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『バイバイ道明寺』

あいつが俺の前から去って数ヶ月。
俺らはもうすぐ二十歳を迎える。






今日はあずさの二十歳のバースデーパティーが都内のホテルを貸しきって行われていた。
国内最王手の建設会社の一人娘だけあって、力の入れようがそこらのやつとは違う。

パーティー初盤に鮮やかなワインレッドのドレスで登場したあずさは、今日の主役だと言うのに終始俺のそばから離れずにいる。
そのため、あずさにお祝いの言葉をかけにきた奴らが揃って、俺にも声をかけていくのが鬱陶しくて堪らない。

「道明寺さんとあずささんは同級生でしたか。」
「同じ英徳大学でしたよね。」
「普段から仲がよろしいのですか。」

そんなぐだぐだとくだらない質問なんかしてないで、はっきり聞けばいい。
「あずさとは付き合ってるのか?」と。

そしたら答えてやるのに、
「そうだ。」と。




俺とあずさは、つい最近、正式に付き合うことにした。
いつだったか、二人で外を歩いてる時に、店のウインドウに俺らが並んで歩く姿が写った。
それを見てあずさが
「ふふっ、私たちって付き合ってるカップルみたいね。……本当に付き合っちゃう?」
そんなことを言ってきた。
それに俺は、
「ああ。いいんじゃね。」
そう答えたとき、あずさがすげー嬉しそうに笑ったのを覚えている。


その時、ほんの少しだけ誰かの顔とダブって見えた気がしたが、……思い出せねぇ。


それから、俺とあずさは一応、付き合ってる仲になった。
今まで興味を惹かれた女に出会ったことがねえ俺にとって、あずさの存在は空気のようなものだった。
まるで、F3と過ごしているような。
そんな心地よさを、恋愛と勘違いした俺は、こういう女となら将来結婚してもうまくやっていけるんじゃないかと思い始めていた。




パーティーが終盤に差し掛かって、やっと来客への挨拶回りも済んだところに、あきらと総二郎がやってきた。

「おう、お疲れ。」

「佐々倉、おめでとう。」

タキシードをビシッと着こなした奴らは相変わらず注目の的だ。

「おまえら二人か?類はどうした?」
俺の質問に少しだけ間を置いて、あきらが答える。

「あそこにいるよ。よろしく伝えてくれって。」

あきらが示す方に目をやると、そこには類と談笑する桜子と滋。
…………そして、牧野の姿があった。


久々に見るあいつの姿。
この場に相応しい上等なドレスに身を包み、会場の端に控えめに立っている。

「桜子さんも牧野さんもわたしが招待したの。
来てくれて嬉しいわ。」

あずさの声が聞こえるが、俺の視線は20メートル先のあいつ。
隣に立つ滋と話してるあいつは、片手にシャンパングラスを持っている。


「司?」
視線が固まったままの俺にあずさが声をかけるが、俺はそれに答えず動いた。
まっすぐに類たちがいる方へ距離を詰めていく。

あと数メートルのところで牧野が俺に気づき目線が絡んだ。

「司?」
類が俺に気付き声をかけたところで、牧野の正面に立った俺は、

「未成年。」
と呟きこいつからグラスを取った。

「…………え?」
意味が分からず戸惑う牧野に、

「おまえはダメだ。
未成年だろ。ジュースにしとけ。」

自分でもなぜだか分からないが、シャンパングラスを持つ牧野を見て体が勝手に動いた。


「司、もしかして、記憶…………」
と、あきらが言うが、

「あ?…………戻ってねーよ。
未成年が酒を飲むことを止めただけで、なんで俺の記憶が関係してんだよっ。」
そう言って俺は牧野から奪ったシャンパングラスを一気に飲み干した。






「司。ちょっといい?」
その声に振り向くと、そこには両親と一緒に立つあずさ。
あずさの両親に会うのは、何かのパーティー以来2度目だ。

F3と滋、桜子、牧野もあずさによって、
「大学のお友だち」と両親に紹介された。

そして、その直後、あずさの口から両親に告げられた言葉にその場の雰囲気が一変した。






「パパ、ママ、聞いて。
わたし、司と付き合ってるの。
大学を卒業したら結婚も考えてる。
許してくれるでしょ?ね、パパ。」




マジかよ……という目で俺を見るお祭りコンビを横目に、今度は類がシャンパングラスを一気にあけた。



遅くなりました~。
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 2015_02_28





今日の更新はお休みさせていただきます。
北海道は大雪です。
朝から仕事が滞ってまして、未だに帰宅のめどがたちませんよっ。

夜ご飯の支度もしていないので、ラーメン食べて帰ろうと意気込んでいるわたしです。



それと、今日はちょっと真面目なお知らせですが、この二次小説サイトを立ち上げて数ヵ月が過ぎましたが、たくさんの方からコメントを頂きました。

その中に、他のサイトへの小説提供の依頼や、リレー方式でのグループ小説へのお誘い、またイラストの掲載依頼などたくさんのありがたいお話も頂いております。

ですが、毎日1話を更新するのがやっとの私ですので、他のことにまで力が及ばずご遠慮させて頂きたいと思っています。
この場をお借りしまして、お話を頂きました皆様にお詫び申し上げます。

このサイトだけをひっそりと運営していけたらと、欲は出さずに頑張りたいと思っていますので、これからも応援していただけると幸いです。

コメントをお寄せ頂きましたお一人お一人にお返事出来なくて申し訳ありませんが、この場をかりてお礼申し上げます。

ありがとうございました。




たくさんの方の一票を大切に、心に残るお話をアップし続けるよう頑張りまーす。
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 2015_02_27






