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仙台の総合病院。
研修医の時から日本を離れるまでずっとお世話になったこの病院に久々に帰ってきた。

先輩や同期の仲間もたくさんいる病院。
『またここに戻っておいで』と有り難い言葉をかけてもらったけれど、あたしはここを離れるつもりで最後の挨拶回りに仙台へ来た。

10年前、パパが新しい仕事に就くため仙台に引っ越したあと、両親の後を追うようにしてあたしもここへ来た。
そして、医大に通いそのまま就職。

けれど、その両親も今は東京へ戻っている。
進が2年前に結婚して2世帯住宅を建てたのだ。

家族もいない仙台にまた戻ろうか迷っていたあたしに、医師の先輩から『うちの病院に来ない?』と声をかけて頂いて、来月からあたしも東京にうつることを決めた。

もしかしたら仙台で暮らす事はもうないかもしれない。
思い出の土地やお世話になった人にゆっくり挨拶をしておきたいと思い、一週間の予定でホテルを予約し帰ってきていた。

初日は病院への挨拶。
2日目からはマンションの大家さんやよく通った喫茶店のマスターに会いに行った。

そして5日目の今日、両親や友達への仙台土産を買うためあちこち出歩いたあと、夕方ヘトヘトになりながらホテルへ入ると、
「牧野さん」
と、突然うしろから名前を呼ばれた。

驚いて振り向くと、そこには道明寺のお母さんである道明寺楓が立っている。

「…こ、こんばんは。あのぉ、どうしてここに」

「仕事で仙台に来ていたの。
昨日もここであなたを見かけたのでもしかしたらと思って聞いたら、ここに泊まっているって言うから待ってたのよ。」

あー、そうか。
今更ながら気付いたが、ここは道明寺財閥の配下にあるホテルグループなのかもしれない。
それならば道明寺財閥の社長の一声であたしの個人情報なんてあっという間に漏洩だろう。

「牧野さん、このあとお時間あるかしら?」

「えっ?あたしですか?」

「良ければ軽く食事でもいかが?」

そう言いながら楓社長はホテルロビーにある喫茶コーナーへ視線を移す。

「…はい。」

圧倒的な眼力に押されてこう呟くしかなかった。





こうして二人で食事をするのは2回目。
1回目はアフリカのあたしの部屋に泊まったときに、翌朝簡単な朝食を二人でとった時。

まだ微熱がある身体は辛そうで、温かいスープをほんの少しだけ飲ませた。
そして、隣国の国境まで30分ほどある道のりをあたしも付いて行った。

医師のカードを首から下げてちらつかせれば、普通よりもスムーズに国境を超えることができる。
あたしはこの人になんの恩もないけれど、この異国の地でこうして会ったのもなにかの縁かもしれない。

医師としてできる事は精一杯やろう。
そう思ってやった事が、今こんなことになってしまうなんて……。


「仙台にはどうして?」

「お世話になった方への挨拶回りです。」

「次の勤務先は決めたのかしら?」

「はい、一応。東京で働きます。」

あたしのその言葉に少し嬉しそうに笑うこの人。
昔はしかめっ面しか見たことがなかったけれど、こんな風にして笑う所を見ると、椿さんの美しさは母親譲りなんだと思わせるには充分なほど綺麗。

