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「女って、何考えてんのか分かんねーな。」

久しぶりに会うF3を前に、俺は心底感じてる事を口にする。

「あ?どうした司。」

「おまえが女を語るなんて珍しいじゃん。」

目をキラキラさせて食いついてくるお祭りコンビを横目に、

「司に分かるくらいなら、小学生でも分かるんじゃない?」
と、類が言いやがる。

「類っ、てめぇー!」

「だってそうでしょ?
今時、小学生の方が司より恋愛経験豊富だよ。」

その類の言葉に、ぎゃはははーと笑い転げるあきらと総二朗。

いつもなら、そこで俺が二人に、いや三人に蹴りをいれて終わる所なのに、今日は黙ってる俺を見て、三人が不思議なものを見るような目で俺を見つめてくる。

「だよな…………。
確かに恋愛なんてしてこなかったから、駆け引きなんて知らねぇし、女を喜ばす言葉なんて言えねぇしな。
けど、好きなら好きでそれ以外何があんだよっ。

そう言って頭をワシャワシャする俺。


「司、おまえなんのこと言ってんだ?」

「もしかして、好きな女でも出来たのか?」
俺の言動を可哀想な目で見やがるこいつら。
それに何も答えない俺を見て、類が呟いた。


「好きになったんだ、司。」








そのあと、どこかで見た刑事ドラマのごとく、あきらと総二朗から徹底的に吐かせられた。
あの日、滋が泥酔してるのを放置して二人で消えたこと。
その夜、関係を持ったこと。
そして、忘れられなくて呼び出して、2度目の逢瀬のこと。
昨日はマンションまで殴り込みにいって、勘違いが分かって、ホッとして好きだと告白したこと。
そして、その返事は貰えなかったこと。
唯一、言わなかったことは、はじめてのキスはあいつからだったってことは話さなかった。
それは、俺にとっても汚点だから。
あと数分遅ければ、俺が仕掛けてたはずだから。


すげー笑われるのを覚悟で話した。
それなのに、全部聞いたF3は、なぜか嬉しそうに「カンパーイ」とか言いながら飲み始める。
あきらに至っては、俺の頭をガシガシとかき混ぜながら、「そうか、そうか、俺は嬉しいよ」
って、泣く真似までしやがって。

「笑わねーのかよ。」

「バカか、笑うわけねーだろ。」

「…………。」

「おまえが女の話するのって、久々じゃね?
あのとき以来だよな?
昔、司がすげー酔ったときに、『俺の初恋は一瞬で終わっちまった。』ってバカみたいに荒れてたことあったよな?」

「うるせーっ」

「それ以来、おまえから女の話、全然聞かねーから、まだ引きずってんのかと思ってた。」



確かに、俺の初恋はあの日、一瞬で終わった。
あんなに、短時間で急激に女に惹かれたのは初めてだった。
好きだと伝える前に終わった恋。
あいつを忘れることが出来なかった訳じゃなく、あいつ以上に惹かれる女に巡り会わずにここまで来ちまった。

けど、あの女、牧野つくしにはなぜかはじめから強烈に惹かれていった。
俺にこんな感情があるんだと自分が一番驚くくらい、あいつに惚れてる。

理由なんて簡単に言えねぇけど、
あの気の強いとこも、怒った顔も、全然なびかねぇ性格も、時々見せる破壊力抜群の笑顔も、全部が俺のツボだ。


「司、なにデレッとしてんだよ。
甘い夜を思い出してんのか?」

「バっ、ちげーよっ。」

「でもよ、考えたらおかしくね?
なんで司の告白にスルーな訳?
一応、おまえらそういう関係な訳だろ?
それとも、あれか?
体だけの…………流行りのセフレ?」

「総二朗、マジでぶっ殺すぞっ。」

そう怒鳴りながらも、俺も納得がいかねぇ。

「少し距離おいて様子見ろよ。
そいつがおまえに気があれば、向こうから寄ってくるだろーし。
ここで恋の駆け引きだよっ!
司、ガツガツ押すだけが男じゃねーよ。
引くとこは引けっ。そしたら女が引っ掛かってくる。」


総二朗のやつ、完全に面白がってやがる。
あの女に、そんな駆け引きなんて通用するとは思えねぇ。
けど、あいつを手にいれるためなら、どんな手段でも試してみるか…………。






そう、その時は思ったはずなのに、今日で3日あいつと接触がないだけで、俺は完全に腑抜けになった。

やっと一休みついたランチタイム。

「西田、わりぃ、10分だけ充電させてくれ。」

「はい?……携帯の充電でしょうか?」

「いや、俺自身の充電だ。」

そう言って、我慢の限界の俺は総務課のフロアへと下りていった。





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仕事終わってませんが、脳内は司でいっぱいです。
最近はこっちが本業のような勢いで活動してますよっ。

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 2015_04_30






「支社長、どうしてうちのマンション分かったんですか?」

「おまえ、俺を誰だと思ってんだよ。」

「…………ですね。」

部屋を出てエレベーターに乗り込んだあたしたち。
結局この人は何をしに来たんだろう……そんなことを考えていると、1階にエレベーターがついた。

「コンビニどっちだ?」

「えっ、ほんとに行くんですか?……。」

「チーズの、買うんだろ?」

「チーズの……ってそれが何かも知らないくせにっ」

「いんだよ。おまえと二人になれる口実が出来ただろ。行くぞ。」

さらっとそんなことを言いながら、当たり前のようにあたしの手を握る。
しかも恋人繋ぎっ。

「支社長っ、」

「あ?」

「手っ!」
今、確実にあたしの顔は赤い。
それを分かっててこの人は更にあたしを困らせる。

「手ぐらいで赤くなってんじゃねーよ。
それ以上のこと色々やってるだろ、俺ら。」

「っ!バカっ、もぉーやだっ、」


ほんとこの人はどこまでも自己中でどこまでもあたしを振り回す。






コンビニでの買い物を済ませたあと、今来た道を戻ろうとするあたしの手を引いて、
「もう少し歩こうぜ。」
そう言って、知ってるのか知らないのか分からないけど細い道を歩いていく。