類の言った通りかもしれねぇ。
たぶん、牧野はもう俺に会わねぇって決めたんだろう。
この1ヶ月、大学でも邸でもあいつの姿を見かけることはなかった。

この1年、牧野の存在自体が鬱陶しくてたまらなかった。
どんなに俺の前から消えろと思ったことか。
それが、現実となった今、俺は喜ぶというよりもほっとした気持ちが大きかった。

どこかでプレッシャーを感じてたのもしれねぇ。
事故で記憶をなくしてから、周りの奴らがそろって、ババァでさえも、牧野が俺の恋人だったと言ってきた。
俺にとっては見ず知らずの、はじめて会う女が彼女だと言われても、それを受け入れるほどお人好しでもねえ。

いつか、こいつとの記憶は戻るのか?
戻らなかったらどうなる?
記憶が戻らなくても、またこいつを好きになるのか?
そして、俺とこいつとの仲はどこまで進んでた?
将来を約束した仲なのか?
色々なことが俺の頭を支配してきた。


そんな迷路のような道からやっと解放されたのだ。
あいつが俺の前から消えたと言うことは、それを意味してるんだろう。
そうして、あいつが姿を見せなくなって1ヶ月が過ぎていった。










毎月、俺は決まった日に病院で検査を受けている。
事故での後遺症がないか最新鋭の医療危機を使い脳波の検査などをするため通っていた。


今日も大学の講義のあと、主治医のドクターと面談の約束があって病院に来ていた俺は、1階のロビーを横切りエレベーターホールへ向かう途中、視界の端に何か気になるものを捕らえた。

そこは、病院の中に入っているコンビニ。
大規模な病院だけあって、ひっきりなしに客が出入りしているが、その店の本のコーナーに知っている顔があった。

なんであいつがここにいる?

俺が捕らえた視界の先には1ヶ月ぶりに見る牧野の姿。
一瞬迷ったが、飲み物でも買っていくかと、自分に理由をつけて店の中に入った俺。
そして、チラッと本のコーナーに目を走らせた次の瞬間、俺の眉間に皺がよった。


「おまえなにしてんだよ。」

「っ!ど、道明寺!」

「なんでここにいる?」

「いや、……ちょっと。
…………とっ友達のお見舞い……かな。」

「その格好でかよ。」

「うっ…………うん。」

本のコーナーで雑誌を片手に立ち尽くす牧野は、カーディガンを羽織ってはいるが病衣だった。
そう入院患者が着てるあれだ。

「それ、買うのか?」

「…………へぇ?」

「雑誌だよ。」

「あっ、……うん。買おうと思ってたとこ。」

俺は牧野のその返事を聞くと同時に、こいつの手から雑誌を奪いとり缶コーヒーのコーナーに向かった。
そして、コーヒーを2つ手に取るとそのままレジで金を払った。


「行くぞっ」
俺は牧野に声をかけて店を出る。
牧野もゆっくりだが付いてきた。

いちばん近くのベンチが空いているのを見つけて俺はそこにドカッと座ると、牧野はそれを見て突っ立っている。

「座れよ。」

「いや、……いい。」

「いいから座れ。」

「い・や・だ。」

数メートルしか離れていない距離でじっと睨み合う俺ら。
それに痺れを切らした俺が、こいつの腕をとりベンチの方へ引っ張ると、

「っ、痛っ!」
顔を歪めて苦しそうに言う牧野。

俺はそれを見て慌てて手を離した。
「おまえ、どっか悪いのか?
なんで入院してるんだよ?」

牧野は俺の質問には無視したまま、ゆっくりとベンチに腰を下ろした。
「たいしたことないの。
…………ちょっと腰に持病があって、それで検査のため入院してるだけ。

……道明寺は、今日が検査日?」

「ああ。」

「そっかぁ。もう、1年だね。」

「おう。」

「あれから頭、痛んだりしてない?」

「ああ。痛くも痒くもねぇ。
事故があったのが嘘みたいだ。」

「そう、よかったね。」

不思議だが、記憶をなくしてからまともにこいつと話したことなんてないはずなのに、自然と言葉が出てきて、会話が続く。

「検査はいつまで?」

「今日で終わる。
事故から1年ってことだからよ。
でも、医者は俺の記憶が完璧に戻るまでは通えって言ってきてるけどな。」

「ふふっ……そうなんだ。
…………もう、いらないのにね。」

「あ?」

「…………もう、いいよ。」

周りの雑音にかき消されるぐらいの小さな声で牧野が言った。

「あ?」

「記憶……戻らなくてもいいよ。
あんたには必要のない記憶だったんだから。

あたしも……消したの。
あたしも道明寺との思い出は全部消した。
だから、あたしたちはなんの関係もない、もともと出会っていなかった二人ってことで。

ねっ、そうしよう。
無理に思い出そうなんて時間の無駄。
お互い、そろそろ先に進んだ方がいいのよ。

こうして話すのも今日で最後。
よかったー。ちゃんとお別れの挨拶ができて。

うん、…………じゃあ、行くねあたし。」


そう言って腰に手を当てながらゆっくり立ち上がった牧野は、俺に向けてスッと手を差し出してきた。

「お別れの握手。」
そう言って綺麗に笑う牧野につられて俺も手を出した。



牧野は俺の手をギュッと握り、
まっすぐ俺を見て、


「バイバイ道明寺」



そう言って1度も振り返らずに俺の視界から消えていった。



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「」



 2015_02_25






あの日から、俺の前に姿を見せなくなったあいつ。

邸にも来なくなって3日目、
「坊っちゃん、つくしに何かありましたか。」
俺の部屋にコーヒーを持ってきたタマが鋭い目で聞いてくる。

「知らねーよ。」

「…………そうですか。
また坊っちゃんが意地悪したかと思いましたが。
つくしが来たら、あたしの部屋に寄るように言ってくださいな。
あの子の好きな甘栗が届いたんでね。」
そう言ってタマが部屋を出ていく。