「あなたにはきちんとお礼がしたいの。」

「……お礼ですか?」

「ええ。突然の訪問にも関わらず、一つしかないベッドを譲ってくれて、温かいスープも作ってくれて、隣国まで送ってくれた。
本当に感謝してもしきれない。」

「いえ、医師として当たり前のことをしただけです。」

「そうね、そうかもしれないけど、
あの土地であなたの顔を見て、心細かった気持ちが一気に解れていくのを感じたわ。
本当にありがとう。」

そう言って頭を下げられ、あたしもつられるように慌てて頭を下げた。

「お礼をしたいと思っても、どうしたら良いか分からなくて。」

「そんな、お礼なんて」

「洋服なんてどうかしら。
職場も新しくなることだし、改まった場所に着ていけるような」

「いえっ、結構です!」

「じゃあ、鞄は……靴はどう?
好きなものを言って頂戴。あなたが欲しいと思うものなんでもいいの。」

「いえ、本当にいりませんっ」

「そんな事言わないで、私の気が済まないの。
いくらでも構わないから、好きなものを言って」


そんなやり取りに必死だったあたしたちの横に、ゆっくりと大きな影が近付いてきた。
そして、低い声で言った。

「やっぱ、そういう事かよ。
昔も今も変わんねーな。
裏でコソコソ金の取引しやがって。」

「道明寺っ!」

「おまえにとって俺は所詮、金にしか見えてねーのかよ。」

「司っ、あなたっ」

「うるせー、ババァも黙れよっ。
こいつがいくら貧乏だからって、金で釣ってんじゃねーよ!」

「司っ!」


そういう事か。
この人は何か勘違いをしているのだろう。
けれど、していい勘違いと、そうでないものがある。

このバカ男はそれを分かってない。
あたしをどれだけ舐めているのだろうか。


「あたし、帰ります。」

「待てよっ!」

「うっさいバカ!
あんたの顔なんて二度と見たくない!」




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 2019_08_19





牧野が会社に来るのも最後になる今日、
午前中は取引先との顔合わせで外出していた。

昼にはオフィスに戻るはずだったのに、
「昼食を一緒に」と誘われて無下に断れる相手ではなかった。

仕方なく飯に付き合うことになり、西田に
「牧野を待たせておいてくれ」と頼んだが、
1時少し前に急いで戻ったオフィスには牧野の姿はなかった。


「申し訳ありません。副社長がお戻りになるまでお待ち頂くよう伝えたのですが、急ぎの用事があるからと、少し前に帰られました。」

その西田の言葉を聞きながら、デスクの上に置かれた1枚のガーゼを見つめて、
「…マジかよ……これで終わりかよ……」
と、柄にもなく情けねえ声がオフィスに響いた。





その夜、さんざん迷った挙げ句、滋から入手した番号で牧野に電話する。
3コール目で

「もしもし?」
と、警戒するような声。

「牧野、俺だ。」

「…道明寺?」

「おう。」

こいつと電話で話すなんていつぶりだろうか。
耳元で聞こえる、俺だけに話すその声に、
思わず目をつぶりもっと集中したいとバカみたいに思う。

「今日は悪かったな。」

「ううん、仕事でしょ。」

「あともう少し待てばオフィスに戻ったんだぞ。」

「あ、そうなの?ごめん、急いでたから。」

「おう。」

このまま電話を切れば、俺達に会う理由はもうなくなる。
終わりにする理由はたくさん出てくるのに、会う口実だけが思い浮かばない。

「牧野、」

「ん?」

「……俺、」

その先を迷う俺に、

「道明寺っごめん!あたしこれからバスに乗るところなの、だから後でかけ直すっ!」
と、牧野が早口で言う。

「あ?バス?おまえ今どこにいるんだよ。」

「え?仙台っ、今日こっちに戻ってきたの」

「仙台って、……あの東北の仙台だよな?」

「…それ以外に仙台ってある?」
呆れたようにそう答える牧野。

「帰るなんて聞いてねーぞっ。」

「バスに乗るからっ、切るね!」
と、勝手に切りやがるこいつに

「おいっ」
と、またもババァに叱られる程の声で俺は叫んでいた。


マジでありえねぇ。
さっきまで弱気で、電話する事にも躊躇して、会う口実にも悩んでたのに、
そんなのが全部アホらしく思えてくる。

何に怯えてる?
何を戸惑ってる?
またあいつを失うかもしれないから二の足を踏んでいるのか?

そんなこと、いまさらどうだっていい。
あいつとは初めから赤い糸なんて結ばれていないのかもしれない。

けど、

このムズムズとした気持ちは、誤魔化しようがない。
あいつが気になる。
会って顔が見たい。
近くで話したい。
今日も明日も明後日も。


ここまできたら、
逃げるなら追いかけるしかねーだろ。
たとえ泣きを見ることになっても、
思いのまま突き進むしかねぇ。

「西田っ!」

「はい、お呼びでしょうか?」

「週末の仕事、キャンセルしてくれ。」




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 2019_08_17





「俺達もう一回はじめてみるか?」
こいつを見てると自然と口から出たその言葉。

それに、牧野は少し考えたあと
「……みないよ。」
と呟いた。

「なんでだよ。」

「なんでって、……あんたはいつも突然すぎるでしょ。」

「そんなことねーよ。」

「そんなことある。
はいっ、ガーゼ交換終わり。
また明日来るね。」

勝手に話を畳んで立ち上がろうとする牧野の腕を取り、強引にソファに座らせる。

「話、終わってねーだろ。」

「終わったよ。」 

「牧野っ」

「……道明寺、あんたきっと勘違いしてる。」

「あ?」

「……道明寺、……刷り込みって知ってる?」

「刷り込み?」

「うん。
鳥の赤ちゃんって、産まれて最初に見た動くものを親と認識するんだって。それを刷り込みって言うの。
本当の親じゃなくても、一番はじめに見ちゃった物をそう勘違いしちゃう生理上の現象らしいけど、……あんたもそれと同じだと思う。」