あたしの歩調に合わせてゆっくり歩きながら、支社長が口を開いた。

「腕のケガ、どうしたんだよ。」

「えっ、あー、ちょっと火傷して。」

「火傷?」

「あー、全然たいしたことないですから。
朝、お味噌汁こぼしちゃって。」
そこまで言うと、

「はぁーーー。」
と、深い息をついて、あたしの方に体を向ける支社長。
そして、

「マジで、焦った。」
そう呟いた。

「ぶっ殺す覚悟で来たんだぞ。」

「はぁっ?」

「おまえの付き合ってる男が、朝帰りしたおまえに手あげたのかと思った。」

「まさかっ、そんなわけないし、彼氏なんていないって言って……」

そこまで言ったとき、いきなりすごい力で支社長に抱きしめられた。
そして、耳元に顔を埋められて、
「なぁ、このまま俺の部屋に来ねえ?」
と突然言った。

「へ?」
自分でも嫌になるほど色気のない声が出る。

「俺の部屋からそのまま仕事に行けばいいだろ?」

「…………。」

「な?」

「…………ダメダメダメダメっ!」
あまりに唐突の提案だったから、思考が追い付かなかったけど、そんなこと出来るはずがない。

「あ?なんでだよっ。」
一気に不機嫌になる支社長。

「だ、だ、だって、」


ダメな理由はたくさんありすぎる。
今日も朝帰りしたばっかだし、
進にだって怪しまれる。
それに、まだ着替えだってシャワーにだって入ってないし、
明日の仕事の用意さえしていない。

それに、…………
そもそもあたしたちは、そんな仲じゃない。

こんな風に恋人繋ぎをしてコンビニまで買い物したり、遠回りをしてゆっくり帰ったり、その途中で抱きしめられたり……。
その流れで部屋に行くような仲じゃ……ない。

そう頭の中で結論付けた直後、


「好きだ。」
耳元でそんな言葉が聞こえた。

「……え?」
戸惑うあたしに、支社長は抱きしめていた腕を緩めて、まっすぐと目線を合わせて言った。




「おまえが好きだ。」








こんな熱烈な告白ははじめてかもしれない。
しかも、相手は誰もが憧れる支社長。
その色気駄々漏れの顔を見ると、胸がギュッと鷲掴みにされるほど苦しい。

あたしも、黙って可愛く抱き付いたり出来たらいいのに、
こんなときに限って思い出さなくてもいいことを思い出してしまう。

「支社長には、忘れられない人がいる。」
滋さんのその言葉。



今、支社長にとってその人はどんな存在ですか?
まだ忘れられないほど好きですか?
そして、あたしへの『好き』とどう違いますか?



こんな時でも余計なことを考えて素直に喜べない
あたしは、

ほんとに恋愛にむいてない。






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今日は1話更新になりそうです。
仕事が順調にいけば、遅くにもう1話……。
期待しないでくださーい。


 2015_04_30






いつもより帰りが遅くなった今日、マンションのエレベーターを下りて部屋の前までいくと、ねーちゃんが誰かと話してるのが目に入った。

すごく背の大きい男の人。
後ろ姿だけでもセールスの人ではないと人目で分かる品のいいスーツ。

「お客さん?」
そう声をかえたら、突然闘争モードで俺のことを見てくるこの人。

俺のことを完全にねーちゃんの彼氏だと勘違いしてるらしい。
表に出ろって…………。
もし俺が本当にねーちゃんの彼氏なら、その言葉は俺が言う台詞じゃないだろうか。

そんなことを思っていると、突然ねーちゃんが
「支社長っ!」と叫び俺とこの人の間に入ってくる。

それでやっと理解した。
この人はねーちゃんのところの支社長だ。
テレビや雑誌で何度か見たことがある。

そんな人がなぜうちに?
そして俺のことを彼氏だと勘違いして表に出ろって言うってことは…………、
そうか、最近のねーちゃんの朝帰りはこの人が原因か…………。






「弟、……悪かったな。」

「いえいえ。」
リビングに招き入れて二人で胡座をかいて座ると支社長が言ってきた。
そして、ねーちゃんには聞かれたくないのか、
「おまえはお茶でも淹れてこい。
ゆっくりでいいぞ。」
と分かりやすく遠ざける。

そして、ねーちゃんが口を尖らせながら、キッチンに消えたのを確認して真っ直ぐに俺を見た。

「あいつ、ほんとに付き合ってるやついねーんだな?」

「……たぶん。」

「たぶんって何だよ。」

「いや、最近時々朝帰りはしますけど……」

「いつだ?」

「1週間くらい前と、昨日。」

「……それなら問題ねぇ。」
相手が自分だと白状してるようなもの。

小さなテーブルを挟んで正面に座るこの人は、男の俺ですら目が離せないほどかっこいい。
端正な顔はもちろん、低く響く声も、スーツの上からでも分かる筋肉質な体型も、
頭のてっぺんから足の先まで……っていうのはこういうことを言うんだなぁと思ってしまう。

「二人姉弟か?」

「はい。」

「仲良いんだな。」

「えぇ、まぁ。」

「おまえのねーちゃんってどんなやつ?」
唐突の質問。でも、この人は綺麗事を聞きたい訳じゃないだろうなぁと感じる。

「口が悪くて、がさつで、乱暴で、弟の俺なんていつもやられっぱなしですよ。」
そう答えると、

「分かる。」
そう言ってすごく綺麗に笑う。

「でも………、すごく家族想いです。
今までずっと家族のために自分を犠牲にして頑張ってきてくれました。
だから、自分は強くいなくちゃって、思ってるみたいですけど、本当は涙もろいし、お化けも怖いし、一人でジャムの蓋も開けられないほど弱いところもあります。
すごく女らしくて可愛い姉ですよ。」
思ったことをそのまま口にした。
嘘もついてないし、上乗せもしていない。

