FC2ブログ





昨日はあれからタマの部屋でさんざん昔話を聞かされて部屋に戻ったのは12時近かった。
その間、横で眠るあいつが起きるかなと少しだけ期待したがそんなこともなく、結局俺が部屋まで運んでいった。

眠るちっせー体は想像よりもはるかに軽く、
「バイトを酷使するなっ。」
とタマに文句を言ってやると、
「一番手がかかるのは坊っちゃんですよっ!」
といつもの杖で反撃にあった。



そして今日、いつもの時間に俺を起こしに来たこいつ。
昨日の疲れなのか、今日から休みだからか、俺の目は固く閉じたままで、何度目かのこいつの呼び掛けでやっと覚醒した。

「もぉー、起きてよっ。……起きてってば。」

「…………んー、……今日から休みだから寝かせろ。」

「ダメっ。先輩に起こしてくるよう言われてるのっ。」

「んんー、あと30分……。」

「ダメですっ。会社にも手伝いに行くんでしょ。」

そうだった。
今日から春休みに入るが、高校卒業した俺は本格的に会社の仕事を手伝うことになっていた。

「……わかった。起きる……。」
渋々ベッドに起き上がった俺は、そこで一つ大きく伸びをして床に足をつけようとした時、

「あのぉー、これ…………、」
そう言って、こいつがちっせー手を広げて俺の方に差し出してきた。
そこには、昨日俺が付けてやったダイヤのピン。

「あたし、眠っちゃったみたいで………そのぉ、
部屋まで運んでくれて…………。」
下を向いてモジモジ言うこいつがおかしくて、

「ああ、すげー重かった。」
そう、からかってやると、

「っ!ひどいっ。」
いつものこいつになって、睨んでくる。

久しぶりにこうやって、朝のこの時間にこいつと言い争いをしたような気がして自然と笑みが漏れると、
「……これ、お返しします。」
そう言って、再び俺にピンを差し出した。

「いい。おまえにやる。」

「っ、そんな、こんな大事なもの貰えないっ。」

「気にするな。」
俺はそう言ってバスルームに向かおうとしたが、

「こんな高価なものあたし、」
まだ何かを言いたそうなこいつ。

だから、言ってやる。
「あのな、俺はこんなちっせーダイヤより、もっと高価なものはたくさん持ってるんだよ。
だから、これはおまえにやる。
つべこべ言わず、ここにでも付けてろっ。」
俺はそう言って、こいつの使用人の制服の左襟にピンを刺してやった。



されるがまま大人しくしてるこいつは、こうやって並んで立つと俺の肩ぐらいまでしかない。
俺が付けてやった襟に光るそれを見て、嬉しそうに笑う。
そして、言った。


「道明寺、ありがとう。
…………大切にします。」



たぶん、このとき俺は全身が痺れた。
はじめてこいつから「道明寺」と呼ばれた。
誰も呼んだことのないその呼び方。
他のやつに言われたらキレてるかもしれねーけど、こいつに言われるのは悪くなかった。



「すごく…………綺麗。」
ピンを見つめてそう呟くこいつ。
こんな小さなダイヤに、プロムに出たやつみんなが貰えるようなピンに、こんなにも幸せそうに喜ぶこいつが無性に愛しくなった。
だからなのか、俺は何も考えずに自然と体が動いちまった。




少しだけ腰をかがめて、覗きこむようにして、
…………キスをした。
軽く触れるだけのキス。
ほんの2、3秒のキス。
はじめての、キス。








「…………っ!ちょ、ちょっと!
なにすんのよーーーーーー!!」

でけー声と止むことのないパンチが繰り返される中、俺はバスルームへと逃げ込んだ。

俺が一番聞きてぇよ。
なんでそんなことをしたのか…………。




ランキングに参加しています。
よろしければポチッとお願いいたします!






スポンサーサイト



 2015_03_31





本日の更新はお休みします。
ごめんなさい。
明日、1話アップしますのでご了承ください。





 2015_03_30






類とあいつの会話を聞いてから、俺の心は決まった。
早いうちに許婚の話に終止符を打とう。

そう決めた俺は、NYに戻ったババァに何度も連絡を取るが、偶然か意図的なのか、一向に捕まらねえ。
そんなことをしている内に、あっという間に月日が流れて、とうとう今日は俺らの卒業式。

式のあとは場所を変えて盛大にプロムが行われる。卒業生はもちろん、在校生も各々に着飾って参加するそれは、英徳の名物となっていた。

俺も夜のプロムに向けて邸で支度をして部屋を出ると、隣の部屋から使用人の制服を着たあいつが出てきた。
あの、類とこいつの会話を聞いて以来、俺はほとんどこいつと顔を合わせていない。

「…………おう。」

「…………どうも。」

お互いぎこちない会話をしたあと、こいつが俺のタキシード姿に気付いたのか、

「卒業おめでとうございます。」
そう言って少し頭を下げた。

「………おまえはプロムに行かねえのかよ。」

「うん。仕事があるから。」

「……そうか。」

俺はこいつとそんな簡単な会話をして邸を後にした。











今年のプロムはF4が卒業生ということもあり、過去最高と言われるほど盛大に行われた。
女たちはみんなドレスに身を包み、身につける装飾品の価値を競っているようにしか俺には見えねえ。
そんなやつらを見ていると、ふとついさっき話したあいつの姿を思い出した。

「ったく、こんなときまでバイトかよっ。」
独り言が口をつく。

許婚の話以来、俺はあいつのことを調べさせた。
実家は決して裕福ではなく、英徳に来るようなレベルの生活はしていない。
たぶん、生活の質を落としてまであいつをここに入学させたのは間違いないだろう。
俺が道明寺の跡取りとして育てられてきたように、あいつももしかしたら、俺の許婚として今日まで両親が苦労して育ててきたのかもしれない。