困ったような表情で、俺を見つめてそう言う牧野。

「どういう意味だよ。分かるように説明しろ。」

「だから……、あんたは恋愛の殻を破ったときに、たまたまあたしが目の前にいたから好きになって、その記憶がまだ刷り込まれているから、今も、」

「おまえ、ふざけんなよ。」

「……道明寺」

「バカにしてんのか。」

「してないっ、バカになんかしてないよ」

「鳥と一緒にするなっボケ。」

「ちょっ、ひっどいその言い方!」

「酷いのはどっちだよっ、刷り込み?俺はそんなにバカじゃねーよ。自分の親くらい本能で分かるだろ普通。分かんねぇのは鳥とおまえくらいだ。」

「はぁ?ちょっと!あたしだって、」



どこまでもヒートアップする俺らを止めたのは、
誰よりも怖いババァの声だった。


「ここをどこだと思ってるの?」

「…ババァ」
「…すみません。」

オフィスの入り口で、腕を組んで俺らを睨みつけてるババァ。

「牧野さんが今日から来てくれるって聞いたので来て見れば、全く相変わらずねあなた達。
仲が悪いの?それとも仲が良すぎてそうなるのかしら?」

「…うるせーよ。」
「…すみません。」


「とにかく、部屋の外にも聞こえるので、喧嘩はそれぐらいにして頂戴。
それと、……二人は付き合うことにしたのかしら?」


怪しい笑みを浮かべながらそう聞くババァに、俺らは最後の力を振り絞り声を張り上げて言った。


「してねーよ!」
「してません!」






「ぎゃははははー、刷り込みって司は雛鳥かって、マジで腹痛ぇー。」

「総二郎、殺すぞ。」

「んで?おまえは刷り込まれてんのか?」

「込まれてねー!」

「クックッ、笑いすぎて死ねる。」


こいつらに愚痴った俺が馬鹿だったけどよ、
『刷り込み』っつー言葉は後になってジワジワと響いてきやがる。

あの時は完全に否定したけど、マジで俺は刷り込まれてんのかもしれねえ。
牧野に会ったその一瞬で身体が痺れて反応する。

「それで、おまえら進展はしてないのか?」

「……ああ。
俺の話は完全にはぐらかすあのバカ女。
そー言うとこは全然変わってねぇ。」

「どうするんだよ司は。」

「どーするって…。
明日で治療も終わる予定だから、このままじゃ会うことすら出来なくなる。」

「またどこか犬に噛まれてみたら?」

「類、」

殺すぞと言いかけた俺は、

「それもありかもな。」
と、小さく呟いた所で、

「アホかっ!」
「いい加減にしろよっ!」

と、あきらと総二郎のケリが飛んできた。




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 2019_08_15





道明寺の会社に来るなんて初めての事で、どうしたらいいのか分からない。
こんな事なら携帯の番号でも聞いておけば良かった…と後悔したけれど、もう遅い。

会社のエントランスをゆっくりと横断し、惚れ惚れするほど綺麗な受付嬢が並ぶカウンターへと近付く。

「あのぉー、」

「はい。」

にこやかな笑顔で対応してくれる彼女に、あたしは消えそうなほど小さな声で言った。

「道明寺司さんに会いたいんですけど。」

「はい?」

「だから、そのぉー、道明寺司さんと約束してて……」

さっきまで笑顔だった彼女が、明らかに不審な目であたしを見る。

「失礼ですが、どちら様でしょうか。」

「あっ、すみません。牧野つくしと申します。」

「どちらの牧野様ですか?」

どちらの……と言われても、この場合なんて答えたら良いのだろう…と迷っていると、

突然後ろから
「遅刻だぞ。」
と、声がして、あたしの頭を誰かがくしゃくしゃと掻き混ぜた。

「道明寺っ!」

「12時過ぎてるぞ。」

「だって、ここまで来たけど、どうしたらいいか分からなくて。」

オドオドするあたしを見て少しだけ笑った道明寺は、
「行くぞ。」
そう言って歩き始めた。

急いで道明寺の後をついていくあたし。
すると、突然道明寺が立ち止まり、あたしは思いっきりその背中に激突してしまう。

「痛ぁー。」

「わりぃ。」

今度は完全に笑い顔でそう言ったこの人は、あたしの横を抜けて受付嬢の前に行った。
そして、あたしたちをポカンとした顔で見つめる彼女たちに言った。


「こいつ、今日からしばらく毎日来るから。
顔パスで通してやって。」