すると、
「なんか面白くねぇ。」
と不機嫌になるこの人。

「え?」

「可愛いとか他の男に言われるのはすげー気に食わねぇ。」

「俺、弟ですよ?」

「弟でも、男だろっ。あいつのこと今後一切可愛いとか言うな、思うなっ、分かったか?」


プッ…………あははははーーー。
耐えきれなくて思いっきり笑いだした時、


「随分楽しそうじゃない。
さっき会ったばかりの初対面なのに、よくそんなに話がはずむねっ。」
そう言ってねーちゃんがお茶を持ってきた。

そして、俺とこの人の前にお茶を置くと、
「用がすんだらそろそろ帰ったらどうですか?」
と意地悪なことを言う。

それを見て俺は慌てて言う。
「ねーちゃんっ!
俺、まだ支社長と話しの途中だから、ねーちゃん、なんかコンビニでつまめるもの買ってきてよ。」

「はぁ?」

「だって、お茶だけなんて失礼でしょ。
あれ買ってきてよ、俺の好きなチーズの。」

「……もうっ、なんであたしが。
…………わかったわよっ。」

そう言って、ねーちゃんが俺を睨みながらも、立ち上がろうとした瞬間、
ねーちゃんの腕をパシッと掴んだこの人が

「バカっ、こんな遅くに一人で行かせられるかっ。…………弟、またな。今日はこれで帰る。今度はゆっくり話そうぜ。」
そう言ってねーちゃんを連れて玄関まで歩いてく。

「えっ?なに、あたしも?」
そんな焦ったねーちゃんの声が聞こえてきて、

「あたりめーだろ。
チーズの、買うんだろ?行くぞ。」
嬉しそうなあの人の声が続いた。







あの人がねーちゃんの彼氏なのか否なのかは、結局分からなかったけど、
少なくとも、あの人の気持ちはビシビシと伝わった。
弟の俺にまで嫉妬するってどんだけなんだよ。

でも、あれぐらいグイグイ来てくれる人の方が、ねーちゃんにはいいのかも。
俺は今日初めて会ったばかりだけど、猛烈にあの人を応援する。



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 2015_04_29






すごい怒った顔でフロアを立ち去った支社長。

「なになに~?」
「また何かやらかして怒らせた?」

もう心配するよりも好奇心が勝ってる同僚たちに絡まれるなか、あたしは昼休憩に入ることにした。

はぁーーー。
せっかく頭から昨夜のことを追い出したのに、あの人はズカズカと無断で入り込んでくる。
そして、あっという間にあたしの心を乱していく。
手首におさまった腕時計を見て、一人食堂でジタバタするあたし。


そんなあたしの携帯が突然鳴り出した。
画面を見ると、滋さん。

「もしもし?」

「つくし~滋ちゃんでーす。」

「はいはい。」
相変わらずテンション高めの滋さん。

「今日、夜会えない?」

「今日ですか…………。」
昨夜もあまり寝てないあたしは返答に詰まる。

「この間はよくもあたしを置いて帰ってくれたよね、つくし。罰としてご飯くらい付き合いなさいよ。」

この間のことを持ち出されたらイヤとは言えない。酔った滋さんをあの場に置き去りにしたことはいくら『事情』があったとはいえ友達として酷すぎる。

「わかりましたよー滋さん。」







滋さんとの待ち合わせは、あたしの通勤途中にあるカフェレストラン。
お酒を飲まない日は、こういうところで二時間くらいおしゃべりして解散するのがあたしたちのいつものパターン。

今日もパスタを注文したあたしたちは、いつものようにくだらない話に盛り上がって時間が過ぎていった。
そして、食後のコーヒーが運ばれてきた頃、滋さんが唐突に聞いてきた。

「つくし、司とは何かあったの?」

「っ!……な、何かって……」
あまりに突然の質問で、飲んでたコーヒーをこぼしそうになるあたし。

「二人で消えたんだって?」

「えっ、……そんなんじゃないって。」

「そう?」

「そだよ。」
あくまでもしらを切るあたし。

すると、
「なーんだ。やっと司もその気になったかと思ったのに……。」
となんだか意味深な滋さんの発言が気になる。

「その気って?」

「ん?んーまぁー、つくしになら言ってもいっかぁ。
実はね、司って昔の女で忘れられない人がいるらしくて、ここ何年も恋愛すらしてないのよ。」

「忘れられない人……?」

「そう。どんな風に別れたかは話したがらないんだけど、今でも気になってるんじゃないかな……。だから、本気の恋愛が出来ないんだってあきらくんたちも心配してて。
だけど、つくしとこの間二人で消えたって聞いて、もしかしたら司の心も動いたのか?って期待したんだけど。」

本気の恋愛が出来ない…………かぁ。
確かにそうなのかもしれない。
あたしみたいな都合のいい女はいるけど、心は昔の彼女を今でも愛してる。
あぁ、勘違いする前でよかった…………。


「滋さん、ありがとね。」

「え?……つくし?」










滋さんと別れて、すごくすっきりした気持ちでマンションに帰ったあたし。
2度、いや四年前を含めると3度過ちを犯しちゃったけど、もう大丈夫。
支社長とはもう個人的に接触することはお互いのためにもやめよう。
そう心に決めた直後、マンションのベルが鳴った。


「はいはーい。」
てっきり進だと思ったあたしは、なんの確認もせず扉を開けた。
すると、そこには今もう会わないと誓ったはずのこの人。

「よおっ。」

「え?」
固まるあたしに、

「話付けにきた。今、彼氏いるのか?」
と、とんちんかんなことをいう。

「……彼氏?…………え?」

「いるのか?」

「……いない。」

「いつ帰ってくる?」

「……………」

そんな噛み合わない会話をしてるあたしたちの後ろで、
「お客さん?」
と、最悪のタイミングで進の声。

「あーーーっ、うん。えーっと、」
ごもごもするあたしは必死に言葉を探してるのに、支社長はこういうときでさえ直球すぎる。

「おまえが彼氏か?」

「へぇ?」

「話がある、表に出ようぜ。」

「表?話って……俺にですか?」

「おまえ以外誰がいるんだよっ。」

「え?でも……。」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよっ。
とにかく、男同士で話そうぜ。」

「支社長っ!ちょっと誤解……」
見かねたあたしが口を挟もうとしたとき、

「えっ!!支社長なんですか?ねーちゃんどういうこと、説明してよ!」

「……あ?ねーちゃん?」

「あ、どうも。牧野つくしの弟です。
姉がいつもお世話になってます。」

どこまでも話が噛み合わないあたしたち……。






進が気をきかせて支社長を部屋に招き入れた。
最初はバツが悪そうにあたしと視線を合わせなかった支社長だったけど、すぐに方向転換したのか進と仲良くリビングで話してる。

あたしは……というと、
なぜか
「お茶でも淹れてこい」って支社長に命令されて、キッチンにいる。
「男同士の話があるんだよっ。」だってさ。

さっきまで表に出ろとかいってたくせにっ。
自分の部屋みたいにくつろいでる支社長を見ると、人の気も知らないでって、腹が立つっ!