そして、あいつを見なくなって1週間。
いつもの時間になんとなく部屋にいる習慣がついちまった俺は、今日も牧野がいつも来ていた時間にソファに座っていた。

片手には経営学のビジネス本。
そして、目線は…………部屋の端にある本棚。
そこは、いつもあいつが立っていた場所。

ソファに座る俺に何かを話しかける訳でもなく、近くに座る訳でもなく、ただそこで毎日20分ほど過ごして帰っていった牧野。

俺は、なんとなくあいつが読んでいた雑誌や本が気になりゆっくりと本棚に近付いた。
でけー本棚の約8割は俺の本で埋め尽くされている。
でも、その本棚の一角に牧野の私物だろう本が数冊綺麗に並んでいた。


それは、法学部の牧野らしく法律の本が大半で、他に数冊宇宙や天文学の本も混ざっている。
中には、付箋が付けられて赤線でラインが引かれた法律本もあり、牧野にとって大事な本なのは間違いないが、もうこの部屋に来ることもねぇだろうから、処分でもするか…………。






それから更に1週間。
どいつもこいつも腹が立つ。

邸にいればタマが
「つくしはどうしてます?」
と、事あるごとに聞いてくるし、

大学に行けば、
「昨日、桜子とつくしと食事に行ったらすっごく格好いい人に声かけられちゃってー」
と、浮かれた滋の話に付き合わされ、

カフェテリアでは、
「牧野から過去問貸してくれって頼まれてるから、先行くわ。」
と、総二郎が足早に席を立つ。


どいつもこいつもあいつが当たり前のように生活に溶け込んでいて、そうでないのは俺だけだ。
しかも、今までは大学に来ればいつもどこかしらであいつを見かけていたはずなのに、あの日から全く見かけることもなくなった。

「…………あいつ、学校来てるのか?」
カフェテリアに残ったあきらと類になんとなく聞いてみる。

「ん?あいつ?」
あきらがなんの事だ?という表情で聞き返してくる。

「だから、…………牧野だよ。」

「牧野なら、今日も見かけたぞ。
昨日は遅くまで図書館でテスト勉強してたはずだ。」

「…………そうか。」

滋も総二郎もあきらも、いつも通り牧野と会っている。
会っていないのは俺だけか。
そう思って一つの考えにたどり着いたとき、それをそのまま類が俺にぶつけてきた。


「避けられてるんでしょ?」

「…………あ?」

「司、牧野に避けられてるんでしょ。
そうされるようなこと何かしたの?」

「……関係ねーだろ。」

「…………そうだね。
牧野もそろそろ限界だと思うし…………。

……司、ひとつ教えてやろーか。
おまえはすごい勘違いをしてるよ。
牧野は俺らの言いなりになるような女じゃない。自分で決めたことは絶対に曲げないような融通のきかない女なんだよ。

だからさ、恋人に自分だけ忘れられてもひたすら会いに行った。
どんなに辛くても笑って会いにいった。

けどな、牧野がもうおまえに会わないって決めたら、どんなにおまえが会いたくてもあいつは受け入れないやつだ。

おまえはそれがわかってない。
いなくなって気付いても遅いんだよっ。」


最後は語尾を強めて席をたった類。




「っ、なんだよ、あいつ。」

そう呟いた俺の肩に手を置いてあきらが言った。





「早く思い出せ、司。」





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 2015_02_25






その日、俺はなぜだかムシャクシャしていた。
理由なんて自分でも分からない。
でも、大学の校内で見たひとつの光景が頭から離れない。

それは、いつも俺の前では空元気に笑ってばかりのあの女が、校内の人気のない芝の上で俯いて座っていた。
その横には……いつものように類の姿。


類があいつに何かを語りかけていて、それに何度も頷いていたあいつだったが、次の瞬間
…………牧野が泣きはじめた。
俯いたあいつの目から次々と滴が落ちていく。
肩を震わせて、声を殺して泣く姿に、なぜだか俺はザワザワと胸騒ぎがしてそれ以上見ていることが出来なかった。


邸に戻ってからもその光景が頭から離れない。
なぜ泣いている?類に何をされた……?
そんなことを考えていると、次第にイライラしてくるのがわかる。
すると、いつものように同じ時間に部屋の扉がノックされた。

あいつが邸にやって来る時間だ。
俺の部屋に小さくノックをして入ってきた牧野は、「お邪魔します」そう言ってタマから渡されたんだろうお茶のセットを俺の前に置く。
この牧野の行為はいつもと変わりなく、俺が何も反応しないのもいつも通り。

そして、俺に紅茶を淹れたあとは部屋の花瓶の花を整えたり、本棚の本をめくったり、いつも20分ほど俺の部屋で過ごして帰っていく。

はじめの頃はその行為事態が不快で仕方なかったが、あるときタマに言われたことがある。
「坊っちゃんが記憶をなくしたのは誰のせいでもありません。
でも、ある日突然恋人に忘れられたつくしの気持ちも理解してあげてくださいまし。
つくしが心の整理が出来る日まで、30分でいいんです。
黙って付き合ってやって下さいな。」

それからは、24時間のうちのたった30分だと自分に言い聞かせて、こいつの訪問を黙って受け入れることにした。


今日もいつもと変わらず時間が過ぎていく。
俺はソファでビジネス本に目を通し、牧野は本棚の前で雑誌のページをめくっている。
ふいに、今日見たあの光景がまた頭をよぎった。