今目の前にいるきらびやかなドレス姿の女たちと使用人の制服を着たあいつが重なって、俺は深い溜め息をついた。

「司?」

「わりぃ、俺先に帰るわ。」

心配げなあきらにそう告げると、俺は車に乗り込んだ。









「おかえりなさいませ。」
邸に戻ると、エントランスで使用人の出迎えを受けるが、そこにあいつの姿はなかった。

時計を見ると午後10時。
あいつはもう使用人としての仕事は終わって部屋で休んでいるのか…………

俺も自室に戻り少しだけネクタイを緩めると、ドサッとソファに沈みこんだ。
と、その時
コンコンとドアをノックする音がした。

「誰だ?」
俺の声に、

「使用人頭のタマさんがお部屋にいらして下さいとおっしゃってまして……。」
使用人が申し訳なさそうな声で答える。

「今か?」

「はい。」

「…………わかった。」

タマの部屋に来いってことだよな?
俺を呼びつけるなんて、タマもとうとうイカれたか?
俺はそう思いながら、邸の西部屋にある小さな和室へと向かった。


そこは、何年ぶりに入るだろう。
昔はよく遊びにきたものだ。
俺が小さかった頃、タマは俺の親代わりでもあった。この和室でトランプをしたり、昼寝をしたり、幼い俺の寂しさを何度も埋めてもらった懐かしい場所だ。

「タマ、俺だ。」

「坊っちゃん、おかえりなさいまし。」
部屋から小走りで現れたタマはなぜか小声で話し、俺にシーっと人差し指を口元に立てて見せた。

そして、部屋の中に俺を招き入れると、こたつを指差して、
「眠ってしまいまして……」と呟いた。

そこには、普段着に着替えたあの女が、こたつに頭を預けて眠る姿。

「ったく、俺を呼んだ理由はこれか?」

「あたしじゃこの子を運べませんからね。」

「そのまま寝かせておけばその内起きるだろ。」

「起きたらその時は自分で歩かせますよ。
まぁ、坊っちゃんもお茶でも飲んでゆっくりしてくださいな。」
タマはそう言って、やかんから急須にお湯を注いだ。

正方形のそのこたつ。
タマが普段一人で使ってるくらいのちっせーそのこたつに俺も足を入れ、出されたお茶を一口すすった。

「坊っちゃん、プロムはどうでしたか?」

「どうもねーよ。」

「さぞ豪華な宴だったんでしょうね。」

「別に。」

「美味しいものもたくさんありましたか?」

「特にねーよ。」

「皆さん、着飾って来てましたか?」

「まぁ、それなりに。
………っつーか、なんだよその質問っ。」

なぜか責めるような目付きのタマに俺は聞き返す。

「坊っちゃん、プロムに行くときつくしに会ったそうですね。」

「ああ。」
部屋の前で会話したことを思い出す。

「なら、連れていってあげればいいじゃないですかっ。」

「プロムにか?俺が?」

「坊っちゃん以外誰がいますっ?」

「けど、こいつ仕事がどうのって言ってたぞ。
それに、俺と一緒に来るとは思えねぇけどな。」

「はぁーー…………。つくし、言ってました。
英徳のプロムは憧れだって。
おとぎ話に出てくるような夢の世界だって。
だから、タマは言ったんですよ、
つくしもドレスに着替えていっておいでって。
そしたら、この子、なんて言ったと思います?」

「…………なんだよ。」

「あたしはシンデレラにはなれない。
魔法が溶けて元に戻るくらいなら、あたしははじめからおとぎの世界には行かないって……。

坊っちゃん、ここからは老いぼれ老人の戯言と思って聞いてもらいたいのですが、
タマが旦那と知り合ったのは15の時でした。
親にすすめられた縁談で、会ったその日に結婚を決められたんです。
結婚式の日までまともに会話すらしたこともなく、はじめて名前を呼ばれたのも式が終わったあとでした。
そんな出会いや結婚は、昔は珍しくなかったんです。
その旦那さんもたった数年共に過ごしただけで、戦争に行ってしまいました。
そして、それっきり…………。
でも、タマは今でも旦那さんのことが忘れられません。真面目な性格や笑った顔が今でも夢に出てくるほど……恋しいのです。
一生死ぬまで想い続けます。
…………出会いとはそういうもんですよ。
きっかけはどうあれ、出会ってからが重要なんです。
タマは、坊っちゃんとつくしが許婚になったのは縁があっての事だと思ってます。
その縁を簡単に無かったことにしないで下さいな。
……お茶、もう一杯淹れますか?」

「…………ああ、頼む。」


俺の返事に嬉しそうに微笑むと、タマはやかんを持って奥に行った。

俺は隣で眠るこいつの顔を見る。
なんだか久しぶりだな。
そして呟いた。


「そもそも、シンデレラになるつもりがあるのかよ、おまえは。」


そして、俺は自分のスーツの上着にとめてあった英徳の紋章を型どったダイヤのピンをはずすと、
眠るこいつの普段着の襟元にそっと付けてやった。

それは、毎年プロムのためにデザインや石を変えて作られる英徳伝統のピン。
プロムに出たものがもらえる証。
英徳生だという証でもある。

普通なら3年間プロムに出れば3つはもらえるはずなのに、たぶんこいつはもらったこともないだろう。



「今年は俺のをやる。
来年は、プロムに出席して俺に返せよ。」

眠るこいつにそう話す俺を、優しい目でタマが見ていた。




ランキングに参加しています。
よろしければポチッとお願いいたします!