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 2015_04_29







湯船に浸かって四年前の思い出にひたっていたあたしはそのままウトウトと眠っていたらしい。

「ねーちゃん?」
進の声で目が覚めて慌てて湯船から飛び出した。







「進、ご飯出来てるよ。」

「今行くー。」
我が家の朝のいつもの会話。
進が就職してからあたしたち姉弟は一緒に暮らしている。
進には学生時代から付き合ってる可愛い彼女もいて、近い将来結婚も考えてるらしい。
だから、今はひたすらお金を貯めるためにあたしのマンションに転がり込んできた。

「お味噌汁よそっていい?」

「うん。」
進が席につくのを確認してあたしは二人分のお味噌汁をよそっていた時、突然進が変なことを聞いてきた。

「ねーちゃんさー、彼氏でも出来た?」

「はっ!ガチャ!わぁっ!あっつい!」

「ねーちゃん大丈夫!火傷した?冷しなよっ!」

「あっつ。」
慌てて冷水をかけ流すあたしを見て

「動揺しすぎでしょ。」
と笑う進。

「彼氏なんて出来てないし。」

「そうなの?ここ最近、朝帰りが多いから彼氏でも出来たのかと思った。」

「余計なこと詮索してないで自分の心配でもしてなさいよっ。」

「はいはい。
……でも、ねーちゃんもいい歳なんだから彼氏くらい作れば?」

「こらっ!進、それ以上言ったら朝御飯作ってあげないからねっ。」

「はいはい、わかったよっ。」




冷水に腕を浸しながら考える。
彼氏でも何でもない人に抱かれたあとの翌朝に、弟にご飯を作ってあげながら、彼氏でも作りなよと言われてるあたしって…………。
進の言うように、あたしも「いい歳」になっちゃった。
だから、きちんと恋愛しなくちゃいけないのは分かっているのに…………。







午前中は昨夜のことをすべて忘れるのには都合がいいほど仕事に終われて過ぎていった。
時々、朝の腕の火傷がズキズキと痛んで、大きめのガーゼを貼りかえるのに休憩を取ったくらいで、あとはトイレに行く時間もないくらいバタバタしていた。

「牧野さん、昼休憩入って~。」
同僚の吉田さんが声をかけてくれるけど、

「これ終わったら入りまーす」
そう返事をして30分。なかなか区切りがつかない。

先に昼に入った先輩が差し入れにくれた野菜ジュースを飲みながらなんとか空腹をしのいでいると、
「牧野さんっ!」
とまた吉田さんの声。

「あ、はーい。これ終わったらお昼行きますから~。」
パソコンに目を向けたままそう答えるあたしに、

「飯くらい食えよ。」
そう聞き覚えのある声がした。

ガバッと顔をあげてその声の方を見ると、既にあたしの席のそばまで来ていた支社長。
何も言えないでいるあたしを横目に、支社長はいきなりとなりの席の椅子をガラガラと持ってきて、あたしの横に座った。

「っ!…………」
あたし同様、フロア全体の視線が支社長に集中する。

それを分かってるはずなのに、この人は何も気付いていない風に目の前のあたしだけを見ながら言う。
「飯は?」

「…………まだです。」

「それ終わらすのにあとどれくらいかかる?」

「…………かなり。」
嘘つきなあたし。

「ふぅーーー。
ったく、しょーがねーな。
腕出せよ。」

「は?」

「いいから腕出せって。」

訳が分からなかったけど、どんどん不機嫌になっていく支社長を前に、言われた通りに腕を出したあたし。

すると、ぐいっとその腕を自分の方に引き寄せたかと思ったら、スーツのポケットから見覚えのある物を取り出した。
そう、それはあたしの腕時計。
一気に心臓がバクバクいう。

支社長はその腕時計をゆっくりとあたしの腕にとめていく。
そして、
「外したのは俺だから、つけてやるのも俺がしてやるよ。」
そうあたしだけに聞こえるように言った。



信じられないっ。
他の人がたくさんいるっていうのにっ。
バカバカっ!
そう目で訴えるあたしに、支社長はニヤッと笑ったあと、

「おまえ、これどーした?」
そう聞いてきた。

「え?」

「これ、どーしたんだよ。」

支社長の視線の先は火傷のガーゼ。

「昨日はこんなケガしてなかったよな?」

「ちょっ!声が大きいですっ。」

「うるせー。どーしたんだって聞いてんだよ。」

「ちょっと朝、色々あって…………。
支社長には関係ないです。」


弟に彼氏作れってからかわれて、手元が狂って火傷したなんて話せるかっ!
あたしは心の中で目の前の支社長に突っ込みをいれたのに、その表情をまさか支社長が変に誤解してるなんて思いもしなかった。






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 2015_04_28






猛烈な寒気で目が覚めた。
部屋の中はさっきと同じで暗いまま。
まだ停電なおってないんだ…………。

そう思いながら部屋を見回すと、またデスクで仕事をしてる彼の姿があった。
ひとつしか違わないって言ったっけ。
なんの仕事をしてるんだろう。
こんな広い部屋に暮らしてるからお金持ちなのかな。
さっきまであんなにたくさん話したのに、肝心なことは何も聞いていないことに今更気付く。

体を包む毛布を首まで引っ張りあげてソファに座ると、その気配に気付いたのか彼が近づいてきた。

「寒いか?」

「いえ、大丈夫です。」
さっきと同じ会話。
でも、体は芯から冷えていた。

「明かりがついたら起こすから寝てろ。」
そう言ってもう一枚の毛布もあたしにかけてくれようとするから、

「あ、大丈夫です。毛布一枚あれば充分だから。」
あたしはそう言って彼に毛布を返そうとするのに、手が震えてうまく掴めない。

「おまえ、バカっ、すげー震えてんじゃん。」

「…………」

「寒いんだろっ。濡れた服は全部脱いだのか?」

「…………はい。」
その返事を聞いたあと、彼は足早にどこかに行ってしまう。

そして戻ってきた手には大きめのTシャツとパーカー。

「これぐらいしかおまえが着れそうなのねーけど、少しはいいだろ。
その上からでも着とけ。」

「すみません。」
遠慮しないといけないのは分かっているけど、この寒さには勝てない。
素直に受けとると毛布を少しだけずらしてパーカーを着ようとしたけど、その間も震えが止まらない。