「なぁ。」

突然俺が発した言葉に一瞬こっちを向いた牧野だが、またすぐに雑誌に目を戻す。

「なぁ、おいっ。」
もう一度声をかけると、

驚いた顔で
「……えっ、あたし?」
そう言う牧野。

「おまえしかいねーだろう。」

「…………うん。なに?」


「おまえ、……今日なにかあったのか?」
牧野は俺の質問の意図が分からないのか、本棚の前で立ち尽くしている。

「だから、…………泣いてただろ。
大学で見かけた。
……いや、俺には関係ねーけど、痴話喧嘩なら他でやれよ。目障りだっ。」

自分でも分からねぇイラつきが言葉となって表れた俺に、

「ふふっ……。」
小さく牧野が笑った。

「なにがおかしいんだよ。」

「そう、あんたには関係ないんだよね。」

「あ?」

「今、あんたが自分で言ったでしょ。
…………あたしが泣こうが笑おうが関係ない。
いてもいなくても関係ない。
ふふっ……目障りか…………。」

いつもなら、怒って噛みついてくるところなのに、今日はただただ悲しそうに笑いやがる。
その顔が、どうしようもなく俺をイラつかせ、どうしようもなく胸を締め付ける。

「おまえ、……類と喧嘩でもしたのか。」

「はぁ?喧嘩なんてしてない。」

「じゃあ、別れ話か。」

「バカじゃないのっ。あたしは…………」
そう言って黙り混む牧野。

「なんだよ、いつものあれは言わねーのかよ。
『あたしは類の彼女じゃない』って。」

「…………。」





そのまま俯いて何も話さねぇこいつ。
それを見て、俺はなんとなく理解した。
「そーか。やっと類の彼女になったのかよ。
…………よかったんじゃねぇ?
嬉しくて泣いてたって訳か!」
イラつきが最高潮に達する。
自分でも何をムキになってるんだと感じるが抑えがきかねぇ。

「違うっ!勝手なこと言わないでっ。
あたしはっ、」

「うるせー、おまえの話は聞きたくねぇ!」
そう言ってテーブルをドンと叩いた弾みで、ティーカップから紅茶がこぼれ、床に滴り落ちていく。

泣きそうな顔でそれを見ていた牧野が、俺に何かを言いかけたとき、静かに俺らを制する声がした。


「大きな声をあげて、なにごと?」

あずさが部屋の入り口に立っていた。

「…………また喧嘩?」
そう言ってソファに座る俺のとなりに来たあずさは、短いスカートもお構いなしに乱暴に座った。



それを見て、俺はある考えが頭をよぎる。
このイラつきの原因は牧野の存在だ。
記憶をなくす前はどうだったかなんて知らねぇが、今の俺にとってあいつはイラつく存在でしかねえ。
もう、俺もおまえも限界だ。

お遊びはもうやめにしようぜ。
おまえがやめないなら、俺がやめさせてやる。





「牧野、あずさに新しい紅茶淹れてきてくれねーか。」
俺はこぼれたらティーカップを見ながら、本棚の前にいる牧野に言った。


「………………わかった。」
それ以上は何も言わず、ティーセットがのったお盆を持って部屋を出ていく牧野。





牧野が戻ってくるのは5分後くらいか…………。
5・4・3・2・1
かすかに部屋の外から足音が聞こえたのを合図に、俺は隣に座るあずさに覆い被さった。
あずさの首もとに顔を埋め、左手でスカートの中に手を入れる。

ちょうど角度的に、部屋の入り口から正面にあたるソファは格好の見せ場だ。
「ちょっ…………つかさ、やめてっ。」
あずさの焦った声が更に臨場感を与える。


どれぐらいそうしていたか。
1分、いや3分か。
もしかしたら、30秒かもしれねぇ。

でも、確実に分かることがある。
それは、
…………牧野がもうそこにはいないこと。






あずさから離れた俺は、ゆっくりと部屋の入り口に向かった。

そこには、お盆にのったティーセットだけが湯気をあげて床に置かれていた。






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 2015_02_24





新連載です。
記憶喪失からの…………。
ハッピーエンドはお約束します。



*******************




1年半前、不慮の事故で記憶をなくした俺。
皮肉なことに、なくしたものはたった一つ。
愛する女の存在だった。

やっと、気持ちも通じ合いババァの許しも得て順調な交際をスタートさせようとしていた矢先の事故。

完全にあいつの記憶をなくした俺は、それまで必死に守り温めてきた俺たちの関係を自ら手放し、一瞬にして俺たちの歯車を狂わせた。


そして、1年半後。
激しい頭痛とともに記憶を取り戻した俺。
だが、俺のとなりにはあいつではない女の姿があり、あいつの隣にも俺が戻る場所はなかった。



そう、俺らがあの頃に戻ることは、もう

限りなく…………ゼロに近い。










「てめぇー!!また来たのかよっ。
いい加減にしろよっ、目障りだ!
とっとと帰れっ。」

記憶をなくした俺を見舞いに、毎日顔を出すうぜぇ女。
牧野のことをそんな風に思っていた俺は、毎日毎日酷い暴言をあいつに浴びせた。

それでも、笑い、時には怒り泣きながらも、欠かさず見舞いに来た牧野。
そして、それは俺が退院してからも続き、学校が終わる時間に合わせて邸にやって来るようになった。

はじめの頃は、俺もいちいち反応して帰れと怒鳴り付けていたが、半年を過ぎた頃にはあいつの存在自体を無視するようになった。

そして、高校生だったあいつが、俺らと同じ英徳大学に進学し、キャンパスでも度々顔を会わせるようになってからは、どうにかあいつを俺から遠ざけたいとその一心で、…………他の女を利用した。


俺が入院していた頃、同じ階のVIPルームに叔父の見舞いで度々顔を出していた奴がいた。
名前は佐々倉あずさ。
俺らとは幼稚舎からの同級生で、実家は佐々倉建設。都内大手の建設会社の一人娘だ。

高校はイギリスに留学していたため、顔を合わせるのは3年ぶりだったが、昔から他の女たちとは違ってクールで落ち着いた性格のため一緒にいてもさほど苦にならない女だった。