 2015_03_29






「おまえさ、類と知り合いなんだって?」

「だからっ、パジャマ着てって言ったでしょ!」

「いつの間にあいつと部活なんて。」

「遅刻するから早く起きてっ!」

「非常階段部って……なんだよそれっ。」

「いーから起きろっ!」

こいつが俺の専属使用人になって1週間、相変わらず朝からギャーギャーうるせーこいつ。

「おまえさ、もう少し上品に起こせねーの?」

「あんたね、その歳で人に起こしてもらってる時点でもう偉そうな口きけないからっ。
とにかく、あんたが起きてくれないとあたし学校に遅刻しちゃうのっ。」

「そうかそうか。使用人は車で送り迎えしてもらえないもんな。かわいそうだけど、まぁせいぜい地下鉄でも乗り継いで頑張れよっ。」

「ふんっ!あんたみたいなクルクル坊っちゃんは、運動不足で骨粗鬆症になって死んじゃえ!」

「こ、こ、こつそしょ?」

「その前にあんたバカすぎて死ぬかもねっ」

「おいっ、てめぇーっ!」


こんな調子で毎日やりあうのが、すっかり俺らの日課になった。








「俺らもそろそろ卒業だな。」
残り高校生活もあと1ヶ月。

「卒業って言っても、今度は隣の校舎に変わるぐらいだろ。」
そう、俺たちF4は揃ってすぐ隣の英徳大学に通うことが決まっている。

「今と何も変わらねぇってことか……。」
そう呟く俺に、

「いや、おまえはどうだろな。」
あきらがニヤリと笑いかける。

「婚約者とはうまくいってんのか?」

「あ?うるせーよっ。
婚約なんてしてねえ。」

「でも同居はしてるだろ。」

「だから、あいつは使用人のバイトだって。
ほとぼりが冷めたらババァに言いに行く。
許婚の話も婚約も俺らはするつもりはねえって。 」

俺の中では、計画は立ててある。
NYに戻ったババァにはもう少し待ってから言うつもりだ。
今すぐに、許婚のことを無かったことにしろと言っても、ババァは聞く耳を持たねえはずだ。
だから、このまま使用人でもなんでもいいから、邸にあいつを置いといて近くにいる振りを装い、それから『やっぱり俺らは無理だ。きちんと考えた末の結論だ。』と言って大人たちを納得させるしかねえ。



「そういえば、類は?」
さっきからあいつの姿を見てねぇ。

「ん?さぁ。
例の非常……階段……部じゃねーの?
昼休み、あいつ時々非常階段に行って寝てるだろ。たぶん東校舎の一番奥だと思うぞ。」

類がそこで寝てるのは昔からだから俺も知っていた。特に天気のいい日はそこで過ごすことが多かった類。
コンクリートの階段がひんやりしていて気持ちがいいと話していたのを覚えている。
でも、いつからあの女もそこに?
類が自分の特別な場所を他の誰かと共有するとは思ってなかった。
そこまで、類にとって心を開いた存在だって言うことか…………


「俺、ちょっと用思い出したから行くな。」

「おう。」

俺はお祭りコンビを置いて席を立った。
久しぶりに向かうそこ。
人気のいない長い廊下の先に、その非常階段へと続く扉がある。
俺はその扉をつかみ、ゆっくり回そうとした、
その時、微かに二人の会話が耳に入ってきた。



「司と一緒に住んでるんだって?」

「ん、……無理言って働かせてもらってる。」

「どう?司は。」

「どう……って。相変わらず。」

「相変わらず…………苦手?」

「……うん。学校だけじゃなく、家でも威張ってるよあいつ。
あたしには金、金、金っていくら欲しいんだってそればっかりだし、使用人さんにも運転手さんにもワガママ言い放題っ。」

「ぷッ……、俺らはみんなそんな風に育てられてきたから、」

「違うっ、……花沢類は違う。
少なくとも、あいつみたいに弱い人間に暴力はふるわない。
あたし、ここに入学してから何度もあいつの暴挙を見てきたから。
いつも弱い人間ばっかり標的にしてイジメてきたあいつを許せなかった。
だから、あたしはあいつが一番嫌いなのっ。」









あいつが、言ってたのこういうことか。
あんたなんか、あたしの一番嫌いなタイプ。
何度も言われたその言葉の意味が、やっと繋がった。
お互い初対面だと思っていたけど、あいつにとってはそうじゃなかったらしい。
許せないほど嫌だと思ってた男が、突然許婚だと言われ目の前に現れたってわけか……。







類と話すあいつの穏やかな声を聞きながら思う。
俺の前ではいつもギャーギャーうるせーのに、おまえもそんな女らしい声が出せるのかよ。


俺の計画はもう少し早まりそうだ。
もう少し待ってから言うつもりだった破談の話、
どんなに時間をかけてもお互い気持ちは変わらねぇんだから、時間をかける必要はなさそうだ。


俺は久しぶりに開けようと思ったその扉を、そっと後にした。



ランキングに参加しています。
よろしければポチッとお願いいたします!




 2015_03_28







「何をどうしたら、こういうことになる?」
俺は目の前にいる使用人の制服を着たこいつに、ベッドの上で胡座をかきながら聞く。

「いやっ、だから、」

「昨日の夜、金も要らない、結婚もしない、俺のことは大嫌いだって言ったのはおまえだよな?」

「んー、まぁー、そうなんだけど、」

「二度と俺と関わりたくないって言ってたよな?」

「いや、まぁー、あのね、」

「そんなやつが、俺の専属使用人に?」

「だからっ、もうっ!あたしの話も聞いてよっ。
昨日、あれからすぐにここを出ようと思ったんだけど、いざ考えてみると、パパもママもいなくなっちゃって、行くとこが……なくて……。
でも、ここにいるわけにも行かないから途方に暮れてたら、タマさん、いやっ、先輩が住み込みでバイトしないかって。」