そんなあたしを見て「っ……バカっ。」と小さく呟いた彼は、
「何もしねーから、おとなしくしてろ。
こうした方が少しはましだろ。」
そう言って後ろから優しくあたしを抱き締めた。



突然のことに言葉が出ないあたしに、
「すげー冷えてる。風邪引くかもな。
ガキじゃねーんだから、寒いならちゃんと言えよっ。あ、おまえはガキかっ。」
そんな風にあたしをからかって、怯えさせないように、不安がらせないようにしてるのがひしひしと伝わってくる。

だから、素直にその優しさに甘えて、
「ガキじゃありませんっ。」
と答えながらも、少しだけその背中の温もりに体を預けた。



さっきまであんなに寒かったのに、嘘のように体が暖まってくる。
ソファの下に後ろから抱かれるようにして座ってるあたしは、彼の心臓の音が聞こえるくらい密着してる。
それが、こんなに心地いいと思ってる自分がいて、戸惑うほど。

時々、
「眠ってもいいぞ」とか
「髪乾いたな」とか
耳元で言ってくる声があたしをゾワッとさせて、
心の中で何度も落ち着けと言い聞かせた。

そして、後ろからあたしのお腹に回された彼の手が、少しだけ強く抱き締めてきたのを感じて、そっとあたしもその手に触れたのをきっかけに、
あたしの『はじめての夜』がはじまった。


後ろから抱きしめられたままするはじめてのキスや、キスをしながら下ろされていくパーカーのチャックの音。
何も身に付けていない体に触れる温かい大きな手の感触。
痛みと共に感じる少しの快感。

どれもが甘い出来事だった。










目覚めるとベッドには彼の姿はなかった。
もう日も開けて、はじめて見るその部屋は思っていた以上にすばらしかった。
彼は何者なんだろう。

脱ぎ捨てたバスローブをはおり、ベッドに腰かけたあたしの目に、
『すぐ戻る、もう少し寝てろ。』
そう書いたメモがうつった。

それを見て、急激に昨夜のことが頭を駆け巡る。
どんな顔で会えばいいんだろう。
無我夢中だったけど、あたし、ちゃんと出来たのかな。
はじめてだって気付かれただろうか。

そんなことを考え出すと、
…………もうそれ以上は無理だった……。

生乾きの下着とスーツを手早く着込み、ショートカットの髪を手でバサバサと整えて、持ってきた鞄と靴を履く。
…………え?

靴が……直ってる?

いや、よく見ると、あたしの靴じゃない。
昨日、ヒールが壊れたあたしの靴はこんな高級なものではない。
それなのに、そこに綺麗に置かれた靴は、色も形もあたしのものとそっくりな靴。

それに足をそっと踏み入れたあたしは、深く息を吐くと、部屋をぐるっと見渡した。
「なんか、夢の世界みたい…………。」
そう呟いて、意を決してドアノブに手をかける。

そのまま少し考えて、あたしはもう一度靴を脱いだ。
そして、さっきまで寝ていたベッドへと走っていく。
走りながら、鞄から就職祝いにパパとママから贈られたべっこう柄のペンを取り出すと、
ベッドサイドの彼が残した
『すぐ戻る、もう少し寝てろ。』
そのメモの下に、最初で最後のメッセージを書き込んだ。





『昨夜はありがとうございました。
靴、大切に使わせてもらいます。』




その時、ペンを忘れていったことに気付いたのは、だいぶあとになってからだった。






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 2015_04_28






かすかな物音がして、深い眠りから目覚めると、一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
でも次の瞬間、ガバっとベッドの上に座り込み、頭を猛烈にグシャグシャとかき混ぜた。

デジャブ…………。
またやられた……。
部屋の隅には綺麗にハンガーにかけられた俺のスーツだけが残されている。
服も下着も靴も……姿も俺だけ。

もう一度ベッドに大の字でゴロンと横になった俺の手の先に、何かが当たった。
それはあいつの腕時計。
昨夜、すべて脱がせたあいつをユルユルと揺らしてる時に、外してない腕時計が気になって、俺が片手で外して枕のしたに置いたのをあいつは忘れていったんだろう。

その腕時計を見つめながら俺は無意識に呟いた。

「勝手に消えるんじゃねーよバカ。
俺はこういうのがトラウマなんだよっ。」








************************


完全にデジャブ……。
違うのは、今回はタクシーに払うお金をきちんと持ってたことだけ。
あとは、今湯船に浸かってる状況まですべてが同じ。


「またやっちゃった……。」
湯船のなか、膝を立ててその上に頭を乗せたまま呟く。

消えかけてたはずの赤い痕が、更に多くなって体に刻まれていた。
太ももの内側に印されたその痕を指でなぞりながら、
「もうやめにしなくちゃ」と自分に言い聞かせる。



こんなにもあの日の一夜が尾を引くとはあの頃のあたしは思いもしなかった。



四年前。
道明寺HDに就職が決まったあたしは、新人研修という名目でNYの本社に一週間の出張をしていた。

研修もほぼ終わり、本社からすぐそばのホテルへと帰ろうとしていた夕刻。
突然の大雨に打たれてビルの軒下に入ったはいいけど、そこから身動きできない状態になった。

雨は更に強くなる。
風も出てきて、ガタガタとカフェの看板を揺らし始め、一向に収まる気配がなかった。

あたしはいつまでもここにいても止む気配のない雨を見上げて、あと数百メートル先の宿泊先のホテルへと一気に走ることを決めた。

あの角を曲がって二つ目の信号を右に入ればホテルの入口だよね……そう頭にいれて、雨の中を走り出した。
ほんの数メートル走っただけでも、あたしのスーツがべちゃべちゃになるほどの雨。
今日が研修最終日でよかった。スーツの替えは持ってきてるけど、靴がこれ一足しかないんだもん。これだけ濡れたら明日までには乾かないだろうな…………そんな事を思いながら走っていたから、よく前を見ていなかった。

ひとつ目の角を曲がろうとしたときに、同じように向こうから走りながら曲がってきた人とぶつかった。
お互い雨の中を急いでいたから、その接触はかなりの衝撃で、あたしは勢いでその場にお尻をついてしまった。