丁度時間は昼休憩どき。
受付嬢だけでなく、他の社員の視線が痛すぎて、
これが毎日続くなんて…と頭が痛い。






小さなガーゼを取り、新しいものと変えていく簡単な処置。
ソファに並んで座る俺達の距離は近い。

牧野の華奢な指を見ていると、昔のことを思い出す。
こいつの手をとって、一生離さないと誓ったあの頃。

「……牧野。」

「ん?」

新しいガーゼをなぞるように貼りながら、返事だけ返す牧野。

「ちゃんと医者になったんだな。」

「……うん。」

「幸せか?」

本当は『幸せだったか?』そう聞きたかったのかもしれない。
俺と別れて10年、おまえはほんとに後悔しなかったか?

俺は……めちゃくちゃ辛かった。
目を閉じるたびにおまえの残像が浮かび上がり、寝ることさえ辛かった。

立ち直る唯一の光は、『おまえは金を受け取って俺を裏切った』という恨みだったはずなのに、
こうして医者になった牧野を見ていると、
もうそんな事どーでもいいとさえ思えてくる。


「牧野。」

「ガーゼ交換したからね。」

「牧野。」

「お風呂のときだけ気をつけて。」

「牧野、こっち見ろよ。」

ゆっくりと顔を上げて、困ったような顔で俺を見るこいつ。
その漆黒で大きな目は、相変わらず俺の身体を痺れさせる。


「なぁ、俺達もう一回はじめてみるか?」




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 2019_08_13





「あたし、そろそろかえります。」

そう言った牧野の目はまだ赤い。
タマとの久々の再会は俺が思っていた以上に嬉しかったよう。
タマもいつ死んでもおかしくねぇババァだから、冥土の土産にこれぐらいしてやってもいいか。

「つくし、ご飯食べて行くかい?」

「いいえっ、大丈夫です。」

タマの誘いに慌てて断るこいつが気に食わねぇ。

「食っていけよ。」

「いいよ。」

「なんでだよ。」

「これから用事があって。」

時計を見ながら今度は鞄を肩にかけて立ち上がる。

「用事?」

「そう。じゃあ、あたしはこれで失礼します。」

「待てよ。」

「なによ、遅れちゃう!」

「用事って何だよ。」

「だからっ、人と会う約束してるの!」

なんだよ、そーいう事かよ。
一気に不機嫌になる俺を、タマが面白そうに笑いやがった。






「近くの駅まで送ってやる。」
と言われて道明寺の車に再び乗ってしまったあたし。
本当はまた乗せてもらうなんて不本意だけど、
なにせ、あのお屋敷の敷地から出るのだけでもかなり時間がかかる。
「皇居じゃないんだから……」なんて小さく悪態をつくあたしに、この人はとんでもない事を言い出した。


「おまえさ、仕事しばらく休んでるんだろ?」

「…まぁ、来月までは一応休暇で…」

「それなら丁度いいな。」

「へ?何が?」

「俺の治療に専念できるだろ。」

運転しながらそう言い切る道明寺。
意味がわからない。

「あんたの治療?」

「ああ。これ、おまえのせいでもあるからな。」

そう言って、主治医に処置してもらいガーゼが貼られた腕をあたしに見せる。

「ガーゼ、一応毎日交換しろって言われた。」

「うん。した方がいいね。で?」

「おまえがしろ。」

「……はぁ?」

10年たっても人ってこうも変わらない物なのか。
相変わらずこの人は俺様街道まっしぐらだ。

「ガーゼくらい自分で出来るでしょ!」

「片手で出来ねーだろ。」

「じゃあ、秘書の方にでも手伝ってもらいなさいよ。」

「道明寺財閥の副社長の体に傷跡作っておいてそんなに威張ってんのはおまえくらいだぞ。」

「き、傷跡って…」

確かに少しは残るかもしれない。
半袖になれば目立つ場所。
悔しいくらい、どこもかしこも綺麗な体のこの人に傷跡が残るのは……申し訳ない。


「…分かったから、あたしどうしたらいい?」

「毎日12時に会社に来い。」

「え?会社?」

「ああ。昼休憩の時間をおまえの治療タイムに充ててやる。」

そう言って目線だけあたしに向けて、
「わかったな?」なんて聞いてくる道明寺に、

あたしは久しぶりに呟いていた。

「ありえないっつーの!」



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