「バイト?」

「そう。バイト。使用人さんが人手不足だって……。
だから、あたしは許婚としてここにいるんじゃなくて、住み込みの使用人のバイトをさせてもらうことになって……。
出来るだけあんたの目につかないようにする。
だから、ねっ、そういうことで。」

「そういうことでって、おまえ、」

「あっ!えっ、もうこんな時間っ。
7時半過ぎてるじゃない。
学校遅刻しちゃうっ。早く起きてよっ。」
急にバタバタ慌て出し、俺を無理矢理ベッドから出そうと布団をめくる。その拍子に下着姿の下半身まで露になった俺の姿を見て、

「キャッ!………パジャマくらい着なさいよ。」
そう言って慌てて後ろを向くこいつ。

「別に裸じゃねーんだから、いいだろ。」
俺がそう言ってやると、

「やっぱ無理っ。ありえないっ。」
そう言って首を振りながら部屋から出ていく女。



何が無理で、何があり得ねぇっつーんだよっ!
それが使用人の態度かよっ!
俺は叫び出しそうなところを必死でこらえた。








「それで結局、同居してるってことかよ。」

「すごい展開だなそれは。」

いつもの中庭で、俺の身に降りかかった災難を聞いたお祭りコンビが深刻そうに呟いた。

「マジで、あの女バケモンかも知れねぇ。
俺が何言っても怯まねぇし、むしろ倍返しで怒ってきやがる。
気が強くてすぐに睨んでくるしよっ。マジで手に負えねぇよ。」
そう昨夜のことと今日の朝のことを思い浮かべながら話す俺に、

「かわいいよ。」
いきなり類が口を開いた。

「あ?」
突然の類の発言に意味が分からなくて聞き返すと


「だから、牧野はそこがかわいいんだよ。
いつも一生懸命で必死に突っ張ってるけど、
時々見せる弱さがかわいいんだよねー。」
優しい顔でそう話す類。

「類、……あの女とはどういう関係だよ。」
この間も聞いてはぐらかされたこの質問。

「んー、……まぁ、部活の後輩ってとこかな。」


「……部活?」
「……部活?」
「……部活?」
俺たち3人の声が同時に重なった。



それを聞いて類があくびをしながら言った。

「そっ、部活。……非常階段部……かな。」




いつもつかみどころのない類だけど、今日はいつも以上に難解だ。


ランキングに参加しています。
よろしければポチッとお願いいたします!





 2015_03_27





一人になって考えたかった俺は、それから部屋が暗くなるのも気付かないほどの時間を過ごしたあと、隣の部屋の扉をそっと叩いた。


「はい?」

「俺だ。」

そう答えると、薄く扉が開いた。

「今、いいか?」

「…………うん。」

制服姿から普段着に着替えたこいつは、扉を大きく開けて俺を部屋に入れた。
内装はいつの間にか女が好みそうな明るいトーンに変えられてあり、ベッドの寝具もこの邸では見たことねえような甘い雰囲気になっている。

俺の視線がそこに移ったのを感じたのか、こいつは、
「こんな可愛い部屋、あたしには似合わないのに…………。」
そう言って下を向いた。

「なぁ、俺たちきちんと話、しようぜ。」
俺はそう言って、俺には不釣り合いの淡いピンクのソファに腰を下ろすと、こいつも正面の床に腰を下ろした。

「おまえの目的はなんだ?」

「目的?」

「ああ。金か?それとも道明寺の名か?」

「…………それって、どういう……意味?」

「突然知らねぇ男と結婚しろって言われて拒否しねえのは、金が目的なんだろ?」

「なっ!」

「そういうことなら、心配するな。
先祖が勝手に決めた許婚の話は俺がチャラにする。そして、破談金も支払ってやるから、大人しくここから出ていけ。」

「…………」
俺の顔をジッと見つめて何も言わねぇこいつ。

「昔、俺の祖父がおまえの家に助けられた話は聞いた。
けど、だからって俺たちが結婚しなきゃなんねぇってこととは話が別だ。
俺は俺のやり方で借りをかえす。
いくら必要だ?」

「…………。」

「おまえの両親とも良く話し合ってくれ。
今日はもう遅いからここに泊まれ。」
俺はそう言って立ち上がり、扉に向かおうとしたその時、

「金、金、金って、あんたはそれしか頭にないのっ?
あたしは、お金なんていらないっ!
それに、あんたとの結婚なんて死んでも嫌っ!
あたしは、あんたのお母さんとうちのパパとママにどうしてもって説得されたからここに来ただけ。
半年、いや、3ヶ月でいいから許婚のことを真剣に考えて、あんたとここで生活してみてくれって言われたから渋々来たのっ!
……心配しなくて結構よ。
お金もいらないし、もちろん結婚もしない!
なんなら、紙に書いて拇印でも押してあげましょうか?
自惚れないでよっ、あたしはあんたみたいな人が一番嫌いなのっ。

わかった?わかったなら、早く出ていって!」

感情が高ぶって、最後の方は涙目で震える声のこいつ。
俺は、その今にも泣きそうな顔をただ見つめていると、
「出てけっ、バカ!」
そう言って俺の方に近付いてくると、俺の背中をぐいぐい押して部屋から追い出した。


部屋から出た俺は、なぜか扉の前で動けねぇで固まっていた。
今までも、何度も追いかけ回す女たちを酷い態度と言葉で泣かせてきた。
そのたび、女の涙に嫌悪感を募らせてきた俺なのに、なぜか今は罪悪感に打ちひしがれる。
それは、女にはじめてこんなにも怒りをぶつけられたからなのか、それとも…………。