「sorry!!」

「いえっ、すみません!」
咄嗟に出たあたしの日本語。

「もしかして日本人か?」

「えっ、……はい。」


それがあたしと支社長のはじめての出会いだった。



ぶつかった衝撃で転んでしまったあたしは、スーツもめちゃめちゃだったし、靴のヒールも折れてしまっていた。
手を貸してくれた支社長に支えられながらなんとか立ったあたしは、
「大丈夫です。」
そう言って頭を下げたとき、突然ピカッと空が光った。

今思えば、あの光った瞬間がお互いの顔をよく見た唯一の時間だったかもしれない。

一瞬の光のあと、NYの町から……光が消えた。

「え?」

「……停電か。」

こんな大都会が一瞬にして真っ暗になり静寂に包まれる。

「どこまで行くんだ?」

「あ、えーと向こうの通りにあるホテルに泊まってるんですけど。」

そう話すあたしたちの頭上からは止めどなく大粒の雨が降り注ぎ、髪からは滴が滴るほど。

「この中じゃ無理だな。
とりあえず、俺のがすぐそこだから雨と停電が終わるまでそこで待つか?」

「…………はい。」

ズキズキとする足首と、打ち付けた腰の痛みで、いつもなら絶対にしないそんな返事が口から出た。






広い部屋にひとつだけポツンとロウソクが焚かれた中、「これしかなくてわりぃ」そう言って手渡してくれたタオルとバスローブをあたしは遠慮なくお借りした。

スーツもワイシャツもストッキングも下着も、すべてがべちゃべちゃ。
迷ったけど、全部脱いで下着は大きいタオルに隠すように包んだ。
停電が戻る頃には、タオルが水分を吸収してくれるから、そしたら着替えて帰ろう。


そう思ってたのに、あれから数時間たってもNYの街は暗いままだった。
ショートカットのあたしの髪はほとんど乾いてきたけれど、そのせいか急激に体が冷えてくる。
バスローブの中は何も身に付けていない。

膝を抱えるようにしてソファに座るあたしに、
ロウソクの灯りで仕事でもしてたんだろう彼が近付いてきて言った。

「寒いか?」

「あ、いえ、大丈夫です。」

「暖房も止まってるから冷えてきたな。
ちょっと待ってろ。」
そう言って奥に消えたあと、毛布をふたつ持ってきてくれた。

「これしかねーけど、掛けてろ。」

「ありがとうございます。」
そう普通にお礼を言っただけなのに、

「プッ……」
急に笑い出すこの人。

「何ですか?」

「いや、……おまえ学生か?旅行で来たのか?」

「違います。社会人です。」

「マジでっ?どうみても学生にしか見えねぇけど。」

「ちょっと、それ失礼なんですけどっ。
社会人一年目ですけど、これでも大卒です。」

「大卒で1年目って……俺とひとつしか違わねーじゃん。」

「えっ?ほんと?」

「ああ。マジでさっきはガキとぶつかったと思った。こっちにいると同じ年のやつらでも老けてみえるから、それに慣れてるとやっぱ日本人は若く見えるな。」

「そういうもんですか。」

「ああ。」





そんな会話をきっかけに、あたしたちは暗いNYの一室で何時間もとりとめない会話を交わした。

そして、いつのまにか疲れたあたしはソファの上で眠っていた。









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長くなりましたので、NYストーリー、ここで一旦切ります。






 2015_04_28






「んっ、……くちゅ……はぁ…………
し……しゃちょう……くちゅ…………」

キスをされながらも何かを言おうとするから、そのたびに俺の舌の侵入を受け入れて更に深みに陥るこいつ。

ただでさえ俺よりもだいぶちいせー体なのに、下を向かれたらキスがうまく出来ねぇ。
こいつの両頬を包み込んで上を向かせようとしたその時、俺の片手に、さっきあの女から奪った部屋のカードキーが握られてるのが目に入った。

チラッと横目で部屋番号を確認した俺は、名残惜しいけど一旦こいつから唇を離し、腕をつかんでカードキーの部屋番号まで廊下を進んだ。

ピッという音とともに開いた部屋へこいつを押し込める。
どこかで見たこの状況。
そうあの夜と全く同じ。

けど、今日はお互いほとんど酒は入ってねぇ。
酔った勢い……の理由は使えない。
扉に背中を預けたままのこいつの目をじっと見つめると、困ったように見つめ返してきた。

そんなこいつの唇に無意識に手が伸びて親指で優しく触ると、ぷにゅとした感触がする。
それが気持ちよくて、親指で何度もぷにゅぷにゅしてやると、
「なんですかっ。」
と拗ねて睨んでくる。

「気持ちくね?」

「全然」

「そうか?俺はすげー気持ちぃ。」

「…………。」

「ここだけじゃねーよ。おまえの全部が気持ちぃ
……。」

「……んっ……くちゅ……くちゅ」





たぶん、部屋に入って、まともに会話したのはその時ぐらいだったかもしれねぇ。

あとは、最中に
「すげー可愛いい」とか
「もっと舐めさせろ」とか
「俺の首に掴まれ」とか
…………そんな事を口にしたのは覚えてるけど、
夢中で愛して、夢中で感じて、何を話したかなんて記憶にねえ。







********************



前に抱かれたときは酔っていたのと、恥ずかしいので気付かなかったけど、この人はこんなときでも色気駄々漏れの目で見つめてくる。

キスの最中も、挿れる直前も、座ったまま抱き抱えられるように繋がれている時でさえ、
切なそうに、何かを耐えているようにあたしを見つめてくる。

その視線に耐えきれなくてあたしが目をつぶると、
「ちゃんと俺を見ろよ」って…………。

激しく翻弄されて、会話らしい会話なんてほとんど出来なくて。
それなのに、
「我慢すんな、声聞かせろよ」とか
「どこ触られるのが気持ちぃ?」とか
「隠すなもっとよく見せて」とか
この人は、あたしの耳元で甘く囁く。