入院生活の閉鎖的な空間で、俺とあずさは自然と距離が近くなり退院してからも邸に呼んだり、大学でもよくつるむようになっていった。

叔父の見舞いで病院に来ていたあずさは牧野とも何度か顔を合わせている。
そして、俺がよく口にしていたように、牧野のことを「類の女」だと思い込んでいた。


いや、もしかしたら もう思い込みなんかじゃねーのかもしれねぇ。
俺がさんざん罵倒し、無視したこの1年半、常に類は牧野の側に寄り添っていた。

はじめの頃こそ、
「俺の女じゃない。早く思い出さないと司、後悔するよ」
そう俺に忠告していた類だったが、いつからかその忠告もしなくなっていった。




それでも、牧野は諦めなかった。
どんなに俺が怒鳴っても追い返しても、次の日には笑って俺の前に現れた。
今思えば、どれほど牧野を傷付けてきたか……。
あの頃の俺にはそんなあいつの気持ちを気遣うことなんてこれっぽっちもなかった。




それだけじゃなく、俺は更に徹底的にあいつを追い込んだ。

記憶をなくして1年たった頃、相変わらず我が物顔で邸に現れ、タマや使用人と親しく話し、俺の様子を伺いに来る牧野にうんざりしていた俺は、
最悪な計画を立てた。




それは、あずさとの密会を見せることだった。







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ちょっと暗めのスタートですが、お付き合い下さい。





 2015_02_23






せっかく婚約が決まったって言うのに、休みの日までなんだかんだ仕事が入っていて、牧野とゆっくり過ごすことも出来てねえ。

先週は牧野の実家に挨拶に行ってきた。
事前に話はしてあったが、牧野の両親はただただ驚くばかりで、俺の話も上の空だ。

とにかく、
「仕事が落ち着いたら、籍を入れたい。
式は身内だけでしたいと思っている。」

そして、一番大事なこと、
「一生、つくしさんを幸せにする。」

それだけを精一杯伝えると、帰り際牧野の両親が俺の手を強く握り、深く頭を下げてきた。





結婚に向けてまだまだやらなきゃいけねーことがたくさんあるのに、連日遅くまでオフィスに縛られててプライベートな時間が取れない俺たち。

毎日、寝る前のラブコールだけが唯一プライベートな牧野の声を聞けるときだ。

「牧野、寝てたか?」

「ううん、起きてたよ。今帰ってきたの?」

「ああ。」

「最近、すごく仕事詰め込まれてるね。
なんか西田さんに恨まれるようなことしたの?」

「してねーよ。
はぁー………おまえが起きてるなら、そっちのマンションに行けばよかったな。」

「ふふっ、あと数時間したらまた会社で会えるでしょ。」

「それが我慢出来ねぇくらい会いてぇんだよ。
早く、俺の嫁になれ。」

「はいはい。もうすぐだから。」



毎日、そんな会話でエネルギー補給するしかねぇ俺は、今日も相変わらず仕事に追われていた。
マジで、『西田さんに恨まれるようなことしたの?』という牧野の言葉が当たってるんじゃないかと思えるぐらい、分単位でスケジュールが詰まっている。

午前中のスケジュールをなんとかこなした所に、西田が書類を持ってオフィスに入ってきた。
また追加のスケジュールか?
そう思った俺に、西田は書類を渡して言った。

「来週のスケジュールがほぼ確定しましたのでご確認を。」

そう言って渡された日程表を見ると、それはいつものとは違い空欄が多く見られる。
特に、週末の3日間はほぼオフだ。

「…………。」
言葉もなくただ見つめる俺に、

「急ぎの案件は今週で片付きますので、来週は少しゆっくりしていただけます。
副社長も何かとプライベートでお忙しいはずですので、そちらに時間を割いてください。
それと、……遅くなりましたが、これ。」

そう言って俺のデスクに二枚の紙切れをおく西田。
「牧野さんが行きたがってたミュージカルのチケットです。
ささやかですが婚約のお祝いに。
…………副社長、この度はご婚約おめでとうございます。」

そう言って深く頭を下げる西田。

「おう、サンキュ。
西田、これからもよろしくな。」

「はい。こちらこそ。」

少しだけいつもの鉄火面が笑ったような気がしたが、それをたしかめる間もなく扉に向かう西田。
そして、部屋を出る際、

「牧野さんはさきほど社食に向かいました。
ミュージカル、今日の6時からですので遅れないように。」
そう言い残して出ていった。

手の中の紙切れを確かめてみる。
開演は今日の6時。
俺は急いで社食に向かった。







3度目の社食。
相変わらず、入り口に背を向けて、社食の中央あたりに座っている牧野。
俺はコーヒーだけを持ちあいつに近付く。


「今日は弁当じゃねーの?」
突然の俺の問いにビクッと肩を震わせて振り向く牧野を横目に俺は隣に座った。

相変わらず他の社員たちが俺を見てキャーだのウソーだの騒いでいるがもう慣れた。

「どっ、副社長、どうしたんですか?」
秘書モードの牧野。

「俺も昼休憩。」

「…………何か食べます?」

「おまえのそれ何?」
俺は牧野のプレートにのってる見たこともねぇ食べ物を指差して聞くと、

「ロコモコです。」
意味不明な答え。

「ロゴモコ?」

「ロコモコ。社食の人気メニューですよ。」

「へぇー。…………食わせろっ。」
牧野からスプーンを奪いそのまま一口くちにいれる。
皆が見てる前でそんなことをすれば牧野が慌てるのは想定済みだ。

案の定、顔を赤くして俺を睨んでくるこいつ。
そして、
「返してくださいっ。もう信じらんない。
バカっ仕事中でしょ。」
俺にだけ聞こえる声で牧野の抗議が続くが、久しぶりに二人でする会話にすげーあったかくなる。

