて出掛ける用意をしていると、

「司、いる?」
とオフィスに類の声。

「類、どーした。」

「病院行くんでしょ?俺も一緒に行く。」

「あ?わざわざおまえまで行く必要ねーよ。」

「だって、暇だし、仕事してると眠たくなるから。」

さすがの類。
理由がすげぇ。










二人でタマの病室へと行くと、すでに服を着替え荷物をまとめたタマが、児島と話していた。

「坊っちゃん、類さま、来てくれたんですか。」

「おう、一週間の入院にしては荷物がすげーな。」

「坊っちゃんやら、使用人やら、みなさんがたくさん持ってきてくれたから、こんな荷物になってしまいましたよ。
先生、お世話になりました。」

「いえ、お元気で。」



結局、牧野は姿を見せない。
最後の最後まで、俺とは完全に距離を保ったまま『昔の知り合い』を崩さなかったあいつ。
一度会っただけで、6年間の我慢がもろくも崩れた俺とは雲泥の差だ。

そんなことを考えていたとき、

「牧野は?」
と類が児島に聞いた。

「あー、牧野はたぶん外来にいるかと。
そろそろ昼の休憩だから、呼んできましょうか?」

「ん、呼んで。」

相変わらず、この人畜無害の男はさらっと俺が出来ねぇことをやってのける。
児島が一旦ナースセンターへと戻ったあと、しばらくして部屋のドアがコンコンとなった。

「どーぞ。」
類の楽しそうな声に、

「失礼します。」
と白衣姿の牧野。

昼間の明るいところで見るこいつは、6年前とほとんど変わっていない。
俺の方を見ることなく、タマと話すその姿は、
以前俺らが情熱的に愛し合ったことさえ夢だったかのように感じて、虚しさが胸を締め付ける。

6年前、牧野が言った言葉を思い出す。
『好きでも、どうしようもないこともある。』
それは、あの頃の俺だけじゃなく、
今の俺にも言われてるような気がして、
これ以上まともに牧野を見ることが出来なかった。

そんな俺の隣で、
「牧野、お昼ご飯食べに行こう。」
と呑気に誘う類。

「え?」

「ダメ?少し時間あるでしょ?
近くならいい?」

「んー…………」
困ってる牧野に、

「言ってくれば?」
と児島が言う。

「でも、」
まだ何か言いたそうな牧野に、

「みんなで行ってらっしゃい。」
と、タマの声が響いた。









結局、時間の問題で来れたのは、この間牧野と二人で食ったラーメン屋。
しかも、タマが言った『みんなで』とは、
類と牧野の他に俺と児島まで。

なんとなく気まずい雰囲気を醸し出す俺と牧野とは逆に、心底楽しそうにラーメン屋を堪能する類と、それを見て、「ほんとにラーメン屋に来るの初めてですか。」と驚いてる児島。

それぞれにラーメンが運ばれてきて、
「いただきます。」のあと、
俺の正面に座る児島が、牧野のラーメンの器に自分のネギを入れていく。

目の前で当たり前のように繰り広げられるそれを黙って見ていると、
「俺、ネギだめなんです。」と照れ臭そうに言う児島。

それを見て思い出す。
昔、牧野と付き合ってるとき、よく俺がリクエストして焼きそばを作ってもらった。
牧野の作る焼きそばは、牧野の実家の味で紅しょうがが入っている。
俺は、それが苦手で、牧野の皿に移してたのを思い出した。



俺のいたポジションに、今はこいつがいる。

『好きでも、どうしようもないこともある。』

なぁ、牧野。
ほんとにそうなのか?

俺は、バカで、おまえが言うようにクルクルパー
だから、やっぱり好きな女を前にして、
黙っていられるほど利口じゃねぇ。


「牧野、おまえこいつと付き合ってるのか?」

「…………。」

俺の言葉に他の3人が顔をあげる。


「牧野、どうなんだ?」

もう一度、聞くと、正面の児玉が
「あの、」
と口を開く。

それを遮るようにして、牧野が言った。

「付き合ってるよ、あたしたち。」






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 2015_07_27


お知らせ

Category: 未分類  



本日の更新はお休みします。

昨日、2話アップしていますので、読みこぼしのないように★


よい休日を~。





 2015_07_26






タマが入院して5日目。
昨日聞いた牧野とあの児島だかいう医者の会話が頭から離れない。く

25歳になったあいつに彼氏がいないとか、そんな都合よく考えていたわけじゃねーけど、実際現実に見せられると、かなり凹む。
年頃の男女で、着替えを頼むような仲なら、それなりに…………、

「司様、あのぉー、書類が……。」

「あ?……あっ、おう、わりぃ。」

自然と力が入り、手の中にあった書類がグシャグシャになっている。

「ところで、タマさんですが、明後日に退院が決まりましたので。」

突然の話に書類から顔をあげる。

「あ?明後日?
まだ一週間も入院してねーだろ。
癌ってそんなに早く治るのかよ。」

「はい?」










その日、遅くまでの会食をイライラした気持ちで乗り切り、そのままタマの病院へ車を飛ばす。
病院に着いたのは10時過ぎ。
そっと病室を覗くと、寝息を立てて眠るタマの姿。