囁く言葉は違うけど、その優しい手も、唇も、律動も、あの時と変わらない。
それは懐かしいような、悲しいような…………。

四年前、一度だけこの人に抱かれたときも、その優しさに泣きそうになったことを、眠りにつく間際にあたしは思い出した。



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 2015_04_27






こいつに背中を押されたままエレベーターに乗り込んで、あの二人が降りた階へと急ぐ俺ら。
エレベーターがその階に到着して降りると、廊下には人の気配がねえ。

「もう部屋に入っただろ。」

「うそ……遅かったか……。」
キョロキョロと廊下を見回しながらそう呟くこいつ。

その時、廊下の影から人の気配と話し声がした。
咄嗟に死角になる壁の影に隠れる俺ら。
「ビックリしたー。」
とか呟きながら体を小さくして隠れるこいつとの距離がすげー近い。
慌てて隠れたからか、肩まであるストレートの髪が前髪の方まで移動してきて目に入りそうになっている。
俺はそっと手を伸ばしてその髪に触れ、もとの場所に戻してやりながら、こいつの耳を少しだけ触った。


その俺の動きに困ったような顔をして下を向くこいつがすげーツボで、そのまま顔を上げさせようとしたその時、
廊下から男女の笑い声が聞こえた。

ビクッと肩を揺らしたこいつが、壁から目だけ出して覗きこんで、
「支社長っ、課長ですよ。
まだ部屋に入ってなかったみたい。
どうしよっ……支社長、行けます?」

行けます?の意味がわかんねぇ。
ポカンとする俺に、

「だからっ、偶然を装って課長に声かけてくださいっ。
そして、強引にキーを奪うとか?」

奪うとか?の意味も益々わかんねぇ。

「もうっ!使えないんだからっ。
しょーがないな。あたしが行くか。」

勝手に指示して、勝手にダメ出しされるこっちの身にもなれよ。
どんな作戦を立ててるのか知らねえけど、勢いだけで行こうとしてるこいつの体を引き留めて、

「行けばいいんだろ、行けば。
その代わり、あとで覚えとけよっ。」

俺はそう捨てぜりふを残して廊下へと出た。














廊下の向こうから男女が体を密着させながら歩いてくる。
手には缶ビールをいくつか持ってるところを見ると、この階の自動販売機で買い物してたらしい。

前を歩く俺には気付いてないらしく、男の手が女の腰の辺りをユラユラと撫でている。
あと数十メートル……というところで、俺が仕掛けた。

「おう、こんなところで珍しいですね。」

その声に顔を上げた男の表情が一気にこわばっていくのがわかる。

「し、支社長っ!」

「確か、管理課の三沢課長でしたね。」

「は、はい。」

「こちらは?」
わざとらしく女へと視線を移してやると、

「あ、えっと……親戚の子が上京してきまして、ここに泊まるのに案内してたんです。」
苦し過ぎる言い訳。

「そうですか。
聞きました、奥さんが大変な手術をされたそうで。課長は愛妻家で有名だそうですからさぞかし心配ですね。」

「あっいえ、まぁ……。」

「こんな所で『親戚の子』に油売ってないで、病院にでも顔だしてあげたらどうですか。」

「はぁ、まぁ…………」
それでも曖昧な返答のこいつに、

「帰れって言ってんだよっ。」

その俺の言い方と態度で、完全に嘘がバレてると自覚したんだろう。
女の腰から手を離し、キーを女に渡すと、
「失礼します。」
と駆け出すようにエレベーターへと消えた。

残された女はボーっと俺に見とれてやがる。
その女の手から俺はキーを取り上げて、
「おまえもさっさと帰れ。」
そう言ってエレベーターに押し込んでやった。










静かになった廊下の先。
壁の横からぴょこんとあいつの頭だけ見えている。
おまえ、それで隠れてるつもりなのかよ。
俺はそこまでゆっくり近付くと、
「終わったぞ。」
そうこいつに言ってやった。

すると、壁からピョンと体全体を出して、
俺に向かって親指を立ててきた。
そして、
「支社長、グッジョブ!!」
そう言ってこいつが笑った。





むちゅくちゃ、破壊力があった。
なんだよそれ。
可愛すぎだろ。

親指を立てたまま、俺にニコッと笑うこいつが、
もうどうしようもなく愛しくて、
その俺に向けられた腕を掴むと、
そのまま死角になっている壁に押し込んだ。

「し、支社長?」

急に体を拘束されたこいつが不安げに言ってくるが、これぐらいの対価は支払ってもらう。

「いい演技だったろ?ご褒美はくれねーの?」

「えっ?…………んっ、
……待って…………んっ……くちゅ……」







キスしただけなのに、体が痺れるほどの快感。
もっと……もっと……おまえが欲しい。






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 2015_04_27






約束の時間。
西田に無理言って、仕事の予定を切り上げさせてなんとか8時に間に合わせた。
こういうとき、西田は何も聞いてこねーけど、
「明日に支障が出ませんように。」
そう意味深に言ってくるところが怖ぇー。


メープルのバーの階にエレベーターを降りると、入口のすぐ横でソワソワと中を覗いてる女の姿、
怒ってたはずなのに、こいつの姿を見ただけで顔が緩むのを抑えられねぇ。

足音をさせずにこいつの背後まで来ると
「入るぞ。」
そう言って頭をガシッと掴みバーの入口をくぐった。




いつもはF3か一人で来ることしかなかったメープルのバーに、女を連れてきた俺を見て、長年そこで働くバーテンダーが一瞬驚いた顔をしたが、すぐに一番奥の人目につきにくいカウンターを目で合図した。