次の日、朝からタマのうるせー声で起こされる。
「坊っちゃん、朝ですよっ。」

「うるせーな。もう少し寝かせろ。」

「何言ってるんですか。高校生活もあと少しなんですから、遅刻しないで行ってくださいっ。」

「わかった。わかったから、でけー声出すな。」
そう言ってまだ目も開かない内にベッドに起き上がった俺に、

「坊っちゃん、今日からは服をきちんと着て寝てくださいな。
つくしがビックリしてますよっ、おほほほ~。」
豪快に笑い出すタマ。

その笑い声がまた耳に響いて、渋い顔でタマを睨み付けると、そこには笑うタマと目をそらして俺の方を見ないようにしているあの女の姿。

「……なんでおまえが、」

「今日から使用人として働いてもらう牧野つくしだよ。担当は坊っちゃんのお世話かな。」

「えっ!タマさん、ちょっとそれはっ!」

「つくし、先輩とお呼びっ。」

「は、はいっ。先輩、あたしこいつの担当なんて聞いてない……」

「なんでもするって言ったのはつくしだよ?
それなら、担当はこの使用人頭のタマが決めさせてもらう。
つくしには坊っちゃんの身の回りの世話を担当してもらうよ。
朝は起こすところからはじまり、坊っちゃんに呼ばれれば何時でも駆けつけること。
朝の7時半から夕方の5時までは自分の時間。
時間になったらつくしも学校に行く用意をしなさい。いいね?」

「えっ、……あのぉ、……」

「返事はっ?」

「……は、はいっ。」


俺は、目の前で繰り広げられる二人の会話を、
唖然と聞くしかなかった。


ランキングに参加しています。
よろしければポチッとお願いいたします!







 2015_03_26






「……ま……きの?」

なぜ、あいつがここにいるんだ。
視線の先にいるあの女は、紛れもなく英徳の制服に身を包んでいる。

「まさか…………」
俺がその先を言いかけたとき、

「まーきのっ!」
類がベンチにいるあいつにでけー声で呼び掛けた。

突然呼ばれたあいつは、キョロキョロと辺りを探しているが、俺たちのことに気付いていない。
もう一度、
「牧野、ここだよーっ。」と、類が叫ぶとやっと俺たちの方に視線を向けた。
そして、次の瞬間、

「ゲッ!」
俺の顔を見るなり逃げようとするあいつ。

「おいっ、こらっ!ちょっと待てぇー。」
俺は中庭の腰の高さまであるフェンスを飛び越えて、あの女を追い掛けた。
ちっせー体なのに、逃げ足だけは早い。
校舎の回りをぐるりと一回りして、元いた場所の中庭まで戻ってきたところで、やっとこいつの肩に手をかけて捕まえた。

「お……まえっ、ふざ……けんなっ。
はぁーはぁー、なんで……逃げんだよっ」

「はぁー、はぁー、……だって……、
あんた……が、はぁー、追いかける……から」

全速力で走った俺らはうまく会話が続かない。
そこに、

「牧野、大丈夫?
それにしても、牧野足早いんだね。」
そう言って笑いながら類が近付いてきた。

「あっ、花沢類。」
類が話し掛けた途端、元々寝癖がついてたおかっぱ頭を必死に直し、制服のスカートを整えはじめるこいつ。

「司と知り合いなの?」
類が聞くと、

「まさかっ!全然っ、知らない!
知りたくもないってかんじ?」
即答するこいつ。

「てめぇーっ。昨日会ったよなっ?
おまえだよな?似合いもしねぇ着物なんか着て、のこのこメープルに来てたのはっ。」

「はぁ?知らないっ、なんのことかしら?」

「おまえっ、まだとぼけるかっ!」

「とにかく、あたしはあんたとは関係ないの。
授業が始まるから、それじゃ。」

自分の言いたいことだけ言ってまた走り出すこいつ。それを見て、

「おいっ!」

「牧野っ!」

俺と類が同時に声を出すと、

「花沢類、またあとでね。」
って、類にだけ反応しやがった。


チキショー。あの女、許せねぇ。


「おい、類。おまえ、あの女とどういう関係だよっ。」

「ん?ナイショ。」



はぁーーー、どいつもこいつも腹が立つ。
まぁ、あの女がそういう態度なら、俺も金輪際あいつと関わることはねぇ。
許婚話もこれでチャラだ。










そう思ってホッとしたはずだったのに…………


「なんで、おまえここにいるんだよ。」

「…………。」

学校が終わり、邸に戻った俺は信じれねぇものを見て一瞬固まった。
そこにいたのは、昼間俺のことを知らねぇやつ呼ばわりしたあの女。

「今日からつくしさんもこの邸で暮らして頂きます。」
ババァから発せられた言葉に耳を疑った。

「あ?」

「もちろん、部屋は別々よ。
いくら将来は結婚するって言っても、まだ未成年ですしね。」

俺はそんなことを聞いてんじゃねえ。

「なんで、こいつがここで暮らすんだよっ!」

「あら、話してなかった?
婚約を済ませたあとは式をあげるまで邸で一緒に住むことにしたのよ。
その方が学校も同じなんだから都合がいいでしょ。」

「したのよ……って、誰とそんなこと決めたんだよっ!」

「決まってるでしょ、牧野さんのご両親よ。」

さも、当たり前かのように話すババァ。

「部屋は司の隣の部屋を用意させたわ。
まだお預かりした娘さんなんだから、変な気起こさないようにしなさいね。」

そう言って俺たちを残して廊下を歩いていくババァに、しねぇーよっ!と叫び出したくなるのを必死で押し殺し、俺はこいつを睨み付けた。

「おまえ、俺のことは知らねぇんじゃなかったっけ?関わりたくねえって言ってなかったか?ついさっき、聞いたような気がするのは俺の気のせいかよ?」

わざと低い声で、耳元で言ってやると、

「あたしだって、好きでここに来てる訳じゃないわよっ!
家に帰ったら、家具も何もかもなくなってて、漁村に出稼ぎに行くってメモだけ残してパパとママも行っちゃったの。
途方に暮れてたら、あんたの家の人に無理矢理車に乗せられて、ここに連れてこられたのよ。
あたしだって、一緒に暮らすなんて全く聞いてなかったんだからっ!
どうしてくれるのよっ、あたしの人生めちゃめちゃじゃないっ。」