「なに、ニヤニヤしてんのよ。
暇なの?西田さんが探してるんじゃない?」

「おまえにいいものやろーと思って。」
そう言って牧野の前にミュージカルのチケットを置いてやる。

「えっ!!これって。
すごい、どうしたの?もうチケット完売したって聞いたけど、いつ買ってたの?」
興奮してすっかり敬語も忘れてプライベートモードのこいつ。

「今日の6時からだ。行けるか?」

「うん。もちろん。
……え?道明寺も行けるの?」

「あたりめーだろ。誰と行くつもりなんだよおまえは。」

「でも、仕事が……」


その時、俺の携帯が鳴る。
西田からの呼び出しだ。

「わりぃ、戻るわ。
会社からそのまま行くから、用意しておけよ。」


俺は立ち上がって、軽く牧野の頭を撫でてやると、周りの目が痛いほど俺らに突き刺さってくるのがわかる。
今日は社内の噂話は俺ら一色だろうな。

そう思うと、天性の野獣魂が騒ぎだし俺を暴走させた。







社食の出口まで来ると、俺は牧野の方を振り返り、


「牧野っ!言い忘れたけど、そのチケット西田からのプレゼントだ。
俺らの婚約祝いだってよ!」







俺の爆弾発言に、社食がかつてないほどの大騒ぎになったことは、ミュージカルが始まってからも牧野から延々と聞かされた。






愛してるぜ、牧野。

Fin



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野獣シリーズ、完結です。
ありがとうございました!



 2015_02_22





偶然なのか、必然なのか。
運命とは面白いものだ。



1年前、仕事の都合でNYから日本に一時帰国した際、悪天候により羽田に降りることができず伊丹に降り立ったことがある。
いつもならプライベートジェットを飛ばして日本とNY間を行き来するのだが、今回はタイミングが悪く、司と椿が同時期にジェットを使っていたため、久しぶりに民間機を使うことにした。

それが悪かったのか、東京に季節外れの雪をふらせ、大阪に足止めされることになった。
秘書に次の便を手配させたが、明日も荒れる予報で見通しがたっていない。

そこで飛行機は諦めて新幹線を使うことにしたのだが、こちらも満席。
なんとか粘って、やっと手に入れた東京までの新幹線で私は…………彼女に会った。



やっと手に入れた席はグリーン車でもなく普通の指定席。
こんなところに道明寺HDの社長がいるなんて思いもしないだろう。
そんなことを思いながら自分の席を探していると
ひとつだけ窓側が空いている席を見つけた。
そこが私の指定席。
隣には若い女性。

「失礼」そう言って彼女の前を横切って自分の席に座り窓の外に視線を移した私は新幹線が動き出して すぐに目を閉じた。


どれぐらい眠っていただろう。
ふと、隣の物音で目が覚めた。
チラッと彼女を見ると、新幹線が発車するときと同じく、本に夢中になっている。
だけど、さっきと違うのは、彼女の目が赤いこと。

私はそれを見て、
昔のことを思い出した。



「もうすぐラストね。」

「え?」

突然の私の問いかけに彼女は驚いて顔を上げた。
想像よりも幼い顔で、まっすぐに私を見つめてくる。

「それ、私も昔読んだことあるのよ。」
私は彼女の本を指差して言った。

「…………あー、そうですかぁ。」
問い掛けの意味を理解して、ニコッと笑う彼女。




「…………この二人、ラストはどうなるんでしょうね。
あっ、言わないでくださいねっ。
ちゃんと読みますから。
…………でも、幸せになりますよね?」

言わないで下さいって言いながら、肝心のラストを聞いてくる彼女に、

「言ってもいいのかしら?」
そう意地悪く聞いてみる。


「んー、やっぱりやめときます。」

「そうね。」

そうして二人で笑いあった。
こんな風に息子くらいの年齢の子と話すのは久しぶりだった。
しかも、自分から話し掛けるなんて、普段なら絶対にしないだろう。
でも、なぜしたかと言われれば、彼女がこの本を読んでいたから。


「珍しいわね。こんな古い本を若いあなたが読むなんて。」

「……知り合いに薦められたんです。
…………同じような恋愛をしてるから、読んでみたらいいって。」

「同じような恋愛?
もしかして、あなたの彼氏は大富豪?」
そう言って本の設定をそのままぶつけると、

「ふふっ。はい、大富豪です。
本のキャラとは全然違いますけど。
横暴でわがままで自己中な大富豪。」
そう言って照れたように笑う彼女。

「なら、あなたは……」

「ええ。貧乏な彼女です。」


私が若い頃に一大ブームとなったその小説。
大富豪の彼氏と貧乏な彼女の感動的なラブストーリーがヒットしてかなり部数を伸ばしたのを記憶している。
そして、その頃まさにそんなラブストーリーを経験していた私は、この本に何度も涙した。


「あなたはその大富豪とはもう長いの?」

「いえ、付き合って2年です。」

「そう。……結婚は?」

「いえいえ、そんな。
…………あたし、無理だって分かってます。
向こうはほんと半端ない大富豪だし、結婚だって簡単に決めれるような世界ではないと思うし。
だから、…………」

「諦める?」

「いつかは、諦めなきゃと思ってたんですけど………困ってるんです。
時々、彼といると……欲しくて堪らなくなる自分がいて。
この人が普通の人だったら良かったのにって。
あたしとこのまま未来を語れる人だったら良かったのにって。」

「お金持ちの彼じゃなくても構わないの?」

「お金ですか?んー、お金って無ければ無いであんまり不自由しないんですよね。
あっ、これは経験上ですけど。
一応、あたしも社会人なので食べていくくらいの生活費は稼いでるつもりです。
だから、もし彼の家が倒産でもしたら、あたしが養っていくくらいの覚悟はあるんですけど……へへへ。
…………地位もお金も家柄も、全部リセットして、それでも彼が欲しいんです。