俺はそれに軽く手をあげて答えた後、何か言いたそうなこいつの肩に手をやってその席まで誘導した。

こいつを一番奥の席に座らせて、俺がその横に。
自然と俺の顔が他の客から見えねぇようにしたことで、知り合いに会っても声をかけられることはない。

席について
「いつものと、こいつにはあんまり強くないやつ頼む。」
そうバーテンダーに言ったあと、今日はじめてゆっくりとこいつの顔を見た。

戸惑った顔で俺を見るこいつの目の前で、俺は携帯を取り出してコールする。
3秒遅れで隣からバイブ音がした。

「……っ!…………もしかして、」
自分の携帯の液晶にうつる番号を見たこいつが、俺の方を見て呟く。

「携帯壊れてる訳じゃなさそうだな。」

「どうして……?」

「何回もかけてんのに、なんで出ねーんだよ。」

「それは、タイミングが……、いや、そうじゃなくて、どうしてあたしの番号っ」

「この間、忘れ物の中からちょっと拝借した。」

「拝借したじゃないでしょーっ。
人の勝手に調べるなんて、それ犯罪……」

「乾杯しようぜ。」

タイミングよくカクテルが運ばれてきたのをいいことに、こいつの文句は聞き流す。

「ちょっと、人の話聞いてます?」

「飲まねーならいいけど、ここのバーテンダーが作るカクテルはすげー上手いぞ。」
そう言って、こいつの前にあるカクテルを持ち上げて飲むふりをしてやると、

「いや、飲みますから!返してくださいよっ。」
慌てて俺の手からグラスを取り、こいつが一口くちにした。

「おいしい。」
途端にすげー嬉しそうな顔でそう呟くから、見てるこっちまで、なぜか嬉しくなってその濡れた唇に手を伸ばしそうになる。

慌てて視線をそらして自分のグラスに口をつけると、またこいつの携帯からバイブ音がした。
今度は俺じゃねぇ。
画面を確認したこいつは、出ることなくパタンと閉じる。
でも、すぐにまたバイブ音が鳴り出す。
渋い顔でまた確認するこいつに、
「出ろよ。」
俺はそう言った。

「えっ?いいです。」

「出ろって。」

「でも、ここじゃ、」

「いいから出ろ。」
俺はこいつの携帯を取って、ボタンを押した。

「もしもし?」
電話から聞こえたのはかすかにだが、確実に男の声。
俺を睨みながら受話器を耳に当てたこいつは、

「もしもし。うん……うん、友達と会ってるからちょっと遅くなる。
うん……鍵はあるから閉めといて大丈夫。
うん…………わかった。」
そう言って電話を切った。

「彼氏か?」

「っ!違います。」

「一緒に暮らしてるのかよ。」

「だから、違いますって。」

「鍵は閉めとけとか言ってたよな。」

「それはっ、……えっ!……あっ、うそっ!」

大事な話の途中でいきなり俺の後ろの方に視線を向けたまま、口に手を当てながら目を丸くするこいつ。

「何だよっ!」
そう言ってその視線の先を見ようとした俺に、

「ダメダメっ。」
そう言って俺のネクタイを掴み振り向かせないようにするこいつ。

突然ネクタイを引っ張られた俺は、こいつの顔ギリギリまで近寄り、こいつからは飲んでいるカクテルの甘い香りが漂ってくる。

「支社長、絶対に振り向かないでくださいね。」
そう話す声が俺の喉にダイレクトに伝わる。

「何だよ、説明しろ。」

「管理課の三沢課長です。
若い女の子連れて奥の席に入っていきました。」

「何だよ、そんなことか。」

「そんなことかじゃないでしょーが。
女の子の腰に手を当てて、デレデレした顔してこんなところで飲んでる場合じゃないんですよ。」
そう言いながら俺の方をキッと上目使いで見るこいつに、そんな場面じゃねーのに、可愛いとか思ってる俺がいて、自分でも呆れる。

「課長の奥さん、今入院中なんですよ。
検診で子宮に腫瘍が見つかったらしくて、手術したばかりのはずなのに……。
あ、あたし総務課だから社員とかその家族の色々な手続きとかの書類を作成するから、そういうのは自然と情報に詳しくて……。」

「だからって、おまえが心配してもしょーがねーだろ。」

「ん……はい。でも、自分が入院してるときに、あんな風に女の子とイチャイチャされてたら……悲しいな。」
そう言って俺の後ろを指差すこいつ。

その指す方にゆっくりと体を回転させて見てみると、ソファ席にくつろぐ男と若い女。
肩寄せあって座る二人は、死角になって見えねぇけど男の手が女の体に触れられてるのは確かだろう。

「もう一杯飲むか?」
カクテルが残りわずかになってるのを見て俺が言う。

「いえ、やめときます。」

「口に合わなかったか?」

「いえっ、違います。美味しかったです。」

「じゃあ、もう一杯作らせるから飲めよ。」
別に深い意味があってそう言った訳じゃねーのに、

「やめときます。」
と即答するこいつ。
その態度が気に食わねぇ。

「俺の酒には付き合えねーか?」

「違いますって。」

「じゃあ、飲めよ。」

「だからっ、…………また迷惑かけたら困るので。」
そう言って下を向くこいつが、何をさして迷惑と言ってるのかはすぐにわかった。

「ほんとに…………すみませんでした。
今日もその事で呼び出されたんですよね。
あたし、誰にも言ってませんし、言うつもりもないし、いやむしろ記憶から綺麗に消しましたから。
だから、支社長も気にしないで、いや、気にしてないと思いますけど、こんな風に時間を作ってもらってまで話すようなたいしたことでもないですから。」

いきなりペラペラ話し始めたかと思ったら、たいしたことじゃねーとか、綺麗に消したとか、腹立つこと言いやがって。
おまえにとってのあの夜のことは、それぐらいのなんでもねぇ出来事なのか。

ふと、こいつの首に目をやると、あの夜俺がつけた赤い痕がほとんど消えている。
時間がたてば、この痕のようにおまえの記憶からも消し去られるのか。
そう思うと、無性に腹が立ち、無性に胸が苦しくなる。






「あっ、課長が帰るみたいです。」
こいつの声で我にかえった俺は、チラッと後ろを向くと、さっきと同様、女の腰に手を当ててバーを出る二人の姿。

「今からでも奥さんのところに行ってほしいな。」
そう呟くこいつに、俺は現実を教えてやる。

「それはねーな。あの男、部屋のキー持ってたぞ。」

「……えっ?それって……」

「ああ。今日はこのままお泊まりだな。」

「うそ……。
支社長っ、早くっ!」

「な、なんだよっ」

「追いかけますよっ。早く立って!」

「バカっ、何言って……」

「浮気を許すわけにいかないじゃないですかっ!早くっ!あっ、お金!」
そう言って鞄から財布を取り出そうとしてるこいつ。

「要らねーよ。ここどこだと思ってんだよ。
あとで俺が払うからいいんだよ。」

「えっ?そうなんですか?
じゃあ、あとで金額教えてくださいね。
早くっ!もう行きますよっ!」





色々、言ってやりてぇことはある。
俺の電話に出ねぇこと、
彼氏との同棲のこと、
あの夜のこと、
あとで金額教えてくださいね?の意味がわかんねぇこと。


それなのに、俺は今、こいつに背中を押されながら隣のエレベーターが止まった階へと急いでる。





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司一筋

Author:司一筋
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