そう言って、俺を睨むわ、蹴るわ、
ひでぇ女。

確か、俺に対してこんな態度をとるやつがいたよな…………と思っていると、

「なんですかっ、坊っちゃん!
まだここにいたんですか。
早くお部屋に案内して差し上げて下さいなっ。」

そう言って、杖で俺の脚をバシバシ叩いてくる
タマ。



つい昨日、会ったことも話したこともねえ女と許婚の話を聞かされてパニックになったのに、
もう今日はそいつと同居だと聞かされた。
こんなんで、頭がついていくわけがねえ。


「とにかく、ちょっと一人にさせてくれ。」

俺はそう言うのがやっとだった。



ランキングに参加しています。
よろしければポチッとお願いいたします!



 2015_03_26







「へぇー、マジかよその話っ。」

「恐ろしいなっ!18歳の誕生日に突然『こちらがあなたのお嫁さんよ』ってか?こえぇー!」

「あきらも類も気を付けろよっ、おまえらまだ18歳の誕生日迎えてねぇからな。
安心できるのは俺だけだ。」

「総二郎、変なこと言うなよっ。誕生日が来るのがこえぇーよっ!」



悪夢の誕生日から一夜開けた今日、学校の中庭に集まったF4。
俺の話に、お祭りコンビが食い付かない訳がない。
好き勝手なことばかり言いやがって!
許婚の話で、相当参ってる俺を目の前に、盛り上がるこいつらと、相変わらず眠そうな類。


昨日はあれから邸に戻っても散々だった。
二時間ほど後に帰ってきたババァに早速部屋に呼びつけられて、頭が痛くなるような話ばかりを聞かされた。

今の道明寺財閥を築き上げた祖父は一代で小さな会社を大きくさせた。
はじめから順調な経営とは行かず、借金を繰り返す日々も続いたが、なんとか会社も軌道に乗せ、今まで出来てしまった借金の返済が可能になったある日、多額の現金を抱えながら銀行回りをしていると、後ろから来た強盗にすべてを持っていかれてしまった。

その時、たまたま近くを歩いていたのが、あの女の祖父、牧野秀樹氏。
強盗に勇敢に立ち向かい、ナイフで腕を切られながらも鞄を取り戻してくれた。
そして、名前も名乗らず去ってしまったらしい。

それから祖父はその助けてくれた人を探すため、唯一の手がかりである腕のけがを治療したであろう病院を探しだし、家までお礼に伺った。
でも、そこは古い貸家で、家族四人でひっそりと暮らしていて、決して裕福とは言えなかった。

祖父はうちの会社で働かないかと何度も進めたそうだが、牧野氏の口癖が『時間はお金に変えられない』で、あくせく働いてたくさんお金を稼ぐよりも、少しの稼ぎでもいい、家族といる時間を大事に暮らしたい。
そう言って、祖父の誘いを断り続けた。


そして月日が流れて、その後何十年も祖父と牧野氏の付き合いは続き、それはかけがえのない友情に変わっていった。
会社が大きくなり、世界的にも有名になる一方、牧野氏のように家族と平凡に幸せに暮らしたかったと考えはじめる祖父。

いつか、自分の子供、孫、その先の子たちがそんな幸せを手にいれて欲しい…………、
そして、牧野氏のような人に育てられた子供たちとなら、それが可能なのではないか…………。

そう考えた祖父は、牧野氏に一つの提案をした。
もし、我らの孫、曾孫、その先の子供たちのなかで、歳が3つ以内の子供が生まれた場合、その時は彼らを結婚させるという契りを結ぼう。

これは、あの時強盗から私を助けてくれたお礼だ。
私には後世使いきれないほどのお金がある。
だから、道明寺との許婚の話は悪い話ではないはずだ。
私は君の人柄に心底惚れ込んでいる。
君の子孫にもそれが受け継がれていくはずだ。
だから、頼む。道明寺と許婚の契りを結ぼう。

祖父はそう牧野氏を説得して、牧野氏も子孫のためになるならと了解した。






そして、時が経て現世。
俺が18歳で、あの女が17歳。
一歳しか離れていない俺らが生まれちまった。






「それにしても、先祖様っつーのは勝手なことしてくれるよなっ……ぷぷっ」

「美人かブスかも分からねーのに、結婚しろって……ぷっ……ぷぷっ……」



「てめぇーらっ!面白がってんじゃねーよっ!」


必死に笑いを噛み殺すお祭りコンビに、座りながらも蹴りをいれてやる。

「ああーーー、マジでどうすんだよっ。
なんとか、この許婚話をなくさねーとな。
ババァのやつ、何企んでるのか当分日本にいるって言うしよー、マジでむかつくぜっ!」

イライラが絶調の俺は、そう言ってドンッとテーブルに突っ伏した。


と、その時、今まで黙って眠っていたと思っていた類が呟いた。

「あっ、牧野だ。
…………ぷっ、寝癖つけてる…………。」


寝癖?
あ?
まき?
まきの?




「類?」

顔を上げて類を見ると、中庭から見える校舎の一角を見つめて微笑む類の顔がある。
その視線の先を辿ると、校舎の壁に置いてある二人掛け用のベンチに座り、大きく伸びをしてる女が一人。


「…………ま……きの?」

「あれ?司も知ってるの、牧野のこと。」




まきの、まきの、まきの…………
牧野 つくし。

そう、俺が昨日ババァから何度も聞いたその名前。




「牧野……つくし。」
俺は信じらんねぇものを見るかのように、視線の先のあいつを見つめて呟いた。



「そう。牧野つくし。
やっぱ知ってんだ、司」

類の楽しげな声がそこに響いた。


ランキングに参加しています。
よろしければポチッとお願いいたします!