…………わぁー、変なことペラペラ話してすいません!
どうぞお休みになってくださいっ。」


慌てて顔を赤くする彼女と、昔の自分がなぜか重なった。
決して貧乏ではなかったけれど、道明寺家と釣り合うほどの家柄でもなかった私。
でも、恋をしてしまった。
どうしても手放すことが出来なかった恋。
それを貫いて今の自分がある。



再び本に没頭し出した彼女とは、別れ際
「健闘を祈るわ。」
そう伝えて別れた。









今、あの時の彼女が目の前にいる。
ほんの少し、大人の顔に成長した彼女が私の息子と並んで立っている。

「お話があります。
昨日、話した通り俺はこいつとの結婚を考えています。
今すぐにとは言いませんが、……認めて欲しい。」

「はじめまして。牧野つくしです。
昨日は……お世話になりました。」


ペコリと頭を下げる様子はあの頃と変わっていない。





だいぶ前から司に真剣に付き合っている人がいることは知っていた。
司からも聞いていたし、事あるごとに椿が『つくしちゃん』とその名を連呼するのを聞き流してきたが、ある時NYの大企業から司の結婚を打診する話が来た。

うまくいけば悪い話ではない。
司の耳に入れようかと思ったが、また機嫌を損ねればややこしくなる。
そう思った私は、長年の付き合いである司の秘書の西田に探りを入れた。

そして、西田からの報告書を見て驚いた。
司と二人で仲良く歩くその女性が、あの時の新幹線の彼女だったから。
『横暴でわがままで自己中な大富豪』
それはまさしく司のことだったのだ。


もう許すとか許さないの問題ではないような気がした。
神様のイタズラか。
もし、これで司と彼女の仲をお金や家柄の問題で引き裂くようなことをすれば、自分の人生まで否定するようなものだ。

それに、彼女のあの言葉は私にとって強烈に響いたから。
『地位もお金も家柄も、全部リセットしてでも、
………彼が欲しい。』










あのときから私は待っていたのかもしれない。
こうして私の前に司と彼女が二人で現れることを。


「牧野さん、あなたとは初めまして、ではないわ。
……これ、きちんと最後までお読みになった?
本も現実も、ラストはハッピーエンドが一番よ。


そう言って私は彼女にあの時の本を手渡した。
渡された本をじっと見つめていた彼女は、はっと顔を上げて、

「もしかしてっ、あの時の!!」
信じられないという表情で私を見る。







「偶然なのか、必然なのかはわかりませんが、
あなたとは縁があるようね。
ビジネスの世界ではそういう不思議な縁が奇跡を起こすこともあるの。
だから、縁は大切にしなくちゃ。

それで?お式はいつにする?」

こうして二人で来たのだから、話は早い。

私の突然の問いかけに


「えっーー!!」
「えっーー!!」


重なるように叫ぶ二人。



「二人とも、うるさいわよっ。」









『プリンスの恋』
これが、彼女と出会うきっかけになった本の名。




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次で最終回です。


 2015_02_20






この場にババァがいることには驚いたが、それよりもまずは牧野が心配だ。

「牧野に何があった!
怪我したってどうなってんだよっ!」

見たところ顔にも傷はなく、包帯や点滴なども見つからない。

「落ち着きなさい。
彼女は…………寝ているだけです。」

「…………あ?」

「転んだ弾みで頭を打ったようですが、その後の検査で意識障害も記憶障害もないそうよ。
…………お疲れなのかしら。肝が座ってるわ。
私が来てからもずっと寝てるわよ。」

牧野を見て軽く笑いながら話すババァ。


「どうしてババァ…………おふくろがここにいるんだよ。」

「どうしてかしら。私が聞きたいわ。
地元警察から直接オフィスに電話が来て、娘が
事故にあって病院に運ばれているからすぐに来てほしいって。
もちろん椿の事だと思って慌てて来たわ。
そしたら、寝てるのはこの子。」

ババァの言ってることに嘘はなさそうだ。
どうなってる?なぜババァに連絡がいった?

その謎が解けたのは、ちょうど牧野の所持品を届けに来た警察官の話だった。

「メトロポリタン美術館の前で老婦が引ったくりにあいまして、たまたま通りかかった彼女がその犯人を捕まえようと近付いたそうです。
幸い老婦の鞄は取り返しましたが、犯人が逃げる際、彼女に体当たりしたようで、そのまま転倒し頭を打ったようです。
軽い脳震盪を起こしていましたが、その後の検査では異常は見つかっていません。」

「ったく、バカ女。
あれほどウロウロするなって言ったのに。
…………で、なんでおふくろのオフィスに連絡がいった?」

「それは、彼女の所持品はセカンドバッグだけだったので、その中を調べましたが身元がわかるようなものがほとんどありませんでした。
唯一、道明寺HD日本支社の社員証が見つかったのでそちらに確認しましたら、牧野つくしは道明寺家の大切な方なので至急、NYの支社に知らせるようにと。
それで、こちらとしましては、ちょっと勘違いをしてしまいまして…………。
この方が道明寺家の一人娘の椿さまではないかと早とちりをして連絡をした次第です…………。
大変、申し訳ありません!」

なんとなく事情は読めた。
日本支社に連絡が行ったということは、桜井か佐々木が対応したに違いない。
桜井なら間違いなく、警察官が言ったような対応をしただろう。


「…………事情はわかった。」
俺はそう言って牧野の荷物を受け取った。

ババァに牧野を紹介するはずが、こんな形で顔合わせをするとは思ってもみなかった。
が、牧野の体に怪我がないと聞いて、全身から力が抜け、その場にあった椅子に深く沈みこんだ。