「ったく、いい気なもんだな、ババァ。」
そう呟いて俺はナースセンターへと向かった。


「牧野ドクターは?」
突然の俺の質問に焦るナース。

「あのぉー、」

「患者の病状について家族が至急話したい。
担当医師じゃなく、手術を受け持ったドクターに
確認したいことがある。
呼んでくれ。」

こういうときに道明寺の名は便利だ。
有無を言わせず対応させる力がある。


5分後、
病室の前の椅子に座る俺に、

「こんな時間になにごと?」
と牧野が声をかけてきた。

俺は、無言で隣をポンポンと叩き座れと合図を送ると、牧野も無言で座る。
しばらく沈黙のあと、俺が切り出した。

「タマの退院が決まったそうだな。」

「うん、明後日。」

「普通そんなもんか?」

「ん、そんなもんでしょ。
長いくらいかな。最近は日帰りとか3日間の入院ぐらいの人もいるよ。」

「ったく、あのババァ。」
牧野の話を聞いて悪態をつく俺。

「どうかした?」
と聞いてくる牧野。

「胃の手術っつーから、癌かと思ってたんだよ。もう長くねぇとか、坊っちゃんのお世話をするのもこれが最後とか、紛らわしいこと言いやがって。胃のポリープ取るぐらいでそんなに大袈裟に騒ぐんじゃねーよっ。」

「……プッ……フフ……ハハハァーー。
タマさんにあたしちゃんと説明したよ。
日帰りでも出来るくらいの簡単な手術だって。
でも、この際全身くまなく調べてほしいって、
出来るだけ長く入院させてくれって言われて。
全身しらべたけど、癌なんて、どこにも見つからなかったから安心して。」
そう言って笑う牧野。

「ふぅー。タマのヤロウ。」

「フフ……じゃ、そういうことだから。」
そう言って立ち上がる牧野。

俺は咄嗟にその細い腕を掴み、
「お礼っ……礼がしたい。
タマの命を救ってくれた礼だ。」
そう言うと、

「はぁ?だからさっきの話聞いてた?
命がどうこうっていう病気じゃないの。
ただ、胃に出来物ができて、それを取っただけ。
そんなことで、お礼される筋合いはない。」
そう返される。

だけど、このまま引き下がるつもりはない。
タマが退院すれば、牧野との接点もまた無くなる。
こうして会うチャンスは残り少ない。


「退院する日、飯でもごちそうする。」

「無理。」

「なんでだよ。」

「患者さんや家族から個人的に接待は受けられない。」

「なら、礼じゃなく、別の理由で誘う。
牧野、……俺とデートしようぜ。」

「…………。」

立ってる牧野と、座ってる俺。
数秒間見つめあった後、

「相変わらず、クルクルパーだわ、この人。」
と呟いて立ち去るこいつ。

「おい、……おいっ、……返事してけよっ。」



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 2015_07_25





タマの病室にF4が勢揃いしたことで、廊下の賑わいは更に加速し、さっきまで遠慮がちに覗いていたナースたちも、今では堂々と扉を開けて熱い視線を送ってくる。

それをあきらが優しく制して、扉を閉めようとドアに近付いた時、ナースの一人が叫んだ。


「牧野先生っ!こっちこっち。
先生も一緒に拝みましょ。こんな美男子が勢揃いするなんて一生に一度かもっ。」

その声に、ヤバイっ、と思ったが遅く、

「牧野?……まさか、おまえ牧野かよ。」
そう叫ぶあきら。

「あきら?どうした?」
「牧野って、あの牧野?」

病室にいた総二郎と類も声につられて扉へと近付いていく。
残された俺だけが、渋い顔でタマのそばに立ち尽くす。

せっかく、牧野への気持ちは再確認して、これから静かに動き出そうとしてる時に、こいつらに知られたら、すべてが面白おかしく流されていく。
深い溜め息を漏らす俺に、

「こういうことかよ、甲斐甲斐しく病院に見舞に来てると思ったら、おまえの目的はあれか?」
と、あきらに引っ張られて強引に病室に連れてこられた牧野を指差して、総二郎が言う。

「うるせー。邪魔すんな。」

「おいおい、マジなのかよ。
おまえはどこまで行っても諦めのわりぃやつだな。」

にやっと俺をみて笑う総二郎は完全に面白いおもちゃを見つけたガキのような顔をしてやがる。




「牧野、久しぶりだな。
白衣着てたら、誰かわかんなかったぞ。
医者になったのは聞いてたけどよ、こうしてみたら結構さまになってんじゃん。」

「まーきの、元気だった?」

「うん、花沢類。
みんなも元気だった?」

「おう。」
「うん。」


たぶんこいつらが牧野と会うのも6年ぶりだろう。
俺と別れた牧野は、完全に俺たちとの連絡を断った。
類でさえ拒否されたと聞いたときは、もう俺との繋がりを一切残さないつもりなんだろうと、ショックを受けた記憶がある。


「この再会は偶然か?
それとも…………、」
あきらが俺に視線を送ってくるが、

「偶然。
タマさんの手術を執刀したのはあたしだけど、
もう担当でもないの。
タマさん、もうすぐ担当の児島が回診にきますから、体温計って待ってて下さいね。」
そうバッサリ言い捨てて

「じゃあね、」
と病室を出ていく牧野。

それとすれ違いに担当医の児島が病室の外に姿を見せた。

「おう、牧野。
なんでここに?」

「ちょっとね。
もう終わったの?」

「あぁ、すげー疲れた。
先輩の話、長いんだよ。回診の時間だからって逃げてきた。
牧野、部屋戻るなら俺の着替えも持ってきてくれねぇ?
今日もたぶん帰れそうにねーから。」

「ん、わかった。
じゃあ、あとでね。」




聞きたくなくても、聞こえてくる会話。
知りたくなくても、雰囲気から伝わる二人の親密さ。


自然と俯きがちになる俺の肩に、総二郎がポンっと手を置いて、


「まぁ、現実は厳しいかもな。
……最強のライバル出現ってわけか。」

と呟いた。





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