 2015_03_25







1月31日。
今日は18回目の俺の誕生日。

毎年この日はF3と朝まで店を貸しきって飲むのが恒例だったが、今年は違った。

2週間前、NYから突然ババァが帰ってきたかと思ったら、『誕生日は大事な用があるので空けておくように。』と言いやがった。
もちろん反発する俺に、『道明寺財閥の将来がかかっているの。』といつになく諭すように話すババァを見て、とうとう俺の力を借りなきゃいけねぇ時がきたか……と、この話を真に受けちまった。


それが、これだ。




連れてこられたメープルの個室。
ふすまを開けてみると、似合いもしねぇ振り袖を着た知らねぇ女が座っている。


完全に騙された…………。


今までも幾度となく取引先の娘を猛アピールされたことはあったが、俺にその気が全くないことをよく知っているババァによって、すべて話は流れてきたはずなのに、
今回はババァ自ら俺を連れてくると言うことは、そう簡単には逃げれねぇ相手なのかもしれない。

それなら、今日のところは大人しくこの場をやり過ごして、後日、適当な理由をつけてババァに断らせればいい。
そんなことを思いながら渋々話を聞いていると、
どうも話の内容におかしなところがある。

月日が流れるのは早い?
息子にはまだ話していない?
嫁に来る?


なんとなく、嫌な汗が流れていくのを感じながら
俺は聞いていた。
「…………きちんと説明してくれ。」



そう、俺は今、
「禁断の扉」を開けたのだ。









「許婚ーーーーっ!!」
「許婚ーーーーっ!!」

俺の怒鳴り声に被さるように発せられたのは、正面に座る女の声だった。

「ふざけんなっ!俺は聞いてねぇーからな!
なにが許婚だよっ。今の時代、そんな戯言通用しねーんだよ。」

すると、ババァが1枚の紙をテーブルに広げた。

「これはあなたたちの許婚について明記された遺言よ。
あなたの祖父と牧野さんの祖父は、あなたたちが生まれる前にこの約束を結んだの。
今、道明寺財閥があるのは牧野さんのお祖父様のおかげでもあるのよ。」

何を説明されても、今の俺には理解できないし、したくもない。

「俺はぜってぇー認めないからなっ!
金が目的ならいくらでもくれてやる。
だから、俺はこんなくだらねぇ茶番には付き合えねーっ!」

そう怒鳴るように、正面に座る女に言い捨てた俺は、
「先に帰る。」そう告げて席を立とうとした、
その時、

今まで下を向いて黙っていた女が、キッと俺の方を睨み
「ちょっと待ちなさいよっ!」
と怒鳴った。


「大人しく聞いてれば、ずいぶん失礼なこといってくれるじゃないっ!
お金が目的?冗談言わないでっ!
あたしはいくらお金を積まれても、あんたとなんて結婚したくないっ。
こっちから願い下げよっ!
先に帰るっ。」

さっき俺が言った言葉を捨てぜりふに、こいつが立ち上がり、個室を出ていった。
一瞬呆気に取られた俺はその場で固まっていたが、我にかえってすぐ、
「てめーっ、待てよっ!」
とあの女を追いかけた。

ホテルのエレベーターに乗り込むあいつが見えたが、俺の目の前で扉が閉まる。
「ちくしょーっ。」
隣のエレベーターのボタンを連打して乗り込むと急いで1階のボタンを押した。








「おいっ!てめーっ、待てよ!」
ホテルを出てすぐの通りで女を捕まえた。

「何か用っ?」
振り袖の裾をバタバタさせながら歩く姿はひどく目立ち、すれ違うやつらがみんな見ていく。

「いいから止まれっ。」
俺は女の腕を取り、木が立ち並ぶ歩道の脇に引っ張った。

「おまえ、俺にそんな態度とっていいと思ってんのかよっ。
明日にはおまえの親父の会社がどうなってても知らねぇからな。」

「はぁ?パパの会社?
あんたバカじゃないの?
そんなんであたしが怯むと思った?
とにかく、あたしはあんたとは関わりたくないの。だから、許婚だかなんだか知らないけど、破棄してもらって結構よっ!」


衝撃だった。
今まで俺にこんな口の聞き方をした女もはじめてだったが、ここまで毛嫌いされる覚えもねぇ。


「てめぇーっ。
俺と結婚出来るって言われたんだぞ。
光栄だと思わねぇのかよっ。」

「はぁーー。ほんとバカ。
あのね、あたしはあんたみたいなタイプが一番キライなの。
天地がひっくり返ってもありえないっ。
ねっ、今日のことはお互い聞かなかったことにしましょう。
あたしとあんたは今日会わなかった。
これからも何の関係もない赤の他人。
ね、そういうことでっ!」


自分の言いたいことだけ言いやがって、くるりと踵を返して去っていく女。
俺は無性に腹が立った。
今日会ったばかりの女にここまで嫌われる謂れはない。
ましてや、俺は天下の道明寺司だっ!






鮮やかな振り袖のその背中に、俺は叫んでいた。

「おいっ、失礼なのはどっちだよっ!
名前ぐらい名乗れっ、バカ女っ!」





その名前も知らなかったはずのこの女が、
意外と俺の身近にいたことを知るのは、
次の日のことだった。





ランキングに参加しています。
よろしければポチッとお願いいたします!