すると、廊下の方から何やら騒がしい足音が聞こえたかと思ったら、次の瞬間、

「つくしちゃーん!」
と、こんどは半べその姉ちゃんが入ってくる。

「つくしちゃん!何があったの!
死んじゃいやっ!ダメよっ。まだ若すぎる!」
どうやったらここまで勘違いをして取り乱せるんだよ、と呆れるぐらい周りが見えてねぇ姉ちゃん。

「姉ちゃん、落ち着けっ。
牧野は…………寝てるだけだ。」

「へ?」

そこからは、さっき俺が聞いた話を繰り返す。


話し終えた俺らにババァが口を開いた。
「どうやら、あなたたちはこの子と仲が良さそうね。
私だけかしら、はじめてなのは。」
意味ありげな顔で俺を見るババァ。

「…………ああ。
その事だけどよ、明日、おふくろに牧野を紹介するつもりでこいつをNYに呼んだ。」

「紹介?」

「ああ。…………俺たち付き合ってる。
3年前から真剣な交際をしてきた。
そろそろ将来に向けた……」


俺がそこまで言ったとき、

「んーはぁー。…………あれ?道明寺?」





牧野が起きた。
どこまでも空気が読めねぇし、どこまでもタイミングの悪い女。

「つくしちゃーん!お・め・ざ・め?」

ニヤニヤ顔の姉ちゃんと

「あっ、はい。寝ちゃってました?あたし。
っていうか、えっ!あのーっ、えっ!…………
はっ、はじめまして、………牧野つくしです!」

ババァの存在に気付いて慌てて挨拶する牧野。



最悪の顔合わせとなった今日。
どうすんだよ、俺。
そう自問自答したとき、珍しいもんを見た。






「仕事が残ってるので、私はこれで。
司さん、明日オフィスで待ってます。」



そう言ったババァの顔が…………笑ってた。







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 2015_02_19






そろそろ牧野から連絡が来てもいい時間。
何度も携帯を確認するが、一向に鳴る気配もない。


予定通りなら1時間前に飛行機が到着してる時間。
その足で、タクシーに乗り市街に出てきているはずだから、そろそろか。


俺は市街から少し外れた関連企業に視察に来ていた。ロケットエンジンや精密部品など宇宙開発関連の製品を幅広く扱う会社のため、地下施設に入り込むと携帯の電波が届かねぇ。

「西田、そろそろ牧野から連絡が入るかもしれねえから入ったら場所だけ聞いといてくれ。」
そう言ってプライベートな携帯を西田に預けて地下に入った。

そのあとは1時間ぐらい施設を視察して地上に出たが、まだ牧野から連絡はなかった。

「何やってんだよ、あいつ。
携帯も繋がらねぇし。」
次第にイライラしてくる俺に、

「牧野さんのことですから観光に夢中になってるんでしょう。
もう少し待ちましょう。」
西田が冷静に切り返す。





そして、それから3時間。
相変わらず牧野からの連絡はねえ 。
冷静に……と言っていた西田でさえ少し落ち着きなく見える。

「西田、空港警察に連絡してくれ。
牧野が確実に入国したか、そのあとどこに向かったか調べろ。」

「はい。すぐに取りかかります。」


道明寺の名前を出しても、すぐに調べて貰えるとは思わないが、今はその手段しかねえ。
イライラしながらもNYのオフィスで時計と携帯ばかり見つめる俺。


そして時刻は夜8時。
牧野がNYに付いてから6時間経過した頃、
西田の携帯に日本から一本の連絡が入った。

桜井からだと言う携帯に出た西田の顔色がみるみる青ざめていく。

「何があった?」
必死に冷静さを保ちながら聞く俺に

「牧野さんが怪我をしてNYの病院に運ばれたそうです。
事故で携帯もダメになったようで今まで連絡が付かなかったそうですが、鞄に道明寺の社員証が入ってたことから日本支社に連絡が来たそうです。
…………副社長、しっかりしてください!
病院にすぐ向かいますね。」


人は思いもよらない出来事が起こると、一旦思考が停止するらしい。
怒りや悲しみや悔しさを感じる前に、無になって何も考えられなくなった俺。
いつも冷静な西田が怒鳴るように俺に声を荒げたことで、俺の能がまた動き出した。



「行くぞ。西田。」









運ばれた病院は幸いなことにNYシティでも1、2を争う大きな総合病院だった。
事故にあって怪我をした……それだけの情報しかない俺ら。
考えれば考えるほど、嫌な想像が頭をよぎる。
車に揺られながら、情けねえほど体が震えて、必死に自分で自分の体を押さえつけた。



病院に着いて、居場所を知るため牧野の名前を出すが受付のやつもナースもみんな首を傾けてわからないと言う。

「ふざけんなっ、今日ここに運ばれてきたって聞いたんだぞ。事故で怪我したっていう日本人だ!
すぐにわかるだろーがっ。
ったく、早く探せよ!俺を誰だと思ってるんだよっ、道明寺だぞ!牧野に何かあったらおまえら許さねぇからなっ。」

自分でも幼稚だと思ったが、イライラの限界で暴言が口から出てくる。
が、その時、俺の言葉にさっきまで対応していたナースが手を止めて俺を見て聞いた。

「もしかして、道明寺様ですか?」

「ああ。」

「それでしたら、こちらです。」

急に合点がいったようで、俺をエレベーターに乗せて病室に急ぐナース。
そして示された部屋はどうみてもかなりのグレードの特別室。

俺は促されるまま部屋を開けると、
ベッドに横たわり眠る牧野の姿。
そして、その横には椅子に座って書類をめくる





ババァの姿があった。






「どういうことだよ。」
目の前の光景が理解できずに聞く俺に、



「それは私の台詞です。」
そう話すババァ。






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 2015_02_19




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