 2015_03_24






それは高校2年の冬。
あたしは、その日が来るまで知らなかった。
あたしには決めれた『契り』があったということを。






牧野つくし 17歳。
英徳高校2年。
平凡な、いや、一般家庭に比べるとかなりレベルの低い家に生まれ、お金はないながらも伸び伸びと暮らしてきたあたし。
バイトに明け暮れる日々だが、目標は高く!
将来は弁護士を目指して勉学にも励む普通の女子高生。
だけど唯一、あたしに不釣り合いなのは…………
そう、あたしが通っている学校というのが、超が付くほどのエリート学校なのだ。
名門 英徳高校。
生徒の9割がどこかの会社のご子息、ご令嬢で埋め尽くされるなか、残りの1割がれっきとした試験を突破して入ってきた一般ピープル。

あたしもほんとなら、こんな学校に来たくなかった。
親友の優紀と同じ高校に行くはずだったのに、
……あたしに選択の余地はなかった。
いつもは穏やかで、何も考えてなさそうなマイペースな両親なのに、高校進学にだけは激しく口を挟んできた。

あたしを英徳高校に行かせるために、苦手な営業も頑張ってるパパや夜中まで内職するママを見ていると、他の高校に行きたいなんて言えなかった。
それに、将来弁護士になるなら我慢して英徳高校に行くのが一番の近道だと思ったから。

けど、高校生活は最悪だった。
貧乏なあたしが、お嬢様たちと話が合うわけがなく気の合う友達なんていやしない。
唯一、部活の先輩だけがあたしの心のオアシス。



そんなあたしが、今日突然こんな振り袖なんて着せられて、ロビーにも脚を踏み入れたことのない高級メープルホテルの和食レストランの個室に座らせられている。

両隣にはこれまたどこにそんな服しまってあったの?と聞きたくなるようなスーツに身を包んだパパとママの姿。

「ねー、いったいこれから何がはじまるの?」
小声で話すあたしに、

「いいから、つくしは黙って笑ってればいいのよ。」
もう朝からなん十回も聞いた台詞をママが言う。

パパなんて、なにを緊張してるのか、しきりにおしぼりで顔をゴシゴシ拭いてるもんだからおでこが赤くなってきちゃってる。

「パパ、擦りすぎっ!」
あたしが、そうパパに注意したその時、
個室のふすまの向こうから、

「失礼いたします。」
と声がした。

緊張するあたしたち親子の前に現れたのは、見たことのない品のある女性。


そして、その後ろにいるのは、



まさかっ!
そう、あの有名な
道明寺司だった。



「お待たせいたしました。」
女性があたしたちに優しく話すのをポカンとしながら見ていたら、ママに
「つくしっ。」と肘をつつかれて我にかえる。
そして慌てて頭を下げたあたしの耳に

「これはどういうことだよ。」
という怒りに震える声が響き、そうっと顔を上げると、

「ババァ、てめぇーっ!」
「司さん、口を慎みなさいっ!」

目の前で突然繰り広げられる親子喧嘩に呆然とするしかないあたしたちを横目に、道明寺司はまだ女性に何かを言いたそうにしていたけど、彼女の方がそれを制する権力を握っているらしい。

「牧野さんに失礼よ。座りなさい。」

彼女の有無を言わせぬその態度に、あの道明寺司が渋々従った。

部屋に緊迫した空気が流れたところで、飲み物が運ばれてきてあたしはやっと一つ大きく息を吐いた。

「お元気でしたか?」

「はい。お陰様で。」

「月日が流れるのは早いものですね。」

「ほんと、そうですね。」

飲み物が運ばれるなか、女性とパパとママが親しく話す様子をただただ不思議に見つめるしかなかったあたしは、その直後、この女性から発せられる言葉に、心臓が飛び出るほど驚くことになる。

「つくしさんも立派に成長して。
お嫁に来て頂くのに申し訳ないくらい。」

その言葉に弾けるように顔を上げたあたしと道明寺司。

「えっ、……お嫁さん?…………」
あまりの驚きに、この場にそぐわないほどの大声が出る。
そんなあたしの様子を見て、

「……もしかして、まだ…………?」
と、女性がパパとママに聞いた。

「…………はい。
本当にまさかこの日が来るとは思ってませんでしたので……。
申し訳ありません。」
ママが目を伏せてそう言うと、その言葉にこの日はじめて目の前の女性が笑った。

「いいえ、とんでもない。
…………私も同じです。まだ、息子には話してません。
どうせ、話しても反発するだけだと思ってましたので、今日まで黙ってました。」





あたしと道明寺司をかやの外にして話が進んでいく大人たち。
そろそろなぜあたしたちがここに呼ばれたのかをはっきりと聞かせて欲しい。
そう思ったあたしが口を開きかけたとき、
今まで黙ってた道明寺司が動いた。

「ごちゃごちゃ訳わかんねぇこと話してねーで、そろそろきちんと説明してくれ。
俺はここになんで呼ばれた?」








その道明寺司の質問こそが、
今思えば、
あたしたちの『禁断の扉』を開けてしまったのだ。







「あなたたち二人は、道明寺孝太郎と牧野秀樹の遺言により『許婚』と定められています。
司が18歳の誕生日を迎える今日、正式にあなたたちは婚約するのよ。」







許婚、遺言、婚約………………。
まだ17のあたしにとってそのすべてが未知のものなのに…………

それなのに、
そのすべてが、あたしが生まれる前から決まっていた…………。





ランキングに参加しています。
よろしければポチッとお願いいたします!

新連載スタートです。
どんな風になるのか…………私にもわかりません!






 2015_03_23




02  « 2015_03 »  04

SUN MON TUE WED THU FRI SAT
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

プロフィール

司一筋

Author:司一筋
花より男子の二次小説サイトです。
CPはつかつくオンリーです。
司をこよなく愛する管理人の妄想サイト。

最新トラックバック

フリーエリア

お金がたまるポイントサイトモッピー

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR




PAGE
TOP.